【完結】 Memoria   作:破れ綴じ

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Day 4

 危険な知識というものは得てして魅力的なものである。

 だって、危険を冒せば知識が手に入ることを確約している。普通こうはいかない。

 私の好奇心を邪魔する存在は等しく踏みつぶされるべきなので。

 その危険とやらはどうせ私に乗り越えられる。残るのは知識だけだ。お得でいい。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「これがサンドウィッチかぁ。レシピ本で見たときからカラフルな食べ物だと思ってたんだ。色々な具材をパンで挟んでるんだよね。このパンは昨日食べたものと違う生地、なのかな?」

「変な持ち方してると中身がこぼれちゃいますよ。落としたら汚れとして図書館に消されちゃうかも」

「おっと、そうだったね。今度こそはキレイに食べなきゃね」

 

 昨日と違い、小さめのサンドウィッチならパンくずをこぼさないだろうと思って買ってきたが。どうやら余計にラディの興味を引いてしまったらしく、バラして中を見ようとしている。

 明日は皿のある食べ物にしよう。彼はフォークを使えるだろうか。

 最悪私が食べさせればいいか。

 

「この緑色のがピクルスかな?」

「レタスですよ」

「じゃあこの黄色がチーズ?」

「卵です」

 

 ハンバーガーか? 

 

 

 

「それで、今日探す本は決まった?」

「待ってくださいね。あと少しで決まるので」

「了解ー」

 

 そんなラディを横目に、私は今日探す本をリストアップ中。

 このまま順調に進めば最短10日ほどで能力学の理論は理解できるようになりそうだ。

 

 つくづくこの図書館を見つけられて良かったと思う。

 ここが見つからないままだと私はずっとあの退屈な研究室で空虚な学生生活を送っていたことだろう。

 

 むしろもっと早く見つけられればよかったのに。

 そうすればこれまでに過ごしたあの無駄な時間は無かったに違いない。

 こんな素晴らしい施設があると知っていたら、入学当初からずっと通い詰めて……。

 

 

 

「ラディ」

「決まった?」

「いえ、質問が」

「む。まあ答えられる範囲でなら」

「ありがとうございます」

 

 そういえば気になっていたことがあった。

 

 

 

「過去にこの図書館を訪れた人はいましたか?」

「あー……。うーん。えっと、いるね。何人か。10人ちょっとくらいかな?」

 

 やっぱりそうか。

 

「そうですか。私が初めてじゃないんですね」

「そうだけど、どうしたの」

「いえ別に。少し残念だな、と」

 

 少しとは言ったが。

 かなり残念だ。

 

 

 

 ラディは初対面のとき「久しぶりのお客様だ」と言っていた。

 つまり過去にここへ来た人自体はいたはず。そしてこれだけの情報が手に入る場所。

 なのに、一切記録が残っていないのはおかしいのではないか。

 ただ、ラディはここのことを口止めしている様子が無い。

 つまり、過去にこの場所を利用した人々は何らかの理由があって、図書館のことを外の世界の人々に教えていないということになる。

 

 ラディがここのことを外の世界に教えていないのは良いだろう。

 彼の図書館は彼のものだし、それをどうするかは彼の自由でしかない。

 他人が先に使っていたという事実も問題ではない。

 他の誰がいつどのような知識を得たとしても、私に関わらないのであれば意味のないことでしかない。

 

 

 

 しかし、この場所の秘匿はダメだ。なんたる卑劣な行為だろうか。

 何の理由があって、私が手に入れるべき知識を独占しているのか。

 

 私が初めての利用者だったのなら、許せた問題だ。

 しかし、他に利用者がいたという事実は看過できるものではない。

 彼らがここのことを記録に残しておき、正式な施設としての利用を推し進めていれば、私の苦悩にまみれたあの期間は無かったのだから。

 

「先にここへ来た人がいたのなら、そのことを教えてくれればよかったのに、と」

 

 そう言葉が漏れる。

 この場所を見つけた今となっては関係ないことだが、それでも少し勿体ないという気持ちが頭を擡げた。

 

 

 

「あっ」

「ん?」

「言ってなかったっけ」

「何をですか」

 

 なんだ。嫌な予感がするぞ。

 

「この図書館の出現条件……」

「扉の前で『知識を求める発言』をして、返事を待ってから入室、ですよね?」

「それは入室条件で、その、別に出現条件ってのがあって……」

「えっ」

 

 何それ知らないんですが。

 

 

 

「この図書館の入口は世界中の扉のランダムなどれか一つとリンクしてて、1週間経つとまたランダムな別の扉に移るっていう……」

「えっ」

 

「その、過去に来た人はこの学校の人じゃなくて。別の扉とリンクしてたときに偶然迷い込んだだけの人で……」

「えっ……」

 

「この図書館はこの学校にずっとある訳じゃなくて……」

「待って」

 

 嘘でしょう? 

 

 

 

「残念ながら……」

「そんな……!?」

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「待ってください。今4日目ですよね。じゃあ今日含めてあと4日ですか」

 

 これまで、図書館が無限に使えるものだと漠然と思っていた。

 だが、1週間という明確な制限を知った今、計画を根本から見直さなければならない。

 ああ、じゃあ彼の「1週間で読み切れる」云々の話はこういうことだったのか。

 あのとき聞いておけばよかったのに。どうして私は歯牙にもかけなかったんだ。

 

「まあはい。君は運良く初日に迷い込んできたので」

「そんな、そんなそんな……」

 

 しかし、これだけは不幸中の幸いと捉えるべきか。

 今の口ぶりだと、場合によっては最終日に迷い込み、そのまま利用期間1日で終わる可能性もあったということ。

 

 てっきりこの旧資料保管棟が取り壊されないのはこの図書館があるからだと思っていたが。どうやら関係なかったらしい。

 じゃあなんで取り壊さないんだ。

 というか、そんなこと考えているべきではない。

 

 

 

「まずいです。非常にまずいです」

「その、誠にごめんなさい。図書館には色々ルールがあったのに、特に重要なこれを完全に忘れてました、はい」

「いえ、確かに重要ですが、貴方を責める気はありません。私はここを使わせて貰ってる立場に過ぎないので」

「ありがとう」

 

 確かに彼はルールを説明してくれた時に、「他にもいくつかあるが思い出せない」と言っていた。

 あの時は私も急いていたから気に留めなかったが、早めに再度聞いておくべきだったか。

 

「しかし困りました。私は能力学の理論を10日かけて理解する予定だったのです。現状まるで時間が足りません」

「どうしようか」

「ちなみに、次に図書館が移動する場所に当てはありますか?」

「……無理だね。図書館が現れる場所は完全にランダムだし、この図書館で未来のことは分からないから」

 

 そうだ、未来のことはこの図書館では分からない。どうしよう。

 とりあえず悩む時間は無し。無駄な時間はとにかく削らなくてはいけない。

 急いで作戦を立てるべきだ。

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………よし。

 

「決めました。これから本の収集は2人がかりで行いましょう。協力してくれますか?」

「それはまあ、もちろん」

「良かった。ありがとう」

 

 負い目を感じているのか、即答してくれるラディ。

 まあ初めから断られるとは思っていなかったが。それでも彼の純粋さには助けられる。

 

 

 

「まず、既知の図書館と未知の図書館。どちらが大きいか分かりますか?」

「えっと……未知の方だね」

「分かりました。必要な本はどちらの図書館にもあるので、私は既知の図書館を担当、貴方には未知の図書館を担当して頂きます」

「オーケー」

 

「次に、未知の図書館で『この図書館での本探しのコツ』という本を探してきてください。何分かかりますか?」

「多分、2分もあれば」

「ではその間に情報を絞って必要な本を最低限リストアップし終えます。メモに書くので、次はそれを読んで必要な本を集めてきてください」

「分かったよ。じゃあ行ってくるね」

 

 そういってラディはすぐさま走って行った。

 理解と行動が早いのは良いことだ。

 

 私も急いでリストアップを終えなくては。

 それも当初10日かける予定だったため、極力内容を絞らなくてはいけない。

 

 

 

「持ってきたよ!」

「ありがとうございます。リストはこれです。私も読み進めつつ既知の図書館の本探しを開始します。そちらの本探しが終わったらこちらに合流して頂けると助かります。では後ほど」

「おお、ハイペース」

 

 声に焦りが滲んでいくのが自分でも分かる。

 ここまで焦ったことなど今までにないかもしれない。

 すぐ興味が移る私だが、今ばかりは一切の寄り道をすることも無いだろう。

 ラディが齎した図書館の新事実は、それぐらい私に余裕を失わせていた。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 私には余裕があるようだ。

 本来そんな時間も無いのに、見たことのない書類に手が伸びてしまっている。

 意外と順調に本を集めることができて、焦りが薄れてきたからだろうか。

 物事が万全に進んでしまうと、まだまだやることは多いのに何故か安心してしまうのと同じだ。

 

 

 

「WPPO重要機密情報……?」

 

 能力者の発生とそれに伴う世界戦争の最中に設立された組織WPPO。

 端的に言えば世界を守ろうとする人々を中心に構成されている国際的かつ公的な政府機関だ。

 能力と能力者に塗れた世界大戦が終結した今でも活動し、主に世界中の治安維持を行っている。

 

 既知の図書館にはこの世に存在する全ての本があるとは聞いていたが、プリントをまとめてホッチキスで留めただけの資料まで本としてカウントされているとは驚いた。

 しかしこれなら、まとめられただけの書類は全部この図書館の中にコピーがあることになるのか。

 なんという無法っぷり。機密も何もあったものじゃない。なんだかワクワクしてきたな。

 

 

 

「いや、こんなことしてる場合じゃ……」

 

 私はわざわざラディに頼み込んで協力して貰っている最中なのだ。

 今も私の指示で未知の図書館を駆け回っている彼のことを思うと、1人だけ好き勝手に動くというのは如何なものか。

 

 表面には分かりやすく【閲覧禁止】と書かれている。

 日々私達の暮らしの安全を守っているそんなWPPOの、しかも最重要機密をこんな裏技のような手法で暴いてしまうというのはあまりにも道徳心に欠ける行いだと思うべきだ。

 

 自らを律せよオルテ。気持ちを強く持て。お前にはあと4日しか無い。

 この本は全てが終わって余裕があればもう一度探せばいいじゃないか。

 

 

 

 いやでも気になるな。

 ここで見逃したら次いつ見つかるか分からないし。

 ちょっとぐらいならいいか。

 

 ぺらっ。

 

【WPPO幹部職員以外の閲覧を禁ず】

 

 へえ。

 

【この書類にはLV4の閲覧制限がかけられています】

 

 ふうん。

 

【閲覧後、機密保持のため精神汚染が発生します。単独、または不用意な閲覧は行わないように】

 

 精神汚染。何だろうかそれ。

 そういえば注意書きが書かれた本の話を少し前にしたような。

 

 

 

「ちょっ、何やってるの!」

「あっ」

「これは読んじゃダメなヤツだよ!」

「あああ」

 

 いざ次のページへ、というところで取り上げられた。

 ラディだ。

 もう戻ってきたのか。相変わらず早い。

 

「集め終わったから君を探しに来たんだけど、危なかった。本当に危ないとこだった」

「すみません。でもあとちょっとで読めそうで」

「いやだから読んじゃダメなんだって。この本の内容は能力学に関係無いでしょ?」

「ちょっと気になってしまって」

「ダメだよ! これを読むのは危ないから! 閲覧禁止って書いてあるし!」

 

 そんな。

 そんなこと言われたらますます気になってしまうではないか。

 今や私の脳内優先順位は、能力学よりもWPPOの機密が気になると訴えている。

 強く興味を持ってしまったら止まれないのが私なのだから。

 

 

 

 というかどうして危ないんだ。

 精神汚染とやらか。じゃあ、それを克服すれば読めるんじゃないのか。

 

「どうして危ないのですか?」

「えっと、この本は前に言ってた『読んではいけない本』ってやつだよ」

 

 ルールその5の本か。

 能力がかけられた、読むだけで危険な本が存在するという。

 ああ、その手の本には注意書きがあると聞いていた。

 確かに注意書きがあった。あれのことか。

 

「読むと精神汚染っていうのが発生するんだ。そういう、情報にロックをかけて、無理に読もうとした人に遠隔で制限をかける能力者がWPPOにはいるんだ。そうやって、機密情報を守ってるんだよ」

 

 ふむ。理にかなっている。

 極秘情報が存在するとして、読む瞬間に能力で横入りできるのなら、最悪強奪されたとしても情報は漏洩しない。

 

「何が発生するのですか?」

「確か、読んだ人の記憶を全消去して、一般的な意味記憶だけ再度新しく書き込むみたいな……だったはず。簡単に結論だけ言うと一般知識以外の全記憶削除だね。内容自体は読めるんだけど、他の記憶を失ってしまうから理解できなくて。それで情報を守れる、っていう」

 

「解除できないのですか?」

「……確か一応、1年の時間経過と。あとうろ覚えだけど、精神汚染にかかった人に確か特定の周波数の超音波を聴かせるっていう手段で解除できた、はず。でも、ここにはそんな音を出せるものは無いから……」

 

 なるほどなるほど。

 

 

 なんだ。

 

「そんなことでいいんですか?」

「えっ」

「ちょっと待っててくださいね」

「えっ」

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 ノックをして。

 

「精神汚染に守られた政府の秘密が知りたいです」

『ど、どうぞ』

 

 

 

「ただいま帰りました」

「おかえり……」

 

 少し荷物を取りに外へ行って。

 そして今戻ってきた。

 

「ここに無いなら外から持ってくればいいのです。なので、持ってきました」

「も、持ってきた……?」

「ということで。さあ、あの本を読みましょう」

「待って待って待って」

 

 こちらはもう準備万端である。

 何を待つというのか。

 

 

 

「まず、その。それは……?」

「研究用の高周波数超音波反応装置とポータブル電源です。これがあれば100kHz以上の音を出すことができます。超音波を発生させるには十分です」

「どこから持ってきたの……?」

「学校から拝借しました」

 

 音響工学について学んだことがあったので、機械があった場所は概ね把握している。

 丁度誰にも使われてなかったので、ここまで持ってきたのだ。

 

「許可は?」

「そんな面倒なことしていませんが?」

「えぇ……」

 

 何を戸惑うことがあるのか。

 解除する方法はあって、そのための道具が無いから読めないという話だったではないか。

 じゃあ、この機械があれば読めるということだろう。

 使ったあと、バレないように戻せば何も問題はない。

 

 

 

 にも関わらず、ラディはずっと悩ましげな表情だ。

 

「……せっかく持ってきて貰って悪いけど、やっぱりこの本を読ませる訳にはいかないよ。大した情報じゃないかもしれないし、なのにリスクが大きすぎる。もし上手くいかなかったら取り返しのつかないことになる上、さっき言った対処法ってのもうろ覚えの内容で合ってるか分からないから」

 

「では未知の図書館で『精神汚染の解除方法』の本を探せばいいのでは?」

「いや、その本にも同じ精神汚染がかけられてるんだ。多分、元の能力が『特定の本』じゃなくて、『特定の情報』にロックをかける方式で、公にはできないWPPOの極秘情報全部にそれがかけられてるんだよ。だからそういう本を見つけられても結局読むことはできないんだ」

「なるほど」

 

 そうなのか。

 じゃあ未知の図書館で『例の書類の中身』みたいな本を見つけても結局読めないわけだ。

 それどころか精神汚染のカウンターをくらってしまうと。

 聞いた話から推察するに、その極秘情報は他の紙に書き写されたものでも効力を発揮するのだろう。

 流石WPPO抜け目ない。伊達に世界を守っている訳ではないようだ。

 

 

 

 しかし。

 

「記憶は失っても理解できなくなるだけで、読めるようにはなるんですよね?」

「まあ、うん」

「じゃあ1人が『精神汚染の解除方法』を読んで、もう1人が内容を朗読するように指示すれば解決ですね」

「……ん?」

 

 

 

 だってそうだろう。

『精神汚染の解除方法』の本があることが大前提にはなるが、この状況は2人いるだけで解決する。

 

 1人は記憶を引き換えに本を読めるようになって。

 1人は本を直接読まず、読み上げるよう指示する。

 解除方法が判明したら、記憶が残っている片方がその解除方法を試せばいいだけ。

 精神汚染を解除できたら、後は同じ方法で政府の機密資料も読める。

 簡単だ。

 

「確かに、その方法なら読める、けど。でも、もし解除方法が存在しなかったり、達成が困難な内容だったりしたらどうするの?」

「存在しないということは無いでしょう。貴方はうろ覚えながら何かしらの方法を覚えていたのですから。存在しないものを覚えているなんてあり得ません。達成が困難なようなら、それを達成するための効率的な方法を未知の図書館で調べればいい。問題ありませんね」

「それは……それもそうか。確かに」

 

 ラディの反論が次第に勢いを失ってきた。

 確かに危険なものではあるが、今やその危険性を抑える方法を提案しているので。

 その目にはまだ微かに抵抗の兆しが見えるが、方や彼の好奇心も顔を見せている。

 元々好奇心の強い人ではあるのだ。それを見逃す私ではない。

 

 

 

「それに、貴方も本当は気になっているのでしょう?」

「えっ? どうして」

「だって貴方は危険だと分かっているのに、この現象についてかなり詳しいので。かつて自分でも読むことができないか試行錯誤したのでは?」

「……よく、そこまで分かるね」

 

 当たりだ。

 本当は彼もこの秘密を知りたがっている。

 好奇心に蓋をしたまま興味ないフリをするなんてできるはずがない。

 少なくとも私にはできない。とても無理だ。

 

「1人では不可能かもしれませんが、丁度いいことに私がいるんです。この機を逃す訳にはいかないでしょう? 今の貴方は独りじゃないんですから」

「……!」

 

 お。折れたみたい。

 彼の顔から反抗の意思が消えていく。

 

「……分かったよ。そうさ、実のところ、僕だって気になってたんだ。この際、読んでやろうじゃないか」

「流石です。その判断に感謝します」

 

 万歳。

 これで問題は無くなった。

 早速準備を始めよう。

 

 

 

「あ。でも、読む係は僕だからね。流石にそんな危険な真似まで君にはさせられないよ」

 

 はて? 

 

「初めからそのつもりでしたよ。もし解除方法が超音波でなかった場合に、外へ準備しにいくのは、外の場所を知っている私である方が効率的でしょう?」

「あ、うん。そうか。そうだね」

 

 私が読む役になったとして、記憶を失った直後、目の前の見ず知らずの人間に指示されたとしても、きっと他に気になることができて無条件に従うことはないだろうし。

 そもそもラディが外に出ても迷子になるだけじゃないか。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 ということで。

 結論だけ言うと、成功した。

 

 ラディが『精神汚染の解除方法』を読んだあと、記憶喪失状態になったことを確認。

 驚いたことにこの直後、本そのものが塵になって消失するという異常事態が発生するも。

 本の内容を暗唱させて、解除方法が特定の周波数の超音波であることを確認。

 持ってきた装置で超音波を発生させ、ラディの精神汚染が解除されたことを確認。

 

 

 

 実にスムーズに事が進んだ。

 そのままの流れで、WPPOの機密文書もラディに読んで貰った。

 同じ方法で精神汚染を解除。短時間で何度も行ったが特に異常は無いらしい。

 

 記憶を取り戻したラディが「この脳がかき回されるような感覚……。もう二度とやりたくない……」とは言っていたが。

 どんな感じなのだろう。

 

 

 

 ちなみにラディによると、機密文書の中身は、極稀に発生する非常に危険な能力者に対する特別措置についての内容だった。

 結構非人道的なことも書かれていて、非日常的感覚というか。

 なんだからしくもなくワクワクしてしまった。中々に興味深かった。

 

 機密文書が消失した原因は不明だが、おそらく元の能力の効果の一部なのだろう。

 もし人の記憶を消す文書がそのまま残っていてはいくらでも悪用できてしまう。

 その対策といったところだ。とことん抜け目がない。こんな組織が世界を守っているとなれば安心だ。

 

 

 

 しかし、私が実際に読んだ訳では無いが、どうしてそんなことを機密にするのだろうか。

 危険な能力者の情報は存在するだけで一般人にパニック要素を与えかねないため、内密にするべきということ? 

 そんなことされても、私のような人間は逆に何とかして探り当てようとするものなのに。

 世の中の大半の人間はそうでもないということ? 

 

 まあ、知識を得た今となってはどうでもいいことなのだが。

 

 

 

「ご協力ありがとうございました」

「いやいや、僕の方こそ。実はずっと気になってたけど、どうしても手が出せないから気になってたんだ。まさか、それが今日読めるとは思ってなかったけど」

 

 あはは、と笑うラディ。

 彼も満足したような面持ちだ。

 良かった良かった。

 

 

 

「そういえば、さっきまで集めてた本、全部片付いちゃったね。また手分けして探しに行く?」

 

 そう言われて気づく。

 今日、私はこの図書館の制限時間を知って焦りに焦っていた。

 そのために集めていた資料や本やらが今は何処にも見当たらない。

 時間が空いたことでこの図書館に片付けられてしまったのだろう。

 

 しかし、意外と後悔はない。

 もう最終日までに間に合わないことは確定してしまったが、今日は別に珍しい体験をしたからか、そのために費やした時間を悔やむ気持ちは湧き上がってこなかった。

 

 というか、今日のように別行動するとまた私だけ知識欲が先行して結局作業が遅れてしまうようにも思える。

 役割分担は逆に非効率なのではないだろうか。

 

 

 

「ということで。明日からまたいつも通りのやり方に戻したいと思います」

「どういうことでですかね」

「焦りすぎると今日みたいになって時間を潰しかねないと」

「なるほどね。把握した」

 

 焦りすぎはよくないということだ。

 時間は節約すべきだが、変に急いても私には逆効果なのだろう。

 無理なものはもう諦めて、可能な範囲で残りの情報を集める、それがいい。

 

「ああなるほど! これが『急がば回れ』っていうことなんだね!」

「微妙に違うと思いますが」

 

 

 

「あと一つ思っていたのですが」

「はい」

 

「私も精神汚染を体験してみたいです」

「えっ」

 

「高周波数超音波反応装置の使い方は教えましたよね?」

「ちょっと、止めといた方がいいよ」

 

「あとはよろしくお願いしますね。えいっ」

「待ちなって……うわーっ!」




【オルテ】
例え危険でも気になったら止まれない主人公。
壊してはいけない祠を興味本位で壊すタイプ。
立ち入り禁止の扉が開いていたらまず彼女を疑えばいい。そんな証拠は残さないだろうが。

【ラディ】
なんか図書館で記憶喪失にさせられた人。
キャベツとレタスの違いがよく分からないタイプ。
出世魚とか見せたら「個体差?」って言ってくれそう。

【ラディの図書館】
既知の書物と未知の書物の全てが所蔵されている、ありとあらゆる知識が手に入る図書館。
読んではいけない本というのは、WPPOの機密文書のこと。2人が実験した後、文書は消滅したが、既知の図書館には勝手にコピーが作り直される。WPPOは涙目である。

【WPPO】
World Peace Preservation Organization (世界平和維持機構)。
能力者がいる世界で、世界の平和を守るため日々努力している組織。
情報漏洩防止に加え、使用後の文書消失というアフターサービスまで徹底していたのに、反則のような図書館と頭のおかしい少女によって好き勝手に機密情報を閲覧されてしまった可哀想な組織。
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