時間は有意義に使うべきだ。間違いない。ただそれで焦るのはよくない。学んだ。
「知識を得るために時間を使うこと」が正しいのであって。
「時間を節約するために急いで知識を得る」のは手段と目的が逆転している。
残った時間を知識に充てれば? それはそれ。焦るのがよくないという話を今している。
──────────
「能力者の割合はどれぐらいでしょう?」
「確か大体10万人に1人だったはずだよ」
「ふむふむ」
「100万人に1人が通説だけど、効果が目に見えないものとか、発動条件が複雑すぎてそもそも発動したことない人とかもいて。それこそ自覚してないだけで実際にはもう少し多いんだよね。でも、能力者か非能力者かを区別する方法は確立されてないからさ」
「なるほど」
「能力に優先順位はありますか?」
「あるよ。発動した順だね」
「ふむふむ」
「2つの矛盾した内容の能力は発動順で効果が優先されるんだ。『どんな盾も突き破る矛の能力』と『どんな矛も弾き返す盾の能力』なら先に発動した方が勝つ。多分外の世界でもそれで一般的に認識されてるよね。それ以外は特になかったはず」
「なるほど」
「能力を2つ持つ能力者はいますか?」
「昔はいたらしいよ」
「ふむふむ」
「ただ能力者自体がレアな存在だから、2つ持ちとなると滅多に出てこないんだ。今は確か1人もいなかったはずだから、1人につき1つって勘違いされてるよね。あっ、僕の能力は色々効果があるけど、全部含めて1つの能力だよ」
「なるほど」
「能力は先天性のものですか?」
「いや、そんなことないよ。後天性の能力だってある」
「ふむふむ」
「でも滅多にいないね。2つ持ちと同じぐらい少ないんじゃないかな。一般的には先天性だって言われてるよね。でも違うんだよね。どういう原理なんだろう。知識として知ってはいるんだけど」
「なるほど」
「能力が発現するのは人間だけですか?」
「それは……どうだろう。読んだことないな。メモしておこうか」
「はい」
今日も今日とて。
私はラディの図書館で勉強に励んでいる。
ただ、今回は少しやり方を変えることにした。
全てを本で読んで理解するより、ラディが分かる範囲のものは直接教えて貰うことに。
そして、ラディでも分からない内容はメモを行い、探す本をその内容のみに絞る。
これにより、余計な本探し&読書の必要性が無くなり、時間削減に繋がるのだ。
実際、ラディはここにいて長いため、既知or未知に関係無くかなりの読書量延いては知識量を誇っており、あまりに踏み込んだ内容や個々に限定した内容でなければ7割ほどはその場で答えてくれる。
本人は「全部覚えているわけじゃない」と言っているが、正直私にとっては十分な知識量だ。
なんと便利なのだろう。会話するだけで本を読まなくても知識が手に入る。初めからこうしていればよかったかもしれない。
かつて、ラディが言っていた「ただ本を読む」のではなく、「人と話し合い知識を得る」という考え方がここで活きてきたと言えるだろう。
「人と教え合うとは素晴らしいですね、ラディ」
「多分僕の言ってたものとは方向性が違うけど……。まあいいか。そうだね、オルテ」
「貴方が今読んでいる本は何ですか?」
「『一生遊んで暮らすにはいくら必要?』って本」
「へえ。いくらぐらい?」
「ほら、これぐらいだって」
「ふうん。なるほど」
──────────
「これで全部だっけ」
「ありがとうございます。食事の準備はできてますよ」
いつものように未知の図書館から頼んでおいた本を集めてくれたラディ。
その時間を利用して、私は今日の分の食事を用意する。
しかし、そこそこの量を要求したにも関わらず、ラディはかなり早い時間で戻ってきた。
彼は本当にどうやって探し回っているのだろうか。
「やった。今日は何を持ってきてくれたの?」
「インスタント食品です」
「へぇ、インスタント。保存が利く即席食品だよね。紙の筒の中に入ってるんだ。初めて見るなぁ」
カップを持ち上げようとするラディ。
「あっつ」といって急いで零さないように置きなおすラディ。
そりゃ熱いだろ。お湯入ってるんだぞ。
ほら手貸して。ふー、ふー。
「思えば温かい食事を準備したことは無かったので。丁度良いことにポータブル電源もありますし、ポットに水を入れてここで温めました」
「その電源返してなかったんだね……。じゃあそのポットは?」
「拝借しました」
「うん。知ってたよ」
じゃあどうして聞いたんだ。
というかどうして知っているんだ。
『オルテがポットを持つ理由』なんて本でも読んだのか?
「そろそろですね。あと少ししたら食べられますよ。フォークは、分かりますよね。使えますか?」
「分かるよ。食事用の道具だよね。こう? 持ち方合ってる?」
「微妙に間違っていますが、食べられないことも無いので大丈夫かと」
「そっかぁ」
少し残念そうな顔をして食べ始めるラディ。
明らかにフォークを持ったことが無い人の持ち方をしていた。
あっ明るくなった。落差が激しい。
「すごい! 美味しい!」とか言っている。
彼が喜ぶ姿は悪くない。口にあったようで良かった。
さて。私も勉強を始めるか。
出てきた情報をまとめていると、ふとラディが見つめていることに気づいた。
また私の作業が一段落するのを待っているのか。
「何か?」
「あれ? 今喋りかけて大丈夫なの?」
「集中してるときは邪魔しないで貰いたいですが、会話しながらでも思考はできるので。ここを使わせて貰っている恩がありますし、貴方なら別にいいですよ。どうぞ?」
「えっ嬉しい。ありがとね」
「いえいえ」
そうやって相手を気遣いすぎるのは彼の美徳であるが。
それはそれとしてもう少しオープンでもいいように思う。
言い表しにくいが、何故だか彼と他人との間に壁を感じるのだ。
私の思い過ごしかもしれないが。
「えっとね。オルテはここで得た知識を外で何に使うのかな、と思って」
「何に、ですか?」
「うん。僕は基本的にどんな人でもこの図書館の使用を許可するつもりなんだけど。ここで手に入れた知識は外の世界でどういう風に活用されるのか気になってさ」
「なるほど」
「僕自身に他人を止める権利とかは無いし、正直外の世界がどうなっても僕はどうにもできないんだけど。例えば一つの派閥の人にだけ情報を提供して、結果他の人達に悪い影響が出てしまう、とかだったら何だかその人たちに悪いじゃないか」
「そうですか」
もしかして。
私が外でこの知識を悪用するとでも考えているのだろうか。
今更になって?
一般女学生に過ぎない私が?
「あっ。オルテのことを怪しんでるとかじゃないよ。それは違うからね。信じてね」
「分かりました」
違ったようだ。
よかった。
「でも昨日みたいに、あんまり他人に言いふらすべきじゃない内容の知識だってここにはあるから。ああいう類いの知識は理由があって伏せられてるんだし、君の安全のためにも外での知識の使い方には気をつけた方がいいんだよ、っていう」
「あー」
確かに。昨日の機密情報は他人に話すべきではない。
じゃあ、この会話はラディが気になったというのもあるが、私にそのことが忠告したかったというのも含まれていたのか。
まあ、その心配は無用である。
「安心してください。ここの知識を外で使う気は一切ありませんよ」
「あれ、そうなんだ?」
「だってそうでしょう。私にとっては知識こそが最も望むものであって、金銭も地位も功績もどうでもいいのですから。知識を手に入れたらそこで私は満足します。なので、貴方が懸念するようなことはありません」
「わお。ぶれないね」
そうだろう。
私は最初からずっとこうだ。
「この場所だって誰にも話してませんし、今後も話す気はありませんよ」
「いやまあ秘密で忍び込んでるんだから、そうなんだろうけど……。他の人に教えたら感謝されるかもだし、その人と協力して作業だってできるかもよ? そしたら情報収集がもっと効率的になるかも」
「この場所が自由に使えなくなるリスクがありますし、貴方ならともかく、この学校の人間程度では今の私の足手まといにしかならないので」
「相変わらずだねー」
失礼な。
知識に対して貪欲なだけだと言って欲しい。
他人が何の知識を得ようが私には一切関係無いだろう。
そんな人間のために私がこの場所のことをわざわざ教えるなんて無駄なだけ。
意味のないこそ独占はしないが、逆に意味があるなら独占して然るべきだ。
…似たことをつい最近考えたような。
まあいいだろう。今の私には関係無い。
──────────
「プログラムなどにおける再帰の概念は分かりますか?」
「多分分かるよ。自分の中でまた自分を呼び出す処理のことだよね?」
「まあ概ねその認識があれば」
未知の図書館で本を探すときに。
少し疑問を思いついたので口にしてみた。
「未知の図書館にどんな知識の本も保管されているのなら、『未知の図書館の全て』という本があってもおかしくないのでは、と考えてですね」
「なるほど? 続けて」
「その本には未知の図書館の全てが記載されているため、当然その本のこと自体も言及されているはずです。そうなると再帰的に自身の中に自身に対する言及が無限に現れ続けることになるのでは、と思いまして」
「おっけー理解した」
流石。
さあどう答えが返ってくるか。
「今までにない発想だったけれど、まあ多分答えは分かるよ。それも単純」
「となると?」
おお。
分からないではなく、きちんとした解答が返ってくること初じゃないか?
「ここの本は基本的にすぐ分かる簡単なものを除いて、難しい用語とかの詳細な内容については『~については~を参照すること』みたいな感じの文がどこかに記載されてる仕様になってるんだ」
「そうなのですか?」
「うん。特定の場所とかにある訳じゃないから、ちょっと探すのが面倒なんだけど。『能力学の理論』だって知らない単語が沢山あったけど、その単語についての詳しい説明は載ってなかったよね?」
確かにそうだ。
『能力学の理論』を初め、ここにある全ての本には注釈や前提知識の解説等がなかった。
今思えば、「○○○については×××を参照」みたいな文を見たことある気がする。
当時はどの本を探せばいいか分かるのでラッキーと思っていたが。
あれって全部の本にあったのか。
「ほら。試しにこの本も。探せばどこかに……あったあった」
ラディは無造作に一つ本を取り、その中身を見せてくれた。
タイトルは『UMAの正体』。
ラディが指をさす場所には確かに「この説については『2XXX年 社会実験α-24』を参照すること」と書かれている。
あったあった。
こんな文確かに見たことあった。
「とまあ、こんな風になってるから。『未知の図書館の全て』って本があっても、この参照文が書かれてるだけで、再帰的に内容がループして、本の長さが無限になる……みたいなことは起こらないと思うよ。多分ね」
「なるほど」
納得だ。
またしてもこの図書館の知らない仕様が出てきた訳だが。
というか、ここまで機能が多彩だとまだ何か大きな仕様があるように思える。
『図書館の全て』でないにしても『この図書館の仕様について』なんて本があれば読んでみても良いかもしれない。
覚えていれば。
「実際に探してみようか? 『未知の図書館の全て』。それを見たら実際の結果が分かると思うけど」
「ああ、別にいいですよ」
「あれ? いいの?」
「ただの雑談ですから。私はもう答えを知れたので、満足しました」
「でも、人の憶測より、実際の正確な知識の方が良いんじゃなかったの?」
「貴方がそういうなら実際にそうなのでしょう。知識を求められて、貴方が嘘や冗談を言うこともないでしょうし」
「……そっか」
どうした。ラディの顔が一瞬こわばったぞ。
よく考えれば、あまりにもスムーズに彼に対する信頼の言葉が口から出た気がする。
そんなことを口にすると思わなかったが故の驚きだろうか。
別に恥ずかしいと思うことは無いが。
まあ私は随分彼に気を許してしまっているのだろう。
「別にいいんですって。あとほら、時間もあまりないので」
「あっ、うん」
急かすように声を出して、手を引く。
別に照れ臭いと思っていた訳ではないが。
思わず口から出てきた言葉が、知識を切り上げる内容だったのは初めてのことだった。
「あっプログラムっていえばさ」
「はい」
「オルテはPCとか使わないのかな。いつも手動か暗算で計算してみるみたいだけど、大変じゃない?」
「はい?」
「あんなすっとろいものどうして使うんですか? 4色問題ごときに1日もかかるような計算機なぞ、有って無いようなものですよ」
「えぇ……?」
何故だ。何故そんな目をする。事実だろう。
今の技術のPCじゃ1日~数十時間がせいぜいだし、4色問題の証明に十数分も時間は要らない。
あれは他人にメールを送るために存在する便箋でしかない。
ラディはただの計算機に過度な期待をしているようだ。
──────────
ぐらり。
欲を張りすぎてだいぶ本を積み重ねてしまった。
なんとか両手で支え、上から顎で押さえているが、それでも崩れてしまいそうだ。
ふと助けを求めようとラディの方を見るが、明らかに私の倍以上の量を持っている。
あの量の本に影響が出てしまってはいけない。なんとか持ちこたえなくては。
「あっ」
ラディに顔を向けた弾みに胸で本を押してしまった。
押し出された部分から私の本の塔がバランスを崩し始めている。
わ、あわわ。落ちる落ちる。
なんてことだ。スタイルの良さが裏目に出てしまった。
というか本の問題だけではない。
このままだと私も前から倒れてしまう。
しかも硬い本の表紙の山に顔から。
「おっととと」
「ん? わ! オルテ!」
ぐいっと。
抑えきれず倒れそうになったその瞬間。
いや、詳細にはその瞬間から一拍置いて。
かなり強い力で腰にラディの腕が巻き付き、引っぱりあげてくれた。
「だ、大丈夫だった? 危なかったね」
「おお。ありがとうございます」
バタバタと崩れ広がっていく数々の本が目に映った。
今ラディの胸元に顔を押し付ける形で抱き締められている。
咄嗟の判断力は見事だった。
普通にアニメみたいに顔から転倒するところだった。
というか力強いな。
この体格差だから当然かもしれないが。
あといつまで抱きしめてるつもりだ。
ちょっと苦しいぞ。
「ん。ラディ。ちょっと苦しいです」
「え、ああごめんごめん。びっくりして力が入っちゃって」
ラディはすぐに解放してくれた。
「ふぅ。ラディ、助けてくれたことには感謝しますが、あまり異性の体を強く抱き締めるべきではないですよ」
「え、あ、うん。ごめん」
「いえいえ。私だったら良かったですが、普通の女性なら少し驚くシチュエーションかもしれないので」
「そうなんだ。ちょっと気をつけなきゃいけないな」
助けたにも拘らずちょっと窘められてしまい、少し落ち込んだ様子を見せるラディ。
まあラディはパーソナルスペースの概念が存在しない節があるので。
こういったことは理解しておいた方が。
あっ。
「私が持ってた本は?」
「……今の一瞬で片付いちゃったね」
しまった。
なんてことだ。ラディに抱き締められたことに思考が持っていかれすぎて、手にしていた本の存在を忘れていた。
「不覚でした。先に本を拾い上げておくべきだったかも」
「じゃあ、探し直しだね。まあそういうこともあるよ。『That's the way the cookie crumbles』とも言うし」
時間は大切にすべきなのに、これじゃあ二度手間じゃないか。
どうしてこうも集中を欠いてしまったのだろう。
ラディの引用を訂正するのも億劫になって……。
……あれ? 合ってるな。
「That's the way the cookie crumbles」の意味合いは「仕方がない」「運が悪かった」「人生はそういうもの」。
なんと。ちゃんと正しい意味合いで諺を使えているじゃないか。
ラディも成長しているということか。
おお。それは良いことだぞ。
「中々やるじゃないですかラディ」
「……? なんのこと? 君の体を引く前に持ってた本を丁寧に置いたこと?」
……ん?
「いや、オルテなら自分が怪我をすることよりも、無駄な時間を食う方が嫌かと思って。持ってた本を丁寧に置いてから助けたんだ。ほら、あそこ。まだ消えずに残ってる」
ラディが指指す場所には綺麗に積まれた本の山。
彼がさっきまで持っていた本の山。
私の山と違って、片付けられずに整頓されたまま残っている。
まあ。まあ。まあ!
「ラディ!」
「あっちょっ! 異性に強く抱き着いちゃダメだよオルテ!」
なんだそれは!
誰がそんなことを言い出したんだ。
空気の読めない奴め。
──────────
「はーい帰る時間だよー」
「待って。待ってください。あとこの本だけでも」
「今から読んだらどうなると思ってるの。明日にしなさーい」
「待って。せめてあと5冊」
「なんで増えたの?」
だっていいところだから……。
今日も帰りの時間になってしまった。
あと2日しかこの場所を使えないことは把握し、その上で無駄に焦りすぎないと結論を出しはしたが。
それでも、目の前に餌をぶら下げられたままでなお平静を保てるのかと言われればそうもいかない。
それが今に繋がる訳である。
今ものすごく良い感じに理解できそうで。
そっち脳のリソース割きまくったせいかまるで会話できる気がしない。
IQが溶けていく音がする。
「5分/冊で読み終わるんで10冊にしてもいいですか?」
「何言ってんの君」
ダメだ。
無理だ。
「明日にすればいいじゃないか」
「うぅっ。でも。でも」
今凄まじいスピードで私の脳が計算結果を導き出していく。
どうせここに居座ることのデメリットはちょっと生活リズムが崩れるくらいなのだ。
もうちょっとぐらい粘っても構わないのでは。
ん?
別に計算自体は外に出ても出来るな?
「明日やればいい。確かにそうですね」
「うわっ。急に戻るじゃん」
「貴方に迷惑をかける訳にはいきません。お騒がせしました」
「別に迷惑じゃないけれど……」
「いえ。私らしくない、子供っぽいところを見せてしまって」
「そうかなぁ。正直予想通りだけどなぁ」
考えればすぐ分かることだった。
新しく本を読めないのは致し方無し。
そうでなくてもただでさえ考えるべき内容は沢山ある。
なら外でやってもいいじゃない。
知識を前にすると視野が狭くなるのは私の悪い癖だ。
「また明日。いつもの時間に来ることにします」
「ああうん。相変わらず切り替えが急だね」
「それじゃあまた」
ノブに手をかけ、強く引き。
後は外に出て。
出て。
出て。
おかしい。
出られない。
厳密に言うと私は出られたが、鞄が宙に浮いたまま引っかかって先に進めない。
「あー」
「何ですかこれ」
「多分鞄の中に本が入ってるんだよ」
「はて? あら」
言われて鞄を開けてみれば確かに。
そうか、ルールその3か。
この図書館にあるものは外に持ち出せないのだ。
「さてはこっそり持って帰ろうとしたね? ダメだよそれは。図書館の中にあったものは外に持ち出せないって言ったと思うけど」
「いえ、これは違います」
危ない危ない。誤解は解いておかないと。
「おそらくあまりにも興味深い内容だったため無意識の内に自分の持ち物だと思い込んでしまっただけかと」
「もっとやばい人じゃん」
「いえ、よくあることです」
「普通にやばい人じゃん」
「えっすごい量入ってない? いつの間に?」
「はて」
ラディの目線が「さすがに確信犯だろ……」と訴えかけている。
待ってくれ。そんな目で見ないでくれ。
今回は本当に一切奸智を働かせた訳じゃない。
もうそういう悪癖なのだ。誤解しないでくれ。
あと確信犯の意味が違うぞ。言ってないが。
この図書館においてイニシアチブは貴方にあるのだ。
誤解されるのはまずい気がする。
──────────
「大丈夫、疑ってないよ。君は意外と話を覚えているし。また明日早くに来るんでしょ? ちゃんと整理して置いておくから」
「分かりました。ご厚意に感謝します」
「はいはい。また明日ね」
「はい。それじゃあまた」
お咎めは無かった。
ラディが私に甘くて助かった。
しかし、本当に持ち帰るつもりはなかったし、これは負け惜しみなどではないのだが。
図書館のものが外に持ち出せないというのは致命的な弱点のように思える。
あれだけの知識を外の世界には直接持ち出せない。
どんな作業もあの空間でするしか手段が無いというのだ。
数少ないあの図書館の欠点とも言えるだろう。
ラディだって、本を外に持ち出せなくてはその自慢の知識を披露することだってできない。証拠の伴わない真実など与太話に過ぎないからだ。
ああ、だから彼は外に出ないで、ずっとあそこに。
ラディは。
ずっとあそこに。
『僕が知らない間に外の人って……』
『ほら、人との会話って僕には貴重だから』
『君には外の世界があるんだから』
『正直外の世界がどうなっても僕はどうにもできない』
『この図書館にあったものは、図書館の外には持ち出せないんだ』
etc……
おや?
私が他人に興味を持たな過ぎたためかもしれないが。
よく考えればすぐ思いつくようなことに今初めて思い当たる。
「ラディは外に出られない?」
扉は閉まっている。
私の独り言は疑問形だったが、扉の向こうから声は帰ってこなかった。
【オルテ】
割とダブルスタンダードを踏む主人公。
よっぽどのことがなければ他人に興味を持てないタイプ。
ペットができたら与えるエサを毎回変えて反応を見る。あれ、この状況どこかで。
【ラディ】
なんか図書館にいる世俗に疎い人。
常識が欠けているというより世間知らずなタイプ。
彼よりもシンプルに非常識な主人公とはこれ如何に。
【ラディの図書館】
既知の書物と未知の書物の全てが所蔵されているありとあらゆる知識が手に入る図書館。
ここの本は「詳細な説明は専門の本を読んでくれ」の一文を添える適当仕様を備えている。逆にこれが無いと『能力学の理論』は東京ドーム3周分程の長さになってしまう。