ハーレム目的でダンジョンに潜ったら、実は幼馴染のことが好きだった件   作:松田駅

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2.もぐれ蛍ちゃん(偽名)

試練の途中だというのに目の前の不適切の笑みを浮かべ、私を見据える少女ーーカナタを見ていると思い出してしまう。

朧げな数々の思い出の中で、太陽の様に輝く記憶。

 

 

『カナタを支えてあげてね。僅かな時間でも良い、フランの力貸してあげてね』

 

 

ああ、勿論だとも。

ベッドの上でカナタの母であるアステラは私の名を呼び微笑み、私、フラン・ネーベの手を握った。

ひんやりと冷たかったが私の心は暖かくなり、同時にズルいなと感じたが、別に嫌な気分ではなかった。

 

 

『別に構わない』

 

『良かったぁ…!! でもね! フランならそう言ってくれると思ったの。私の大事な家族だし、カナタも凄く懐いていたし』

 

『……あれは懐いていると言うのだろうか?』

 

 

わたしのあしをなめろー!! と迫ってくるカナタや、おまえはけいだよ!! と私の背に乗り背中を叩きながらはしゃぐカナタの姿を思い出し首を傾げる。

 

 

『ななな懐いているよ!! それはもう実姉みたいな感じで!! ほらこれ!カナタがフランにって!』

 

 

目を逸らしながら慌てた様子でアステラはベッドの下から何かを取り出し私に差し出した。

 

 

『なん…ん? なんだこれは? 』

 

 

ー猪の被り物であった。

どこからどう見ても立派な牙がチャームポイントの猪の頭部であった。

 

 

『あの子、人の顔をなかなか覚えられなくてね。必死に考えた結果がこれだったみたい』

 

 

可愛いよねと苦笑していた彼女を見て、なんとも言えない複雑な感情を懐いたが、心に閉まっておこうと誓った。

 

彼女はこう見えて子煩悩なのだ、ここで「いや、そこに関しては可愛くはないだろう」なんてことを口走ってしまえば確実にめんどくさいことになる。

絞り出した応えは

 

『そうだな』の一言だった。

 

 

「あぁ、やはりカナタは貴女の娘だ」

 

「誰それ? 友達?」

 

微笑みながら首を傾げるカナタを見つめる。

赤い瞳に大きい目、灰色の緩くふわっとしたショートヘア。身長は152cm程だろうか。

 

その姿も相まって可憐な少女に見えるが、その瞳には狂気が見え隠れしていた。この子に母、アステラの面影を重ねたと同時に喪失感が渦巻いていた。

 

ーー何も覚えて居ない。実母のことも、私のことも忘れてしまっている。そして何よりも何故自身を男性だと認識しているのか? 

 

否、認識阻害の類いではなく、魂の一部を変質させられているのだろうか? 何故そんなことを? いや、そもそもそんなことをさせるへまはしていないはずなのだが、実際に起きてしまっているのだ。

 

ならば、私が出来ることは唯一つ、全力で導き、この呪いを解こう。それがきっと私の役目であり、事実このダンジョンに潜り闘うことで呪いが魂から剥がれてきている。

私は肩に担いだ斧を前方に構えた。

 

 

「……私の妹だ」

 

「へぇ〜そっか!」

 

口元を吊り上げ、歪に笑みを浮かべ、屈んだと同時に莫大で目も眩むほどに青白く輝く魔力を前方、私の方へと解き放つ。

 

私が教えてたダンジョンで生き残る術の一つであり、魔力を放つという初歩技で名を魔力砲と言う。

 

溜める、放つという過程を1秒にも満たないごく僅かな時間で行っているこの子は紛れもなく化け物だ。

 

まあ、威力は対して脅威ではないし、こけおどしでしかないが。

 

ふぅーと息を洩らし衣服に着いた砂埃を叩いたその刹那、頬と斧を握っていた利き腕に強い痛みと衝撃が走り、左方に弾き飛ばされ、数回地面に打ち付けられた後に気付く。

 

 

自身が蹴り技を喰らったのだと認識した。

流石に油断し過ぎた。

 

 

****

 

 

「俺の魔力砲ってさ、スカスカなんだよね。魔力で身体覆ってれば全然ダメージないくらいには。それでね、俺思いついたんだよね、これ潜れるじゃね? て! いやー、成功だねぇ」

 

 

カナタはニタニタと笑みをこぼし、手の甲で口元を拭いながらそう言うが、無論簡単なことではない。

 

カナタの魔力砲の特性が術者が離れていてもその場に数秒留めることができること、ダメージが少ないとはいえ魔力の束に躊躇なく飛び込める捨身の覚悟。

 

そして、試験最終日であるこの空間で、フランはあろうことか思い出にひたり、あまつさえ油断するという愚行。偶然と必然が合わさった結果である。

 

「……なるほど、滑稽だな」

「ねぼけてんじゃねぇ」

 

 

仰向けに倒れ込んでいるフランの顔面に、カナタは真上から魔力を込めた蹴りを笑顔で叩き込む。

 

魔力が込められた一撃はダンジョンの地面に亀裂を走らせる程の威力であり、通常のモンスターならば頭部を膨らませた風船の様に破裂させていただろう。

 

 

「あぁ、そうだな、寝ぼけていた。すまない」

 

「えっ」

 

 

ーーが今、自称少年である少女、カナタが戦っている相手、フランはその通常のモンスターではない。

 

気付くと、フランの頭部の近くに立ったカナタの細足が掴まれていた。万力の様にギリギリとそして逃すまいと確実に。

カナタの性格故の傲慢さ、幼さ故の経験不足による隙を女は見逃さない。

 

 

「やばいかも! うぐぇっ!?」

 

 

掴まれた痛みを感じる間もなく、視界がシェイクされる。瞬きすら許さぬ速度で地面に壁に数度叩きつけられながら、カナタは理解した「あ、俺今ぶん回されてる」と。

 

同時に「どうやって抜け出そうか」と呑気に考えてもいた。この間0.1秒(本人談)である。

 

ーーが

 

「ーーぷろちぇーでれ《もぐれ》」

 

「……ぬ」

 

 

少女がぶん回されながら静かに、落ち着いた声で唱えた瞬間、掴んでいたはずの足がぬるりと自身の手から、すり抜けた。

 

 

「あ〜流石にびっくりしたあ」

 

「……」

 

 

地面に数度叩きつけられ、岩盤にぶち当たってやっと勢いが止まった。

 

数秒の沈黙の後、ゆっくりとカナタは立ち上がった。

目視した瞬間フランは僅かに動揺する。

ーー無傷による生還。

 

本来あの速度で放り出されて無傷では済まされないのだ。

 

スウェットはズタボロになり、白い肌を曝け出しているが打ち身すら見当たらないのかと、対峙している者ならそう錯覚するだろう。

 

が、少女の母を、種族を知ってる者ならば見逃さない。

怪我はしていたのだ。

 

事実、骨は砕け、皮膚や筋肉は裂け血を飛び散らしていた。

だが、今少女は無傷なのだ。何故なのか? 答えはシンプルである。

 

怪我を負った瞬間に巻き戻る様に再生していた、それだけだ。

 

当然ダメージを受けた瞬間、痛みは生じるのだが皮肉にも『そういえば、男性から女性に変化させるという魔道具が本部とやらにあるらしいぞ』という一言を食事中、酷く荒れていたカナタに伝えたことでクリアーしていた。

 

アドレナリンが、びしゃびしゃ噴き出していてそれどころじゃなかったし、心の奥底では空太郎との幸せ新婚生活を妄想していた。

 

 

「赤ちゃんってイヤイヤ期? なんかもあるんだね、楽しみだなあ」

 

 

ハーレム計画のことは頭からは抜け都合の良い妄想に浸り、カナタは歪に笑いながら涙を流していた。

 

 

 

「……ね? だから、もう良いや」

 

「……っ!?」

 

 

刹那、ぶん回し、自身の魔法プロチェーデレの影響で吹っ飛び、20メートル程離れていたカナタの姿が消失し、眼前に現れた。

そう認識した瞬間、反射的に防御の体制に入るがそれよりも疾く、鋭く、右ストレートが腹部に叩き込まれた。

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