The motto   作:苗根杏

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#9 友よ

 

『まーだ暴れてやがる……』

『なんで!?』

『言っただろ、あれは擬似的な叉紋だ。ひとりでに動いても不思議では無い』

 

 光良さんは、嫌な予感が当たったとしかめっ面で怪物を見る。

 

 今や愛しの後輩も中におらず、ただゲキバトル世界を引っ掻き回すだけのデカブツを見る彼の瞳には、もはや躊躇や迷いはなかった。まるでそれは、ジョニィの漆黒の意思のような……。

 

 俺らは再び怪獣から走って距離をとる。

 

『あれが、私自身なんですね』

『……ああ。君はあそこの中にいたんだ』

 

 俺が答えると、古織のいた胸の部分に穴が空いた怪物を見る古織は、にっこりとこちらを振り返って言う。

 

『なんかグロいですね!』

『…………』

 

 おそらく全員が、彼女はもう少し落ち込んでいるものとばかり思っていたが、想像より元気な彼女にポカンとする。

 

 光良さんも俺らと一緒に、口を開けて驚いていたが、そのうち堪えきれなくなったように。

 

『ふふ……はははっ。少しグロテスクなのは確かだ』

『えっ』

『ははは……っ』

 

 そう言って笑った。

 

 周りがみるみるどよめきを見せる。なにしろ光良さんの笑ったところなんて、バラダギ先輩を知らない関東の演者よりも珍しい。

 

 口角を上げることはあっても、ここまで爽やかに笑うところなんて、見たことがない。不気味なまであるぞ、こんな光良さんは。

 

『光良さんが……』

『声出して笑った……?』

『おいおい、初めて見たよこんなの』

『オレのことを何だと思ってるんだ』

 

 ジト目で周りの演者を見る光良の手を、古織が取る。

 

『先輩って、意外と笑いますよ』

 

 そうして、彼女は俺たちにウィンクして。

 

『私が隣にいれば、の話ですけど』

『……どうりで見たことがないわけだ』

 

 かおちゃんは、つまりそういうことか、と納得して笑う。

 

 遠くから怪物が睨む、走る人混みの中、足を止めたのはバラダギ先輩だった。

 

 平ジェネForeverの電王のように、逃げる演者をかき分け、アメリカンクラッカーをぶんぶんと回す先輩は、古織に。

 

『古織!!』

『えっ、は、はい!』

『……やるぞ』

 

 つられて足を止めた古織は、怪獣に向かって歩く先輩についていく。

 

『バラダギさん。私、頑張ります』

『それはまず光良に言えよな』

『ふふ、それもそうですね』

 

 古織は、走る演者たちの方に向き直り、深々と頭を下げる。

 

『皆さん!! 改めて、この度はすみませんでしたっ!! 私と一緒に、ケジメつけさせてくださいっ!!!』

 

 その花火もかくやという腹からの大声に、全員が足を止める。

 

 すると、その言葉が聞きたかった、とばかりに全員が進行方向を、間近に迫った怪獣の方へと変える。

 

『乗りかかった船だ、沈むまで共にいよう』

『賛成〜!』

『共同戦線は維持、だね』

 

 バラダギ先輩の『行くぞォッッ』という声と共に、頭を下げ続けている古織をも追い越して、演者たちは所属校に関わらず、負った傷をも気にせず、総攻撃を始める。

 

 刀の弾かれる音。羽根のミサイルが突き刺さる音。クラッカーの鳴る音。なんと見事な連携プレイ。美しいとしか言いようがない。

 

 なおも古織は、頭を下げ続けていた。

 

『私が私でないうちに殺してしまった、3年生の皆さん……どうか……どうか許して……』

 

 自分の犠牲になってしまった、少なからずの演者に対して。

 

 そんな古織の背中を撫で、光良さんが一歩遅れて歩き出す。

 

『暗雲うごめくカオスな舞台、ケリをつける一筋の光!! たった一度の瞬きさえも、銀河を巡り宙を照らす!! 海老原学院附属11期生、三ノ宮光良ッ!!!』

 

 そんな“名乗り口上”と共に。

 

『オレが第二世代の真打(ヒーロー)だッッッ』

 

 相手がただの怪物になったことで、ようやく本気が出せるってわけか。

 

 そこでようやく古織は頭を上げ、頼もしい、恵まれた先輩の背中を見る。

 

『先輩……』

『……やるぞ。古織』

『はい!!』

 

 光良さんは、『紅葉さんッ!!』と戦友の名前を大きく叫ぶ。すると、こちらに飛んでくる部長は、光良さんの横に優雅に着地する。

 

『言ってくれるね、光良』

『……やりますよ』

『負けてられないなあ。主演として……』

 

 光良さんに嫉妬しているのか、部長は手を広げ、大仰な名乗りを声にする。

 

『脇役に徹する王子もまたよし、みんなが引き立てばすべてよし。それでも爪痕は残しちゃうのが、私が王子たる所以♡』

 

 ウチの王子様系演者の姿は、俺の姉にもよく似ていた。影響、やっぱり受けてんな。

 

『虹ヶ咲学園22期生、範田紅葉。みんなのために……そして、私が楽しむためにッッ!!』

 

 そのセオリー、楽しみ方までも。

 

 部長は怪獣に切りかかる花火を、飛んでさらっていく。そしてまたこちらに戻ってくる。

 

『行くよ!! 花火少年、古織ちゃん!!』

『ん? なんで俺ら?』

 

 呼ばれた、というかさらわれた理由に、ピンと来ていない様子の花火は、少し考えてすぐに片方の拳をもう片方の手の平に打ち付ける。

 

『なるほど。羽に氷属性、なら俺は炎属性担当ってことですね』

『えっ? ……』

 

 古織も花火の言葉を聞いて、人差し指をこめかみに当てて考える。

 

 見かねた部長が、“夢の傷跡(ゴッドノウズ)”よろしく、ボールを羽根で作り出した。それを見てようやく合点がいく。

 

『ああ〜!』

これ(ボール)で分かるとはね』

『レベルファイブ作品は大体通ってますので! ジ・オーガが一番好きですッ!』

 

 ああ、そういうこと。一番遅れて俺が部長の目論見を理解できた。ジ・オーガに出てきた、炎と氷の技。

 

『アツいッスね、部長』

『とんでもなく燃えるだろう? 少年ッ』

 

 

zeNon

『VITALITY』

 

 

『燃えろ、俺の小宇宙!! もっと燃え上がれえええええッ!!』

『氷には氷をぶつけるッ!! うおおおおおお!!!』

『炎を出して……氷も? 一体何を……』

 

 花火と古織が、互いの炎と氷のエネルギーをめいっぱいに貯める。

 

 部長は羽根のボールでリフティングし、流れるBGMを口ずさむ。

 

『よし!! 最高にアツいのが出せそうです、部長!!』

『重力操作5.5倍、氷結戒出力9%!! 行けます、紅葉さん!!』

『オッケ……じゃ、飛ぶよ』

 

 アツアツの花火とキンキンの古織をものともせず、部長は2人を抱えて、“天使の羽(エンドレス・ワルツ)”で飛び上がる。

 

『飛んだ!?』

『……イナイレ夢女子、本領発揮だな』

 

 光良さんが嬉しそうに、空へと飛んでいく3人を見る。

 

 それと同時に、怪獣に吹っ飛ばされたバラダギ先輩が、先程まで3人のいた場所に頭から突き刺さる。

 

『ぐえっ』

『あ、先輩』

『バラダギ、大丈夫か』

『声に感情がこもってなさすぎる!! 死ぬほど痛いんだからなコレ!!』

 

 でも死なないじゃん、あなた。

 

『引き抜け、麻琴!!』

『これだけバカみちまったら、後は“ワンピース”しかねェよ!! おれともう一回海賊やろう!!』

『誰がガイモンだ!! というか引き抜くってそういう意味じゃねぇ!! 何回言ったら分かるんだ!!』

『あ、そゆこと……』

『なに!? 素で分かってないの!? こわ!! もう光良でもいい!! 俺を引っこ抜け!!』

 

 下半身だけが地面から出た先輩の真上で、天高く、怪獣を見下ろせるほどの高さで、部長は上昇をやめて2人を手放す。

 

『この必殺技で、希望を切り拓くぜッ!!』

『行きましょう、紅葉さん!!』

『ああ!! 行くぞ……ッ』

 

 炎、氷、そして部長の白い演劇人のオーラが交じり合い、3人は同時にそれらをボールに纏わせ、下に向かって蹴る。部長と古織はかかと落としで、花火は蹴りあげるように。

 

『“マボロシ・朝の鐘(ロスト・マイ・ミュージック)”!!!』

 

 そう叫ぶと、肥大化したボールはゆっくりと下降し、怪獣に叩きつけられる。

 

 3人は落下していき、足でそのボールを踏みつけて追い討ちかのように力をめいっぱい入れる。

 

NGGYU(ンッギュ)────ッッ!!!』

『ハハッ……かったいなあ、バケモノ!』

『光良さんみたいだな!!』

『ふふ、そうですねっ』

 

 なおも削れるだけで穴も空かない怪獣に、3人は軽口を叩きつつ笑い合う。

 

 そして、改めてグッときてしまったであろう古織は、涙を堪えながら叫ぶ。

 

『ありがとうございます、皆さん!!』

『光良さんの後輩は、もう友達みたいなもんでしょうに!』

『私の後輩みたいなものでもあるからね! 古織少女!』

 

 花火は古織の肩を抱き。

 

『同じ演者なら助け合いだろ!! そうッスよね、バラダギ先輩!!』

 

 そう大声で言うと、ハッとした光良さんが、足を持ってぐぬぬと力を入れ、ぼこっと地面から上半身を出す。

 

『やらせは……しない!!!』

 

 引っこ抜かれたバラダギ先輩の上半身は、既にクラッカーを持って臨戦態勢だった。

 

 そして、とんでもない威力のボールを食らっている怪獣もまた、氷を周囲に出そうとしていた。

 

『引き金は二度引かねぇ!!! “アリゾナ・インパクト”ォ!!!』

 

 足を光良さんに持たれたまま、クラッカーの片方を、紐を長く伸ばして、怪獣に思い切りぶつける先輩。

 

 大人しくなった怪獣を見て、バラダギ先輩は叫ぶ。

 

『行けッ、成田ァ!!』

『分からいでか!!』

 

 俺らの後ろから、水無月と山科が走ってくる。“叉紋”のエネルギーを貯めていたのだろう。

 

『行くぞ、ユリース』

『!! ……ええ!! ユリース、本気出しちゃうんだから!!』

『見ていてくれ。武史さん……そして、グリッドマン!!!』

『どうか見ていて!! 永遠の憧れ、彩瀬なるちゃんッ!!!』

 

 2人は身体を光らせ、思い思いの“叉紋創着”を発動する。

 

『100%!! ピュアピュアアローッッッ』

『グリッドォォォ!!! ビ──────ムッッ!!!』

 

 そこにいたのは、ギターを持った伝説のコーデのプリズムスタァと、紺色の目立つ巨人だった。

 

『レインボーライブのセブンスコーデと!!』

『グリッドマンシグマ……!! 見本市版!!』

 

 部長と花火からそれぞれ元ネタを解説された2人は、“マボロシ・朝の鐘”のボールを怪獣に押し付けつつ追撃をする。

 

 そして。

 

『やってやれ。同胞たちよ』

 

 山科がそう言うと共に、俺でも見覚えのある技が怪獣の頭を穿つ。その衝撃、まるで彗星。悪魔の星を一撃で屠る、一閃の希望。

 

『スターライトォォォォォォ!!! アンパ────ンチッ!!!』

『!!?!?』

 

 懐かしい。『だだんだんとふたごの星』だったかに出てきた強化形態。その必殺技。おいおい、俺泣きそうだよ。彼ほどのヒーローが、ピンチの時に駆けつけてくれるだなんてさ。

 

 誰ものヒーロー像の元になったといわれる、日本に古くから伝わる、愛と勇気と正義の使者。彼は俺らに目配せをして、勇敢に飛び回り攻撃している。

 

『おい……あれはなんだ……!?』

 

 光良さんの動揺に、水無月は自信満々に答える。

 

『何って、決まってるじゃない!!!』

 

 

JAM Project

『SKILL』

 

 

『ヒーローよ!!!』

 

 瞬間、眩い光。山の奥からだ。

 

 少しずつ目を開ける。そして、何やら騒がしい空の方を見ると。

 

『“ストライクフリーダム”……出る!!』

『よしッ、“ヤッターペリカン”!! メカの素だ!!』

『人衣一体!! 神衣“鮮血”ッ!!!』

『我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを……!! “竜破斬(ドラグ・スレイブ)”!!!』

『汝、陰鬱なる汚濁の許容よ……更めてわれを目覚ますことなかれ……!!』

『いつか、魔女になってみせるんだからッ!! “ピリカピリララ ポポリナペペルト”ぉぉぉぉ─────ッッ!!!』

『蒼火の壁に双蓮を刻む!! 大火の淵を遠天にて待つ!! 破道の七十三!!! “双蓮蒼火墜”ッ!!!』

『俺たちを誰だと思ってやがるッ!!! “天元突破グレンラガン”!!!』

『バースト発動!! “幻惑(ファントマギア)隠者騎士(ハーミットリッター) バジャーダレス”!!』

『知恵と意志を持つ人類は、神の手助けなしにここまで来てるよッ!! ユイさん!! “ガイウス(ヴィレ)の槍”!!!』

『動いて……“ジュド”!!!』

『“レティニエッタ”!! お姉ちゃんと一緒に行こうッ!!』

『おれの技は、みんな一段階進化する!! “ギア2(セカンド)”!!!』

『“アヌビス神”は絶っ……〜〜〜〜〜〜対に負けなあああああああいィィィ』

『ご唱和ください!!! 我の名をッ!!! “ウルトラマンZ”───────ッ!!!』

『“ライダー”…………変身ッッッ』

『袖振り合うも多生の縁、躓く石も縁の端くれ!! 共に踊れば繋がる縁!! この世は楽園ッ!!! 悩みなんざ……吹っ飛ばせ!!!』

 

 次々にやってくる、各メディア各作品の、いや、“成田の生徒それぞれのヒーロー”。

 

 まるでジョジョ6部のボヘミアン・ラプソディーのように、世界に誇る日本のキャラクターたちが“叉紋創着”によって再現され、一斉に怪獣へと襲いかかる。

 

 アツい歌と共に、グレンラガンに乗った生徒が腕を組みながら言う。

 

『覚えておけ。史上空前最強軍団……俺たちが、成田だッ!!!』

 

 成田学園の本領発揮といったところか。怪獣を徐々に追い詰める変人奇人のパレードは、その学園の東京トップの強さを表していた。

 

 バラダギ先輩は、すっかり童心にかえって、目を輝かせてそれらを見ている。

 

『すっげえ、あれマイフリになったぞ! あっちには大鉄人もいる!』

『成田……すげえな……』

『全員が本気出したらコレって、チートじゃあないか……?』

『おい、ころばしやZもいるぜ!!』

『……少年心がくすぐられるのは確かだ。あのキラードロイド・ペガサスも流石だな、明らかなダン戦オタクがいるぞ』

『もう元ネタ分からないやつもまあまあありますよ』

 

 花火なら元ネタ全部分かるんだろうな。現にバラダギ先輩と同じくらいの目の輝きで、顕現したキャラクターたちを見ている。

 

『負けていられないな。柊、バラダギ。やるぞ』

『はいッ』

『おうよ!!』

 

 先輩と柊は、元気よく返事をして光良さんについていく。

 

 数秒して、柊は首を傾げる。えっ、僕も? ってな感じで。

 

『……なんで僕?』

『どうした、不満か?』

『いやいやいや』

 

 そう困惑する柊の背中を思い切り叩き、バラダギ先輩は言葉に詰まりながらも、恥ずかしそうにも言う。

 

『ケッ……お前のことを……信頼してんだよッ。光良だけじゃねぇ……全員だ。俺も含めて、な……』

 

 言えたじゃないか、と光良さんは先輩の肩を組む。

 

『お前も信頼してるぞ。バラダギ』

『え? そう? ナハハ……』

『締まらないな〜……』

 

 だらしなく笑うバラダギ先輩は、肩をぶんぶん回し、すっかりその気になって、わきわきとする手に“叉紋”エネルギーを貯めているようだ。

 

『お前らァ……最初に見たスーパー戦隊は何だ』

 

 なるほど、彼らも“叉紋”で立ち向かうってことか。そういうことなら迷いは無いと、柊は1歳違いの光良さんと共に元気よく答える。

 

『『ゲキレンジャー!!』』

『そうか、俺もだ!』

 

 バラダギ先輩は、両手を空に掲げる。

 

『我に新兵器あり!! 行くぜ、“叉紋”ッ!!! “獣拳大砲ゲキバズーカ”!!!』

 

 そう言うと、見覚えしかないトリコロールの大砲が、上から降ってくる。

 

 それは、『獣拳戦隊ゲキレンジャー』にて、ゲキレンジャーたちが臨獣殿にトドメをさす、マスター・シャーフーを模した必殺兵器。

 

 彼らの『激気(げき)』を砲弾として込めて、一気に発射する、当時の子供ならば誰もが憧れた武器。ゲキバズーカだ。

 

『でっかあ!? てか懐かしっ!』

『……なるほど。いいセンスだ』

 

 光良さんはニヤリとして、『ニキニキだ、バラダギ!!』と、ゲキレッドこと漢堂ジャンの口癖を口にする。

 

 バラダギ先輩も、『なんでもかんでも俺に任せろッ!!』と言い、心身共にヒーローとなった彼は、古織に呼びかける。

 

『古織ィ!!!』

『は、はーいッ!!』

『ケジメ、全員でつけっぞォ!!!』

 

 完全に涙腺が緩んだ古織は、泣きながらボールを蹴って叫ぶ。

 

『……はい!!』

 

 そして、ようやく“マボロシ・朝の鐘”が怪獣の身体にめり込んだ。

 

『ここで合ってますか?』

『ああ、そして……』

 

 柊がゲキイエロー、光良さんがゲキブルーの位置につき、バズーカを支える。

 

『貯めるぞチャージ!! エネルギーッ!!』

 

 深手を負いつつも、なおも演者たちに襲いかかろうとする怪獣を前に、彼らは約2分間のチャージを始める。

 

 いざとなったらゲキレッドよろしく自分が囮になる、とバラダギ先輩はチャージを始めるが、その心配は不要だった。

 

『子犬くん、まーちゃん。ここは任せてくれ』

 

 かおちゃんをはじめ、全演者が、怪獣を食い止めに走り出す。

 

『やってみる価値は、ありますぜ!』

『フン……手伝ってやらんといかんな』

『全員で忘れられない祭典にしようッ』

『プリズムスタァを舐めないでよね!』

『麗赤!! 出力全開だッ!!』

『任せてッ!! 麗紅!!』

 

 顔も知らぬ演者たちさえも、怪獣を抑えて彼らを庇う。ああ、俺らは幸せ者だ。古織が泣く理由も分かる。

 

 ……だが。先程も言っただろう。

 

『主人公は俺だぞ』

 

 姉ちゃんの分まで、俺が頑張らなきゃいけないんだよ。俺こそが、大土麻琴こそが。

 

 そう念じて握った杖、その先端の水晶玉に余ったパワーが、きらきらと外に流れ出る。まるでアクシズを押し返す時のように。

 

 ああ、そうかよ。あんたも随分エゴイストだな。ここに出たがるなんてさ。まあ無理もない、俺と一緒に戦おう。みんなも少しくらいなら許してくれるさ。

 

『“叉紋”』

 

 前の“打上花火”を上げた時とは違う、胸の熱さ。おそらくもうひとりの演者を“叉紋”して、2人分のエネルギーを費やして戦わなければいけないから、身体に負担が随分とかかるんだろう。

 

 それとは別に。

 

 アツさが、身体の芯を通って、目から溢れ出る。

 

 そうか。俺、ずっとあんたと一緒に戦いたかったんだな。今になってようやく気づいたよ。

 

『…………“大土麻美”』

 

 奮い立たせろ。脈を立たせろ。自分の中の怒り、焦り、葛藤、不安、悩み、恥、エゴ。その全部を、暴走しないようにロデオみてーに乗りこなすんだ。

 

 そうすれば、きっと“自分マイナス100%型”にはならずに。

 

 そうして俺の右隣に現れたのは、高校2年生の頃、まさに全盛期の大土麻美であった。

 

 パンダハウスとかいうおかしな名前の木造アパートで、同人誌をガリガリ書いている、ネットで大人気な今の姉ちゃんじゃあない。

 

 今よりファンは少ないが、間違いなく姉ちゃんの半生の中で一番ギラついていた時期。あんな事件が起こる前の、ニジガクの王子としての姉ちゃんが、俺の隣にはいた。

 

 緑のダサいジャージをも着こなす、ウルフカットの長身イケ女。

 

『……行こうか、麻琴』

『……うん。姉ちゃん』

 

 全てをぶつけてやる。

 

 そうして怪物を攻撃しようとした時。

 

『グォォォ────────────……』

 

 怪物の口内が光る。あの動作、まさか最後に一撃食らわそうってのか。古織ちゃんに似て粘り強い、敵ながらアッパレだよ。

 

 手の空いた全員がそれを止めようと攻撃する。が、怪物の動きは止まれど、チャージされ続けるエネルギーが止まらない。その矛先は激激砲の方に向いていた。

 

 まずいな、誰もこれを止められる者は──。

 

 激激砲を持つ3人の方に向かい、怪物の口から漏れ出る眩い光が放たれる。霙のような、雹のような、液体と個体の混じった、まるで岩も溶岩も出てくる噴火のように出てくる。

 

 さすがにヤバい。バリアを貼ろうとした時。

 

『“一刀流・太陽多螺(サンタラ)”』

 

 柊、バラダギ先輩、光良さん、そして俺の前に背を向けて立ちはだかる者ひとり。

 

 そして流れる、ギネス級の早口ラップ。

 

 お前、来てたんだな。

 

 

Eminem

『Rap God』

 

 

『オレンジくん!!』

 

 襲い来る怪物の“氷・霙・雹ビーム”を、かつて俺とかおちゃんをオレンジジュースの恨みで狙った時と同じような超スピードで受け流し、断ち、打ち、斬る。

 

 太刀であそこまでやるとは。同じ太刀の武器を持つ花火にも出来ないような芸当だ。

 

『なっ!?』

『……子犬くん……!!』

『ダメだオレンジくん!! いくらなんでもッ……』

『子犬でもオレンジでもねェ!!! 俺の名前はッ!!!』

 

 ムカついたのか、足を踏み込んでガっと一気に加速。ビームの元である怪物の喉まで来て、さらに太刀で一突き。怪物は一気に勢いと生気を失い、力なく起き上がりかかった首を倒れさせる。

 

『情熱、思想、理念、頭脳。気品、優雅さ、勤勉さ。大切なものは数あれど、俺にあるのは一本刀。第三世代にこの太刀で切り込む、生粋の江戸っ子たァ俺のことよ!!』

『ウォォ────ム……!!?』

『四十本高校44期生、久我 真直(くが-まっすぐ)ッ!!! 貴様らには何よりも、速さが足りないッッ!!!』

 

 まるで歌舞伎のようなポーズを決めるオレンジくんは、妙にテンションを跳ね上げさせており、その後も起き上がろうとする怪物に対して追撃を食らわせる。

 

 あの超スピード、只者じゃあないな。前よりも威力や素早さが増している。

 

 俺の“99”は高速の移動ができるだけだ。今のオレンジくんの、光速での移動・攻撃・牽制の方が一枚上手だ。

 

 そういえば名前、初めて聞いたな。

 

『アンタら本当に知らないんですか!? 俺、路上即興演劇で中学の頃だいぶ苦戦しましたよ!?』

『……その声は、“生ける中学演劇の歴史(ア・リビング・ゴールデン・ヒストリィ)”か。長生きしてるな、経歴の割に』

『うるせぇっ、“超音(ビヨンド・サウンド)”! また音速を軽々と超えよってからに! てかその名前で呼ぶな!』

 

 何? そんなにすごいの? この人。

 

『貴様らのためじゃあない。勘違いするな……俺の先輩の晴れ舞台でもあるんだ』

 

 まあ、とにかく今は協力してくれるなら誰でもいい。それがたとえ、ワークショップの前だと言うのに勝負をふっかけてきた礼儀も知らぬ戦闘狂だったとしても。

 

『オレンジくん』

『だから違うっての! てかいつつけたんだ、そのあだ名!』

 

 ずっとこう呼んでるよ、便宜上ね。

 

 さっきまで名前も知らなかった奴の背中に、俺は頭を下げて叫ぶ。

 

『ありがとう』

『……ジュース、1本おごれ!!』

『はいはい、オレンジジュースな!』

 

 オレンジくんは『分かってるじゃあないか』とつぶやき、速度をさらに速め、残像を生み出す。

 

 その残像のオレンジくん達が、一斉に怪獣へと襲いかかる。その数およそ数十。そこにみんなの追撃もあるってんだから、これにはたまらず怪獣も首をもたげる。

 

 あの量の残像を、“叉紋”なしで展開し、なおかつ質量を持たせて攻撃まで。恐れ入った。確かに彼、俺と1対1だったらヤバかったかもな。

 

 光良さんは、『よし、もうすぐいけるぞ!』と俺らに告げる。すると部長は、『それじゃあ変えるよ、ミュージック!』と言い、指パッチンで自然に曲を変えた。

 

 

ガガガSP

『こんちきしょうめ』

 

 

『アツく放てッ!! 俺らの集大成ッ!!!』

『行くぜ、パワー解放!!!』

『トリガーを押してエンターだッッ』

『それ違う戦隊な!?』

『チャージ完了!! コンプリートォ!!!』

 

 部長は、ボールを花火と古織に任せて、俺らのところに飛んでくる。もうすぐボールも怪獣を貫通できるというところだった。

 

『やっちまえ、バカども』

『おうッッッ』

 

 アイコンタクトだけで部長と先輩は頷き、片手をあげる。

 

『革命〜〜〜〜!!!』

『チェ──────ンジッッ!!!』

 

 ここからは任せろ。バトンタッチを示す、俺ら世代の合言葉が、無意識な“叉紋”となって俺らの後ろに筆文字で現れる。

 

『タァァァッチ!!』

 

 

革命

チェンジ

 

マボロシ・朝の鐘→ゲキワザ・激激砲

 

 

『ひっくり返したれやぁぁぁぁあああああッッ!!!』

 

 バラダギ先輩は重いトリガーを引き、いつでもトドメをさせるようにする。

 

『いっけえ──────ッッ!!!』

『みんなのヒーロー……!!』

 

 花火と古織はボールを蹴りながらで、それ以外の演者も一斉に、それぞれの技を放つ。

 

『“氷結・無刀9%”!!!』

『“二刀流・焼身証明”ィィィ!!!』

『“一刀流・琴音乱斬(ナーランギー)”ッッ』

『“シャム・シェイド”ッ!!!』

『“グリッドォ……ビ───────ム”ッッ』

『“ハピなるアロー無限大”ッ!!!』

『シェイクスピア四大喜劇、そのひとつ……“ヴェニスの商人”』

 

 そして、“マボロシ・朝の鐘”が怪獣の身体を完全に貫いたとき、トリガーは押された。

 

 長きにわたる、演者とも思えぬバケモノとの戦いに幕が下ろされる瞬間。俺らは間違いなく、全員がその場を楽しんでいた。

 

 ああ、もっと楽しみたいな。もっと、この残酷で美しい戦いを。

 

『“ゲキワザ”!!!』

『“激激砲”!!!』

『豚のッ……角煮ぃぃぃいいいッッッ!!!!!』

 

 怪物が死期を悟ったのか、暴れ出す。次々に襲いかかる技の数々に耐えかねてきしむ身体で、あちらこちらに氷とビームをばら撒く。

 

 俺に襲い来るそれは、全て姉ちゃんが払い除けてくれる。

 

 その合間を縫って歩く俺たちに、敵はなかった。

 

『トドメは貰います』

『あっ! エゴイスト!』

 

 部長がズルいぞとばかりに叫ぶ。エゴイストでナンボっしょ、演者なんて。部長が言ってたことッスよ。

 

『“天使のスピード”!!!!』

『“散りて二度とは咲かずとも 炎の如くに散るぞ美し”』

 

 生じた隙間に、超スピードで突っ込んでいく俺と姉ちゃんは、戦場を飛び、軌道を描く。星のように、奇跡のように。

 

 ああ、姉ちゃん。今度、もう一度やろうよ。演劇。

 

 俺、あんたとこんな風に、一緒に戦いたかったんだ。

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