Try to Save Yourself Like You Always Do   作:こぬ

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第一章 いつか夢見た世界
いつか夢見た世界


 

 俺はその日、1人だった。

 

 父さんの新しいプロジェクトのためにくっついてきたニューヨークは眩しく輝いていて、それこそ母さんと共に一日中楽しんだものだ。ダウンタウンは少し治安のこともあって滅多に行かなかったけど、ブロンクスもクイーンズも大方あの時期に回ったんじゃないだろうか。けれど偶然にもその日は遠い親戚に会う用事ができてしまったらしく、2人とも家を空けることとなりはじめて1人で留守番をすることになったのを覚えている。

 

 リビングのソファで何となくスマホを手に横になっていると、母さんが2階から降りてくるのが視界の端に入り込んだ。軽く話しかけると、想像通り俺のことを心配する言葉が出てきた。

 

 「本当に1人で大丈夫なの?一緒にサラ叔母さんの所に行ってもいいのよ」

 「母さん、俺もう16だから。留守番くらいできるよ」

 「誰かが来ても絶対ドアを開けちゃダメよ」

 「分かってる」

 「配達員さんも」

 「うん」

 「11時にはお父さんも帰ってくるから。それまでに何かあったらすぐお母さんに連絡してちょうだい」

 「分かってるから、大丈夫だって」

 

 いつも以上に過保護な母さんと何十回も同じことを確認して、結局満足してもらえるまでに15分以上はかかったと思う。昔からそうだ。小学校の頃なんか毎日スクールバスまで送っていくと言って聞かなかったんだ、5年生までずっと。巫山戯てるだろ?でもそれが俺にとっては普通だったし、高校に上がるまではむしろ感謝していたんだ。生活するうえで警戒するに越したことはないからな。

 

 カッカッ、と母さんがヒールを整える音が聞こえる。玄関に目線を向けると、コートを手にしながら真っ赤なピンヒールの踵を器用にはめている様子が見えた。いつの間にか支度を終えてもう出発するようだ。

 

 「それじゃあ、気をつけてね」

 

 

 柱の向こうから、ドアの音と母さんの声が聞こえる。あの家は間取りが少し不思議で、玄関だけ道路の方に突き出ていたんだ。

 

 

 母さんの姿は見えなかった。

 

 

 

 

 俺はスマホに意識を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

  * * *

 

 

 

 

 

 前世、と言って正解なのかは分からないが、俺は今生きているこの人生よりも前の記憶がある。“ニホン”--アジアにある、たしか中国の東あたりの島国だった気がする--という国に生まれ、バカをしながら学生時代を謳歌し、不況に喘ぐ会社員として日々あくせく働いていた。それらは決して夢には思えないほど鮮明で現実的で、今も思い出せるほどに脳内に存在している。

 

 だが、実際はそんな経験はしたことがない。海外に行ったこともなければ、何ならペンシルバニアから一歩も出たこともないはずだ。記憶にある“文化祭”というものも、一緒に高校をサボり“サイゼリヤ”なるレストランでドリンクバーで3時間粘った“ヤマモト”も、一切合切いつの間にか自分の意識に根付いていただけだ。けれど、日本という国も文化祭という日本特有の文化も実在する。余計に不思議だ。ヤマモトも実在しているのだろうか。

 

 それでも、何よりも不思議なのが__

 

 

 「アベンジャーズ…?」

 

 「はぁっ、お前知らないのかよ!?」

 「アイアンマンとか超ニュースにやってたのに〜」

 

 ガタッと立ち上がる2人にカフェテリア中の視線が集まり慌てて声デカすぎ、とニコラス達を宥めるとようやく視線が戻った。急に騒ぐなよ、周りに変な目で見られるだろ。

 

 「いや、あの後ちょっと色々あったからさ。その、…母さん達の、ね?」

 

 目の前にあるランチトレーに放置していたマッシュポテトをつつきながら、今度は控えめの音量で2人に答える。

 

 「あ〜、たしかに。ごめん」

 「でもあんだけ話題になってたんだぜ?しかもキャプテン・アメリカは生きてた!らしいし」

 「というかキャプテン・アメリカはあれか、第二次世界大戦の?」

 「なんだお前知ってるじゃん」

 「いや、知らないはずだけど…」

 

 そう、例の記憶に出てきた人物達が実際に出てきたのだ。

 

 __数週間前に起きたニューヨーク襲撃は、21世紀随一の大事件だと言われている。突如として街の空に現れた穴(のようなもの)から現れた気持ち悪い地球外生命体によって街は破壊の限りを尽くされ、大勢の人々が居場所も命も失くした。俺の家族も例外じゃなくて、たまたま1人で郊外の家で留守番していた俺自身だけが何も無かった--父さんの会社も、叔母さんの家も粉々にされたからだ。もちろん2人が無事な筈はなかった。

 ただ、いつまでも悲劇の主人公でも居られない。俺にはまだ家と父さん達の遺産があったし、ニューヨークの外に住んでる親戚も頼れた。きっとそれすらない、希望も何も失った人もいる筈で、俺ばっかりいつまでも引きずっていられないと思ったんだ。

 それでも、街も人々もまだ前を向けたのはきっとヒーロー達がいたからだと思う。

 

 “アベンジャーズ”

 

 襲撃の時に姿を見せた超人集団。

 かの有名な億万長者のトニー・スターク(アイアンマン)や歴史の教科書にも載ってる国民的英雄のキャプテン・アメリカ、それに加えて知らないヒーロー達が団結して宇宙人の奴らと戦って追い返したらしい。戦闘と避難誘導の映像は延々とニュースに流れていたし、実際に目撃した人達の話も聞いている。

 けれど、その有名な2人以外は何故か全然知られていない。あれだけ目立っていた筈なのに、顔も見た目の概要も、人数すら公にされていなかった。

 

 「それにしても、他のヒーロー達の事も知りたくない!?」

 「かっけえのにな、何で名乗り出ねえんだろ」

 

 「それって、ソーとかハルクのこと?」

 

 「「……え?」」

 

 

 

 俺は、何故か彼らのことを知っていた。

 

 

 映画で見たんだ。

 

 

 その後起こる悲劇も、全部。

 

 

 

 

 

 

 

 …どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Try to Save Yourself Like You Always Do

 

 

 

 第一章 いつか夢見た世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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