Try to Save Yourself Like You Always Do 作:こぬ
俺が覚えている年号は西暦2025年。今は2012年。覚えている国籍は日本。今はアメリカ。
そして、(おそらく前世で見たであろう)映画のキャラ達が実在して、映画の中の出来事も起こっている。
『…普通に考えて意味分からん。』
そう、到底信じられないのだ。
そもそも転生なんていう小説の中の世界のような現象も、輪廻転生なんかを信じていない俺にとっては理解できないし存在し得ないことだっと思っていた。でも、今実際こうして俺がいる。まぁ魔術だとか未知の力を持つ宝石だとかが存在しているはずの世界だ、何があるか分からないのも納得かもしれない。
それに加えて、6年後に世界の生物の半分が消滅する?しかもそのまた5年後には戻ってくる?いや、本当に何なんだよ。平和に生きるなんていう選択肢はこの世界には無いのだろうか。いくら神やら超人やらが解決してくれるとは言っても、俺たち一般人には厳しすぎる世界では。
『なんか俺にも超能力があればなー、』
転生特典?とやらでなんか物凄い能力でもないかと色々試したものの、今の所何一つ発見できていない。むしろこの世界では超能力は身体イジったりしないと発現しないからむしろ無くてよかったか。
だとしたらどうやってあの紫のバケモン(名前は覚えていない。前世の俺は相当アイツに興味がなかったのだろう)による大量虐殺を止められるか、何も目処が立たない。正直言って神が抵抗しても無理だったんだ、俺みたいな一般人が何をしようと影響はないかもしれないが、2分の1の確率に賭けてあと6年間を過ごすのは流石に勇気が足りない。
「とりあえず、あのヒーローの人達と関わるべきかどうかだよな…」
こっちから接触したとしてもただの高校生に構ってくれる訳が無いのは分かりきっているし、そもそもあの人達の世界に入りたいか?と聞かれると答えづらい。誰だって人工知能に殺されかけたり100歳越えのスーパーソルジャーとご対面したくないだろ?そういうことだ。普通に怖い。けど俺がある程度これから起こる事を把握していることに変わりはないんだ。どうしよ。
* * *
「……」
『……』
気まずい。向こう見ないようにしとこ。
「で?あのあとどうなったのよ」
『……』
「無視キツイって」
『こんな状況で会話する勇気ある方がキツいって』
「気にしすぎ」
『嘘だろ』
信じられない、といった具合に小声でひそひそと抵抗する。いつもこいつらとご飯食べてる時に何か起きるんだよな、何でだ。
「ならサインでも貰ってきたら?」
『ふざけてる場合じゃないと思うんだけど』
「おいおい落ち着けよレイ、あの人達だって人間だ。美味いシュワルマくらい食べたくなる」
「その通り。パパラッチみたいになりたくなかったら無視すればいいじゃない」
『そういう問題じゃない』
こっそり横目に隣のテーブルを盗み見ると、やっぱりそこには例の人たちがどっしり座っている。頬杖をついてため息をしているキャプテン・アメリカ、食べかけのブリトー片手に虚空を見つめるアイアンマン、エトセトラ。勝利したはずなのに何だそのどんよりした空気は。一言も喋らないし、何なら仲良い筈のスパイカップルも死んだ魚の目してるじゃないか。
『…なんであんなに空気死んでる訳?』
勘のいい人はもう分かるかもしれないが、ポストクレジットのあのシーンに俺は遭遇していた。理由とか最早俺には聞かないでほしい。ニューヨークが壊滅的な状態に陥った後、復興作業が進む中アベンジャーズの面々はトニー・スタークの提案でシュワルマ(中東あたりの肉料理。マジで美味い)を全員で食べに行ったらしい。記憶の中では確か役者の人が提案したシーンだったと思う。
それに比べて俺はというと、無事12年生に進級できたのを祝うために39thストリートのケバブ屋で爆食するために来ていた。
「…それしても、あの人誰?かっこいい人」
「黒いスーツの男?俺も分からん」
聞こえてるぞ。無視しようって言ったのお前らだろ。
向かいの席のニコラスとアシュリーを見てみると、明らかに向こうの様子をちらちら様子を伺いながら何やら小さな声で囁き合っていた。目線の先には明るめの茶髪の屈強な男。真っ黒なタクティカルスーツに身を包んでおり、明らかに“強そう”な雰囲気がムキムキの腕から見てとれる。
まあ確かにカッコいい、認めよう。だがあの人妻子持ちだし、数年後に闇堕ちするぞ確か。
『…何、ホークアイのこと?』
「えッ何その名前かっこいい!」
「『ちょ、うるさい!』」
やっべ、急にアシュリーが立ち上がるものだから一気に注目を浴びてしまった。こいつらはいつになったら静かに食事ができるんだよ。俺の気持ちも考えてくれ、目立つのは嫌いなんだ。
「落ち着け、人類最強の人達に異常者だと思われてるぞ」
「そんなことない」
『いや、あると思うんだけど』
実際アシュリーが音を立てて席から立ち上がった瞬間、きっと無意識のうちに反応してるっぽい様子もあった。戦闘慣れってやつ?かっけえ、誰かが唐突に動くとすぐ警戒体勢になるんだろうな。かっけえ。
一般人だと分かったらすぐ元の様子に戻してくれたけど、やっぱり住む世界が違うな。
「…で、レイ?あそこにいる超絶イケメンお兄さんを知ってるって?」
『知ってるなんて一言も言ってないけど』
「名前は知ってただろ」
「そうよ、何で?あと他に何かあったら教えて。ほんとに。メロすぎるあの人」
「アシュリー、お前アベンジャーズの一員にメロいとか言ったらぶっ殺されるぞ」
『たしかに』
「うるさい!とにかく、何でもいいから知ってることを全部吐きなさい」
『えー、……あんま俺も知らないんだけど』
鬱陶しいファンガに捕まった、なんて思いながら大人しくホークアイについて教えることにする。アシュリーは一度決めるとウザいんだ、きっと俺が全部話すまで1日10回はこれから聞いてくる。
『…なんか、弓矢?を使ってる人らしいよ、この前の時彼を見た人たち曰く。スパイとかそういう系の雰囲気っぽいし。あとあの人確か妻子持ちだから諦め__』
ガタッ
「「『え?』」」
「バートン、どうした」
「彼はなんで知っている?」
「何を?」
「フューリーが漏らす筈ないわ、なら何故?」
「話についていけてないのは私だけか?」
やばいやばいやばい、なんかいきなりホークアイが立ち上がってこっちを睨んできてるんですけど。俺、無害な一般人だか?助けてくれ??
「…なぁ、そこの君」
やめて近寄ってこないで。第二次世界大戦の超人兵士とかわざわざ俺ら一般クソガキに構わなくていいから。しかもそんな疑いの目を向けないで、本当に何も知らないんだ助けてくれ俺が悪かった何もしてないだろ。
『俺っすか…?』
「待ってリアルキャプテンかっこよすぎる」
「アシュリーお前は黙ってろ一旦」
ありがとうニコラス。
「バートンのことを知っているのか?」
「え?ははっ、まさか。俺みたいなただのガキがどうやった機密エージェントの事とか知るんすか」
「それはS.H.I.E.L.D.のことか?」
やっべ墓穴掘った。
真剣な眼差しでゆっくりとこちらに近寄ってくるキャプテン・アメリカに、S.H.I.E.L.D.の名前を聞いたホークアイとアイアンマンも意識をこっちに向けてゆっくりと立ち上がる。視線は真っ直ぐこちらを向いていて、明らかに警戒している様子が伺えた。まあそりゃそうか、顔と所属がバレてるとか向こうからしたら敵でしかないもんな(開き直り)。
『アッいや、その、…なんか秘密組織の暗殺者とか似合いそうだなーって思っただけです、本当に。殺さないでください』
「レイマジでこの人の事知ってたのかよ!すげえ!」
『マジで違うから一旦黙って』
「…S.H.I.E.L.D.を知っているのか。」
『知らないです』
「そうとは思えないな」
やっぱりホークアイも会話に入ってきちゃったよ。成人男性2人がのっぽ男子高校生に圧かけてる絵面とか良くないぞ?普通に怖いんだが?
「…J.A.R.V.I.S.、この青年の情報をできるだけ集めておいてくれ」
本人の目の前でプライバシー侵害するのやめないか。
「…俺ら場違いっぽいんでいなくなりますね」
「レイ!あとで絶対話聞かせてよね!」
『はっ!?ちょ、お前ら待てっ』
引き止めるものの、2人は全走力でその場からいなくなっていた。
いつの間にか店員もバックヤードに引っ込んでいたらしく(こんな空気の読み方はいらない)店内には本当に俺とアベンジャーズの面々となった。といっても、彼らは筋肉と体格がとてつもないから俺は逃げ場をなくした小鹿みたいな感じだろう。
こうして、俺は無慈悲にも扉が閉まる音と共に見事にアベンジャーズに取り囲まれたのであった。