名前負けドラゴンは異世界にその名を轟かせたいのかわからない   作:なまどらっ!

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一 名前負けドラゴン、転生する

 昔から、米山リュウタという名前に、私は名前負けしていると思っていた。

 身体はひょろくて、性格は気弱。

 目立つことを良しとせず、長いものに巻かれてしまう人間で、どうしてこんなにも自分はダメなのだろうと落ち込んだことは数しれず。

 

 自分の身の丈にあったブラック企業に就職し、毎日を忙しく過ごす日々。

 生活に実りなんてものはそう多くはなく、ただただ疲弊していく毎日だ。

 きっと、自分の人生に価値なんてものはなかったのだろう。

 竜のように強くなれ、と祈りを込めて名付けてくれた両親に申し訳ないと思う時は多いものの。

 その両親も、父は数年前に病気で、母は幼い頃に事故で亡くなった。

 

 だからだろう、私は自分の人生に見切りをつけていたのだ。

 もうこれ以上、人生に価値を見出すことはできない。

 そんな時、眼の前で事故に会いかけている子どもを見つけた時。

 私は自然と、その体を動かしていた。

 こんな価値のない私でも、最後に少しくらい他人の命の価値になりたい、と。

 

 そんな押し付けがましい理由で子どもを助け、私は車に轢かれて死んだ。

 ――はずだった。

 エゴにまみれた理由で、子どもを助けたのがいけなかったのだろうか。

 

 

 気がつけば、私は異世界に転生していた、竜として。

 

 

 一応、オタクとしてそういった創作を嗜んでいた身。

 自分に何が起こったか、くらいはすぐに理解できる。

 転生したのは、全長数十メートルはあるかという、巨大な竜だった。

 なんということだろう。

 私の名前はリュウタ。

 しかし、転生先は明らかに人知を超えた大きさの竜。

 明らかに、名前のほうが竜の姿に合っていない。

 もう少しふさわしい名前があるだろうが、両親からいただいたこの名前に、人並みの執着がある私はふさわしい名前を考えることはできないだろう。

 だから今度は、私のリュウタという名前が、体に名前負けしてしまったのだ――

 

 

 ◇

 

 

 ――冒険者になってから一ヶ月。

 新人としての等級である第七等級から、一応それなりに使えるやつとして認められる第六等級に等級が上がっても、私のやることは変わらない。

 森に入ると、あらかじめ見つけておいた薬草の群生地を巡って、それを収穫する。

 収穫する量を抑えておけば、繁殖力の高い薬草はすぐに新しく実り、人々に恵みを与えてくれるだろう。

 

「よっこいしょ」

 

 ()()()()()姿()を思えば、あまりにも場違いなおっさんくさい言葉と共に腰をかがめ、実っている薬草を引き抜く。

 途中、力の加減を間違えないよう気を付けて。

 引き抜かれた薬草は、腰の布袋へと入れられる。

 明らかに薬草を少し入れたらパンパンになってしまいそうなそれは、異世界特有の技術で仲が拡張されていて。

 いわゆるアイテムボックスに近い効果を持っていた。

 荷物がかさばらないというのは、現代と比べても遜色ない技術である。

 

 そこで私は、これまで歩いてきた自分の道のりを思い出し、収穫した薬草の量を簡単に数える。

 そして、必要数が溜まったことを認めると、()()()()()()とその場をはなれようとして――

 

「……魔物?」

 

 ふと、遠くから迫ってくる気配に気づく。

 ドタドタと足音を立てて、私の半分もない背丈のゴブリンが飛び出してきた。

 棍棒を構え、ここにいる”誰か”を襲おうと一直線に走ってきたのだろう。

 しかし私の姿を視認した途端、驚愕とともに完全に停止してしまった。

 まぁ、無理もないことだろう。

 そのまま、怯えた様子を見せながら、私の前でゴブリンは動かなくなった。

 

「……やりにくいですね」

 

 前世の頃から変わらずヘタレだった私は、こんな姿を見せられると思わず手が鈍ってしまう。

 しかしすぐに、このゴブリンを逃げ出した時の被害を想像し、逃さないほうが()()だと考え直した。

 そして動かないゴブリンに手を伸ばし――

 

 

 あまり力を込めずに触ったにもかかわらず、ゴブリンの首が消し飛んだ。

 

 

 ああ。

 やってしまった。

 また力加減を間違えたのだ。

 いや、結果としてはこれで問題はないのだが。

 どうにも”攻撃するつもり”で動かした手は、薬草を引き抜くときのような繊細な力加減を忘れてしまう。

 それもこれも、この鱗に覆われた大きな手が、強大すぎるのが行けないのだろうか。

 

 どちらにしても、そんな惨状を招いたにもかかわらず、全く心を動じさせていない自分に思わず感心してしまう。

 前世であれば、顔を真っ青にしていただろうに。

 今はてんで気にもならないのだ。

 まぁ、致し方ないことだろう。

 今、私のこの体は――人の形をした竜、そのものなのだから。

 

 

 ◇

 

 

「で、では、こちらが薬草の買取額と、討伐したゴブリンの討伐報酬となります」

「ありがとうございます」

 

 その後、私が拠点にしている街、ドラクロワのギルドにて。

 帰ってきた私は、今日の精算を終えようとしていた。

 そこそこ以上の買取額と、お小遣い程度の討伐報酬。

 冒険者的には、これが逆のほうがしっくりくるのだろうか。

 おっかなびっくりといった様子で、私に応対するギルド職員の方に頭を下げる。

 一ヶ月もあれば、慣れた職員であれば普通に対応してくれるようになったのだが。

 慣れていない職員は、このように私に萎縮してしまう。

 

「ほ、他にご要件はございますでしょうか」

「いえ、問題ありません。ご迷惑をおかけします」

「は、はひっ!」

 

 できるだけ努めて、柔和な笑みを浮かべてお礼と謝罪を述べようとして、職員の方の笑みを引きつらせてしまう。

 相変わらずこの()()()は、対人交渉には向いていない。

 まぁ、向いている対人交渉もなくはないのだが。

 そういう場になると、今度は私の内面のほうが向かなく成ってしまう。

 たとえば――

 

「――よう、竜人サン」

 

 私がギルドの受付を離れ、ギルドから立ち去ろうとしていると、不意に背中を叩かれる。

 今の私は、全長二メートルを超える巨大な蜥蜴顔の”竜人”だ。

 そんな私の背中を叩いて声を掛けるというのは、なんとも剛毅な方だ。

 

「こんばんわ、グルブさん。そちらももう冒険は終えたところですか」

「おー、まぁそんなとこ。にしても相変わらず、似合わねぇ態度だねぇ竜人サン。俺ぁもう少しどっしりと構えてもいいと思うぜ」

「はは、性分なものでして、申し訳ありません」

 

 グルブというのは、私が冒険者になった頃にお世話になった先輩冒険者だ。

 三等級の実力者である。

 この街には二等級以上の冒険者はほとんどいないので、相対的にも。

 見た目は軽薄な雰囲気だが、その分面倒見が良く、性格が似ている軽めの冒険者からは慕われている。

 前世の頃は、眼の前にすると萎縮してしまうようなタイプの人だが、こうして話をすることで彼が慕われている理由の何となく分かる。

 彼の言っていることは最もだ。

 口ではどうしても情けないことを言ってしまうが、私自身グルブさんを見習いたいとも思っていた。

 

「あんまり謝ってばっかじゃ行けねぇぜ、。俺から言わせてもらえれば、冒険者はなめられたら終わりだ」

「助言痛み入ります。ですが、私のような巨体に喧嘩をうる冒険者はそういませんよ」

「どうかねぇ、竜人サンは謙虚すぎんだよ、そうやって遠慮してたら、いずれどっかのバカが竜人サンを標的にするかもしれない」

 

 流石に、そんなことはないと思うのだが。

 実際、私の体は非常に大きい。

 身長が二メートルを超えているのはもちろん、横幅すら普通の人の倍ちかくあるのだ。

 眼の前に立つだけで、人を怯えさせるには十分な威圧感。

 それが、安物の新人向けを竜人が切れるように改造したものとはいえ、鎧を身にまとって眼の前に立っていたら。

 普通の人間なら、近寄らないだろう。

 

「もしかしたら、その及び腰すぎる態度が、竜人って肩書に負けてるってんで、”名前負けドラゴン”とか、どこかで言われちまうかもしれねぇな」

「ああ、その呼び名はいいですね。私を端的に表している。今度、笑い話程度に使わせていただいても?」

「ハハ、相変わらず変わってるね、竜人さん」

 

 それを言ったら、そんな竜人の私にためらうことなく声を掛けるグルブさんもだいぶ変わっていると思うのだが。

 わざわざそれを口にする必要はないだろう。

 

「とにかく、謙虚すぎちゃいけないよ竜人サン。もう少し夢はでっかくもった方が良い。竜なんだから――それこそ、聖竜サマみたいな竜を目指してみる、とか」

「そう、ですね……」

 

 致し方ないことだが、返事が生返事になる。

 理由は二つ、一つはグルブさんの言葉に少し思うところがあるから。

 もう一つは――聖竜。

 ここ数年、ドラクロワの街を始め、この大陸の各所で話題になっている竜の通称だ。

 

「聖竜サマってのはすごいんだぜ、大陸各地で起きている悲劇の前に駆けつけては、それを解決して去っていく。こないだなんかは、とある国のお姫様が賊にさらわれたところを助けたとか」

「ええ、聞いていますよ」

「なんでもその賊って、実は別の国のスパイだったらしいんだぜ? そのせいで、二つの国は緊張状態だろう。でもすでに聖竜サマが自体に関わってる」

「……もし開戦すれば、今度は聖竜がその戦争を止めに来るだろうと判断して、結果として二つの国は平和裏にことを収めなくてはいけなくなった、と」

「そういうこった。聖竜サマ、様々ってところだな」

 

 いや、その、なんというか。

 その聖竜がお姫様を助けたのは、”予知夢”でそれを見たからというだけで。

 はっきり言って、その後の緊張状態までは想定していなかったのだが。

 というか、今グルブさんから話を聞いて、その事実を知った所である。

 

「んじゃ、聖竜サマみたいに、でっかいことをしてその名を轟かせるんだぜ、竜人サン!」

「え、ええ……ありがとうございます」

 

 結局、グルブさんはそうして私の元をさっていった。

 あとに残された私は、なんとなく苦い笑みを浮かべてしまう

 なぜなら――

 

 

 ――その聖竜というのは、私のことなのだから。

 

 

 この世界に転生した当初、私は巨大な竜だった。

 おかげで人里には降りれず、情報も集めることが叶わない始末。

 困っていた所、不意に夢の中で人が魔物に襲われている光景を見たのだ。

 そして、誘われるがままにその夢の場所まで向かうと、本当に人が魔物に襲われていた。

 見知らぬ場所で起きている悲劇にまで、気を配る甲斐性はないものの。

 眼の前の悲劇を、見過ごせない程度には私はお人好し……ナノだと思う。

 見捨てることのできなかった私は、気づけば魔物を倒していた。

 結果として起きた蹂躙劇は、下手したらトラウマものの一件だったが、私の心は動じない。

 どうやら、竜として生まれ変わったときに、殺し合いに対する耐性は自動でついてしまったようだ。

 そして、そんなことを繰り返していくうちに、私は聖竜として知られるようになった。

 

 はっきり言って、どうしたものかと悩んでいる。

 これからも聖竜として活動すれば、何れその正体がバレる時もくるだろうか。

 可といって、見てしまった予知夢を見過ごすわけには行かない。

 なんとか竜人に変身する能力を手に入れて人里に降りてきたことも、今でも少し悩むことがある。

 目立つことを好まない性格の私が、どうあっても目立つ竜人になってしまったのだ。

 竜人が普通に存在する地域で活動するか、珍しい地域で活動するかにも悩んだ。

 私は竜人になったものの竜人と言う種族に関する常識がない。

 なので竜人の珍しい土地であれば、他の竜人を知らずに育ったと言い訳できるため、悪目立ちしてでも珍しい土地で過ごすことを選んだが。

 それすら失敗ではなかったかと、考えてしまう。

 本当に、私は小心者で悩みの多い人間だ。

 

 ただ、だからこそ、という思いもある。

 異世界に転生し、竜となった。

 これは名前負けドラゴンだった私が、本当の竜になる機会を得た、とも言えるのだ。

 グルブさんのように、強くどっしりと構えて、胸を張って生きていけたらどれだけいいだろう。

 今はまだ、悩みも多く名前負けも良いところな私だけれど。

 いつか、その名に恥じぬ竜になりたい。

 そんな思いも、心の何処かには、確かにあるのだった。




名前負けドラゴンが異世界で少しずつ頑張るお話。
人型には変身しますが純人間になることはありません。
よろしくお願いします。
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