名前負けドラゴンは異世界にその名を轟かせたいのかわからない   作:なまどらっ!

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二 名前負けドラゴン、一歩ずつ進む

 私は一応、前世ではオタク系の漫画やアニメを好むタイプだった。

 まぁそれも、他にやることがなかっただけの、消極的な趣味なのだが。

 それでも、そういった素養があったからこそ、いきなりドラゴンに転生してもそこまで慌てることはなかったのだ。

 

 とはいえ、ドラゴンとしての生活は大変だった。

 なにせ、下手に動いたら周囲を簡単に破壊してしまう。

 怪獣映画に出てくる怪獣並の巨体で、生活しなくてはいけないのだ。

 そのうえ人とはまったく構造の違う体は、歩くことすら難儀する始末。

 なんとかそれでも、少しずつ体の動かし方を学び、空を飛べるようになった。

 そうして飛んだ空は、私の人生の中で最も美しい光景だったかもしれない。

 

 動けるようになると、今度は寝ているときに予知夢を視るようになる。

 そうして見た予知夢で起きる事件を解決しているうちに、私は聖竜と呼ばれるようになった。

 名前負けドラゴンを自認する私としては、あまりに過分な評価だ。

 とはいえ予知夢を無視できるほど、私はこころが強くない。

 結局見てしまったら、それを放置することはできず、聖竜の評判はますます高くなるばかり。

 

 ただ、そうこうしているうちに私は、”マナ”と呼ばれるこの世界の特殊な力の使い方を身に着けた。

 幸いにも、それによって私は人に変身できるようになったのだ。

 変身前の姿に最も近い種族に変身してしまうため、普通の人間に変身することはできなかったが。

 それでも、山奥でひっそりと暮らしていた頃と比べたら、大きな進捗である。

 

 そうして私は人里に降りて、冒険者となることを選んだ。

 無論、冒険者となった後も大変である。

 背が大きすぎて泊まれる宿は限られるし、周囲からは巨体ゆえに恐れられるし。

 ただ、苦労はあっても街から排斥されるほどではないのは、ありがたい限りだ。

 グルブさんのように、私のような竜人を気にかけてくれる者もいる。

 

 そんな私の、現在の大目標は「安定した生活を手に入れること」。

 なんともふわふわとした目的だが、やるべきことは明確だ。

 まずは冒険者の等級を、討伐依頼を受けれる第五等級まで上げて、稼げるようになること。

 討伐依頼さえ受けられれば、この巨体は存分に力を発揮してくれることだろう。

 とはいえ、悩みも多い。

 どれだけ肉体が立派になっても、精神は名前負けドラゴンのままなのだ。

 戦闘に際しては、問題ない。

 竜としての闘争本能が、私を戦士として最適な状態にしてくれる。

 しかし、対人関係はそうもいかない。

 グルブさんにはあれだけ親切にしてもらっているのに、未だに他人行儀だ。

 仕事の上でも、業務上のやり取りであれば問題ない。

 仮にもそれなりの期間社会人をしていたから、表面上のやり取りであればスムーズにこなすこともできる。

 しかしより突っ込んだやりとりとなると――前世のどこか他人と壁を作りがちな社会に慣れた私には、なかなか難しい部分も多かった。

 

 

 ◇

 

 

 朝、ギルドで依頼を請け負って、早速現場へと向かう。

 外はまだ日が昇ったばかりということもあって、人通りが少ない。

 私みたいな巨体が、人通りの多い時間帯を歩くのは迷惑だろう、というのもあって私は普段から朝が早い。

 まぁ、他にも色々と理由はあるのだが。

 

「あ、竜人サンだ。おはようございまーす!」

「おはようございます」

 

 街を歩いていると、子どもたちから声をかけられる事が多い。

 聖竜の活動によって、ここ最近子どもたちにはもっぱらドラゴンブームが起きているようなのだ。

 おかげで、私を恐れることなく声をかけてくれる。

 大人たちは私を怖がる人も多いけれど、子どもたちが怖がっていないため、あまり私を邪険に扱うことはない。

 こういった、子どもたちとの挨拶は自分を取り繕わなくては行けないという気持ちが強く出て、問題なく行うことができる。

 これは、前世の頃からそうだった。

 

「おはようございます、親方」

「おーう、今日も早いねぇ!」

 

 さて、今日の仕事は工事現場の手伝いである。

 なんでも、古くなった教会を修繕しているらしく、街にはこういった工事の手伝いを冒険者に依頼するものが多い。

 冒険者は特性上力自慢が多いから、雑用を任せるには最適なのだろう。

 そして私は、見ての通り強靭な竜の体をしている。

 なんというか、職人からの受けは非常によかった。

 

「いやしっかし、本当に力持ちだねぇ、竜人ってのは」

「ええ、はい。次はどちらにこれを運べばいいでしょう」

「全く。新人とは思えないくらいしっかりしてるね。けど、そんな急がなくてもいいんだぜ。どうせ坊主どもはまだ来てねぇんだから」

「はぁ……」

 

 早めに手伝いを始めていると、そのうち他の冒険者もやってくる。

 やってくるメンバーはその日によって変わるが、基本的には若くエネルギッシュな新人が多い。

 その分、職人たちからは「坊主ども」なんて呼ばれているが、若い彼らを職人たちが決して嫌っているわけではない。

 なんというか、フレッシュさを感じているのだろう。

 

「よーしついた……って、竜人!?」

「うわ、マジか。あの竜人と同じ現場かよ」

「ちょっと、失礼でしょ!? というか、それで睨まれたらどーすんのよ!」

 

 不意に、私のことが呼ばれて思わずドキっとしてしまう。

 私が視線を集めるのは自然なことで、彼らの言動も仕方のないことだ。

 それでも、やはり私は目立つということが苦手なようだ。

 

「というか、何あれ……丸太を一度に……三本くらい抱えてない?」

「うお……そりゃ見た目からして力あるんだろうけど……やべぇな」

 

 同じように、純粋に褒められることも苦手だ。

 総じて言えることは、彼らは素直なのだ。

 すごいと思うことは素直にすごいと口にするし、変だとおもうことは素直に変だと口にする。

 だからこそ、こうして素直な称賛が聞こえてくることもあるのだが、私はそれを正しく受け取ることができない。

 自己評価の低い人間が、評価されてもそれを素直に信じられないというのが一つ。

 もう一つは、そもそもこの体が転生したことで手に入れたものだから、いまいち実感がわかないのである。

 

 ――それから、そんな新人冒険者と共に仕事を始めた。

 まぁ、素人の冒険者に求められている仕事は、とにかく力仕事だ。

 中にはセンスを認められて、大工の方にスカウトされる新人もいるというが、それは本当に稀なこと。

 そもそも、冒険者になりたくて冒険者をやってる人間を、引き抜くのもそれはそれで問題だ。

 

「いやぁほんと、リュウタさんは力もあるし、真面目だし、職人になってもやっていけるんじゃないかい?」

「ははは……」

 

 なお、なんと私もスカウトされた。

 流石に冗談交じりではあるものの、だからこそ私は返答に困って曖昧な笑いしかでてこなかった。

 なんとか、理由を引きずり出して、口にする。

 

「とはいえ、やはりどうしても手先が器用ではないので難しいかと……」

「まぁそうさなぁ、そればっかりはなぁ……いやほんと、リュウタさんはぜってぇいい職人になると思うんだがねぇ」

「そう、ですかねぇ……」

 

 この体に生まれ変わってから、他人から評価されることが増えたように思う。

 そりゃあ、立派な体なのだから当然だが、心は全くそれに追いついていない。

 追いつきたい、とは思っている。

 ただ、具体的にどうすればいいのか、というのはいまいちはっきりしないのだ。

 そうこうしているうちに、仕事が終わる。

 今日の仕事は昼までなので、これからの予定については色々考える必要がある。

 

「お疲れさまでした」

「おう、お疲れさん!」

 

 職人さんたちに別れを告げて、昼の予定をどうするべきか考える。

 まずするべきことは昼食だ。

 適当な飲食店に入って、済ませてしまうのがいいだろう。

 この街はあまり竜人が暮らすことを想定していないので、扉をくぐるのに難儀するものの。

 客として金を払えば、邪険にされることはそうそうない。

 

 ――こうやって、労働をして対価を得て、それで生活を成り立たせる。

 そんな社会的な活動を行っていると、自分がその社会の一員に慣れた気がしてくる。

 しかし結局、今の私は肉体的にも精神的にもこの街の部外者だ。

 

 大目標は生活の安定。

 そのためには、冒険者としての等級を上げることが一番の近道。

 だが、そうするためには日々の生活を一歩ずつ進めていかなければならない。

 他者との交流も、竜人としての生活に慣れることもその一つ。

 先は長いが、だからこそ一歩ずつというのが大事なのだ。

 そう思いながら、私はドラクロワの道を歩くのだった。

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