序章 第零話 出梅
朝、目覚めて家を出る。
学校に行って時間が過ぎる。
家に帰ってきたら、いつの間にか午後九時で、
あれ、何がしたかったんだっけ、なんて思う。
家庭環境は悪いわけでも、もう学校でいじめられているわけでもないのに、どうしてか生き辛いなんて感じてしまう。
朝、登校途中でよく見かけるあの赤い車を見るたびに、卒業したら変わってしまうはずの人生は、一生こんなふうに何も変わらないんじゃないかという気さえしてくる。
昔、夕焼けを見るのが好きだった。
昼間にはあんなにも青かったのに、もうそんな面影なんてないくらい空は燃えている、そんな景色が好き。
西方浄土ってほんとにあるんじゃないかって思えるくらい美しくて、手が届かないからこそ恋焦がれてしまう。
帰り道にそっと見る時も、月曜日を恨んでる時も、いつも変わらないかの様にそこに慥かにあって、でも同じ夕焼けなんてもうたぶん二度となくて。
もう戻らないからこそ琴線に響くのかもしれないと思った。
桜が散るのも、朝露が落ちてしまうのも、儚くて美しいだなんて感じてしまう。
人が死ぬのは悲しいと思うけれど、桜が散るのも哀しいけれど、陽が沈んででいくのは美しいなんて、不思議なものだと思った。
私がまだ小さくてかわいかった頃、こんな時期に雹が降ったことがあった。公園で遊んでいたんだったか、記憶は確かではないが。
でも、雹がひとしきり降り終わったあとの夕日だけは、まだほんの少し覚えている。思えば夕日を意識したのはあの時が最初だった気がする。
日常から抜け出せないくせに、何か非日常的なものを求めている。
ここからどこへも行けないのに、どこか遠い海のことを考えている。
でも、どこか行ってしまったらきっと孤独になって、寂しくなってしまうんだろうな。
失ってからその価値に気づくというけれど、失う前に価値を知ってしまったら、何もできなくなってしまう気がする。
知らないことは幸せだけれど、欲しいものは慥かにあって、まるで白昼夢の中を歩いているみたい。
何か一つ思い出すたびに、何か思い出を失っていく気がする、脳みそのストレージは決まっている。
そてに私たち人間の致死率は100%だ。そして、明日は、今日より死ぬ確率が高い。だからこそそこにない「何か」に縋ってしまう。たとえそこにもうないとしても、それが夏に凍った記憶だとして
どこからか風鈴の音が聞こえてきて、否でも応でもこの季節を感じさせる。
私の影も短くなって、ああ、夏が来る。
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