魁霽紀   作:倖往はゆ

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序章 第玖話  赤城

赤城(あかぎ)

 

 深い夢を見た。それはまるで深海にもまれるような、はたまた流氷の船に命を預けるような、そして空に落ちていくかのような、そんな風景。淡い色だけが、溶けるように確かに描いた景色。

 水たまりに映った月を(すく)うような、らくだが針の穴を通るような、そんな夢。

 

 覚めた時、ずっとあそこにいたかったと想うのは夢の中が楽しいからじゃなくて、現実の方がもっと辛いから。

 じゃあ、辛いってなんだろう。嫌なことがあるってこと?嫌いな人がいるってこと?望んだ言葉の一つもかけてもらえなかったこと?

 でもそれは結局、自分の思い通りにならないってことに収束するのではないかと思う。

 こんな考えをもっていると、まるで私がわがままみたいだけれど、言い換えれば望んだものが何も手に入らなかったということ。

 いろいろ小さなことが積もって、結局身動きが取れなくなった。

 

 いちいち誰かに相談もできないし、そんなことをしたら面倒くさがられるだけだろう。

 そうして結局大事なことも相談できなくなってしまった。

 

 あれは去年、合唱コンクールの少し前だった気がする。私はもともと音楽が苦手だったけれど、ペーパーテストならなんとか頑張れた。だから1学期は実技がダメでも成績は5段階評価でも3くらい貰えていた。けれど2学期は合唱コンクールの練習で授業があまりできないからペーパーテストがないという。これは私にとってはかなりの痛手で、どうにかしないと、と思っていた。

 そこで思いついたのがパートリーダーというものをやってみるということだった。私はピアノが弾けないし、指揮だってできない。けれど練習の時に機材の準備をして、先生からの伝言を伝えるくらいしか仕事がないと聞いたパートリーダーになったらどうだろうか。「主体的な態度」のところに加算され、延いては3を貰えるのではないのだろうか。そう思った私は、早速パートリーダーに立候補して当選までこぎつけた。

 でも、そこからが問題だった。機材を用意しても誰も歌ってくれないし、後ろの方で楽しそうに喋っている。それだけならまだしも、リハーサルの時にぐだぐだな歌を歌い、後先生に呼ばれて文句を言われたのはパートリーダーだった私だけだった。担任が注意してもどうにもならず、もうどうしようもないように思えた。

 そんなんだから本番でもビリの成績だったし、先生も半ば悟ったような顔だった。

 

 

 ところで昨日、れのんちゃんからMVが届いた。ほぼ完成に近いらしく、曲ともあっていた。でも、ここに来て自分が書いた歌詞を直したいと思えてきた。MVまで作ってもらったのに申し訳ないが、でもどうしようもなく直したくなってきた。でも今からいいのだろうか。

 

 

 ああ、そうやって私は辞める理由ばかり探している、それだけしか能がない。辞めることばかりで結局何ができたのだろうか、自分で選択したくせに自分が一番苦しんでいる、気づいているのにやめられない、それこそ辞めてしまえたら楽なのに。

 

 悩んでいてもしょうがないから、れのんちゃんにお願いしてみることにした。

 

『ほんとに申し訳ないんだけれど、歌詞、修正したいんだけどいいかな?ごめん。』

 

 この文章だけ見ると、私のわがままにしか見えない。でも、いろいろ諦めてきたからこそ、今回だけは、今だけは妥協したくない。そんな言い訳。

 

『え、めちゃ感謝なんだけど てか全然いいよ〜!また書き直したら送ってくれる?』

『ありがとうございます』

 

 れのんちゃんにいいって言われてすごくほっとした。経験上、断られると思っていたから。だからすごく嬉しかった。

 すぐに机に向かって、少しずつ文字を消したり足したりしていった。最終的にできたのは、最初とは似てもつかないような、でも少しだけその面影が残る、そんな歌詞。

 悩んで消して書いた、これがその答え。

 

 

 

(ひかり)を放つ」

 

 

この夏の感想文 どこから書こうか

 

「ただ青い空も、あなたとの出発点になったんだ。」

「夢のような現実を、遠い海を望んだよ。」

「でも、天井にも届かない手じゃ、何も掴めない。」

「だからあなたと走ってみた、船はないけど遠くに行った。」

「その白い砂浜を歩いてみた、二人なら進める気がした。」

「爆ぜるだけの日々を、駆け出すための歌を手にしたんだ。」

それがぼくらの夏休み、残機ゼロと終わる時、無敵になれるんだ

未だだって思っていた、思っていたかった

 

「終わるなら全て焼いてしまおうか」

「そんな言葉が転び出る前に、動けなくなる前に」

「弱い私は風を浴びて、三叉路(さんさろ)に迷うだけ」

「雨の朝も暗い夜も、どうせ日が昇ってしまう。」

「無限に思える今を線香花火と例えてみた。」

「二次元に息をしてぼくら四季を巡る」

それだけの話、したかったね

また逢えるなんて嘘でも言った、そう(ねが)った。

 

落ち葉を横目に雪に吸い込まれていく、そんな道を歩いていく

うるさい蝉ももういない

遠い遠い朝焼けに照らされた空気で肺を満たす

 

朝顔の向こうの快晴も奪えない儚い灯り

夕日の影は静かで、それこそが証左だと思えた

 

何度も夏を過ごして気づいた、n回目の答え

『ただ「人」に「成」っていくぼくらは』

白いイヤフォンから流れる音に救われる夜を何度過ごした高架下の空

滑る飛行器(ひこうき)も落ちる花だって、溺れる私を置いていってしまうから

最後、辛いを抱えて生きていく

そんなぼくら、『(ひかり)を放つ。』




読んで下さり、ありがとうございました。
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