この前、れのんちゃんから汽車に乗りにいこう、などと言われた。私は乗り気ではなかったが、結局行くことになった。いざ今日行く、となるとどうも実感が湧いてこない。それでも、待ち合わせに遅れるわけにもいかないから家を出る。歯はちゃんと磨いたはずなのに、さっき食べた魚の味が薄く喉の奥に残っている。
駅に着き、彼女と跨線橋を渡って、きた電車に乗る。この前海に行った時とは反対方面の列車だった。
ごとごとと5分くらい揺られ、終点に着いてしまった。そこから違う列車に乗り換えて、がらがらの車内のボックス席に向かい合って座る。
『なんかだんだん山ばっかになってきたね〜』
『昔は海だったのにね…。』
『そうなの?知らなかったな〜』
『なんか、習った』
『そうなんだね〜!』
『てかさ〜、
『うん、まあ、寝る時とか……』
『へ〜え、ぼくは真っ昼間から聴いてるな〜、あ〜でも寝るとき聴きたくなるよね〜、わかりみ深いな〜』
『あ〜、なんかさ、できる教科とかある?ぼくはみんな嫌いだけどね(笑)』
『えっと、私も基本みんな嫌いかな、あ、でも昼ごはんは好き…、かな…。あ、あと体育ができない。首から下は役に立たない。』
『え〜、ほんとそれなすぎ〜!球技とか無理だよね〜』
『それは、そう…。』
そんなこんなでまた1時間くらい揺られ、また終点に着いた。ここで機関車に乗り換えるらしい。乗り換えると言っても駅が違うから駅と駅の間は少し歩くらしい。
駅の位置はすぐ知れた。事前にれのんちゃんが予約してくれていたらしく、窓口に行くと切符はすぐ受け取れた。こじんまりとした、落ち着いた雰囲気の駅だった。
少し待っていると、向こうから汽笛の音が聞こえてくる。私はもっと「ぽーー」というようなかわいい音だと思っていたが、実際には「ホ゛オ゛ウ゛ゥ゛ォォォォォ‼︎‼︎‼︎」というような、咆哮のような音だった。乗ってみて更に分かったのだが、「しゅっしゅっ ぽっぽ」などという音ではなく、「グォシュ‼︎グゥ゛ォ゛シュ!」というものだった。それと、電車とは違って一回車輪が回るたびにグッと背中が押されるような、一回一回ちゃんと進んだ感じがする進み方だった(語彙力)。
黒煙の匂いが窓の外から流れてきて、昔はこんな匂いをみんな感じていたんだろうかと昼間から黄昏てみる。煙は真っ黒というより、黒がかった白だった。
30分も乗っているといよいよ終点らしく、何でこんなに時間が過ぎるのがはやいのだろうか、と思う。それをいったら夏休みももう10日を切っているんだ。考えたくはないけれど、最悪である。
列車を降りて彼女について食事処に向かう。事前に何も調べてこなかった自分の墓穴を、今なら地中深くまで確実に掘れる自信がある。
店はほとんど満席で、何とか空いていた席に案内してもらった。
お品書きを見て、どれにしようかと決めあぐねる。
『これとかよくな〜い?』
『どれ?』
『この山菜そばなんだけどね〜、』
『山菜、好きなの?』
『う〜ん、好きっていうかさ、せっかく山の方きたんだから、せっかくなら山っぽいもの食べたいな〜、って思ってさ、』
『そう、だね、じゃあ私もそれで…。』
『おっけ〜!すいませ〜ん』
こういう時、私は店員さんに話しかけると(話しかけられても同じだけれど)キョドっちゃうから、本当に感謝しかない。というかこんなことに感謝している自分が恥ずかしくなってくる。
「なんかさ、道調べてもらったり、いろいろごめん、ね……。」
彼女は、少し考えて言った。
「そういうときは、『ありがとう』でいいんだよ。」
ああ、それこそ私が欲しかった言葉なんだ、と直感した。何かあれば謝って済むと思ってきた、謝って済んできた私は、そう言ってほしかったんだ。やっぱりれのんちゃんといると居心地がいい。そう思えることがすごく幸せだった。
そうこうしているうちにそばが来て、箸を割って(うまく割れなかった)食欲を満たす。普段動かないくせに、こんなところまで来てしまったものだから、お腹がすごく空いていた。
れのんちゃんもお腹が空いていたらしく、私たちはものの6分で食べ終わってしまった。
そのあと機関車の方向転換(転車台、というもので回すらしい。)を見て、再び汽車に乗る。
列車が動き出してから少しして、彼女はつぶやいた。
「紫暮ちゃん、そろそろ学校だね」
「うん…」
「ぼくね、まだ学校行きたくないんだ。」
急に重い話になったな、と向かい合った彼女を見てそう思う。
「そうなの?」
「だって、
「そう、なの?」
「たしかね〜。」
「よく知ってるね、」
「ありがと、そう言ってくれる人、少ないから嬉しいな。」
「そう、なんだ…。」
「でもえらいな〜、紫暮ちゃんは。ちゃんと学校行ってるんだもんね、」
「親が行けっていうから…」
「あちゃ〜、これはまずいこと聞いちゃったかな〜、ごめん」
「別にいいよ、隠すようなことでもないし。」
「そうかな〜。」
「それになんか、いかなくなったら、それはそれで私がまるで異常者みたいに扱われるじゃん?それが嫌でさ、変なプライドだよね、ほんと…」
「いや、別に異常なんかじゃないんじゃない?」
「そう?」
「うん、異常じゃないってことにおにぎりと柿の種を賭けてもいいよ」
「なに、それ?…でもちょっとおもしろい、かも…」
「え〜、うれしいな〜」
そんなことをいって、もう駅に着いてしまった。帰りというのは行きよりもずいぶん短く感じられるもので、気づいたらもうここで降りなくては行けない。
でも、またいつか来られる、なんて希望的観測であなたと別れた。
明日も会えるように。
また明日なんていえる幸せに気づけたらよかったと気づいた日ももう夜
読んでくださり、ありがとうございました。