魁霽紀   作:倖往はゆ

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序章 第拾弍話 稀星

稀星(きせい)

 

 

 普段運動しない私が調子に乗って日中動き回ったものだから、2日たってもまだ足が少し痛い。別に楽しくなかったわけではないし、むしろ誘ってもらって良かったと思う。MVもほぼ完成したらしく、あとはほとんど投稿するだけになっていた。

 今まで怠惰を極めてきた私の夏休み史に()いて、初めて生産的なことをしたのだから少し嬉しい。怠惰は七つの大罪の一つであるし、脱却できたことは喜ばしいと思うけれど、もう少しゆっくりしていたかったとも思う。

 私の心は矛盾に満ちていて、それは自分でも理解に困るほど。考えていることは往々にしてやってることと違うし、いつも「したい」と「できる」の間に流されている感じがする。もっと強くなれたらよかったのかもしれないけど、それはそれで怖い。

 

 そんなことをうだうだと考えていたら、れのんちゃんからLINEがきた。

 

『てかさ〜、いつ投稿する〜?』

『夏休み最終日とか?どうかな』

『うわ、いいね〜、それ〜!なんか、エモくな〜い⁉︎』

『ありがと』

 

 なんかこれだけで会話が終わるのは少し切ない気がした。そんなことはないだろうが、私の精神構造は厄介なものだ。

 

『なんかおもしろいこと言ってほしい』

『「ぞくぞく」ってスマホに打つと、予測変換に面白いものが出てくるよ、とかこんなんでいい?』

『ありがと』『あ、これ? ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ』

『あ〜、それそれ〜!』『あとね〜、「ꙮ」っていうきごうもあるよ〜』

『え、どうやって出すの?』

「う〜ん、パソコンだったらいけるんだけどな〜、スマホはどうやるんだろ、ひとまずコピペしてみたら〜?」

「たしかに、ありがと」

 

 れのんちゃんは、ほんとうにこういうなんの役にも立たないからこそ面白いことを知っている。自分は知らないことを知っているから、尊敬する。

 

『あ、そうそう、最後にこんなのもあるよ「☭」』

『ソ連?だっけ、そんな記号出てくるんだね』

『ね、びっくりくりくりくりっくりだよね』

 

 ……私はその「びっくりくりくりくりっくり」という言い方にびっくりしているよ。

 

『おもしろい』

『え〜、照れるな〜、でもありがと』

 

 れのんちゃんは私に優しいし、その優しさがたまに怖くなる。

 

 優しくされるのに慣れていないから?これ以上の優しさを求めてしまうから?それは私が依存してしまう、と自分でわかっているから?どっちにしろれのんちゃんに迷惑をかけるわけにはいかない、かけたくない。

 

 線香花火みたいな夏休みで、一片(ひとひら)の記憶を閉じ込めるみたいに凍らせられてらどれだけ幸せだろう。まだ終わってもいないのに、次の夏のことを考えている、次の夏だって会えると思っている。そう信じるは、きっとこの夏が楽しかったから、そう 

 

 歌詞を書いた時、初めて何かを生めた気がした。

 イラストを書いた時、初めて色のもつ意味を知った気がした。

 時間を無視して作業した時、初めて深夜の空気に触れた気がした。

 

 私がそう思いたいだけだけれど、それは結局私の自己満足(スムグ)だけれど、もうそれだけでよかった。言葉にならない、そんな言葉で神格化してしまいそうな思い出ばかり。でも、言葉では伝わらないものが確かにあるけれど、それは言葉を使い尽くした人にしか言えない。そんな言葉だけを信じてここまで書いてきたし、描いてきたし、欠きもしたし、掻くこともあった。

 

 あと残った1週間、なにをしようか。

 

 

窓を開け蝉時雨が飛び込むけど窓の横カレンダーはあと少し




 読んでくださり、ありがとうございました。
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