魁霽紀   作:倖往はゆ

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序章 第拾弎話 惜暮

惜暮(せきぼ)

 

 

 夏休みがあと数日しかないことを忘れてしまいと思いながら目を覚ます。家族より先にスマフォにおはようを言って、通知を確認する。その中に、れのんちゃんから送られてきたらしいものがあった。曰く、

 

『そういえば、サークル名ってどうする〜?』

 

 これは考えたことがなかった。いわゆる格好良さげのやつだと、外国語か難しい漢字を使うかといったところだろうか。また、外国語だとドイツ語やラテン語などがなんとなくよく使われている気がする。あとは日本語でも何かしらの工夫がありそうな

ものとか。

 

『ひとまず、なんか色々案出してみる?』

『そうだね〜!』

 

 …いつも思うのだが、れのんちゃんのこの返信の速さはなんなんだろうか。ずっとスマフォを見ているのだろうか。

 それにしても、サークル名どんなものがいいだろうか。あえて平仮名にしてみるとか?曲のイメージ的にはなんか青い感じの方がいい気がする。まだ一曲作っただけのくせに生意気な、とも自分で思うがまあそういう日もあるだろう。

 漢字ではどんなのがあるだろうか。私は確かにみんなが知らなさそうな漢字が好きだし、それだったら何か思いつくやもしれない。

 例えばなんだろうか、時津風とか?少し考えて一年くらい前に書いた黒歴史ノートがあったと思い出す。どこにしまったかな、と机の奥を弄りノートを探す。紙の感触を感じて、それを引っ張り出してみる。悶えながらページをめくって、いい感じの言葉を(まと)めた表を探す。表を見つけて改めて見てみると、それはそれは見るに堪えないことばかり……、でも私の語彙力の限界はこんなものだから、これ以上にいいものは作れないだろうな…と勝手に悩んでみた。それでも、何個かは比較的まともな言葉もある。一つ気になったのは、「あさよばい」という言葉だった。たしか、「魂呼ぶばい」という言葉と「あさ」を組み合わせて「朝を呼ぶ」などという意味でつくった気がする。

 このあたりで私の羞恥心が限界を訴えてきたので、ノートから目を()らしてまた机の奥にしまい込んだ。

 他にいい言葉はないものか。いろいろ思案して、そういえば昔「はれ」という言葉が好きだったな、と思い出す。

 その時、れのんちゃんから電話がかかってきた。

 

『今だいじょうぶ〜?』

『あ、うん、どうしたの?』

『えっとね、サークル名の方針をききたくてさ、例えば何語だ〜、とかそういう感じのこと、どうかな』

『そう、だね…。』

『紫暮ちゃんは何語がいい感じ〜、とかある〜?』

『私は……、英語とかよくわかんないし…、だから日本語でいいと思うんだけど…』

『え、いいじゃん!』

『ありがと…』

『それだったらぼくはね、自然の名前っていうのかな、入れるといいと思うんだけど、どうかな?』

『たとえば?』

『う〜ん、倒景(とうけい)とか、陽炎とか、あとは島風とかかな〜?』

『そう、なんだ…』

紫暮(しぐれ)ちゃんはなんかある〜?』

『そう言われてもなんにも出ないですよ…』

『そ〜お?』

『うーん、強いていえば…、「はれ」という言葉を使いたいかな…』

『うわ、いいねそれ!』

『ありがと…』

『う〜んと、ちょっと待ってね〜、』

 

『あ、そうそう、今調べてみたんだけど、「はれ」って漢字は割合種類があるみたいなんだ〜!紫暮ちゃんがいってるのはたぶん天気の方の「はれ」だと思うけど、それでも何個かあるっぽいよ〜!』

 

 そういうと、「はれ」と読む漢字が送られてきた。

 霽れ、晴れ、甠れ…

 

『いろいろ、あるんだね…。』

『どの漢字がいい、とかある〜?』

『えっと、なんか決められないな…、じゃあこうする?赤ちゃんに名前つけるとき、漢字に困ったらやる手段…』

『そのこころは?』

『平仮名にする』

『なるほど〜!いいね、それ!』

『ありがと』

『でもそれだけだとなんかやっぱり物足りなくない?』

『まあ、うん、そう』

『じゃあなんか他の言葉を足してみる〜?』

『たとえば?』

『ぼくが知ってるのだと、「ゆきばれ」、とか「ゆうばれ」かな〜』

『護衛艦の名前っぽい』

『うわ、たしかに!おもしろ〜!』

『え、そう?』

『そうそう!』

『ん、まあいいや、それでどうしよ、名前』

『思いつかなかったらいっそのこと言葉を作る、っていうのもいいかもね』

『いいのかな?』『う〜ん、言葉ってさ、最初からあったわけじゃないじゃん、たぶん。最初にものがあって、たぶんそれに名前をつけていったんだと思う、だから、まだ誰も知らないようなものには誰も知らないような名前をつけたって誰も文句を言えないと思うよ。』

『なるほど…』

『まあ、詭弁だけどね…』

『でもいいや、少し楽になった』

『そう?なら嬉しいな!』

『それで、どんな言葉にする?』

『世界、みたいな言葉も入れてみたい』

『「はれる世界」みたいな?」

『もっと縮めてみたらどうかな?」

『はれせ、とか?』

『それなら「はるせ」でどうかな?』

『お〜、なるほど〜!いいね〜!』

『でもまだなんかたりなくない?』

『そうだね、なんかこのままだと人名か何かと勘違いされそうだね』

『なんか先頭につけとく?』

『どんなのがいいかな〜?』

『うーん…』

『「Let’s 」みたいな?』

『日本語だとなんだろ』

『う〜ん、意味的には違うだろうけど、「鬨」とかいう漢字があった気がする、』

『なんて読むの?』

『とき、だった気がするな〜、他にもたたかうとか読んだ気がするな〜』

『ときはるせ』

『いいじゃん』

『なんとなく、すき』

 

 そういって私たちは電話を切った。窓から溢れ出てくる西日を見て、あと少しの夏休みを惜しんだ。

 

 

夜に沈む街で二人声を届けてはれた空




 読んで下さり、ありがとうございました。
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