魁霽紀   作:倖往はゆ

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序章 第弎話  新波

新波(あらなみ)

 

 

 昨日寝たのは今日の三時くらいで、それまではずっと歌詞を考えていた。考えていた、というと聞こえがいいけれど、要は二時間殆ど書いたのは椅子に座っていただけである。その時間で書いたのはたったの四行だけで、何度も消して書いた文字の方が多い気がする。(そもそも)なんで才能のない私なんかを誘ったのだろうか。貴方ならそれぐらいできそうなのに、作詞と作曲とは違うものなのだろうか。でも一度引き受けてしまった以上、仁義的に(?)断るわけにはいかない気がする。そもそもここで引き下がったら、もう二度とこんな機会は得られないだろう。そうなったら、それこそ死ぬまで後悔する。だから書いた、歌詞を書いた、でもできなかった、それだけ。

 結局起きたのは11時56分で、もう今日は図書館に行く気にはならなかった。そういえば、なんで私は夏休みに図書館に行くようになったんだっけ。ああ、あれは小五の時だったか、新型コロタン(笑)が一段落した時に、私の部屋にはエアコンの類がなく(扇風機しかないんです)、暑すぎてタダで涼めるとかそんな理由で図書館漬けになった気がするする。いや別に居間にはエアコンがあるのだが、親と会話したくないとかいう反抗期的な思想によってこんなことになっている。それで、そこから抜け出せなくて夏休みの間は図書館通いになっているわけだが、なかなか「もう行かない」、とも言えなくて今に至る。

 少なくとも今日は図書館に行く気にならず、部屋の扇風機で我慢してやろうと思った。何か、(昨日書けなかったくせに)歌詞が書きたい気がする。でもどうしたら書けるだろうか。ネットで調べて、幾つかのサイトを見て、「過去のことを思い出してみる」なんて書いてあるサイトを見つけた。私みたいな才能のない初心者はこういうことに従った方がいい。そんな気がして、またそれ以外の手段がないと見て、布団に転がり目を閉じる。今日の明け方に寝たせいか、いつの間にか眠ってしまった。

 

 あれは小四の時だったか、なぜか知らないがクラスでいじめられたことがあった。正確に表現すれば、いじめられているのではなく、なんとなく避けられている、ということになる。有体(ありてい)に申せば、授業でグループを作る時に誰も誘ってくれなくなったり(そのせいで未だにグループ活動が苦手。)いちいち廊下で目を背けられたり(意外ときつい。)、とにかく小さなことなのだが、それが積もり積もって学校が(いや)になってしまった。それでも親は学校に行かないという選択肢を許さなかった。一応理由はあるらしく、曰く「一度行かなくなったら、二度といけなくなる」かららしい。それは事実だろうし、私の為を思っていっているのだろうが辛かった。「厳しさも優しさ」などという言葉があるが、私にはその「優しさも厳し」かった。

 それで、母親との関係もなんとなくぎこちなくなったとき、たまたま父親の古いスマフォのアプリで見つけた曲に少し惹かれた。その後、その曲が「ボカロ」と呼ばれる類の曲なのだと知り、芋づる式に「ボカロ」に傾倒していった。

 その後、小五になった時クラスガチャ(?)に成功したおかげでその一年間は安泰で、ボカロはあまり聴かなくなっていた。

 しかし翌年、あれが私の人生最低の時期だったと今では思うが、クラスガチャが大外れ、担任も絶望的な噂を持った人になってしまった。そのせいでいじめは再発、悪化。いじめっ子たちも一昨年よりも成長したせいでやり方も陰湿になった。級友を仲間にし、全員が私の敵に見えたし、グループにも入れてもらえなかった。彼らは咎められないギリギリの悪口を言うものだから、先生もどうしようもないらしく、私の人間不信の原因になった。だからまた私はボカロに傾倒した。

 中学に入ると彼奴等(きゃつら)も飽きたのか私をいじめるのをやめたらしい。でも、私は誰かの笑い声が、それが私に向けたものでないにしても、どうも怖くなってしまった。だから学校に行くのが厭になったし、人間が嫌いになった。

 だから私はまたボカロに縋ってしまった。でもその繋がりで二人の同志ができ、今では仲良くさせてもらってる。でも元々その二人は同じ小学校出身でその間に入らせて頂いている感じがして、どうも寂しくなる時がある。でも二人がいないと私はあぶれてしまうから、仲良くさせてもらってるのはありがたい。それがどうも虚しくて、本当の私の友達なんていない、そもそも人間は完全な意思疎通はできない、だからしょうがない、そう諦めている。私だけの友達なんていない、そもそもそんな願い烏滸(おこ)がましい。だからやっぱりわたしはひとりぼっちなんだな、と思えてくる、そんな夜にはイヤフォンで耳を塞いで眠る、それだけでよかった。

 

 夢を見ていたようだ。ふと目が覚めると、もうずいぶん寝ていたらしく斜陽が私の部屋を焦がしていた。母に呼ばれて下に降り、夕飯を食べて歯を磨き風呂に入りまた二階に戻ってくる。

 それで、また歌詞と向き合おうと思った。殆ど何も書けなかったその紙に今なら何か書ける気がした。そんな気が、した。

 

 

走らせる鉛筆で思い出す昔だから私最後の熱をもってる




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