魁霽紀   作:倖往はゆ

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序章 第亖話  靈音

靈音(れのん)

 

 7月24日、以前から紫暮(しぐれ)ちゃんにお願いしていた歌詞が届いた。本人はまだこれから修正するといっていたが、自分では書けないような歌詞だった。届いた時間から察するに、どうやら夜を徹して書いたらしい。

 それから今日まで、ぼくは届いた歌詞をもとに少しずつ曲をつくっていた。ふと、眠くなり手を止めて考えてみる、ぼくはなんでこんなことをしているのだろうか、と。

 

 13年くらい前の2月29日、ぼくは生まれたらしい。ままでありイラストレーターの日高見晶生(ひたかみあき)と、脚本家(といっても売れないが)のぱぱ、暁桜雪藍(あこうゆらん)の間に生まれたぼくは、「れのん」と名付けられた。詳しくは知らないが、二人は大学で出会ったらしく、大学を卒業してすぐに結婚したらしい。うちの家族は比較的仲が良いほうで、ぼくはそんなに苦労のない幸せな毎日を過ごした。

 ぼくが小学生になる少し前から、ままの体調が悪化していった。元々病弱な方だったが、今までは別段そんな様子もなかったから、子供ながらにすごく心配になった。

 ぼくが小学生になってすぐ、ままは死んだ。原因は癌だったらしく、特にまだままは28歳と若かったから進行も早かったという。

 そこからぱぱは、単に仕事が増えたのか、或いは悲しみを紛らわす為なのか、仕事に没頭していた。それでもぱぱは、不器用ながらぼくに優しくしてくれた。仕事が長引いた時でも在宅だったからよく寝かせてくれたし、時偶(ときたま)出勤することがあっても夕飯は必ず作ってくれた。

 でもやはりぼくには母親という存在が必要だと思ったのか、はたまた自分の悲しみを紛らわせる為なのか、ままが死んでから1年と数ヶ月経った頃、ぱぱは再婚相手をぼくに紹介した。そこからたまにぱぱと今の私の母親、御神楽震幽儚(みかぐらしゆは)は会うようになった。ぼくは晶生以上の母親はいないと思っていたけれど、震幽儚は悪い人でもないようだから反対する理由もなかった。

 結局、彼らは付き合ってちょうど半年後にめでたく結ばれた。結婚式はやらず、家で大きなケーキを買って、二人の数少ない友達を呼んで(それで来たのは合わせて五人だった)、それを式の代わりにした。季節が秋だったこともあってか、新婚旅行らしきものは県内の紅葉を見にいった気がする。それからぱぱも、少しずつ前みたいに冗談を言うようになり、家の中も多少明るくなった気がする(電灯を変えたからかもしれない)。

 2年生になったとき、先生と相性が悪く、また別に親も止めなかったから、ぼくは学校に行かなくなった。それからぼくは親が何も言わないことをいいことに、それに甘えて学校に行かなり、家からもあまり出なくなった。理由は学校の人間に会うと気まずいとか、そんなものだった気がする。普段、昼間はゴロゴロして夜になるとスマホで見つけたアニメや音楽なんか浸っていた記憶がある。

 中学生になっても休み続け、挙句制服もないという状況だった。しかし、顔も知らない担任から「このままだと成績が大変なことになる」などと、(向こうは善意で言っているのだろうが)半ば脅しのようにも聞こえるようなことを言われた。悔しかったから、せめてテストだけは受けてやろうと思った。授業は小2以来まともに受けていないけれど、家で親が交代で勉強をみてくれたから問題はないように思えた。

 事実、今までのテストで75点を下回ったことはなかったし、そこまで天才ではないにしても自分で充分だと思えるくらいではあった。ただ、制服がなかったし他人とも会いたくなかったから別室でテストを受けた。先生には奇異な目で見られ、それがまた厭で不登校のままだった。

 ちょうど中学生になった頃、ぱぱから要らなくなったPCを貰ったこともあってか、ぼくは曲作りにハマっていった。元々音楽を聴く方ではあったと思うから、その影響で自分でも曲をつくってみようと思ったとか、そんなところだった気がする。時間は腐るほどあったから、色々な記事を読んだりして曲をつくっていった。少ししてある程度自分で曲がつくれるようになった時、それに歌詞もつけてみようと思った。

 でもなぜか歌詞がうまく書けなかった。たぶんぼくにその才能がなかったからだろう。

 でも曲をつくるのは楽しかったから、それだけは諦めたくなかった。それが今、中2の夏。

 

ああ、だから紫暮ちゃんに声を掛けたんだ。

 

 

一番ほしいものだけが手に入らなかったから今二人になれた

 




 読んで下さり、ありがとうございました。
 また、前回までルビの打ち方が間違っていました。すみませんでした。
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