魁霽紀   作:倖往はゆ

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序章 第捌話  儚想

儚想(もうそう)

 

 

 昨日、紫暮ちゃんから完成したMV用のイラストを受け取った。それで、今はそのイラストを背景にして、歌詞などを入れたMVを作っている。

 ぼくが動画編集とかに興味をもったのは、たしか小6の時だったと思う。

 

 そもそも、ぼくが小1の時にままが癌で死んだ。ぱぱは、どうやらぼくには母親の役割を持つ人が必要だと思ったらしく、その1年後に今の母親とぱぱは付き合い始めた。うちの父親は、主にゲームの脚本を書いて稼いでいるらしく、割とずっと家にいる。でも、小さな会社だから仕事が忙しく、あまりぼくに構えないことを問題だと思ったからこその付き合いであって、別に浮気とかではなかった様子だからぼくも別に悪く思わなかった。

 けれど、やはりぼくにとってのままは1人だけだし、それはずっと変わらないと思う。

 それは新しいお母さん、震幽儚(しゆは)もわかっているようだった。最初にお母さんに会った時のことはよく覚えていないけれど、ただ一つだけ、ぼくに『あなたの「ママ」じゃなくて、「ともだち」にしてほしい』と言ってくれたことだけは覚えている。

 実際、震幽儚はぼくの家族、母親というよりはいつもぼくのそばにいてくれる、少し上の優しい友達、みたいな感じがする。

 まあ結局、ぼくはその優しさに(かま)けて学校に行かなくなったわけだが。

 

 それで小6の時、食っちゃ寝の生にすら飽きて、腐るほどあった時間で金のかからない生産的なことはできないものかと思った。その結果としてたどり着いたのが、父親からもらった古いパソコンでできそうなことだった。

 最初は絵を描いてみたり、文章を書いてみたり、ぎこちなく大人の真似をした気がする。小学生なんかそんなものだろう。

 それで、何か他のこともやってみたいと思い、自分で描いた絵を繋いで物語を作ってみたのが最初だったと思う。とはいえ自分でもおもしろいのかよくわからないような台本に、上手いとはお世辞にもいえない絵をつけたようなもので、今から見たら酷い出来にしか思えない。でも当時はそれが楽しくて、ずっとそんなことばっかりやっていた。でもそのうち飽きてずっと動画編集なんてやっていなかったけれど、久しぶりにやってみた。まさかこんな形で再開することになるとは思わなかったけれど、それでもやり方はあまり忘れていなかった。

 

 作業をしていると、窓の外から蚊取り線香の匂いが漂ってきた。ぼくは昔この匂いが何故か好きで、秋になってもつけていた記憶がある。ああ、それから傘も好きだったな、と思い出した。雨も降っていないのにずっと傘を差していたような気がする。でも長靴は嫌いで雨の日でも普通の靴で歩いていた記憶がある。小さな頃はそういう大人にはわからないような、でも本人には大切なこだわりがあった、けれどもうそんなものは失くしてしまった。後に残ったのは、ひねくれた精神構造と弱い心だけ。中学校に入ってやっとわかった。休んでたら進学に響くだろうし、将来だってあやふやなまま決められていく。

 今までアスファルトしか歩いてこなかったぼくにとって、それは隘路(あいろ)だった。

 だからこそぼくはずっと逃げ続けたし、自分で決めたくせに、その選択をしてしまった自分が嫌い。

 なんて面倒くさいやつだ、と思う。

 

 作業がひと段落したから、休憩にプラモを作る。もともとプラモはぱぱが好きで、ぼくはその影響を受けて作り始めた。

 最初はぱぱの作っていないプラモを作っていたけれど、最近は自分の小遣いで買うようになった。

 

 少し休憩してまた作業に戻った。せっかくだからと紫暮ちゃんに途中までの動画を送ってみる。

 こんなことだけれど、やっぱりやっていると疲れるし、そのせいかがんばったという気もしてくる。それが、ほんの少し嬉しかった。

 

 

部屋の中で過ごすぼくにも夏がきたそう告げて消える蚊取り線香




 読んでくださり、ありがとうございました。
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