名前の通り、軌跡シリーズにぶちハマって投稿しちゃいました。昨年空の軌跡FCから初めて今閃の軌跡IVです。
突飛な作品なんで暖かい目で見守ってやってください。
それでは“痕(キズアト)の軌跡”をよろしくお願いします
m(_ _)m
トリスタへ
「ついに到着、かぁ」
家族や友達、先輩に同僚。色々な人に見送られ、激励とともに故郷のクロスベル自治州を出て数時間。穀倉地帯を眺めながら大陸横断鉄道に揺られた俺は、ついに目的地である近郊都市トリスタへとたどり着いた。
それなりの規模がある駅から出てすぐ、クロスベルでは見慣れない花がいっぱいに広がる広場へと出た。周りを軽く見渡しながら、どうにも歴史ある士官学院があるとは思えないほどにどこかゆっくりとした空気の流れる街を歩き出す。
「ライノの花って言ったっけ。綺麗なもんだなぁ」
あちこちで咲き乱れるライノの花と共に、いくつかのお店に目をやる。
雑貨屋らしきブランドン商店。喫茶店と宿のキルシェ。服屋のル・サージュ。名前通り本屋であろうケインズ書房。色とりどりの花や菜園道具の並ぶジェーン。少し先の坂にはこじんまりとした教会らしき建物も見える。道も、建物も、近代化されてしまったクロスベルとは全く違うそれらに目を向け、心を踊らせた。
「っと、さすがにまだ時間があるな」
ふと目にとまった時計の針を見て、入学式までかなり時間に余裕があることを確認した俺は、花壇に囲まれる広場に設置されたベンチへと深く腰掛ける。
左肩にかけた数日分の衣服の入った旅行カバンを置き、右手に持っていた細長いレザーケースを一応の盗難防止の為に左手で抑え、空いた右手はベンチの背もたれの後ろへと回した。
ふと、大きなあくびがこぼれる。
「流石に始発に乗ったのは気合い入れすぎたか……?」
初の鉄道での移動。遠い異国の地への入学。故郷との2年ほどの別れ。そういったことで気付かぬ間に張り詰めていた糸が、現地に着いたことで、そして思っていたよりも居心地のいいこの街に当てられて。ついに眠気となって現れた。
「まだ時間あるし、少しだけなら……」
うつらうつらと船を漕ぎ、ひとつあくびをしてしまえばあっさりと目を瞑り、俺は睡魔に負けて眠り始めてしまった。
「……くぅ……エオリア……やめろぉ……くかぁ」
「ん」
忍び寄る白い小さな影に気付かずに。
△
「……ジョルジュ君、ちょっと見回りに行ってきてもいいかな」
「ん?まぁ、まだ新入生の子も来ないだろうし大丈夫だと思うよ。まぁ来ても僕の方で対応しておくさ」
「じゃあ、ちょっとだけお願い。すぐ戻ってくるから!」
「別にゆっくりでいいよ〜。それに、愛しの彼もくるんだろう?」
「アンちゃんみたいなこと言わないでよジョルジュ君〜。アロイスくんは弟みたいな子だから!そういうのじゃないからぁ!」
ごめんごめんと笑いながらゆったりと手を振るジョルジュ君をあとに、少し早歩きで駅前を目指す。まだ早い時間とはいえ、一応迷っている生徒が居ないかの見回りをするために。
そう、決してアロイスくんに会いに行くためではないのだ。
少し歩けば駅前広場にたどり着き、軽く見渡してみるが、キルシェのカフェテリアに3人ほど、見覚えのある緑の制服の同級生がいるくらいで、新入生はまだ来ていなさそうだった。
「流石にこんな朝早くに来る子はいないかなぁ」
去年のこの頃と同じ、いや、それ以上に咲き乱れるライノの花に目を奪われつつ、あちらこちらへと目を向けてみる。
「あれ?」
だがふと、視界の端に赤い何かが映った。近寄ってみると、花に囲まれた駅前広場のベンチ、ちょうど木陰になるそこに、赤い制服の後ろ姿があった。
「赤い制服……。
彼の後ろ姿に少し近づいていみると、左手でカバンを抑えたまま俯いて動く様子がなかった。寝ているのだろうか。それになんだか、すごく大きいような……。
「あぁっ!?」
回り込んでみると、俯いて眠る彼に、同じ赤い制服の女の子が彼に膝枕される形で眠っていた。男の子はくすんだ灰のような髪色の男の子、アロイスくんだ。すごく凛々しくておっきくなってるから一瞬誰かわからなかったが、寝顔に面影がある。
一方で膝枕されている女の子は綺麗な白髪。髪色は近いが、顔立ちは似ても似つかないしそんな話も聞いてないから兄妹ってことでもないだろうし。
「あ、アロイスくん……だよね」
「ん……くぅ……」
「エオリアぁ……くすぐってぇ……助けてリンさん……」
「ほえぇ……」
少女が狭いベンチの中で器用に寝返りをうって彼のお腹の方を向くようになり、アロイスは未だになぜが苦しそうな寝言を零している。なんだかすごい構図だが、まだ時間は早い。もう少しだけ起こさないであげよう。
そういえばと手元のバインダーを捲り、《Ⅶ組》の生徒一覧を見てみる。少女はフィー・クラウゼル。サラ教官の推薦で受験し、筆記が弱かったものの
もう1人の少年はアロイス・アイスナー。理事長推薦で受験し、帝国史以外は問題なく合格。帝都生まれクロスベル州育ちで、現在は
「アロイスくん、クロスベルに行ったあともがんばってたんだなぁ」
軽く頭を撫でてみると、ゴワゴワとした髪が指を刺す。髪質の問題なのだろうか、これだけは昔から治っていないらしい。なんだか懐かしい気がした。
「けど……」
膝の上で寝転ぶ少女や、先程から寝言の端に聞こえるエオリアとリンという恐らく女性の名前。無邪気な弟が、いつの間にか悪い狼さんになっているんじゃないかと不安になった。それと同時に、なぜが頭にきて。
─────というか、私との再開よりも、年下の女の子なんだね。
「はいっ!ごめんなさいっ!?」
「ん!?」
「あっ」
△
─────殺気!?
こういった時は大抵、誰かが怒っているときだ。アリオスさんかリンさんか。ヴェンツェルさんかたまにミシェルさんか。はたまたシズクちゃんか。
だが、ここは違う。帝国のトリスタだ。恐らく怒っているのは教官か先輩だろう。
いつだったか、ギルドで寝る度にエオリアにくっつかれる俺を見て、全員が口を揃えて言っていた。「お前は寝ている時は酷く鈍感になる」と。
まさか、寝ている間になにか起きたか?もしくは……遅刻!?寝過ごした!?そう考えた瞬間、俺はベンチから立ち上がりとりあえず謝罪した。なにか膝の上から転がり落ちた気がするが、そんなことはどうでもいい。
「あっ、えっと」
「……あれ?」
だが、そんな俺の考えとは裏腹に、目の前にいたのは小さな女の子だった。身長は150リジュほどで非常に小柄。しなやかなウェーブのかかった茶髪。不安そうに震えるうぐいす色の瞳。そして、緑の士官学院制服。
─────あれ、どこかで……?
「あのー、すみません。いきなりびっくりさせちゃって」
「あっ、ううん!別にいいんだよ。いいん、だけど……」
胸の前に手を持ってきて、またも不安そうにこちらを見上げて来る彼女に、てっきり俺は何かやらかしたかと思案する。いや、この街に来てからまだベンチで仮眠をしていただけ。何もしていない……はず……。
何も、していない?
「あー!もしかしてトワねーちゃん!?」
「うんっ!久しぶりだね。アロイスくん!」
すっかり忘れていたが、文通の中で入学式の日に必ず会いに行くという約束をしていたのだ。目の前の彼女、トワ・ハーシェルと。
顔を綻ばせる彼女の顔は、うっすらと化粧はしているが、幼げなその顔はどうにも昔から変わっていないようだ。背格好も当時より少しは大きくなったと感じるが、それ以外は懐かしさしか感じられない。
「よかったぁ。もー、見た目変わりすぎだよぉ。座ってた時から思ってたけど、すっごく大きくなってるし、顔も大人っぽくなってるし」
「トワねーちゃんは変わんなさすぎだって。ほとんど昔のまんまじゃん。何ミリリジュ伸びた?」
「さすがに怒るよっ!?」
そう言って肩を怒らせる彼女をなだめつつ、まさか30リジュ近くも身長が離れるとは思ってもみなかった彼女との再開を喜んだ。
「もうっ、アロイスくんってば、クロスベルで悪い子になったんじゃない?」
「そりゃまぁ、あそこは地獄みたいなとこだったしな。表向きはすごい発展してるけど、裏は“魔都”のあだ名にふさわしいカオス具合だぜ」
「そ、そうなの?
「その裏じゃマフィアの抗争やら大国のスパイやらでてんてこ舞いだっての。まぁ、こっから先はこんなとこで話す内容じゃないな」
クロスベル自治州。大陸最大の国際銀行に大型テーマパーク、大陸横断鉄道による物流の中心。一方で、大陸の2大大国であり自治州の宗主国であるエレボニア帝国とカルバード共和国の代理戦争の場になっていたり、マフィアや国際犯罪組織がさも当然と言わんばかりに暗躍しているような土地。
俺の生まれは帝国の帝都ヘイムダルだが、10になる前に訳あって引っ越したため、育ちはクロスベル自治州になる。トワとであったのは帝都にいた頃だ。
そんなことを考えていると、足元から。
「ん、猟兵団もよく通過するよ。あそこは簡単に抜けられるから」
「っ!?」
「わわっ!?」
「ふぁぁ……。よっこいしょ」
そんな声とともに1人の少女が立ち上がる。なんだか聞き流す訳にはいかないことをサラリと言われた気がした。というかどこから現れたんだ。
グッと背筋を伸ばす彼女は綺麗な銀髪で、トワほどでは無いがかなり小柄で細身。そしてなにより、俺と同じ赤い制服を着用している。
無機質そうでありながら、何かじとっとした目で見あげてくる彼女に内心酷く驚いた。いやほんと、どこから出てきんだこいつ。なんで俺が悪くて非難しているみたいな感じなの。
「……せっかく気持ちよく寝てたのに邪魔された」
「……地面で?やめた方がいいぜ、地面は。身体が痛くなる」
「そういう問題じゃないからね。それに、さっきまでアロイスくんが膝枕してた子だよ」
「膝枕ぁ?なんで俺が」
「ん、程よい硬さで悪くなかった。結構得点高いよ。でも、ちょっと位置が高いかも。太すぎ?」
「だぁれの太ももが太いだコノヤロー」
「ちょっ、落ち着いてアロイスくん」
相も変わらずデカイ態度の彼女にイラつきつつ、肩に手を置いて背伸びをし、内緒話でもするように顔を近づけようとしてくるトワに合わせて軽く屈む。
「アロイスくんのお友達じゃないの?」
「いや知らないよこんな子。なんか見たような服装だけど」
「それば学園の制服だからでしょ?色が一緒なのは同じクラスだからだし」
「え?そうなの?」
「あっ。ま、まだ後でわかることだけどね?聞かなかったことにしてっ」
「おう」
変なとこで抜けてるなぁ。少し慌てるトワを見てなごみつつ、もう一度少女に向かい合う。
「まぁいい。アロイス・アイスナーだ。同じ赤い制服どうし、よろしくな」
「フィー・クラウゼルだよ。あと、サラから話は聞いてる」
「サラ?あぁ、“紫電”のか。何吹き込みやがったあの女」
「そう。まぁ色々聞いてる。そっちの小さい人は?」
「馬鹿野郎お前年上だぞ。……こんなんでも」
「一言余計っ!トワ・ハーシェルです。アロイスくんとフィーちゃんの先輩になります」
「マジ?」
「マジ」
割と本気で驚いていそうなフィーに短く答え、もう一度ベンチに座り直す。正直、このふたりと話していると首が痛くなってきた。座ったら割といい感じだろう。
それからしばらく、トワが時計を確認して慌てるまてまの間、俺たちは雑談を続けた。