痕の軌跡   作:オサシミの化身

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特別オリエンテーリングⅡ

 

 

厳重に施しておいたレザーケースの封を開け、中身を取り出し組み立てる。槍のように細長い、木製銃床の導力銃だ。各部を組み立て、スリリングベルトを通していると、ある程度のチェックが終わったのか、両手に変わった武器を持ったフィーがやってきた。

 

「なんか古臭い(アンティーク)なやつだね。火薬式?」

骨董品(アンティーク)って言ってくれ。導力式だ。まぁ、機関部とバレル変えれば火薬式でもバリバリ使えるんだがな」

「へぇ、いいじゃん」

「前にこれが役に立つ場面があったんだよ。それに、ガキの頃からの思い入れもあるし、壊れるまでは使い続ける予定だぜ」

「それって、リベールの?」

「あー、まぁな」

 

フィーの言葉にお茶を濁しつつ、最後に着剣する。俺の武器は導力小銃。それなりに古い代物で、遡れば導力銃黎明期のものになるんだとか。だが、どうにもその完成度は高く、さらに機関部を取り替えれば火薬式もいける汎用性の高さ、単純な構造が故の整備性や頑丈さが売りの1品だ。

見る限りフィーも同じく導力式の二丁拳銃なのだが、銃身下部にブレードが取り付けられていた。グリップも重心に対し水平気味に着いており、ナイフのように近接武器としての使用も視野に入れたような武器だ。

 

「フィーのは、それまた見たことないやつだな」

「“双剣銃(ダブルガンソード)。”白兵と射撃両方行ける」

「へぇ、殴り込みにはもってこいだな」

「でしょ」

 

慣れた手つきでくるくると手の内で遊ばせ、そしてホルスターにしまったフィー。俺も同じように着剣した小銃をバトンのようにくるくる回し、スリリングベルトを滑らせて肩にかけ直す。

 

最後に火薬式リボルバーを左腰に固定して装備は完成だ。

 

気がつくと扉のまえに全員が集まっており、俺達もそこに合流する。

 

「え、えっと」

「冗談とかではないみたいね……」

 

ほとんどのやつは躊躇いが抜けず、足踏みしている状態だった。それに何人かは武器を持つ姿が様になって居ないやつもいる。

 

逆に長身の男子の槍、青髪の女子の大剣なんかは大柄な得物にもかかわらず安定しており、黒髪の男子に至っては。

 

─────刀、か。剣聖ふたりにどこぞの情報将校程じゃないが、孫よりかは様になってるな。

 

脳裏に4人ほどイメージを浮かべつつ、先に行ってしまおうか悩んでいると、ユーシスが鼻を鳴らして1人歩いていってしまう。それにマキアスが反応した。

 

「待ちたまえ!ひとりで行くつもりなのか」

「そうだが。わざわざ馴れ合うつもりはないのでな。それとも、貴族風情と連れ立って歩きたいのか?」

「ぐっ」

「まぁ、魔獣が怖いのであれば、同行を認めなくはないのだがな」

 

苦虫を噛み潰したようなマキアスに、煽るようにユーシスは騎士剣をこれ見よがしに抜いた。

 

「武を尊ぶ帝国貴族として、それなりに剣は使えるつもりだ。貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)として、民草を保護するのも役目だからな」

「き、貴族ごときの保護なんているものか!もういい、だったら先に行くまでだ。旧態依然とした貴族などの力、もはや必要ないということを証明してやる!」

「……ふんっ」

 

ついにキレたマキアスが散弾銃を手にひとりでダンジョン区画へと入っていく。その背中をまたもユーシスは鼻で笑い、騎士剣を鞘に収めてその後に続いた。

 

「えっと……」

「どうしましょうか……」

 

そんな2人のやり取りに再び気まずい沈黙が周囲を包んだが、青い髪の女子が腕を組み切り出す。

 

「とにかく、我々も動くしかあるまい。念の為、数名で行動することにしよう。そなたら、私と共に来る気はないか?」

「え、えぇ。ご一緒させてもらうわ」

「助かります……」

「それとそなた、も」

 

金髪とメガネの女子を勧誘した青髪の女子はフィーも誘おうとしたのかこちらを見て固まった。すでにフィーはダンジョン区画へと向かっていたからだ。

 

「ふむ。まぁいい。後で会えたら声をかけるとしよう」

「そうした方がいい。あいつもそれなりにできるやつのはずだ。心配入らないだろう」

「そ、そうか」

「でも、あんなに小さな子がひとりでなんて」

「大丈夫だって。心配しすぎだぜメガネちゃん」

「そ、そうでしょうか……」

 

なんせ動きがアレだ。たしかに小柄だが体幹はしっかりしているし、歩き方も素早く、尚且つ音を立てないもの。不意打ちのトラップをワイヤーを用いて回避したり、先程の銃の取り回しを見ると、場や武器の扱いにもかなり慣れている。

 

それに、どちらかといえば心配するのはマキアスの方だろう。

 

そんなことを考えながらボルトハンドルを引き、薬室にしっかり導力弾が装填されているのを確認。着剣の状態を確認。深呼吸をひとつしてみる。

 

「それじゃ、俺も先に行くぜ」

「そなたもひとりでゆくのか」

「俺の方は大丈夫だし、そっちも大丈夫だろ?男子共もな。それに、あんたとあんた、さては腕に覚えはあるんじゃないか?」

「まだまだ精進が足りぬがな」

「俺の方も、大したものじゃない」

「そうか」

 

青い髪の女子が持っているのは大剣、橙色の男子では持てなさそうなそれを装備してなお余裕そうな立ち姿から慣れを感じる。それに、黒髪の男子も謙遜こそしているが、武器といい立ち姿といい、どうにも“剣聖”に重なるのだ。

 

「それじゃあ、終点で」

「うむ」

「お互いがんばろう」

「おー」

 

そんなやり取りを交わしつつ、軽く手を振りながら俺はフィーの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガイウス、そっちを頼む!」

「任せろ!」

「よしっ、アーツいくよ!」

 

リィンとガイウスの前衛、エリオットのチームワークはそれなりにハマっていた。開発途上の魔導杖(オーバルスタッフ)やアーツによるエリオットの支援に、ガイウスの槍さばきとリィンの剣戟によって瞬く間に魔獣は片付けかけられていく。

 

「ひゅー、なかなかやるじゃないの。流石にこの程度は相手にならないってか」

「ほかのみんなも見てきたけど、特に問題なさそうかな」

「そーかい」

 

そんな3人を遠巻きから眺める2人の姿があった。アロイスとフィーだ。

 

「で?おまえはもう奥まで行って戻ってきたのか」

「ん。流石によゆーだね」

「そりゃ戦闘初心者組もいるし難易度は低めだろうよ」

 

すでに奥まで行って戻ってきたというフィーは、大あくびをかましたがら眠たげに目を擦る。全体のペースが遅い事にヤキモチしているのか、なんだか投げやりだ。

 

そんな彼女に、エリオットと呼ばれた小柄な男子やメガネの女子。導力散弾銃を持っていたマキアスに導力弓使いの女子。武器を持ったことはあっても鉄火場に出たことがないか、下手をすればこれまで生物相手に武器を使ったことがなさそうな連中ばかりだった事を思い出しつつ、むしろ入学式から怪我してちゃ敵わんだろと思わずアロイスがツッコム。

 

「でも、なかなかいいじゃん。黒髪の人」

「だろ。それに使ってる技も八葉一刀流ときたもんだ」

「わかるの?」

「近くに使ってる人がいたからな」

「あの槍の人も結構やるね。アーツ使ってる杖?みたいなのもまぁまぁかな」

魔導杖(オーバルスタッフ)だな。知り合いがエプスタイン製のをテストしてたから知ってる」

「初めて聞いたかも。案外ラインフォルト製だったり」

「ARCUSが共同開発らしいし、それも有り得るな」

「んー。ほか行く?女子3人組も結構上手くできてたよ。とくに青髪」

「あの大剣持ちか。そうか、なら見に行ってみようかね」

導力銃を片手に、アロイスは刀と槍の剣戟とは違う、少し離れたところから聞こえてくる激しい戦闘音の方を向く。同じようにフィーも双銃剣を手に、2人揃って歩き出した。

 

「お」

「来るね」

 

そして、そんな2人の行く手を阻むように物陰から不意に8匹のトビネコが飛び出してきた。

 

気配でそれを察知したアロイスとフィーはそれぞれの得物を構え、トビネコの方へ向きなおる。

 

「フィー、頼むぜ」

「ヤー。アロイス、期待してるよ」

「こっちこそ」

 

1匹のトビネコが声を上げた刹那、アロイスが集団の注目を集めるように低い姿勢で突貫を仕掛け、逆に集団の視界から消えるようにフィーは高く飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶち抜くっ」

─────ストライクチャージ

 

導力銃を槍のように構え、地を這うように低い姿勢で突撃する戦技(クラフト)。凄まじい気迫と共に走り抜けるアロイスが直線上にいたトビネコを跳ね飛ばした。

 

「─────っ」

「ん、させない」

 

走り抜け無防備な背中を晒すアロイスに、1匹のトビネコが力を貯め始める。だがそんな隙を見逃さず、フィーもまた戦技(クリアランス)を放つ。

 

「そこっ」

「─────」

「ナイスっ!」

 

範囲攻撃に怯んだところに、アロイスが振り向きざまに小銃を構え、怯んでいるトビネコ達へと2発3発と立て続けに射撃を食らわせていく。

 

「意外と上手いね」

「じゃなきゃ銃なんて持ってねぇよ。そこだっ」

「任せて」

 

次々と獲物を変え、それでいて確実に急所を撃ち抜くアロイスを見てフィーがそう零した。翼の付け根を撃ち抜かれてよろけたトビネコに、フィーの斬撃が襲いかかる。斬撃をもろに受けたトビネコは断末魔を上げながら力尽きた。

 

「選手交代」

「前に出るぞっ」

 

射撃で牽制しながら距離をとるフィーに代わり、再び小銃を槍のように持ったアロイスが前に出た。

 

「オラオラオラァ!」

「─────」

「……うっわぁ」

 

走りより近寄りざまに1匹に左の拳を叩き込み、右の銃剣で斬りつける。左から迫るトビネコへ、振り切った小銃を片手で強引に構えて突き出す。風切り音とともに銃剣で胸を刺し貫かれたトビネコは力尽き、斬りつけられた個体もまた力無く地面に落ちる。

 

またも彼の左右から近寄るトビネコへとそれぞれ銃撃と斬撃を浴びせつつ、次の1匹に逆さに持った小銃の銃床で殴り掛かる彼の姿に、思わずフィーはドン引きした。

 

ドン引きしつつも双銃剣を構え、アロイスの気迫に押されてか硬直しているトビネコへそれぞれに銃弾を浴びせトドメを刺していき、最後の1匹に斬りかかる。

 

「これでラスト」

「これで最後だぁ!」

 

フィーの斬撃とアロイスの拳が最後に残っていた1匹へと同時に命中し、トビネコを消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、楽しかったな」

「……」

 

戦闘終了後、彼は汗を拭う仕草をしながら笑った。

 

アンティークな導力銃に的確な射撃、格闘センスにかなり高いであろう身体能力。今の1面だけでもすでに並の猟兵を超えているだろう。

 

自身の得物に目をやる。双銃剣、導力拳銃に刃を取り付けた特殊な武器。元からそれ用に開発されているため、使いこなせれば白兵戦でも射撃戦でも力を発揮できるものだ。だが、彼のそれは違う。

 

銃剣は本来、集団で運用されるのが前提のはずだ。主に採用している帝国軍や領邦軍でも、あくまで弾が切れた時や強襲を受け射撃体制が取れない時の緊急用、腕の立つ者かもしくは集団で槍衾のようにして使用されているはず。

 

だが彼はそれを短槍のように振り回していた。それもタダならぬ練度だ。

 

「結構慣れてるね」

「ん?まぁな。色々あったからなぁ」

 

リベールといいクロスベルといい…。そうこぼしながら遠い目をする。

 

─────何者なんだろ。遊撃士ではあるっぽいけど。

 

「よしっ、そろそろ女子組見に行こうぜ。青髪の大剣、気になるんだよ」

「……ん、そうだね」

 

戦闘中の血気迫る顔を忘れたのか無邪気に笑う彼を見て、なんだか毒毛が抜かれた。

 

─────まぁ、別にいっか。

 

小銃を肩に担いで歩くアロイスの後を、今度こそ周囲に気配がないことを確認した上で双銃剣をしまってついて行く。そしてふと、疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「ねぇアロイス」

「なんだ?」

「やっぱりおっきい方が好きなの?」

 

脳裏に青髪の女子とメガネの女子を浮かべつつ、ニコニコと楽しそうに笑うアロイスを見た。

 

「そりゃお前、デケェのは最高だろ」

「……えっち」

「なんでだよっ!?デケェ武器はロマンだよなぁ!?」

「知らない。みんなに言っちゃお」

「あっ、おい待てぇ!?」

 

からかいながら、彼の横を走り抜ける。別に悪い人じゃなさそうだし、これから仲良くできそうだなんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

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