痕の軌跡   作:オサシミの化身

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評価に赤色着いてる!?ひょ、評価ありがとうございます!


特別オリエンテーリングⅢ

 

 

「む、だれかそこにいるのか?」

「え?」

 

魔獣を倒し終え、一息ついているとラウラが柱の影に向かってそう声をかける。

 

特別オリエンテーリングという名目のダンジョン攻略が始まってしばらく経った。少なくない数の魔獣と戦闘をしている上、大剣を使っていることからさすがのラウラも疲れて変になってしまってのだろうか。

 

「ちょっとラウラ、どうしたのよ急に」

「そ、そうですラウラさん。こんなときに」

「別にふざけてなどいない。そこの2人、出てきたらどうだ」

 

魔導杖を抱き寄せ不安そうな顔をしているエマに対し、ラウラは至って真面目な顔をしている。

 

言葉尻に大剣を柱の方に向けると、確かにそこから男女の声が聞こえてきた。

 

「バレちゃった」

「お前が携行食食うからだろ」

「アロイスも食べてるじゃん」

「腹減ってたしな」

 

聞き覚えのある人の声にひとまずラウラが剣を下ろし、私とエマも緊張が解ける。

 

柱の影から現れたのは灰色の髪をした体格の良い男子と綺麗な銀髪をした小柄な女子。それぞれの手には四角い何か─────会話的に栄養素バーだろうか。を持っていた。

 

「ふむ、そなたらは」

「アロイス・アイスナーだ」

「フィー・クラウゼル」

「こいつからお前さんが凄いって聞いてな。気になって見に来たとこだ」

「ん」

 

アロイスは残ったバーを食べ切り、未だにボソボソとそれを食べているフィーの頭に手を置いてそう言った。

 

「先も言ったが、確かに腕に覚えはあるがまだまだ途上の身だ」

「だがさっきの剣さばき、なかなかのもんだったぜ。同い年でここまでデキるやつはそういないよ」

「そうか。ならその言葉、素直を受け取っておこう」

「そうしてくれ」

「ラウラ・S・アルゼイドだ。よろしく頼む」

「おう、よろしくなラウラ」

 

グッと固く握手を交わすふたりに、続いてエマが自己紹介を始め、私も慌てて続いた。

 

「エマ・ミルスティンです。よろしくお願いしますね」

「アリサ・Rよ。よろしく」

「おう、よろしくな。魔導杖の使い手に金髪ちゃん」

「魔導杖のこと、ご存知なんですか?」

「へー、珍しいわね」

「まぁな。色々あって、エプスタイン財団製のをテストしてるやつが連れにいてな」

「エプスタインのかぁ。それはそれで気になるわね」

「だから、そいつの有用性はそこそこ知ってるつもりだ」

 

支援は頼りにしてるぜ。と拳をつきだすアロイスに、恥ずかしげにエマが拳を当てる。

 

顔立ちと体格のせいで少し警戒していたが、案外良い奴なのかもしれない。そう思っていると、ようやく栄養バーを食べ終えたフィーが。ニマニマと笑って。

 

「そういえばアリサ」

「なにかしら」

「ラッキースケベられはどうだった?」

「─────なぁっ!?」

 

突然のことに、顔から火が出るかと思うほどに頬が熱くなる。きっとはたから見たら熟れたリンゴのように真っ赤だろう。

 

「うわっ、アリサ顔真っ赤」

「う、うるさいわねっ」

 

助けを求めるように談笑している3人の方を見た。

 

「やっぱ変形すんのかっ。するんだよなぁ!そんでビームうてるんだろっ!?」

「し、しないと思いますけど……」

「ほう、エプスタイン製のものはしたのか?」

「したんだよ。ガチャガチャっと変形して『エーテルバスター』!いやぁ、カッコよかったなぁアレは」

「へ、へぇ、そうなんですね」

「くっそ、ラインフォルトめぇ。なんであのカッコイイ機能を搭載してないんだ!?」

 

─────悪かったわね。変形機能搭載してなくてっ。

 

談笑というか、アロイスが興奮してエマに詰め寄っている場面だったが、どうにもこちらに助けは来なさそうだ。だが、振り返るとフィーの目線はすでにエマの方を向いていた。

 

「そういえばエマ、ラウラ」

「む?」

「どうかしましたか?」

「どうしたフィー?」

 

小さくニマニマと笑うフィーは、不思議そうにしている3人に爆弾を投下した。

 

「アロイスはおっきいのが好きだから注意してね」

「……?」

「おっきいの……?─────っ!?」

「アロイス……あんたっ」

「ちょっ、まっ。誤解招く言い方やめろやコラァ!?」

 

大慌てのアロイスに鋭い目を向ける。年端もいかない少女に何を言わせているんだこの男は。

 

ラウラはまだ言葉の意味を理解していないのか、ソレ(・・)の下で腕を組みながら首を傾げ、エマは数秒悩んだ後に大きく距離を取り、胸をガードするように腕を交差させた。

 

「デケェ武器が好きだって言ったよなぁ!?俺はどちらかといえばスレンダーな方が好みで─────」

「だからさっき私の事抱きしめたの?」

「ほう、捨ておけんな」

「アロイスさん……」

「アロイス、あんたねぇ!」

「ち、ちがっ。俺はフィーのワイヤーの恩恵に預かろうとしただけで」

「初めて、だったのに」

「これは、問答は無用だな」

「残念です……」

「覚悟なさい」

 

私と同じように、心底軽蔑するような目で見られたアロイスが吠えた。

 

「俺は悪くねぇ!フィーがわざといかがわしい言い回ししてるだけ─────」

「天誅っ!」

「ぐはっ」

 

刹那、言い訳を続けるアロイスの頭を、ラウラの大剣の腹が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、酷い目にあった……」

「ごめん」

「全然悪びれてねぇじゃねぇかお前ぇ……っ」

 

反省の色の見えないフィーの頭に軽くゲンコツを喰らわせる。何とか3人の誤解を解いた俺は、少しだけこの3人と同じ道を行くことにした。

 

「そういえばアロイス」

「なんだ、アリサ?」

 

何匹目かの魔獣を後方からアリサと共に射抜いていると、思い出したかのようにアリサが話し出す。

 

「あなた、たしか貴族って何?くらいのこと言ってなかったかしら」

「そういえばそうでしたね」

「あぁ」

 

アーツを放ち魔獣を一掃したエマも会話に入ってきた。それで最後だったからか、前衛を張っていたラウラとフィーの2人も合流する。

 

話を聞いていたのか、ラウラも不思議そうにしていた。

 

「この帝国にいて貴族を知らぬなんてことはあるまい。出身は別なのか?」

「いや、産まれはヘイムダルなんだが、ガキの頃に色々あってな。10になる前にはクロスベル自治州に移り住んで育ったんだ」

「クロスベル州ですか」

「つまり留学生になるのかしら」

「そういえばクロスベルの話してたね」

 

全員が興味深そうにこちらを見てくる。

 

あまりこう言いたくはないが、帝国は国際的に見ても排他的な部分がある。観光客はともかく、定住者には風当たりが強いという。ましてやこれがカルバード共和国出身となったら相手にされないこともあるんだとか。

 

そんなこともあって身近な海外出身が珍しいのだろう。だが。

 

「クロスベル州、かぁ……」

「あっ、すみません。自治州、ですよね」

「いや……まぁうん。言い直してくれてありがとな。言葉狩りするみたいで悪いが、どうにも引っかかってな」

 

頭を下げるエマに申し訳なくなる。

 

クロスベル自治州。俺たち州民からすれば大事なことなのだが、宗主国である帝国と共和国の国民の中には、時折クロスベルを自国の土地のように言うやつがいる。

 

エマとしては普通に言ったつもりなのだろうが。どうにもそこが気になってしまうのだ。

 

そんな俺を、ラウラが少し驚いた顔で見ていた。

 

「随分と好きなのだな。自国、いや自州のことを」

「まぁな。そりゃ10年も住んでないやつが何をって思うかもだが、俺はあの場所が大好きなんだ」

「そんなことないわ。むしろ、胸を張って好きって言えるの、すごいことよ」

「はい。私もそう思います」

 

気がつけば、全員から生暖かい目で見られていることに気づき、少し恥ずかしくなった。

 

「なんせ、クロスベルはいい所がいっぱいだからな!アルカンシェルにカジノハウスのバルカ、クロスベル大聖堂に聖ウルスラ医科大学。市内はもちろん市街のアルモリカ村とマインツもいいとこだし、何より保養地ミシュラムにできた《M・W・R(ミシュラム・ワンダー・ランド)》だって」

「早口でキモイ」

「うるせぇよっ」

 

思わず捲し立てるように飛び出した内容はフィーにばっさり切られてしまったが、笑いを取れただけマシだと思うことにした。

 

「なに、恥ずかしがることではないさ」

「ふふっ、面白いわねあなた」

「うるせぇっての。そういうアリサたちはどうなんだ?」

「私はルーレの出身よ。あなたの使っている銃のメーカー。ラインフォルト社の本社があるわ」

「そうか、ラインフォルト、たしかIBCの次に資産持ってるっていう。てか、よくこの銃がラインフォルト製ってわかったな」

「す、少しだけその辺の知識には自信があるのよ。詳しくは聞かないで」

 

視線を逸らすアリサになにか都合の悪いことでもあるのかと思い、話を辞める。もしかしたら銃みたいなのが好きなのだろうか、たしか、ミリタリーオタクと言うやつ。

 

続いてラウラが話し出した。

 

「私の出身はレグラムと言ってな。クロイツェン州南部、エベル湖の湖畔にある小さな町だ」

「湖のほとりか。ミシュラムみたいだな」

「だが、『霧と伝説の街』だなんて呼ばれ方もあってな。各地に精霊信仰の名残も多く残り、かつての《槍の聖女》の居城でえるローエングリン城もある 」

「《槍の聖女》……たしか《獅子戦役》の英雄か。 精霊信仰の名残はクロスベルも各地に残ってるぜ」

「うむ。よく知っているな。それに、クロスベルにもそういったものは残っているのか」

 

興味深そうに頷くラウラに、いつか来たら案内してやると言うと、こちらこそと返される。たしかに、帝国にいるうちはレグラムの方が行きやすいのかもしれない。

 

続いてエマとフィーを見るが、エマは何故か申し訳なさげで、フィーは無表情だ。

 

「えっと、その。故郷について語れることはあまりなくてですね……」

「ん、そもそもどこか知らない」

「む……?」

「そ、そうか……?」

 

帝国出身なんだよな?と思いつつ露骨に話したがらないふたりから目をそらす。人には言えないことや言いにくいこともあるだろうから。

 

周囲の魔獣の気配が減ったあたりで俺は切り出した。

 

「よし、んじゃそろそろ俺は行くぜ」

「ん、じゃあ私も」

「そうか。残念だ。できれば最後まで共にゆきたかったが」

「悪いな。あとはユーシスとマキアスって奴らも見てみたいんだ」

「あのふたりね……」

「あ、あはは……」

 

最初のいがみ合いを思い出してか、アリサが苦虫を噛み潰したような顔をし、隣でエマが苦笑を浮かべる。

 

「じゃあ、終点で会おう」

「じゃね」

「あぁ。健闘を祈る」

「気をつけなさいよね」

「がんばりましょう!」

 

そして俺とフィーは3人の見送りの元、マキアスとユーシスを探して壁の上に飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行っちゃったわね」

「うむ、大した身のこなしだ」

「はい……あんなに高い壁を簡単に……」

 

ラウラは感心したように、エマは驚いたようにそうこぼす。

 

「アロイスさん、あんなに大きいのに軽やかですね」

「あー、たしかに」

 

150リジュほどのフィーがとても小さく、尚且つ170リジュはありそうなラウラよりも頭ひとつ高かった、180リジュ以上はありそうな巨体で、易々と壁を越えていってしまった。

 

流石にフィーほど軽やかではなかったが、それでもすごいものはすごい。

 

「大きいか、そういえば」

「どうしたの?」

 

ふと、ラウラが思い出したように話し出す。

 

「大きいのが好き、と彼は言っていたな。てっきり武器のことかと思ったが、なにか違ったのか?」

「……あー」

「えっと……」

 

よりにもよってその話か。不思議そうなラウラと困惑するエマの胸部を見つつ、悩む。

 

─────ていうか、今その事で地味に傷心してる私に振らないでほしいんだけど。

 

「まぁ、後で問いただすとしよう」

「問いただすのね……」

「あはは……」

 

そんなやり取りをしながら終点を目指して、私たちはまた歩き出した。

 

 

 

 

 

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