痕の軌跡   作:オサシミの化身

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4月のとある放課後

 

 

「はいみんなお疲れ様〜。今日の授業も一通り終わりねっ」

 

珍しく鐘の音が鳴る前に教室にいたサラ。よほど気分がいいようで、満面の笑みを浮かべていた。

 

「前にも言ったように、明日は自由行動日ね。休日って訳じゃないけど、授業はないし、何をするのも生徒の自由に任されているわ」

 

やっぱりそれが理由か。内心そう毒づきながら苦笑する。

 

「自主練して汗を流すのもいいし、帝都へショッピングに行くのもいいわね。なんだったら、私みたいに自室で一日中ゴロゴロ寝てたって構わないのよ?」

 

なんともまぁ、サラらしく、そして教官らしからぬ言動か。さらに冗談に聞こえないのもタチが悪い。

 

全員がそれぞれ呆れたような目を向けたり、苦笑したりする中、エマが挙手をし質問する。

 

「えっと、学院内の各施設などは解放されるのでしょうか?」

「確かに、図書館の自習スペースが使えるとありがたいのですが……」

「えぇ、その辺は一通り使えるから安心しなさい。てか、マジめすぎない?せっかくの自由なんだしもっとこう、他にあるじゃない」

「委員長とマキアスらしくていーじゃねーか。ちなみに基本的にどのクラブも明日は活動してるし放課後よか時間に余裕があるから、見学に行くいい機会だぜ」

「ちょっとそこ、私の説明取らないでよ」

「興味深いな」

「ふむ、確認しに行くか」

 

 

エマと続いたマキアスの質問に少し萎えた様子のサラ。俺としてはふたりらしくて面白いのだが、サラ的にはもっと青春して欲しいようだ。

 

補足するように俺がクラブ活動のことを言うと、エリオットやガイウス、ラウラなど既にクラブに目星をつけている奴らが反応した。

 

全員の意識が明日のことでいっぱいになり、今日の締めと来るかと思ったところで、サラが思い出したと手を叩く。

 

「あっ、それと来週だけどね。水曜日に実技テストやるから」

「また急だな」

「実技テスト……?」

「それは一体どういう……」

「ま、ちょっとした戦闘訓練みたいなものよ。詳細については当日に説明するわ。一応評価対象のテストだから、万全の状態で挑めるようにしておきなさい」

「ふんっ、面白い」

「うぅ……、嫌な予感しかしないや」

 

実技テストという言葉に、リィンやアリサ、エマにマキアスといった面々は不思議がり、ラウラとユーシスは楽しげに笑う。一方でエリオットはひとり顔を青くしていた。

 

「それと、実技テストが終わったあと、改めてⅦ組ならではのカリキュラムの説明もするわ。そういう意味でも、明日の自由行動日は有意義に過ごせるといいわね。HRは以上、副委員長、挨拶をお願い」

「は、はいっ。起立、礼」

「はい、じゃあお疲れ様ー」

 

副委員長であるマキアスの号令で礼をし、どこで飲もうかしらと呟いたサラが教室を出ていく。

 

そんな彼女の後ろ姿に、思わずと言った様子でそれが教官の言うことかと吐き捨てるユーシスに全員がうなづいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、部長と一緒に新しい種を植えて花壇に水やりをして園芸部はその日の活動を終えた。

 

結局最後までそれがどんな花の種なのかを教えてはくれず、どれだけ聞いてもいたずらっぽく笑って誤魔化されたが、後々の楽しみだと言われては口を塞ぐしか無かった。

 

「それじゃあ、私は寮に戻りますね」

「オッス、お疲れ様でした」

「ふふっ、ではまた明日、お疲れ様でした」

 

小さくてを振りながらグラウンドの方へと歩いていく部長を見送り、俺はひとつ欠伸をして学生会館の方へと向かうことにした。

 

恐らくまだ仕事をしているであろうトワと会うためだ。

 

「売店でなんか買ってこうかなぁ……っと?」

 

何らかの作業音が響く技術練を通り過ぎたあたりで、学生会館の前にリィンが立っているのに気がつく。

 

─────なんであいつあんなとこでつっ立ってんだ?

 

ボーッと校門の方を眺めていたかと思えば、慌てた様子のあとに50ミラ、と嘆くリィンを不思議に思いつつ、その背中に声をかける。

 

「よぉ、リィン。何叫んでんだ」

「あ、あぁアロイスか。いや、平民クラスのバンダナを巻いた先輩に……」

「あちゃー、してやられたな」

 

そのバンダナの先輩に言われるがまま50ミラコインを渡したところ、空高く放り投げてキャッチしどちらの手にはいっているかというクイズに発展。だが、そのどちらの手にもコインは存在せず、どういうことかと聞く前に手品だからと笑いながら激励の言葉を残してその先輩は颯爽と去っていってしまったという。

 

「お前も運がねぇなぁ。今頃その先輩、自販機でジュースでも買ってるぜ?」

「自販機……?」

「あー、そういえばここに来てから見てないな。帝国じゃ展開してないのか?まぁ、勉強料だと思うんだな。どんまいどんまい」

「はぁ……」

 

まぁ50ミラだからな、といやいや納得しようとしていた。

 

「そういえばリィンもここに用事あるのか?」

「サラ教官に頼まれて生徒会長に学生手帳を貰ってくるよう言われてさ」

「委員長とかでもないのに雑用かよ。偉いなお前」

 

生徒会長ということは俺と同じくトワに用事があるのだろう。そういえばまだ学生証とか学生手帳といった物は貰っていなかった。

 

用事があるし、せっかくだから俺も一緒に行くと伝えると、助かると快諾された。

 

「クロスベルにはその、自販機って言うのがあったのか?」

「あぁ、市内の施設の中には大体あったな。50ミラから色んなジュースが買えるんだよ。それこそ冷たいのから温かいのもなんでもござれだ」

「それは、すごいな」

「最近じゃ公共施設だけじゃなくてオフィスにも設置するところも増えてたんだよなぁ」

 

こういった自販機や通話や情報のやりとりができる導力ネットワーク、各地とクロスベル市を結ぶ定期バスの設置なんかは、帝国に対してかなり小さなクロスベルだからこそできたことなのだろう。個人的にそういった利便性は帝国とは桁違いに良かった。

 

まぁこの街も住めば都。クロスベル市内のように都会でもなく、かと言ってアルモニカ村のように田舎すぎない。ある意味ちょうどいい塩梅なのかもしれない。

 

クロスベルって凄いんだな、なんて呟いているリィンに一言ことわって売店で微糖のコーヒー缶といちごオレを購入する。

 

「アロイスは生徒会長にどんな用事があるんだ?」

「差し入れだな。生徒会長は近所のねーちゃんみたいなもんなんだよ」

「へぇ、そういえば帝都生まれなんだっけ」

「よく覚えてんな。そうだな。10になるまでは帝都に居たから、その頃のご近所のねーちゃんだ」

 

優しいんだな、アロイスは。なんて気色の悪いことをほざくリィンのケツに軽く蹴りを入れる振りをしつつ、建物奥の階段を上る。

 

「そういうリィンはどうなんだ。ここに知り合いとかいないのか?」

「いないよ。俺の出身はかなり田舎の方だからさ。同郷とか、知り合いとかそういうのは誰もいないんだ」

「寂しいなぁ。俺も似たようなもんだけどさ」

 

でもまぁ、と前置きしたリィンが今までで1番いい笑顔を浮かべた。

 

「帝都に行けば女学院に通ってる妹がいるんだ。年頃だから会ってくれるかはわからないが、それだけでも心強いさ」

「妹、妹なぁ」

 

─────リィンとこは関係上手くいってそうだなぁ。

 

一応俺にも妹と弟がいる。クロスベルに越してきてからできた義理の妹と、その下の双子だ。昔はよくくっていてきたのだが、ここ最近は少しずつ自立し始めていたこともあって冷たい態度ばかり取られていた。

 

そんなことを思い出しながら少しセンチメンタルな気分になっていたが、どこかから聞こえてくる女子の黄色い悲鳴で正気に戻った。

 

『ど、ドロテ!?』

「な、なんだ」

「……血の匂い?」

「そ、それじゃあっ」

「いや誰かいるっぽいし、スルーでいいんじゃねぇか?」

「まぁ、そこまで深刻そうではなかったが……」

 

何やら部屋の中は荒れているようだが、聞こえてくる男女の声はどちらかといえばコミカルよりの反応なので危険性はないと判断しスルーする。

 

そして2階の1番奥、そこに生徒会室があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい。鍵はかかってないからそのままどーぞー」

『はい、失礼します』

『邪魔するぜ』

 

放課後の日課である書類整理をしてと、少し不慣れなノックで扉が叩かれる。新入生の子かな?なんて思いながら入室を促すと、2人の男の子の声が聞こえた。

 

─────この声……っ。

 

黒髪の礼儀正しい男子が入ってきて、それに続いて両手にジュースを持ったアロイスくんが入室する。

 

「生徒会室へようこそ。リィン・シュヴァルツァーくん。それにアロイスくんも。改めまして、生徒会長のトワ・ハーシェルです」

「おう」

「あ、あの時の」

「えへへ、2週間ぶりだね。サラ教官の用事できたんでしょ?」

「はい。……というか、生徒会長だったんですね」

 

立ち上がり、姿勢を正したままのリィンくんに向かいたって自己紹介をする。私のことを生徒会長だと思っていなかったのか、びっくりしているようだ。

 

「アロイスくんは……何しに来たのかな?」

「園芸部終わったから遊びに来た」

 

いつの間にかさっきまで私が座っていた席に座ってたアロイスくんがそう言って無邪気に笑った。だが机の上には見覚えのない缶コーヒーといちごオレがある。どちらも下の売店で取り扱われているものだし、差し入れとして買ってきてくれたのだろう。

 

「それよりリィン」

「な、なんだ?」

「トワは飛び級じゃないからな?フィーより年上だし。当然俺らの年上だ」

「─────っ!」

「ふぇっ!?そ、そんなこと考えてたのリィンくん!?」

「いや、それはぁ……」

 

ニヤニヤと笑うアロイスくんの言葉に、咄嗟にリィンくんの方を確かめると露骨に顔を逸らされる。反応がそう思ってました。って言ってるようなものだよ!

 

……まぁ、内心仕方ないとは思ってしまう。なにせフィーちゃんの方が身長が少し高いし、達観しているというか、クールな子だから私より年上に見えてもまぁ……。納得はし難いけれど。

 

「いえ、その、すみません」

「あはは、大丈夫だし、そんなにかしこまらなくてもいいよー」

「そうだぜー」

「アロイスくんはもう少し敬おうね。先輩だよ?」

「あいあい」

「聞いてないよねっ」

 

イスの高さを勝手に調整し、適当な相槌を打ちながらいちごオレを飲み始めた。流石にリィンくんみたいな感じだと気持ち悪いけど、せめてもう少し年上扱いして欲しいものである。

 

─────というかいちごオレがアロイスくんのなのね……。

 

「イス低いんだけど……っと」

「おいアロイス、軋んでるぞっ」

「こ、壊れちゃうよぉ〜」

「やっべ」

「もうっ、本題に入れないよ!」

 

慌てて立ち上がるアロイスくんを精一杯睨みつけつつ、一呼吸置いて机の上に置いてあるあるものをリィンくんに手渡した。

 

「はいこれ、Ⅶ組みんなの学生手帳。ARCUSの説明とか色々と使えそうな部分を追加したから遅くなっちゃったの。ごめんね」

「いえ、そんな」

「トワの謝ることじゃねーだろ。仕方ねーんだろ」

「それはそうだけど……」

「リィン、俺のくれ」

「待っててくれ……。これだな」

 

ひとつうなづいたリィンくんが学生手帳の詰められた小箱からアロイスくんの物を取り出し、手渡す。

 

手渡されたそれをパラパラと流し読みし、追加部分である新型の戦術オーブメントの取扱説明書やアーツの詳細、Ⅶ組の特別カリキュラムに向けた通常よりも多めのメモスペースを通過して止まった。

 

「いやぁ、ARCUSの説明助かるわー。ENIGUMAとは勝手が違いすぎて困ってたんだよ」

「ほ、本当?」

「リィンも見てみろよ」

「あぁ」

 

使えるアーツは少ねぇのか。とアーツ一覧表を見てかポツリと呟くアロイスくん。先程とは打って変わって真面目な様子で、ARCUSと生徒手帳を見比べている。

 

「これは……わかりやすい上に、不調時の簡単なトラブルシューティングの仕方まで。すごいな……」

「だろ?」

「えへへ」

 

感心したようなリィンくんの姿に、思わず嬉しくなってしまう。いや、サラ教官の頼みだったから慣れない中作ってみたものだったけれど、こうして役に立つと言われて嬉しくないわけがなかった。

 

「頑張ってよかったぁ」

「……トワが作ったのか?」

「うん、そうだよ。サラ教官に頼まれたから」

「普通これって教官の仕事だろ」

「サラ教官……」

 

2人の中でサラ教官の株が下がったのか明らかに残念そうな顔をしている。

 

流石に私のせいで入学して数週間で担当教官の評価が下がるのはいただけない。少しフォローの一言を……。

 

「ほら、サラ教官っていつも忙しそうだし。それに、他の教官の仕事を手伝うこともあるから、今更って感じかなぁ」

「いやどうなんだよ」

「いい人なんですね……とてつもなく……」

「それに比べて」

「あの人は……」

「……あ、あれ?」

 

サラ教官のフォロー作戦はなんだか失敗してしまったようで、2人の反応は芳しくなかった。

 

「それで教官とかマジかよ」

「正直、少し思う……」

「どーせ寮戻ったって酒飲んでんだしこんくらいできるだろ」

「そこまで忙しそうな姿、1度も見た事がないもんな」

 

─────というか、もしかしてだけどすでにサラ教官の評価って結構低め……?

 

吐き捨てるアロイスくんに頭を抱えるリィンくん。そんなふたりの姿に、普段のサラ教官に対して疑問を抱かずにいられなってしまった。

 

 

 

 

 

 

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