痕の軌跡   作:オサシミの化身

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ついに閃の軌跡IVクリア……っ。ここまで、長かった……っ!

あとは創と黎と黎Ⅱと界かぁ。FCのリメイクも出るんだよね。

……先は長いなぁ…………。



4月のとある夜

 

 

 

Ⅶ組全員分の生徒手帳を受け取った俺とリィンは、差し入れに買った微糖の缶コーヒーを微妙な顔をするトワに渡して寮へと戻った。

 

寮ではリィンがエリオットとガイウスと待ち合わせをしていたのか、エントランスで少し雑談をして別れる。キルシェへ飯を食べに行くそうだ。俺は階段をのぼり二階にある自室、リィンのお向かいの部屋へと入り、銃の入ったレザーケースを置いて速攻で制服を脱ぎ捨てる。

 

「あー、楽になった」

 

これまでこういった制服を来たことのなかった俺にとって、士官学院の制服はとにかく肩がこる。ブレザー自体は戦闘服としても使えるように柔軟性があって軽い素材でできているが、着慣れないワイシャツとネクタイが俺にはダメだった。

 

脱ぎ捨てたジャケットとシャツをハンガーにかけ直しつつ、タンスから適当なTシャツを取って着る。ズボンは履きなれたカーゴパンツ。靴もブーツからスニーカーに履き替えた。

 

これが俺のくつろぎスタイル。マキアスとかエマとかユーシスとか、割と夜まで制服姿のままだと言うが、俺には到底耐えられそうにない。

 

そんなことを考えながらベットに横になり、手持ち無沙汰で無性に生徒手帳を開いて眺めていると、誰かが扉をノックした。

 

「はーい、開いてるから入っていいぞー」

『そうか、邪魔するぞ』

「邪魔するなら帰れー」

「なんでだっ」

 

入ってきたのは、まだ制服をきっちりと着用したマキアスだった。

 

「どうした?なんかあったか?」

「あぁ、今日の帝国史の授業中、頭を抱えていただろう。大丈夫かと思ってな」

「あー、実は微妙にわかってないことがあったりなかったり」

「やっぱりな。今時間は大丈夫か?」

「大丈夫だけど……、えなに、教えてくれんの」

「当たり前だろう」

 

驚いてマキアスの方を見ると、たしかに帝国史の教科書と何らかの本を小脇に抱えている。

 

「てっきり、急に煽られたのかと」

「そんなに性格が悪いように見えるか」

「ユーシスとラウラとも仲良くしてるならなぁー」

「うぐ……」

 

ここで教えてもらうのもなんだし、エントランスにでも行くか。そう思いベッドから起き上がり、クロスベルから持ってきた小型の導力冷蔵庫からコーラの缶を数本取りだした。

 

「んじゃ頼むわ。下行こうぜ」

「あぁ、任せてくれ。……それと、それは?」

「ベルコーラ。クロスベルの缶コーラだ。眠気覚ましに飲みながらやろーぜ」

「コーヒーでもいれようかと思ったが、せっかくだし、ひとつ貰おうかな」

「ひとつと言わずじゃんじゃん飲めよ。箱で買ってあるから」

 

部屋の隅に積み上げられた無数のダンボールの山に目配せしつつ、マキアスにひとつ手渡す。

 

短くありがとう、とか返す姿は非常に素直なのだが、どうしてああもユーシスや貴族が絡むとダメになるんだか……。

 

「よろしくな副イインチョ」

「任せたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────と、言うわけだ」

「ほぉー、省略されてたそこにそんなに話があったんだな」

「僕たちにとっては日曜学校で学んでいる基礎的な部分だからな。あえて補足されなかったんだろう」

「取り上げてはくれてたが内容に触れてくれなかったし、なんの事だかわかんなかったんだよ」

 

そういうとマキアスが一冊の本を差し出す。

 

「この本に、他の小噺と共に記載されているんだ。古文の時にも触れる話もあるから、目を通しておくといい」

「まじ?助かるわー」

 

アロイスが本を受けとり感謝の念を込めて拝むと、明らかにふざけているであろう彼の姿にやめてくれと露骨に嫌な顔をする。 そしてしっしと手でこちらを払う仕草をした後、2本目のコーラを口にした。

 

「ぷはーっ」

「随分な飲みっぷりじゃねぇーか」

「あぁ、炭酸は普段口にしないが、こういうのも悪くないな」

「慣れてねぇなら無理するなよ」

 

気持ちよく喉を鳴らして飲むマキアスにアロイスが少し不安になっていると、エントランスに誰かが降りてきた。ふたりが揃って視線を向けると、そこにはしっかりと制服を着用したエマがいた。

 

「あれ、アロイスさんにマキアスさん」

「エマくんか」

「おっ、イインチョじゃん。今日もおつかれー」

「お疲れ様です。おふたりでどうしたんですか?」

「アロイスに帝国史の補足をしていてな」

「大まかなことは勉強してきたけど小噺は知らねぇんだよなぁ」

「なるほどです」

 

不思議そうにしていたが、コーラの缶を置いて帝国史の教科書を見せるマキアスとソファに項垂れる俺を見て微笑むと、ゆったりと歩いてアロイスの横に腰掛けた。

 

「微力ながら私もお手伝いしますね」

「よっしゃ」

「エマくんもこの歴史知らずに教えてやってくれ」

「クロスベル出身なら仕方ないですよ。これから学んでいけばいいんですから」

「あっ、マキアスもういいぞ。じゃあな」

「なんでそうなるっ!」

 

そりゃエマの方がいいし、と口を尖らせるアロイス。その横でエマは苦笑し、向かいでマキアスが三本目のコーラを力強く開封する。

 

その姿を見てエマも机の上に置いてある1本を手に取った。

 

「これは……コーラですか」

「おう、クロスベルから持ってきたやつだ。エマも1本どうだ?マキアスに飲まれるくらいならエマに飲んで欲しいし」

「おい」

「あはは……。炭酸は苦手なんですけど、1本頂きますね」

「私も貰うね」

 

遠慮がちに缶を手に取り、不慣れそうにプルタブに指を掛けたエマとコーラを飲んで一息ついたマキアスが突然聞こえた声に驚き体を跳ね上がらせた。

 

「ひゃぁ!?」

「うおっ、フィー!?」

「やっほ」

「おう、フィーも来たのか」

 

のんびりと手をふるアロイスに、驚いてエマとマキアスが後ろへと振り返ると、2人からは角度的に死角になる所にフィーがたっていた。

 

フィーもまたブレザーを脱ぎ、ワイシャツとスカートにスニーカーとラフな格好だ。リボンをしていない胸元がかなり開けていたり、スカートもホックはとめてあるが、チャックは閉めていないようだ。

 

「何やってるの?」

「べんきょー」

「じゃあね」

「まてまて、お前も付き合えよ。苦手だろ?」

「べつに?困ってないし」

「こっから先困るんだよ。コーラやるから付き合えって」

「もーらい」

 

呆気にとられる2人をよそに、ひょこひょこと足取り軽く近づいてきたフィーがコーラの缶を手に取り、豪快に封を開けた。

 

小さく喉を鳴らしてコーラを飲むフィーを見て、突然アロイスが席を立ち、フィーの横に移動する。

 

「ったく、胸元もスカートもしっかりしろよ。はしたないだろ」

「………っ!?」

 

そのまま少し屈んですっと手を伸ばしたかと思えば、やけに慣れたような手つきで、まずフィーの開けた胸元を直し、スカートのチャックを閉めた。

 

続いてしゃがみこみ、スカートのシワを伸ばすようにぱっぱと払った。そして、これでよし、なんて呟いて立ち上がったアロイスの横顔をフィーのビンタが襲った。

 

「いってぇ!?」

「……ん、流石にライン越え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてぇ。マキアス助けてくれ」

「お前が悪い」

「しゃーねーだろ……」

「何がだ」

 

続いてフィーのパンチを腹に貰って倒れ込んだ俺を心配したマキアスが近づいてきたかと思えば、蔑むような目でこちらを見下してきた。

 

「流石にあれはどうかと思います」

「残りのコーラ、ぜんぶ私のだから」

「すまねぇって……」

「というかやけに手馴れてたし」

 

明らかに怒っています、という表情のエマの横で、心做しか顔が赤いフィーが机の上のコーラを全て自分の手元へと手繰り寄せた。

 

「それは、ほら。なんか、あれだよ。モモとか、フランとか、シズクちゃんとか、な?わかるだろマキアス。わかるよなマキアス。わかるって言えコラ」

「誰か知らないし圧が強いし顔が近い!あとわかるか!」

 

段々とゴミを見るような目をするようになるエマに、立ち上がって必死に弁明をしようとする。だが逃げられないように肩を組んだマキアスは全力で離れようともがきながら俺の言葉を否定するばかりだった。

 

「ちなみに誰なの?」

「妹と友達と先輩の娘さん」

「だからってあんなに手慣れるか……?」

「妹さんはともかく、友達のフランさんはどうなんでしょう……」

「あいつん家泊まると一緒の部屋で寝るだろ?んでもってあいつ警察だし、制服着替えてんの見てたし手伝わされてたから……」

 

─────フラン、時間大丈夫か?

─────遅刻だよぉ!アロイスくんそこのスカート取ってぇ!

─────俺がいるのに脱ぐんじゃねぇ!はいこれスカート。

─────ありがとっ。あっ、ネクタイもお願い!

─────ネクタイ結べねぇのかよっ、やってやるからかせ!

 

「ってこともあるだろ?」

「お前は何を言っているんだ。いや、何をやっているんだ」

「てか、ナチュラルにお泊まりしてるし」

「異性の友達どころか同性でもそんなことはないと思いますけど……」

 

ギルドの支部があるクロスベル市の東通りに住んでいた1つ年上の友達であるフランは、とある依頼で知り合ってから仲が良く、家族ぐるみの付き合いがあった。そういうこともあって遅くまで支部にいた日は泊めさせてもらっていたのだ。

 

まぁその後、その話を聞いたフランの姉から追いかけ回された挙句に旧市街で不良に絡まれることになったのだがそれはそれ。

 

「それにしても警察か」

「クロスベルには軍とかないからね。武装してるのは治安維持の警察と国境警備の警備隊、あとは遊撃士だけ」

「お、よく知ってるじゃんかフィー」

「それぞれ“マヌケ”と“貧弱”と“剣聖頼り”って言われてたから」

「……何も言い返せねぇ……」

 

コーラを飲みながらあっさりと酷いことを行ってくれるフィーに項垂れつつ、否定できないという事実に情けなくなる。

 

「遊撃士はわかりましたけど」

「警察は帝国で言う軍のようなものって事でいいのか?」

「どっちかといえば領邦軍とかTMPかな。装備は一般人レベルで貧弱だけど」

「ならば警備隊が軍と言ったところか」

「戦車も飛行船も持てないから装甲車だけだっけ。あと色々黒い噂もあるよね。賄賂受けとったら犯罪者も通すとか」

「まぁ警察やら警備隊が情けないのは確かだが、それは帝国と共和国が犯罪を見逃すようにしたり、過度な武装をしないように圧かけてるからだからな?」

「小国だから逆らえないもんね」

「うるせぇ」

 

実際にはそれぞれの派閥の議員が武装を禁止してるらしい。警備隊はともかく、警察に至っては導力銃ですら拳銃タイプに規制されてんだから。

 

複雑そうな顔をするマキアスに気にすんなと一言言ったところで、気を取り直すかのようにエマが咳払いをひとつ。

 

「それで、シズクちゃんにもそういう不埒なことを?」

「不埒とかいうんじゃねぇ。エマもフィーも怖いって」

「だが、呼び方的に幼い子じゃないのか?」

「そりゃそうだけど」

 

全員からの冷たい視線に思わず背筋が伸びた。あまりの圧に回らなくなった口を必死に動かす。

 

「シズクちゃんは、まぁ色々あって、助けが必要だったんだ」

「助け……?」

「なにか怪我とかか」

 

目を瞑れば、聖ウルスラ医科大学。ウルスラ病院と呼ばれるその一室で、ひとりで過ごす濃紺色の髪の少女の姿がはっきりと浮かび上がる。

 

「小さい頃に、目がさ、見えなくなっちゃったんだよ」

「え」

「あ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「導力車の爆発事故に巻き込まれてさ……」

 

目を伏せたアロイスさんに、私はかける言葉を失った。

 

いや、私だけじゃない、マキアスさんも、フィーちゃんも、気まずそうな顔をしていた。

 

「あーいや、そんな顔するなよお前ら。シズクちゃんは健気に前向いてんだから、聞いただけのお前らが落ち込むなって」

「それはそうかもしれないが……」

「でも……」

「いーっていーって。俺が勝手に話しただけなんだから気にすんな」

 

そう言って、少し苦い顔で笑うアロイスさん。

 

「それに、さ。これって俺の後悔の方がでかいんだよな」

「後悔、ですか」

「そう、後悔」

 

フィーちゃんの手元からコーラを手に取り、封を開けながらアロイスさんは話した。

 

「目の前にいたのに助けられなかった。人より頑丈な俺が、盾になればよかったんだって、そんな自分勝手な後悔だ」

 

そのままコーラを一気に飲み干し、ドカりと大袈裟にソファへと腰掛けた。

 

人より頑丈。たしかに、アロイスさんの身体強度は目を見張るものがあった。まだ2週間の付き合いとはいえ、そう思うほどに。

 

印象深いのはオリエンテーリングの時だ。ラウラさんの大剣を頭部に受けたり、サラ教官の銃撃を受けたりしているのにケロりとしていた。

 

「はいっ、湿っぽい話は終わり!エマ、マキアス、続き教えてくれよ」

「あ、あぁ」

「えっ、ええっと、どのお話でした?」

「ドライケルスがノルドで過ごしてた時のやつでさ」

「この本の87ページから始まるやつだな。それは……っ!」

 

手を叩いたアロイスを見て気を戻し、マキアスさんが机の上に広げられた本の目次を確認してページを開こうとした矢先、突然目を剥いて口を抑えた。

 

「ん、ぐぅ」

「なんだゲップか?我慢すんなよ」

「あっ」

 

げっ……。おくびを催し、必死に噛み殺したのだろう。不自然な動きをするマキアスさんの背中をアロイスさんがとんとんと叩いた。

 

「や、やめ、やめろ……っぐ」

「げぷっ」

「ほら、フィーを見てみろ。あーやるんだよ。できるかなぁ」

「幼子扱いしないでくれるか……っ」

「フィーちゃん、はしたないですよ」

「えー」

 

うっとおしそうなマキアスさんに絡み続けるアロイスさんの2人をよそに、私の横でフィーちゃんもまたおくびする。

 

そして、みんなの様子を見ていて、ついに私にも限界が来た。口を開けば今すぐにでも出てしまうだろう。

 

─────さすがに恥ずかしすぎます!

 

「アロイス、君は」

「俺は飲んでもあんまし出ないんだよな。慣れてっからかな」

「関係あるのか……?」

「知らね。んでフィー、そろそろ飲むのやめとけ」

「ん」

「エマくんは……あっ」

「んー?」

「─────けぷっ」

 

─────あっ。

 

反射的に口元を抑えて俯く。だが横からはフィーちゃんがこちらの顔を覗き込んでおり、チラリと前を見るとマキアスさんは律儀に顔を逸らしているが、アロイスさんはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。

 

「あーその、聞かなかったことに……」

「エマ、気にしない気にしない」

「そーだぜ。気にすんなよ〜」

「う……」

 

いやらしい笑いを浮かべる2人と違い、こちらを気遣うようなマキアスさんの反応がすこしありがたい。だが、もう限界だった。

 

「もうっ、部屋に戻ります!」

「お、おう」

「あ、うん」

「その、そんなに気にするなよエマくん」

「気にしてません!……っ」

 

声を荒らげたからか、言葉尻にもう一度、出てしまった。

 

エントランスを包み込んだなんとも言えない空気に耐えられず、私は無言で部屋への階段を駆け上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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