魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
無数の黒晶花が舞い踊る中、黒い触手が緑の大地を引き裂いて、煌めく白刃が黒い触手を斬り裂く。
同時刻、黒い巨大芋虫と戦闘しているレイドパーティは、突如狂暴化した芋虫相手に苦戦を強いられていた。
「くおおおおっ!?」
「久世、無事か!?」
突如触手を駆使し始めた芋虫の動きに対応しきれず、タンク役をしていた眼鏡にスーツ姿の男が、鞭のようにしなった触手で袈裟斬りにされてしまう。
それを守るべく筋骨隆々の大男がカバーに入り、迫り来る無数の触手を三本の剣で弾いていく。
だが、触手全てを捌ききることは難しく、大男の体にも次々と細かい傷が刻み込まれていく。
「お二方、大丈夫でございますか!? ここからはおねねさんも時間制限付きで本気出すでございますよ!」
見るに見かねたねねが魔法少女へと変身し、二刀流で触手を切り刻んで男達を助け出す。
だが、急場を凌いだことに胸を撫でおろす暇はない。レイドパーティの隙を衝いた芋虫本体は、既に丘を越えた先にある拠点を目指して動き出していた。
「おお、すまん黒部! オレとしたことが不覚をとった。助かったぞ!」
「それよりも見ろ、クロウ。アイツ、私達を無視して丘に登り始めた。ねね、足止めできるか!?」
苦痛に顔を歪めた眼鏡スーツの男が、ぱっくりと開いた傷口に回復役をかけながら丘を指差す。
「そう仰るでございますがね、おねねさんもちょーっと厳しい感じなのでございますよ」
芋虫本体はレイドパーティを無視して移動しているものの、その体から生えている無数の触手は常にパーティを狙って襲いかかってきている。
守りの要であるスーツの男が大怪我を負っている現在、パーティがこの場に留まれているのは、変身したねねが獅子奮迅の動きで触手を切り刻んでいるからに他ならない。
だが、それでも戦場の維持がえいやっとの有様だ。
「おーおー、柄にもなく苦戦してんね、ご三方!」
そんな負の均衡を破るべく、丘を駆け下りる勢いそのままにリオが突撃。変身しながら芋虫の顔面に槍を突き刺し、更にそのまま流れで胴体まで一気に引き裂く。
だが、それでも芋虫の進撃は止まらない。拘束アンカーの援護射撃を触手で引きちぎり、拠点目指してなおも真っすぐに突き進むだけだ。
「って、いや、マジか。ウチの攻撃全然効いてないじゃん」
リオはその姿に驚きながらも、レイドパーティに駆け寄って、怪我をしているスーツの男と大男に回復ポーションを投げ渡す。
「おお、桃園か! お前、セブンカラーズ首になったんじゃないのか!?」
「クロウのおっさん、今そんなこと聞く? ウチは後方支援に回ったナナミの代理。とりあえず、ウチは久世さんカバーしつつ芋虫の動きとめる。あの芋虫、拠点にできたダンジョン入り口目指してるらしいからさ」
「桃園、ダンジョン入り口とは意味不明な発言だ。ここにそんなものはないはずだが……」
参戦したリオの助力で触手の圧を押し返す合間に、スーツの男が眼鏡をクイと動かしながら後方へと振り返る。
そして、そのまま一気に顔面蒼白となった。
「そういう訳、ここ実質地上防衛の最終ラインだから。あ、でも久世さんは無理そうなら一度退いていいや」
「いや問題ない。既に回復薬は塗布してある。痛みを無視すれば80%のパフォーマンスを発揮可能、ノープロブレムだ」
スーツ姿の男がクイと眼鏡を動かし、盾代わりのビジネスバッグを構えなおす。
「リオ、リオー、おねねさん思うのでございますが、ここで食い止めようとしても既にジリ貧ではないかと思うんでございますよ。こちらも動きを変えてみてはいかがでございましょ?」
襲ってくる触手を切り刻みながら、ねねがちょいちょいと手を振って至極当然な意見を提案する。
「大丈夫、この後助っ人が来る予定だから。あの人で無理ならエリュシオンが来てくれるのを祈るしかないし。ほら、おねねさんも結構手傷受けてるでしょ、今のうちに治しときなー」
ねねの動きが僅かにぎこちないのを察して、リオが回復役のボトルを投げ渡す。
「ちなみに、その方はおねねさんより強い感じなのでございますか?」
「まあ……強いよ」
「あれま、それはびっくり仰天でございますね。おねねさん、ちょっとやる気が出たでございますよ」
ぱあっと表情を明るくしたねねは、スキップするような軽い足取りで触手を斬り刻み、更に芋虫本体にも刃を突き立てていく。
「はぁ、マジで呆れる。おねねさん相変わらずバーサーカーじゃん。しっかしさ、これだけ斬ってやっても動き鈍んないの困るよね、これ止められんのかなホントに?」
「それはオレが聞きたいところだぞ、桃園! 現状、俺達は足止めすらできていない! 拘束アンカーの設置されている丘の上まで行かれたら、後方援護すら期待できなくなるんだぞ!」
大男が巨体に似合わぬ繊細な魔法剣三刀流で触手を斬り裂き、更に芋虫本体に向かって炎の剣を発射する。
炎の剣が芋虫に直撃すると同時、芋虫が空気の抜ける音のような絶叫をあげ、全く緩まなかった進撃を止めた。
「お、流石クロウのおっさん! 今のメッチャ効いたみたいじゃん!」
「おおっ!? 違う! これはオレではないッ! 強烈な気配、一体何者だ!?」
手に持った氷と雷の魔法剣を構えつつ、丘とは逆を向く大男。
芋虫の体を後ろから前へ食い破るように黒晶石が突き出し、黒晶石に体を蝕まれた芋虫が絶叫しながら地面に体を打ち付ける。
更に芋虫から突き出した黒晶石はそのまま地面へと侵食を進め。瞬く間に芋虫の体を地面へと縫い付けてしまった。
「黒晶石の急侵食!? まさか新手が居るのか!?」
スーツの男が警戒する中、姿を現したのはピンク髪の少女。
その素顔は黒晶石の仮面で隠され、体は服の上から闇のような黒晶石のドレスをまとっていた。
「これはおったまげたでございますね、このタイミングで怪人さんのご登場でございますか」
「いや、警戒しなくても大丈夫。あれはウチが言ってた助っ人のラブさん。いやぁ流石だね、ウチ等じゃ止められなかった相手を一発でノックダウンじゃん」
「それだけ黒晶石の侵食が進んでしまったと言うことです。私が戦場のキャスティングボードを握れる状況は、あまり歓迎できることではありませんね」
地面に突き刺さった黒晶石を渡り飛ぶようにやってきたラブリナが一同の前に着地し、それを追いかけるようにミコトと設楽がやってくる。
「ラブリナー! 置いていくのは酷いのです! モンスター、そこら中に一杯居るのです!」
「申し訳ありません、ミコト。彼等ではあの大型モンスターを止められないようだったので、私が先行する必要があると判断しました」
言いながら、ラブリナは杖剣に黒晶石を纏わせて大剣に変化させると、触手ごと芋虫の本体を斬り裂いていく。
「おお、黒晶石を制御できるのか!? ……桃園、彼女は本当に味方なんだよな?」
「勿論、戦い方は禍々しいけど味方だよ。ミコっちゃん、あの眼鏡スーツのおっさん怪我してるから治してあげて。後、後ろの人が設楽さん?」
「なのです! ルミカの姉の設楽なのです!」
スーツの男の傷を治しながら、ミコトがリオにそう教える。
「ダン特の設楽だ。ルミカは那由他会の信徒と共にこのモンスターの黒晶石に取り込まれている。救出の為、無理矢理にでも君達に協力させて貰う」
「勿論、私もメイ達を助けるために協力するのです!」
「あれま、なんだか一気に賑やか華やかさんになったでございますねぇ。人数も増えたことでございますし、ここらでひとつ大逆転といってみるでございましょ」
ようやく芋虫を止めることに成功し、さあここから反撃だと意気込むパーティ。
『くふっくふっ、そんなことは拙者が許しませんぞ~』
そんな一同に水を差すように、怪しげな少女の声がこだまする。