魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第12話 高慢王4

 巨大黒晶石と化した芋虫が要塞のように鎮座し、人々が協力して怪人に立ち向かう歪な集団戦。

 それを丘の上から遠巻きに眺める影一つ。

 

「あらあら、思った通りの展開ですわ。深き闇は闇の中から生まれない、眩い光の影にこそ真に深い闇は生まれる。だからソーニャは魔王になれない。闇が闇の深さを求めるそこは水面、水面で波を掻き分けても光届かぬ海底には至れませんの」

 

 喪服の黒猫少女クライネは、脈動するような黒晶石のサナギに眠たげな眼差しを向けてそう呟く。

 

「さあ、おいでなさいエリュシオン。わたくしに見せてくださいな、貴方の輝きが堕ちたる輝きを払い、楽園(エリュシウム)の扉に至るという証を」

 

 そう言うクライネの視界の遥か先、巨大芋虫であった黒晶石のサナギを食い破り、一人の少女が姿を現す。

 

「不思議ですわ。貴方が楽園の扉に至るということは、わたくしの敵となるということ。なのに、わたくしは貴方の勝利を確信し、そのことを喜んでいる。まるで、待ち望んだ日が来たかのように」

 

 先程よりも激しい戦闘が始まったレイドの様子を見届け、クライネはその身を一輪の黒晶花へと戻して姿を消す。

 残された黒晶花が風に吹かれて消え去る中、人々の悲鳴と怒号を斬り裂いて銀の天狼星が駆け抜けた。

 

  ***

 

 戦闘で荒れ果てた平原。

 苦悶の叫びをあげるソーニャが芋虫の体内へと引きずりこまれ、それと入れ替わるように何者かが芋虫の体を食い破ろうとしていた。

 

「なんだこれ……ラブさん! これ何が起こってんの!?」

「私にも正確なことはわかりません。恐らくですが……意図せぬ形で魔王が成ったのでしょう」

「メイ達の願いを歪めて叶えたソーニャも、自分の願いを歪めて叶えられたのです!」

「ハッ、皮肉が効いてんじゃん! なのにウチ等にとって全く状況が好転してないのが笑える! いや、全く笑えんけど!」

 

 リオが槍を構えて警戒する中、新たなる魔王が芋虫の体を食い破って姿を現す。

 その姿は黒い淫靡なドレスに黒晶石で作られた翅。クリーム色の髪をしたその少女は、リオ達もよく知る少女だった。

 

「ルミカ、なのか……?」

「冷静になりなって、設楽さん! クロノス社社長の件、ダン特にも情報行ってるでしょ!? あれ、ルミカを模したモンスターかもしんないから!」

 

 愕然としている設楽を鼓舞するリオの前、ルミカの顔をしたその少女がニヤリと笑う。

 

「いいや、僕様は正真正銘ルミカだ。そう、僕様こそは黒晶石の魔王が一人、ルミカだ!」

 

 黒晶石の翅で羽ばたき、一同の前に降り立ったルミカが歌う様に宣言する。

 羽ばたく翅の余波で大地が震え、ルミカを中心とした大地に次々と黒晶花が咲き乱れていく。

 その異様な光景は、彼女が魔王であると信じるに値するものだった。

 

「正気に戻れ、ルミカ! お前がなりたい魔法少女はそんな代物じゃなかっただろう!?」

「よく言うじゃないか、姉様ぁ! 僕様が何度も守ってやるって言ってるのに、要らない要らないって何度も拒んだくせにさぁ!!」

 

 ルミカが胸の前で拳を握ると、地面に咲き乱れていた黒晶花が怪人の姿へと変じていく。

 

「だからさ、僕様もうやめたんだよ。魔法少女みたいに不安定で信頼できないものじゃなく。もっと強く! もっと強制的に守ってやるんだって!」

 

 言うと同時、ルミカの姿が跳ね消える。

 

「っ! リオ、ミコトの盾に!」

 

 設楽を庇う様にラブリナが大剣を構え、黒いオーラを纏ったルミカの爪を受け止める。

 黒晶石の大剣が砕け散ってラブリナが弾き飛ばされ、その余波が周囲の人間を斬り裂いていく。

 

「っうう! ミコっちゃん、無事!?」

「リオのおかげで無事なのです! ただ、他の皆は満身創痍なのです!」

 

 衣装(ドレス)をズタズタに斬り裂かれたリオは、痛みを堪えて周囲を見回す。

 レイドパーティも、設楽も、攻撃の余波だけで大ダメージを受けていた。たった一度の攻防でこの有様だ。

 

「見ろよ姉様、皆こんなにも弱い。だから強い僕様が管理してやる必要があるんだ」

 

 ルミカは自らの足元に転がっている大男とスーツの男を掴み上げ、芋虫の残骸である黒晶石の繭へと投げ入れる。

 男達は黒いプールに飛び込んだように、ずぶずぶと黒晶石の中へと取り込まれてしまった。

 

「ふ、二人が黒晶石に取り込まれてしまったのです!」

「安心しな、死んじゃないさ。僕様が管理する黒晶石の中で安全に眠ってもらうだけだ」

 

 言って、次の狙いをミコトに定めるルミカ。

 瞬間移動のようにその姿が消え、瞬く間もなくミコトへと手を伸ばす。

 

「おーっと、おねねさんが居るうちはそうはいかないでございますよっ!」

 

 そこにねねが割って入り、二本の刀を十字に交差させてルミカの攻撃を受け止めようとする。

 だが、ルミカはねねの刀を軽々へし折り、そのまま土手っ腹に拳を打ち込んだ。

 

「かはっ!?」

「ねね、お前でも足りないんだよ。そんな弱さじゃ今の僕様に太刀打ちなんかできない。だから、お前も僕様に守られてろ」

 

 ねねが地面に叩きつけられた衝撃で黒晶花が舞いあがる中、ルミカがねねへと手を伸ばす。

 しかし、割って入ったラブリナが杖剣でルミカを弾き飛ばし、その隙にねねの手を引いて助け出す。

 

「ピンク髪の方、助かったでございます!」

「っ! 邪魔するなよ、ラブリナっ! 強い奴が弱い奴を守る、僕様の想いを肯定して力を与えたのはお前だろ!」

 

 ルミカは憤りながら黒晶石のランスを生成し、ラブリナへと連続突きを繰り出す。

 

「そうでしたか、ならば余計に否定しなければなりません。私は悪しき自分を正す、そう決めています」

 

 対するラブリナは手にした杖剣を黒晶石の大盾へと変化させ、連続突きを受け止める。

 ラブリナは大盾を動かしてルミカの視界を一瞬遮ると、その隙にねねをリオへと投げ渡した。

 

「加えて、貴方の庇護は高慢です。独善で他者の在り方を歪めるそれも、私は否定しましょう」

 

 身軽になったラブリナが杖剣でルミカに斬りかかり、

 

「ふん、どいつもこいつ口だけは御立派だな! 弱い奴等が群れても何も守れない、庇護できないんだよ。大人しく庇護されろ、それが幸せって奴さ!」

 

 それを見たルミカが黒晶石のランスを横に一薙ぎ、空中で払いのけられたラブリナが大盾諸共に黒晶花の花畑を跳ね転がった。

 

「ルミカ! そんなものが人にとって幸せであるものか! 私達は強いから守るんじゃない、守りたいから戦うんだ! 違うか!?」

「姉様、それは今の姉様から見た主観だよ! メイとか言う奴も言ってただろ! 安全な鳥籠だけが自分の世界なら、それは安定していて安寧で幸せなんだ!」

 

 設楽の足元で咲く黒晶花がざわめき、黒い蔓へと変化してその足を絡めとろうとする。

 更にその隙を衝いて襲ってくる怪人達。すかさずリオがフォローに入り、足をもつれさせた設楽が這う這うの体でその場を凌ぐ。

 

「くそっ、なんてことだ! このままでは説得すら満足にできないぞ!?」

「そもそも、本物かどうかの問題も残っているのです!」

「そこからか! ああ、もう、これじゃ埒が明かんし! ラブさん、ウチ等が死ぬ気で時間稼ぐから、先に芋虫の中身を確かめて!」

「……リオ、できるのですか?」

「できるかどうかじゃなくて、やるしかないじゃん。ラブさんがいくら強くたって、一人でできることには限りがあるんだし、ウチ等もこのままおんぶ抱っこじゃいかんでしょ!」

 

 言いながら、リオがルミカに向かって突きを繰り出し、

 

「どの道、本物のルミカかどうか確かめないことには、本気の剣筋で挑めないでございますからねぇ!」

 

 その逆方向から、ねねが折れた刃で斬りかかる。

 

「僕様相手に時間稼ぎ? ……ふん、高慢なのはお前達の方じゃないか」

 

 だが、迎え撃つルミカは二人の攻撃を素手で受け止め、そのまま武器ごと二人を放り投げた。

 

「くはっ!? マジで滅茶苦茶じゃん。流石は黒晶石の魔王、やりたい放題かよ!?」

「リオ、諦めるには早いのです! 傷は私が治すのです!」

 

 そこにすかさずミコトが駆けつけ、リオの小脇に抱えられつつその傷を癒していく。

 

「…………」

 

 一同が奮戦する姿を遠巻きに眺め、自らが戦列を離れて大丈夫なものかと迷うラブリナ。

 

「ラブリナ、彼女達を信じて動いてやってくれ。私からも頼む」

 

 そんなラブリナの背中を設楽が押して、自らもルミカへと挑みかかっていく。

 

「……そうですね、セレナ。彼女達の奮戦を信じられないのなら、私はルミカや他の私の欠片達を否定できなくなりますね」

 

 ラブリナは自らの胸に手を当ててそう呟くと、取り込まれたルミカの安否を確かめるべく、黒晶石の繭となった芋虫へと駆け出す。

 

「ここからは私も相手になるぞ、ルミカ!」

 

 その姿を横目で確認した設楽が、真っすぐにルミカへと向き直って殴りかかる。

 それを悠々と躱したルミカは反射的に設楽を殴り返そうとするが、姉を傷つけるのを躊躇い、反撃を止めて回避するだけにとどめてしまう。

 

「ばっかじゃないか、姉様ぁ! 素手で僕様に殴りかかって何ができるんだよ!?」

「お前を助ける時間稼ぎができる!」

 

 設楽が作った僅かな隙を活かすべく、体勢を整えたリオとねねが再び襲い掛かる。

 

「そういう訳、もうちょい遊んできな!」

「チャレンジ精神が滾るでございますねぇ。ねねさん、わくわくさんでございますよっ!」

「お前等っ! 僕様の気も知らずに無茶ばかりしやがってさぁ!」

 

 ルミカはリオの槍を掴んでリオごと放り投げ、その勢いを利用した回し蹴りでねねを迎撃する。

 地面を跳ね転がったリオが素早くミコトのフォローに入り、空中で身を捻ったねねが周囲の怪人を斬り裂きながら再度ルミカへと迫る。

 だが、ルミカは迫るねねをリオに向けて蹴り飛ばし、ねねと衝突したリオが体勢を崩して倒れこみ、ついでに後ろにいたミコトがその下敷きになった。

 

「ぬがーっ!? 重いのですー!!」

「お前等、何か勘違いしてるんじゃないか? お前達が戦えてるように見えるのは、僕様が身の程を教えてやるために優しく遊んでやってるからに過ぎないんだぞ」

 

 迎撃態勢の整わない三人を見下ろし、くだらないと鼻を鳴らすルミカ。

 

「……けど、それがお前等にとって過剰な自信になるんなら止める。一発で再起不能になるぐらいぶっ壊してやるよ」

 

 その手に黒晶石の結晶が集い、空間を侵食しながら禍々しく輝く黒いランスを生成していく。

 

「ふっ……」

「なにがおかしいんだよ、姉様。全員そろって絶体絶命なんだぞ」

「ああ、そうだな絶体絶命だ。……そう、いつも彼女が来るのはこのタイミングだと思っていただけさ。そして、彼女は絶対に遅れない」

 

 懐かしむように目を細める設楽の前、黒いランスから閃光が放たれる。

 それを迎え撃つように銀の閃光が走り、黒い閃光を斬り裂いて、更にはルミカまでもを弾き飛ばした。

 

「人の助けを呼ぶ声あらば、燐光纏いて私は来よう。悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン」

 

 白いレオタードのような戦装束(ドレス)に燐光纏い、銀のツインテールなびかせて、一同を守るように最強の魔法少女(エリュシオン)が戦場へと降り立った。

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