魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第12話 高慢王5

 よかった、なんとか間に合った。ただでさえ係員さんに捕まって遅くなっていたのに、ピンチになっている人達をあちこちで助けていたら更に遅くなってしまった。

 危険な場面に割って入れたことにひとまず安堵し、全く把握できていない状況に内心で冷や汗を流す。

 

 皆の前に立ち塞がっていた相手はどう見てもルミカちゃん。でも、服は魔法少女のものじゃなく、なんだか悪い幹部が着てそうなセクシー系になっている。悪堕ち的な奴なの?

 

「リオ、状況はどうなってるの? あれ、セブンカラーズの子だよね」

「詳しいことはウチ等もわかんない。多分、ソーニャとか言う奴の計画が変な形で成功した」

 

 平静を装ってリオちゃんに尋ねると、リオちゃんがそう教えてくれる。

 つまり黒晶石の魔王! ソーニャの目論見が歪んだ形で達成しちゃったんだ。だとすると、やっぱり最大の焦点はあの体が本物かどうかになってくる。

 私の直感だとクロノス社の社長さんの時と同じ偽物だけど、体を乗っ取られて使われていたメイちゃんの例もある。本物の体を使われているパターンも十分にあり得る。

 

「そう……。だとすると、容赦なく倒していいものでもなさそうだね」

「そうして貰えると助かる。今、ラブリナが黒晶石の侵食を弱めて芋虫に取り込まれた奴等を救出しようとしている。黒晶石の中身を確認できれば、あれが本物のルミカか否かわかるはずだ」

 

 設楽さんの言葉に、私は視線を滑らせて後方を確認する。後ろではラブリナさんが崩壊した芋虫の体を分解していた。

 結構な分解速度ではあるけれど、いかんせん相手は優に百メートルを超える巨大芋虫だったもの。中身が確認できるまで時間がかかりそうだ。

 

「わかった、私があのルミカの相手をして時間を稼ぐ。君達はラブリナのサポートをしてあげて」

「悪い、任せた」

 

 リオちゃん達が怪人を食い止めに向かったのを確認し、私は弾かれ地面に埋め込まれていたルミカちゃんへと視線を戻す。

 ルミカちゃんは私へ敵意に満ちた眼差しを向けながら立ち上がって来る所だった。

 

「相変わらず遅いお出ましだな、エリュシオン! お前が遅いせいで皆満身創痍、取り込まれた奴まで居るんだぞ」

 

 私に対する敵愾心を隠そうともせず、まずは小手調べと黒いオーラを纏ったランスで突きを繰り出してくるルミカちゃん。どうやら私に対しては問答無用らしい。

 

「自分で脅かしていた癖によく言うね」

 

 私はランスを裏拳で弾くと、ルミカちゃんの腕を掴んでひょいと横に放り投げる。

 

「っ! 僕様は脅かしてなんかいない! 逆なんだよ、誰かに脅かされないように僕様が管理するんだよ!」

 

 ルミカちゃんは猫みたいに空中で態勢を立て直して両足で着地。そのまま大地を蹴って再度私へと突撃してくる。

 私は周囲の燐光でランスチャージを受け止め、ルミカちゃんの表情を間近で確認する。その表情は真剣、でもコンテナの上で想いを語っていたルミカちゃんとは少し違う表情な気もする。

 

「それを脅かしているって言うんだよ。誰も君の管理なんて求めていない」

 

 間近で睨みあう中、ルミカちゃんは衣装の翅を震わせて、私の背後から鱗粉のような黒い光の粒子を連射してくる。

 私はルミカちゃんを見据えたまま、燐光でそれを全部打ち落とした。

 

「っ! 強い僕様が守ってやるんだよ! それの何が悪い!」

 

 想いは正しいはずなのに、歪みきったその言葉。

 それが黒晶石によるものなのか、ルミカちゃんが抱いていた気持ちが少しずつ歪んでしまった結果なのか、どっちなんだろう。

 

「庇護の押し付けは支配だよ。私が倒して来た結社や教団にも、真剣に人の救済を想い、それ故に人とは相いれない存在となってしまった集団が幾つもあった」

「だから、お前はいつもギリギリまで来ないのかよ! お前は毎回姉の無事を祈る妹の気持ちを考えたことがあるのか!?」

 

 ルミカちゃんは受け止められていたランスを炸裂させ、その隙を衝いて腕に黒晶石を纏わせて私を斬りつけてくる。

 

「そう……それが君の想いの核なんだね」

 

 でも、私にそんな小細工は通用しない。

 炸裂したランスの欠片を燐光で相殺し、腕の斬撃を受け流しながら軽くデコピンでお返しする。

 

「あがっ!?」

 

 ルミカちゃんは勢いよく丘陵を削り取りながら地面にめり込み、その衝撃で巨大なクレーターを作り上げる。

 その姿を見下ろしながら、私はルミカちゃんがぶつけてきた言葉を噛みしめる。

 歪んでしまっていても、想いの根っこは今までのルミカちゃんと全く変わっていない。お姉ちゃんを助けてあげたいって想いなんだね。でも……

 

「皆は自分で歩く足を持っている。私達魔法少女が必要以上に干渉するのは、きっとその足を奪うことになるんだよ」

 

 私は地面に埋まっているルミカちゃんの前に立ち、ミコトちゃんがメイちゃんに向けて言った台詞を思い出しながら言う。

 視線を少し動かしてみれば、胸の前でぎゅっと拳を握ったミコトちゃんが、キラキラした瞳で私の戦闘を見つめていた。

 

「それで……それで何かあったらお前は後悔しないのかよ!」

 

 私の言葉にルミカちゃんがギリと歯噛みして跳ね起き、それと同時に拳打を入れようとしてくる。

 それをあえて紙一重で避け、私はルミカちゃんと至近距離で睨みあう。

 

「するに決まってる、私だって君みたいに考えることもある。でも、それでも私は皆の意志を信じる。魔法少女エリュシオンは皆の代わりに戦う代行者じゃなく、頑張る誰かの背中を押す魔法少女だから」

「それだけの力を持っていて! 僕様に言わせて貰えば、それこそ高慢だ!」

 

 私の眼力に気圧されたルミカちゃんが飛び退き、そう叫ぶ。

 途端、周囲の黒晶花が一気にモンスターへと変化し、残骸と化していた芋虫から触手が這い出て、皆へと襲い掛かかる。

 

「大丈夫、君が思うほど皆は弱くないよ」

 

 でも、私はその対処には向かわない。

 私は一足でルミカちゃんの懐に踏み込むと、寸止めで拳を放つ。

 

「っ!」

 

 ルミカちゃんが咄嗟に躱そうと動き、皆から意識が逸れる。

 その隙に丘の上から放たれた拘束アンカーがモンスター達を絡めとり、リオちゃんがラブリナさんに襲い掛かっていた芋虫の一部を斬り裂いて食い止めた。

 

「エリュシオン! こっちはウチ等に任せて、そのルミカに集中していいから!」

「ほらね」

 

 リオちゃんの力強い言葉を受け、私はルミカちゃんにそう微笑みかける。

 

「……それでも、それでも、力がなくて悔やむことは絶対に出てくる!」

「そうだね。その時は……その時こそ、私達の出番だと思えばいいんじゃないかな」

 

 そこで言葉が途切れ、再び至近距離で睨みあう私とルミカちゃん。

 その横で、ラブリナさんによって残された芋虫の体が分解されて、皆を取り込んでいる巨大な黒晶石が露出した。

 

「流石ラブさん! エリュシオン、黒晶石の中にメイやルミカの体もあるよ! そのルミカ、やっぱ偽物だった!」

「……だとさ、エリュシオン。想いは独善で滅茶苦茶、おまけに僕様はルミカですらないんだとさ。ふっ、まさに魔王だな」

 

 黒晶石の中身を確認したリオちゃんの報告を聞いて、ルミカちゃんが自嘲する。

 

「……ルミカ、君の揺り篭は白日の下に晒された。もう負けを認めて解放してくれるつもりはないかな」

「なんだよ、リオの言葉は聞いてただろ? 僕様はルミカの偽物なんだ、さっさと正義の味方として倒せばいいだろ」

「それでも、君の想いの源泉は間違っていないと思うから。別に魔王だって変われるし、共存できない理由もないよ」

 

 セレナちゃんの中に居るラブリナさんだって、最初はテラーニアと一緒に地上を脅かした。

 それでも今は皆の為に戦ってくれている、魔王だって在り方を変えられるのだ。なら想いの核が皆を守りたいであるルミカちゃんが、人と共存できないわけがない。

 

「ああ、お前はいつもそうだよな。容赦なく敵を両断したかと思えば、そうやって悪党にも手を差し伸べてみせる……」

「なら……」

「でも、そんなことは僕様が許さない。僕様は偽物でモンスター共と何も変わらない。僕様は皆を守りたいんだよ、皆の傍にいつ脅威になるかわからない奴なんて置いておけるか!」

 

 一瞬寂しそうな表情をしたルミカちゃんが間合いを取り、凛とした顔でランスの切っ先を私に向ける。

 それがルミカちゃんの回答だった。

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