魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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エピローグ[3章]

 

 エピローグ

 

 トラブルこそあったものの、海岸丘陵での集団戦は無事終了した。

 いきりなり地上と繋がったことでレイド直後は大混乱だったけれど、境界ができたのが元々防衛設備のある拠点だったことや、海岸丘陵が危険性の低いエリアだったことから、混乱はすぐに収まった。

 そんな海岸丘陵は今もレイドとは違う形で賑わい続けている。地上直通になったことで資源開発に向けての整備が大車輪で進んでいたり、巨大塩湖を一大観光地にしようと画策されていたりと大忙しなのだ。

 

 そして、私達はそんなお仕事頑張っている人達を横目に、拠点近くのビーチで一足早いバカンスを満喫していた。

 ……させられていた。

 

「道行く人達の視線が痛い。今の私は絶対に悪目立ちしている! 道端のつくしのように目立たず生きたい……!」

 

 拠点の近くを忙しなく行き交う人達を遠巻きに眺め、水着姿の私は手にしたビーチボールで必死に顔を隠す。

 なんだかじろじろと見られている気がするし、お仕事頑張っている人の横で遊んでいるのは凄く罪悪感を感じてしまう。

 

「いやいや、その顔と乳で目立ちたくないはギャグでしょ。ってか、あの食い意地でその腰のくびれはなんなん? 今ウチは圧倒的不条理を感じてんだけど」

 

 そう言って、同じく水着姿のリオちゃんが、浮かべたスマホを私の胸とお腹に向けてくる。

 ここでのバカンスを提案してきたのは勿論リオちゃん。今回のリオちゃんはパレードとレイドを頑張った功労者だから、流石の私も拒否できなかった。

 

「う、映さないでいいよ!」

「ほらなんだっけ、高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)って奴? その恵まれた顔と乳は、ちゃんと世界に動画収益として還元する義務がある、ウチはそう思うね」

「せ、せめて労働で還元させていただきたい! って言うか、リオちゃんが自分で映ればいいと思う!」

 

 恥ずかしくなった私はビーチボールで胸を隠し、今度は顔が露わになって顔を隠す。ボールを素早く上下に動かすフェイントみたいなその動きは正に挙動不審。

 それを見たリオちゃんが、悪い顔をして私の撮影を続行してくる。ルミカちゃんの時と同じで、ダメと言われれば余計にやってくるイジワルさんなのだ。

 

「ほらほら、こりっちゃん往生際悪いって。これ、レイド前に悪目立ちしたのを帳消しにするため、やましいことなんてないってアピールも兼ねてんだしさ」

「うぐぐ……」

「ってか、水着のチョイスがもう見せる気満々の気合入った奴じゃん」

「こ、これはセレナちゃんが選んだ奴だから……!」

 

 恥ずかしくなった私はほんのり赤面しつつ、パラソルの下に居るセレナちゃんへと視線を向ける。

 セレナちゃんはラブリナさんの欠片を隠すため、着られる水着のデザインに制限がある。

 だから、代わりに私でオシャレ欲を満たしてくれればいいなって思って、私の着る水着を選んでもらったのだ。後、シンプルに私よりセンスがいい。

 

「こりすー、楽しむのです! 場には場の雰囲気があるのです、無邪気に楽しんでいる方が逆に悪目立ちしないのですよ」

 

 恥ずかしがる私の後ろ、ミコトちゃんが胸を押し付けるように体当たりして抱きついてくる。

 キッズみたいな本人の無邪気さと違って、その水着は凄くセクシー系。確かにミコトちゃんのスタイルなら着こなせるだろうけど、いいの? 大丈夫なの? それ誰かに騙されてない?

 

「ご、ごもっともな意見ありがとう。私も覚悟決めて、人生の汚点モードに切り替えるよ……」

 

 まさかエリュシオンに変身する以外で心のスイッチを切り替える日が来るとは思わなかった。

 今日が終わったら、今日と言う日の思い出を即座に記憶から抹消しよう、そう心に誓う。

 

「それがいいのです。そしてメイとも遊んであげて欲しいのです」

 

 言って、ミコトちゃんは自分の後ろに隠れているメイちゃんを少し前に引っ張りだす。

 このバカンスにはメイちゃんやルミカちゃんも強制参加させられている。さっきリオちゃんが言っていた通り、"レイドで悪目立ちしていた私達だけど、本当は無実で仲良しですよ"アピールの意図があるのだ。

 そう考えると、こんな場を設けてくれたリオちゃんには感謝すべきなのかもしれない。

 

「ほれほれ、乳揺れ一回投げ銭一回、さっさと顔出ししてデカい乳揺らしなー」

 

 いや、感謝しなくてもいい気がしてきた。

 

「え、ええと、メイちゃん、よろしく」

 

 もはや迷惑系配信者と化しているリオちゃんに対しては無視を決め込み、私はメイちゃんに挨拶する。

 

「…………」

 

 返って来たのは沈黙だった。

 人見知りの私が必死に頑張ったのにこの仕打ち、辛い。

 

「メイ、ちゃんと挨拶を返すのです。こりすは悪い人間ではないのです、私と一番仲良しなお友達なのです」

 

 そんなぎこちない私達に、ミコトちゃんがキラキラとした教祖スマイルで言う。

 

「お前が天狼こりすなのかよー、姫巫女様がお世話になってんだよー。それで……一番ってどういう意味か知ってるんだよ? さっさと言ってみやがるがいいんだよ」

 

 ミコトちゃんに促され、私にご挨拶してくるメイちゃん。

 そのご挨拶は完全に恫喝だよぉ……。

 

「安心するがいいんだよー。姫巫女様に嫌われたくないから手出しはしないんだよー。よろしく」

 

 怖い、そのよろしくは何をよろしくしちゃうの?

 ミコトちゃんのおかげで忘れかけてたけど、旧那由他会の巫女なんて悪の秘密結社残党そのもの。

 つまり、メイちゃんは未だ暗黒どっぷりの有害アウトロー。恫喝程度なら気さくな挨拶みたいなものなのだ。

 

「う、うん、よろしく……。でもとりあえず今は少し休憩するね」

 

 なんだかどっと疲れてしまった私は、アイスキャンディーを食べにパラソルの下へと逃げ戻る。

 

「うふふ、こりすちゃん楽しんでますね」

「セレナちゃん、そう見えるんなら完全に節穴だよ……」

 

 魔石製の携帯冷凍庫に入ったアイスを取り出すと、私は引率のにゃん吉さんを抱えてセレナちゃんの横に腰かける。

 皆の様子を見てみれば、私に代わってリオちゃんに弄られていたルミカちゃんが、こちらへ向かって逃げ帰って来る所だった。

 

「リオの奴、弄り方がクソ過ぎるだろ! 僕様の痴態をポルノ配信しようと画策でもしてるのかよ!?」

「え、ええと、ルミカちゃんも大変だったね」

「そもそも、こんなクソ忙しいタイミングでビーチバカンスするか、普通。お前達に迷惑かけた弱みがなきゃ、僕様絶対に参加してなかったぞ」

 

 ご立腹のルミカちゃんが、ドスンと勢いよくビーチチェアにふんぞり返る。

 口ではそんなことを言ってるルミカちゃんだけど、その恰好は白いフリルの水着に星型サングラス、手にはトロピカルなドリンクまで装備して、どう見ても遊ぶ気満々の姿だ。

 

 そして、その胸にはにゃん吉さん謹製の変身用のペンダント。魔王ルミカとの約束通り、残った白い輝石をペンダントの核として加工したものだ。

 白い輝石が核にできるなんて私は知らなかったけど、これなら魔王ルミカの想いと一緒に戦えるよね。よかった。

 

「ルミカちゃんも割と律儀だね」

「姉様に重々感謝しておけってきつく言われてるし、実際世話になったからな。姉様もお前が言った言葉で反省したらしくてさ、多少無理を控えてくれてる。……こりす、ありがとな」

「うん、よかった」

 

 嬉しそうに言うルミカちゃんを見て、私もつられて少し嬉しくなる。

 やっぱり見守る側も心配なんだね。私もセレナちゃんを心配させないように気をつけないと。

 

「設楽さんはもうダン特に復帰しているんですよね? 那由他会含めて全員後遺症が残らずよかったです」

「ああ、学園長代理は取り込まれた後遺症に苦労してるんだってな」

「はい。後遺症が残っているのは現状私だけのようで、少し不安になっちゃいますね」

 

 言って、苦笑するセレナちゃん。

 今の所、黒晶石に呑み込まれた後に後遺症が残っているのはセレナちゃんだけ。前回のクロノス社長さんもそうだったけど、解放された後はみんな健康そのものだ。

 逆にセレナちゃんだけ後遺症が残っちゃったのはなんでだろう。強い魔王であるラブリナさん本人が中に入っちゃったからなんだろうか。

 

「……そうか。実はさ、僕様後遺症はないんだけど記憶は少しあるんだよ。エリュシオンと戦ってた時のさ」

 

 一人だけ後遺症に悩むセレナちゃんに同情したのか、ルミカちゃんが少し逡巡した後、小さい声でそう言った。

 

「ルミカちゃん。ど、どういう意味なの!? あれ、ルミカちゃん本人じゃなかったんだよね!?」

「全部はっきりと覚えてるわけじゃないけど、妙にリアリティのある夢を見ていたとか、そんな感じなんだよ」

 

 ルミカちゃんは少し困ったような顔をすると、手にしたトロピカルドリンクを飲む。

 

「それで、魔王の僕様に黒晶石が語り掛けてきたんだ、お前と私は同類だってな。……ラブリナだっけ。お前、もしかして昔は魔法少女だったんじゃないか」

 

 思わずセレナちゃんの顔を見る私。

 セレナちゃんの眼は妖しく紫色に輝いていた。つまり、ラブリナさんに切り替わっている。

 

「……まだ記憶に歯抜けは多いですが、恐らくは」

「そうか。あの時の僕様と同じだってことは、知らず高慢だったってことだ。気をつけろよ」

「はい、心に刻み込んでおきます」

「そうしとけ。お前の記憶が本体に戻った時、ちゃんと反省できるようにな」

 

 ルミカちゃんの言葉に、私とセレナちゃんが驚きに目を丸くしながら見つめ合う。

 

「な、なんだよ、僕様変なこと言ったか?」

「いえ、私達がダンジョン探索をしている目的に、少し足掛かりが見えた気がしただけです」

 

 私達はセレナちゃんとラブリナさん両方が幸せになれる結果を目指してダンジョンを潜っている。

 本当にラブリナさんが黒晶石に飲まれた元魔法少女で、ルミカちゃんみたいに本体に今の記憶を手渡せるのなら、それは私達にとってのハッピーエンドになるかもしれない。少なくとも、確かめる価値はありそうだ。

 

「そうか……でも気をつけろよ。遺跡で会った扉守のクライネとか言う魔王が言ってたぞ、このまま奥に進めば自分が戦うことになるってな」

「扉守の魔王クライネ……。確かに取り戻した記憶の中にもその名がある気がします、覚えているのは名前だけですが」

 

 またセレナちゃんがラブリナさんへと切り替わり、新しい欠片を吸収して手に入れた記憶を手繰りながら言う。

 

「僕様はちょっとしか会話しなかったけど、姉様やメイの奴に手を貸して、自分の所まで来れるのか力量を測ってたらしい。僕様と会った時もエリュシオンに興味津々だった」

「……なるほど、ならほぼ確実に立ち塞がってくるね」

「お前達、なんか色々背負ってるみたいだけどさ、困ったら無茶せず頼れよ」

 

 神妙な顔をする私を見て、ルミカちゃんがそう言ってくれる。

 

「うん、お互いに協力し合うのは大事だね」

「ああ。とりあえず……今僕様の目の前で好き放題やってるあのバカを倒す為に共闘しないか?」

 

 そう言うルミカちゃんの前、ミコトちゃんの胸の谷間に自分のスマホを挟もうとしているリオちゃんの姿があった。

 

「え、あ、ああ、うん……。情けないね、止めた方がいいのは確かだね……」

「大体さ、僕様的にはリオだけ安全地帯に居るのが許せないんだよ。アイツだって元セブカラなんだから見てくれだけはいいんだぞ、最初に犠牲になるべきは自分自身だろ。……よし、やるか」

「えぇ、何をはじめちゃうつもりなの。そ、それ絶対止めた方がいい奴だよぉ……!?」

 

 すっくと立ちあがっていくルミカちゃんに、圧倒的不安を感じる私。間違いない、これ絶対ろくでもない奴!

 案の定、ミコトちゃん達が避難する中、迷惑配信者対迷惑配信者の熱いバトルが始まってしまう。

 水着がはだけて二人のアカウントが仲良く凍結されるのは、それから程なくしてのことだった。




 これで3章完結となります。
 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 4章は1日間を空けて10/10より初回2話、以降毎日1話ペースで更新予定です。
 次々章の5章にてストーリー完結予定です。
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