魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第13話 さざ波の魔王1
第一話 さざ波の魔王
その日、私は街でモンスター化した怪人を両断していた。
「ギョゲゲッ! まさか、この、ライオネルフィッシュ様がァ!! だが、俺様を倒しても無駄なこと。既に我等は楽園の大樹へと……ギョゲエエエエエ!」
建設中のシンボルタワーを背負った大通りのど真ん中、真っ二つになったライオン頭の半魚人怪人が断末魔の叫びをあげて霧散していく。
「君、もう大丈夫だよ」
エリュシオンに変身している私は、目の前で怪人が灰となって消え去るのを見届けると、逃げ遅れて怯えていた女の子に優しく手を差し伸べる。
「あ……ありがとう、エリュシオン!」
「道路、割れちゃってるから気をつけてね」
「うん!」
女の子が深々とお辞儀をして去っていくと、それが合図だったかのように街の皆が恐る恐る大通りへと戻ってくる。
これで一安心。……なんだけど、最近街で暴れる悪い怪人が増えた気がする。厳密にはひと昔前ぐらい見かけるようになった、の方が正しいかもしれない。
「つまり、ダンジョンに逃げた怪人が戻って来てるのかな」
ひび割れ砕けた道路に立ったままそんなことを考えていると、見知った女の子がやってくる。
「なんだ、エリュシオンが来てたのかよ、僕様とんだ無駄足だったじゃないか。ま、ダン特が来る前に解決できてるならよしとしてやるか」
やって来たのはクリーム色の髪をした国家公認魔法少女セブンカラーズのダイヤこと設楽ルミカちゃん。
ルミカちゃんは戦闘の爪痕生々しい道路を見回すと、呆れた顔で自分の横に浮かべたスマホを操作する。怪人は倒されたって報告をしているんだろう。
「うん、丁度近くに居たから倒しておいた」
「ああ、助かる。やっぱりお前も地上に活動拠点があるんだな。僕様、ダンジョンに生息するフェアリーの一種かと思ってたぞ」
なにそれ、私だってお家は地上にあるに決まってるし。
私、どんな生物だと思われてるの? って、ルミカちゃんの言葉に内心苦笑してしまう。
「君も無事そうでなによりだね。後遺症もないって風の噂で聞いてるよ」
私達は揃って道路脇に避けながら話を続ける。
ボロボロになっているとは言え、大通りのど真ん中に陣取ったら邪魔になるよね。なんか周囲の注目も集めちゃってるし。
「まあな。ただ、旧那由他会の連中は全員揃ってダン特の監視下送りだ」
「それは……仕方ないね。あの芋虫に乗っ取られていたのを差し引いても、元々が暗黒教団だし」
そこは妥当な判断としか言えない。ミコトちゃんには悪いけど、メイちゃん達はちょっと暗黒に浸り過ぎている。
現代社会にアジャストするまでお外に野放しされては困る。
「神輿になってる姫巫女がお前の狂信的ファンみたいだからな、那由他会の方は気にしなくても大丈夫だろ。僕様にとって目下最大の問題はこっちの方だ」
言いながら、ルミカちゃんはさっきまで怪人が暴れていた大通りの方へと視線を移す。
私が駆けつけるまでの僅かな時間で大通りは既にボロボロ、これは暫く通行止めかなって覚悟しちゃうような惨状だった。
「念のためお前に確認しておきたいんだが、さっき始末した怪人はこいつだな?」
ルミカちゃんは大通りの惨状に顔をしかめた後、スマホにライオン頭の半魚人怪人の画像を表示する。
「うん、この怪人で間違いないよ」
「やっぱりそうか……。この近辺だけでもう今月五匹目だぞ、ホントにウザいな」
「怪人、そんなに出現してるんだ」
ルミカちゃんの言葉に私はちょっと驚いた。半月足らずで怪人五人は流石に多い、力をつけた秘密結社の下級戦闘員ぐらい雑に出現してる。
そんな私の驚きが伝わったのか、ルミカちゃんは難しい顔で思案していた。
「なあエリュシオン……お前の変身時間、まだ時間単位で残ってるか?」
「私の力が必要?」
多分、あの真剣な表情は一緒に怪人のアジトに突撃しないかってご提案だ。
「お前が動けるんなら手を借りたい。元々は僕様とねねの二人で怪人の発生源に向かう予定だったんだけどな、前回のことで独り善がりじゃダメだってわかったからさ」
照れくさそうに言うルミカちゃん。
前回の件は色々な傷跡が残ったけれど、ちゃんとルミカちゃんを成長させてくれたらしい。
「わかった、手伝えるだけの時間はあると思う。それで怪人のアジトはどこ?」
「いや、怪人のアジトじゃないんだよ。行くのは……放棄区域の先にある深層"怪人達の巡礼道"だ」
宵闇に溶けるように立ち並ぶ窓の割れたビル、手入れのされていない街路樹、砕けて波打つ道路、その最奥に見えるダンジョンへの入り口。
金網と有刺鉄線によって区切られたそのエリアに入ると、そこにはゴーストタウンと化した無人の街並みが広がっていた。
『ディープエリアは未知のモンスターと遭遇する恐れがあり、その近隣エリアも非常に危険です。冒険者や配信者は直ちに退去してください』
スピーカーが物騒な警告を流し続ける中、私とルミカちゃんはゴーストタウンを歩いて行く。
ここは私にとって因縁深い場所、テラーニアとラブリナさんの欠片が入った白竜を倒し、セレナちゃんが取り込まれてしまった場所だ。
私はセレナちゃんを助けた後、魔法少女を一時引退した。だから、ここがどうなっていたかは知らなかったし、その奥の深層へと行ったこともなかった。
まさかこんなに荒廃していたなんて。怪人や黒晶石の魔王達を放置すればこんな結果が待っている、だから私達は立ち向かわなければならない。否が応でもそう再確認させてくる場所だ。
「エリュシオン……勘違いしているかもしれないから念のため言っておく。僕様がさっき言った今月五匹って数、怪人が五体って意味じゃなく、ライオネルフィッシュが五匹目って意味だぞ」
私が心の中で決意を新たにしていると、割れた道路を跳び歩ていたルミカちゃんがおもむろに言う。
「黒晶石に取り込まれて、モンスターとして出現してるんだね」
私はその説明ですぐにピンと来た。
違う怪人が五人なら新しい悪の組織のご登場かもしれない。けれど、同じ怪人が五人ならそれしかない。
「そっか、やっぱりお前は知ってるのか。それって、この前の僕様みたいな感じなんだろ? 下級戦闘員が量産される分にはまだいいんだが、ゴリゴリの武闘派怪人が量産されるのは正直厄介だな」
ルミカちゃんの言葉に私が頷く。
レベル持ちの人が増えた昨今、簡易版怪人みたいな戦闘力しか持たない下級戦闘員なら、一般冒険者や警察官の人達でもある程度は対応できる。
でも、戦闘力が高かったり特殊能力や異能やらを持っている怪人は、まだ普通の人間には手強い相手だ。
ある程度の高レベルか魔法少女でなければ対処できないだろう。それが量産されて街中に出てくるのは由々しき事態に他ならない。
「つまり、そんな怪人達の出所がこの深層なんだね」
「ああ、境界付近に設置されたライブカメラ映像で目星がついてる。だから深層でも活動できる僕様達が確かめ、可能なら対処に行く予定だったわけだ。このまま量産され続けたら一般市民の被害がとんでもないことになるし、なにより僕様達やダン特の負担が半端ないだろ」
目を細めて次元の裂け目を睨みつけるルミカちゃん。
ルミカちゃんが心配してるのは、ダン特や自分の負担増加じゃなくてお姉ちゃんだよねって心の中で思いつつ、私はリオちゃんじゃないから流石にそれを口に出すような無粋はしない。
「なるほどね。私としても見逃せない話だし、同行できてよかった」
「僕様達はお前の戦闘力や変身時間は把握できてない。今回はある程度深く潜る予定だから、自分の変身時間は常々気にかけておいてくれよ。深層の帰り道で変身解除なんてことになったら即座に死ぬぞ」
「わかってる。君達の足は引っ張らないよ」
正規変身なら魔力の自然回復が変身維持による魔力消費を越え、私の変身時間は実質無制限になる。
でも、今しているのは燃費の悪い緊急変身、変身しているだけで制限時間は減っていく。因縁深い場所だから熱くなって、引き際をミスらないように気をつけないと。
「遅かったでございますね、ルミカ。それと……そこのたわわでプリティな方は如何なる御仁でございましょ?」
到着した深層境界前では、薄紫色の髪にフリル白ビキニの女の子が待っていた。あんな痴女さんみたいな恰好の子は忘れるはずがない、ねねちゃんだ。
ねねちゃんはルミカちゃん同様まだ変身していないけれど、その両手には抜身の刀を手にしている。境界を越えて出現した怪人かモンスターと先んじて戦っていたのかもしれない。
「ねね、お前もこの前共闘したんじゃなかったのかよ。銀髪ツインテールにデカい胸、どう見たってエリュシオンだろ」
「あれま、本物さんでございますか。まだ地上に出現するんでございますねぇ、おねねさん熱烈なりきりファンガールかと思ったでございますよ」
口元に手を当てて、大仰な仕草で驚いて見せるねねちゃん。
私、皆の中でどんな存在に位置付けられてるんだろう。識別方法も髪と胸だし……なんだか本気で不安になってきた。
「安心しろ、あの目で追えない瞬殺っぷりは本物だ。ねね、助っ人の変身時間が残ってるうちにさっさと行くぞ、マナチェンバーイグニッション!」
「はいはーい、それでは同行お願いするでございますよ。マナチェンバーイグニッションでございます」
言って、スマホを投げ飛ばして変身する二人。
突入前から変身しないといけないなんて、やっぱりこの深層は相当危険な場所らしい。
「あれ、ルミカ。普通のペンダントで変身をしてるんだね」
「ん、ああ。魔王の黒晶石が白い輝石になった時、ペンダントの黒晶石も白くなって核が使えるようになったんだ。魔王のペンダントは変身時の消耗が激しいからな、普段はいままでのを使い続けてるんだよ」
「なるほどね」
魔王ルミカの残滓である白い輝石は、エリュシウムの鍵を起動できるほどではないけれど普通の核より遥かに力が強い。にゃん吉さんが直々に精密調整する必要があったほどだ。継戦能力が問われる場面は逆に不向きなのかもしれない。
「さ、無駄話はここまでにして急ぐぞ。変身時間は無駄にできないからな」
投げ飛ばしていたスマホを脇に浮かべ、道中に設置予定なのであろうライブカメラ杭を持ったルミカちゃんが私達を先導する。
どうやら、スマホを投げ飛ばしてたのは変身時に分解されないためだったらしい。ここら辺の手抜かりがない辺り、二人は冒険者魔法少女なんだなぁって感心してしまう。
「ささ、いざ殺戮と闘争の大冒険にレッツゴーでございますよ!」
先導するルミカちゃんを追い抜いて、両手に抜身の刀身を持ったまま我先にと駆け出すねねちゃん。私、そんな物騒な大冒険したくないよぉ!?
心の中でそう叫びながら、私はねねちゃん達の後を追って深層"怪人達の巡礼道"へと足を踏み入れるのだった。