魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
曇天よりも黒ずんだ空で鳴る青い稲妻、足元は黒晶花以外は何も生えない荒涼とした大地。所々に見える枯れ木のような物体は、全て黒晶石の結晶体。
初めて足を踏み入れた"怪人達の巡礼道"は、深層の名に相応しい魔界のような階層だった。
「さてさて、早速モンスターのお出ましさんでございますね」
ねねちゃんが刀で差す先、地平線の向こうから猛スピードで駆けてくる影一つ。ガイコツみたいな仮面に黒い体を持った巨大モンスターが、私達に向けてこんにちはしてきていた。
でも、相手の間合いで戦ってあげる義理はない。私はその場で魔力の刃を放って、近づかれる前にさっさと撃破した。
「もしもし、エリュシオンちゃんさん。……もしや即死火力の射程がキロ単位である感じでございますか?」
「あるよ。でも大丈夫、これ意外と魔力使わないから」
流石にホーミング性能まではないから、射線の開けた場所じゃないと使えないのがネックだけど。
「ははぁ、左様でございますか……。おねねさん、ちょっとおったまげでございます」
「ねね、深く考えるな、急ぐことだけ考えろ。こいつの戦闘力を冷静に考えると頭がおかしくなるぞ。姉様が助けられてる姿を長年見守って来た僕様が言うんだ、間違いない」
唖然とするねねちゃんの背中をぺちりと叩いてルミカちゃんが行動を促し、私達は黒晶花の大地を斬り裂いて目的地へと急ぐ。
正直な話、この深層は私にとって戦いやすい環境だ。視界が開けていてモンスターを見つけやすいし、罪のない原生生物を巻き込む心配も無いから手加減が楽なのだ。
「あらま、あらまでございましょう。深層探索がまるでピクニックでございます」
「いつもより加減が雑でいい分、戦いやすいから。それで、目的地はどんな場所なの?」
私は目についたモンスターを手あたり次第粉砕しながらルミカちゃんに尋ねる。
「僕様達の目的地は通称【黒晶門】って呼ばれてる地点だ。モンスター達にとっては次元の裂け目になる場所だと考えられてる」
「モンスター達にとって?」
ルミカちゃんの言葉に私は小首を傾げる。
次元の裂け目は次元の裂け目じゃないんだろうか、モンスターにとってはってどういう意味なんだろう。
「まあ、みればわかる。もうすぐだぞ」
スマホを傍らに浮かべて先頭を走るルミカちゃんがそう言うと、視界の果てに黒い亀裂が見えてきた。
最初は暗い階層に繋がっている次元の境界かと思ったけれど、実際はそうじゃなかった。これは縦に伸びた巨大な黒晶石の結晶体だ。
「これが黒晶門でございますよ。研究者の推測によれば、人が通れないぐらい僅かな次元の揺らぎから、黒晶石が絶えず染み出しているのだとか」
そう説明を受けながら、私は黒晶門をまじまじと眺めて観察する。
確かに黒晶門は何かの裂け目から黒晶石が染み出したような形をしている。その真偽は、実際通ってきたであろうラブリナさんが居ればわかったのかもしれない。
ただ、私でもこの場でひとつわかることがある。
「この黒晶石にさっきの怪人が取り込まれている様子はないね。あの怪人の出所は別の場所なのかな」
「いや、ここであってるはずなんだ。黒晶門は僕様達人間にはただの黒晶石だけど、モンスター共にとっては次元の裂け目として使えるんだからな」
「かつて、深層探索隊がここから出て来た怪人に不意打ちされ、命からがら逃げ帰った記録があるんでございますよ」
「なるほど。でもそうなると……流石の私でも手の打ちようがない、かな?」
コピー元がここにないなら、量産を止める手立てはない。
次元を超えて攻撃を通す事自体はできるけど、向こう側がわからない状態で闇雲に攻撃しても傍迷惑なだけで、そもそも怪人の本体が近くにある保証はない。
ここまで来たのは完全に徒労で、手づまりなのではなかろうか。
「ところがぎっちょん、対処療法ならできるのでございます。モンスター化した面々は、あの黒晶石を通って出てくるそうなのでございます。壊せば再び染み出す間は安全だと推測されているんでございますね」
「要するに、この黒晶門を破壊して再出現までの時間稼ぎをするのが、今回僕様達に課せられたミッションってことだ」
そう言って、ルミカちゃんとねねちゃんが武器を構えると同時、周囲の気配が変わる。
「二人とも気をつけて、来るよ」
『聞こえていたの。お前達は黒晶門を破壊したいの? あはははっ、おバカさんなの!』
どこからともなく嘲笑う声が聞こえ、黒晶門が妖しく黒く輝き、闇が地面を這い広がっていく。これが黒晶石の中をモンスターが通っている状態なの?
今黒晶門を破壊すれば出現を止められるのかなって考えたけれど、まずは本当に出現するかどうかを確認したい。この場での根治ができない以上、可能な限り今後の対策に繋がる情報を得ておく必要がある。
『お前達にそんなことができるわけないの! だって、ここにはアンジーが居るんだもの!』
笑い声と共に地面の影からせり上がってきたのは、黒いオーラを出したピンクゴリラの怪人。
筋肉ムキムキでゴツイ見た目からは想像し難い声だけど、声の主はあのゴリラ怪人で間違いない、はず……多分。
「ルミカ、あの怪人の目撃情報はある?」
「ああ、あいつはラウドコング。ライオネルフィッシュ同様量産されてる怪人だ。ただ……」
ルミカちゃんはそう言うと、訝しげな視線をピンクゴリラ怪人に向ける。
「ただ?」
「キャラと言うか、雰囲気が違うんでございますよねぇ」
「なるほど、そう言うこと。つまり、何者かがモンスター化した怪人の体を奪って使ってるんだよ」
二人は首を傾げているけれど、私は大体理解できた。
多分、メイちゃんを取り込んだ芋虫と同じで、後付け黒晶石か何かが怪人の体を乗っ取っているのだ。
『はーっ、バレてしまったら仕方ないの。こんな低知能な怪人のボディでも、溢れる叡智は隠せないの。そう、本来アンジーはこんなクソゴリラの怪人じゃないの』
私達の会話を聞いて、ゴリラ怪人がまたしても見下すように嘲笑う。
なんていうか、あの怪人の中身は凄く性格が悪そう。
『聞くがいいの、肉の体の家畜共! アンジーこそは楽園の守護者、黒薔薇の鍵守が一人アンジェラ様なの! でも、それを誰かに教えることはできないの。何故なら、お前達はここで終わりだからなの!』
アンジェラと名乗るゴリラ怪人の下で蠢く闇がせり上がり、巨大な塊のモンスターが出現する。
それは前回紅葉林で見たモンスターの集合体、そこに怪人達を一つまみしたようなモンスターだった。