魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第13話 さざ波の魔王3

『さあ慄き、絶望し、命乞いをするの!』

 

 雷鳴轟く黒い空を背に、融合した黒いモンスター塊の頂で哄笑するゴリラ怪人アンジェラ。

 

「あの感じ、海岸丘陵で暗躍していた怪人組織で間違いなさそうだね」

「更に件のライオネルフィッシュ氏の出所もここで確定でございますよ」

 

 ねねちゃんが言う通り、モンスター塊の中には件のライオン頭の半魚人怪人も混ざっている。

 これで黒晶門が怪人達の出入り口になっているのはほぼ確定。そこまでわかればもう十分、これ以上この性格悪そうな怪人の相手をしてやる必要はないだろう。

 

「エリュシオン、勝てそうか?」

「大丈夫、もう倒してあるから。ライブカメラの杭を設置して帰ろう」

『帰る? はーっ、本当に知能の低い生物なの。お前達はここで終わり、アンジーはそう言ったはずなの』

「君、もう死んでるけど」 

『は? もう死んで? お前は一体何を言って……へっ、はっ!? あっあっアアアアアあアァアッ!?』

 

 ようやく自分が既に両断されている事実に気づいたアンジェラが絶叫し、灰になり始めているモンスター塊からずり落ちていく。

 

『ふ、ふざけるななの! アンジーは特別な存在なの! お前等を支配すべき存在なの! こんな、こんな簡単に……』

 

 綺麗に両断された下半身から黒い煙を出しながらも、アンジェラは必死の形相で切り離されたモンスター塊にしがみ付き、これは何かの間違いだと自分に言い聞かせる。

 

「その台詞、今までに倒した怪人達から聞き飽きるほど聞いてる。君の叡智とやらはボキャブラリーが貧相でバリエーションがないね」

『ウオアアアアアッ!! クソが! クソがァアアアッ! エリュシオン、覚えたの! ぶち殺してやるの! ぶち殺してやるのぉぉぉ!!』

 

 私にトドメの口撃を受けたアンジェラが怨嗟に満ちた断末魔の声をあげ、下のモンスター塊諸共に黒い煙となって消え去っていく。

 

「……なぁ、エリュシオン」

「わかってる。あの手応えのなさ、黒晶花で作った偽の体だろうね」

「いや、そうじゃなくてさ。僕様も自分を無慈悲な方だと思ってるけど、お前はほんっとに容赦ないな」

 

 私の返答を聞いて、ルミカちゃんが呆れた顔をする。

 どうやら、怪人に舌戦でトドメを刺し、流れ作業で黒晶門の黒晶石を粉砕している私に若干引き気味のご様子らしい。

 

「あの手の悪党に情け容赦をかける必要はないから」

 

 気持ちはわかる。なんだコイツ口悪いな魔法少女の品性じゃないでしょ、って私も自分で思うときがある。けれど、これも長年の経験で決めた活動方針なのだ。

 

 悪の組織一同は不条理な暴力を相手に強いてくる癖に、自分が不利になると今度は口論や可哀想な自分自慢で優位に立とうとしてくる。なら最初から対話で解決を試みればいいのに、自分にばっかり都合が良過ぎる。

 私はそれが気に入らない。だから、悪いことをした怪人は口と暴力両方でコテンパンにしてやる。そう心に決めているのだ。

 

「それよりも……黒薔薇の鍵守って単語が気になる。ルミカ、この前君が会った魔王は扉守を自称していたんだよね?」

「あ、ああ、扉守にして墓守、大海嘯(だいかいしょう)、黒晶石の魔王。だったかな」

「鍵に扉……ではではあの塊さん達はその傘下でございますかね」

「うん、魔王の走狗である可能性は高いと思う」

 

 今までの魔王達は何らかの配下を従えていた。

 テラーニアのように怪人達を配下にしている可能性は高いだろう。

 

「あらあら、なんて心外、心外至極ですわぁ。わたくしがあのような不埒な輩の首魁扱いをされてしまうだなんて」

 

 私がそんなことを考えていると、不意に何処かからそんな声が聞こえ、目の前の風景がほんの僅かに揺らめいて一人の女の子が姿を現した。

 その姿は黒いドレスに黒いベール、黒髪猫耳、二股の尻尾。喪服とゴスロリとにゃん吉さんみたいな黒猫要素を混ぜ合わせたような女の子だ。勿論、メタボではない。

 

「エリュシオン、こいつだ! こいつが件の扉守だ!」

「ええ、お初にお目にかかりますわ、お二方。わたくしはクライネ、ご紹介にあずかった通り楽園の扉守をしておりますの。眩い煌めきが見えたと思えば、やはり貴方でしたのねエリュシオン」

 

 ふわと小さくあくびをした後、優雅に挨拶をしてくるクライネ。

 こんなダンジョンの中でドレスなんてものを着ているだけあって、その所作はセレナちゃんみたいに品がある。

 

「ねね、黒晶門は染み出ている黒晶石がなければ通れないんじゃなかったの?」

「おねねさんもそう聞いていたでございますよ、文句は研究者さんに言って欲しいのでございます」

「安心なさい、他の方々は通れませんわ。僅かでも扉が開けば維持し、すり抜けられる。それが扉守であるわたくしの権能ですわ」

 

 困った顔をするねねちゃんに、クライネがくすりと笑って言う。

 つまり、僅かな次元の狭間をすり抜けられる異能。ミコトちゃんの開門とは少し違うけど厄介そうな能力だ。

 

「それで君の目的は手下の後始末?」

「そこですの。わたくし、扉守の名誉の為に参上いたしましたの。あのような輩を雇っていると思われては心外至極、無関係だと主張しに来たのですわ」

「同じ場所から出て来たのに?」

「わたくしは【裏界】の地の番人。あそこに巣くう【宿り木】達にはわたくしもほとほと困り果てておりますの。黒晶門から変な方々を大勢連れ込んできたかと思えば、鍵守の末裔を名乗って守護者気取りで陣取って……ああ、不愉快、不愉快至極ですわぁ」

 

 クライネは頬に手を当てて、ふぅとため息をつく。

 多分、宿り木って言うのはモンスターにくっつく後付け黒晶石達のことだろう。

 だとすると、大勢連れ込んできたって言うのは、モンスター化した怪人達のことを言っているんだろうか。だとすれば、裏界には怪人が山盛り待ち受けていることになる。

 

「なんともかんとも、信じられる話でございましょうかねぇ?」

「わからん。ただ、あいつは前回も芋虫や怪人と結託してなかった。僕様の手助けもしてきたし、こいつの目的は征服とか侵略じゃないっぽい気はするんだよ」

 

 海岸丘陵での話を聞く限り、クライネが設楽さんやメイちゃんを手助けしていたのは間違いない。

 ルミカちゃんの言う通り、クライネの目的は怪人達とは別にあるんだろう。

 ただ相手は黒晶石の魔王、その目的が私達に害のないものであると言う保証はない。

 

「ええ、わたくしは征伐者でなく守り人。沈みし世界の墓守たる静かの海であり、資格無き者が楽園(エリュシウム)の扉を開けぬよう押し返す大海嘯。さて、エリュシオン……貴方はラブリナのため、楽園の扉を開けるつもりなのですかしら?」

 

 頬に手を当てたまま、クライネが眠たげな眼を更に少し細めて私を見つめる。

 かつてラフィールが予言した通り、ラブリナさんと一緒に進むと言うことは、楽園の扉を守るクライネと対峙する必要があるんだろう。少なくともクライネはそう考えている。

 

「不要な争いはしたくないけれど、それが必要なら開けさせてもらうよ。ラブリナ達とそう約束しているから」

「ええ、眩い輝きを持つ貴方は当然そう答えるでしょうとも。ならば、わたくしは一つこの場で問うといたしましょう。エリュシオン、貴方は楽園の名を持つ魔法少女……つまり貴方はエリュシウムの鍵を持っているのですわね?」

「そうだね。エリュシウムの鍵は私の変身アイテムだよ」

 

 厳密にいえばにゃん吉さんの持ち物だし、今は変身に使っていなくて核は壊れているけれど、クライネの求めている返答的にはそうなるだろう。

 

「あら、やはりですのね。ならば、わたくしが貴方の前に立ち塞がるは必然。貴方の起こすさざ波の音、【壊都】の果てで楽しみにお待ちしておりますわ」

 

 私の回答は満足いくものだったらしく、クライネはどことなく嬉しそうにそう言うと、蜃気楼のようにゆらりと体を揺らめかせて消えていく。

 黒晶門が消え、クライネが消え、そこには再び荒れた黒い大地だけが残った。

 

「あの物言い、海岸丘陵の先は裏界とやらに繋がっているのでございましょうね」

「うん、間違いないだろうね。……鍵守に扉守、か」

 

 どうやら扉守であるクライネはエリュシウムの鍵と因縁があるらしい。

 海岸丘陵から先のエリアへ進む前に、一度にゃん吉さんから話を聞いておいた方がよさそうだ。

 私はそう考えながら深層"怪人達の巡礼道"を後にするのだった。

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