魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第13話 さざ波の魔王4

 それは昔々の物語。

 高度に発達した魔法は人々の望む全ての願いを叶えた。

 輝く輝石に願いを乗せて、人々は望む全てを魔法で手に入れる。大きな夢も、些細な夢も、そんな楽園が出来上がった。

 

 ……だから、みんな次第に忘れていった。

 願いを自分で叶えることの大切さを、望みを抱いて自ら歩く心の大切さを、なりたい自分への憧れを。

 濁った願いはやがて輝く輝石を黒く染め、歪んだ願いが世界にあふれ出して人々を脅かす。そうして、楽園は地獄になった。

 でも、自分で歩く力を失った人々は、ただ戸惑うだけ。誰かが助けてくれるのを待つことしかできない。

 日常が壊れ、文明が壊れ、世界が壊れても、人々はただ祈るだけだったのだ。

 

 その姿を見るに見かね、心に輝きを灯した一人の少女が立ち上がる。少女は歪んだ願いの源を楽園の奥深くにある扉に閉じ込めて、二度とあふれ出さぬよう鍵をかけた。

 でも、そこに人は居なかった。人々は既に諦め、自分の住んでいた世界を捨てて逃げ出していたのだ。自らを助けた少女を扉ごと置き去りにして。

 そうして残された少女は今日も独り扉を守っています。二度と歪んだ願いが漏れ出さぬよう、人々が自らの足で歩くことを忘れてしまわぬように。

 

 

 ***

 

 

「これがボクの知っている昔話、鍵守の物語さ。自分自身で頑張る心を忘れないようにしましょうって、よくある寓話の一種だね。ちなみに、エリュシオンの名前はこの寓話にあやかっているんだよ」

 

 ルミカちゃん達との深層探索から帰ってきた後、私はセレナちゃんが療養しているお部屋で、にゃん吉さんから扉守についての昔話を聞いていた。

 予想通り、にゃん吉さんは鍵守も扉守も知っていたのだ。

 

「そうなんだ。私のエリュシオンって名前、由来があるあやかりものだったんだね……」

「例え由来だろうと、私はこりすちゃん以外のエリュシオンを認める気はありませんけれどね」

「セレナちゃんはそう言うだろうと思ったよ。ボクの予想通りの反応さ……」

 

 ベッドに座ったまま面倒ファンみたいなことを言うセレナちゃんを見て、にゃん吉さんが呆れた顔をする。

 セレナちゃん、ラブリナさんにも関係ありそうな昔話なのに、真っ先に反応するのはそこなんだね……。

 

「……だとすると、扉の奥に居るであろう私の本体は、歪んだ黒い願いの正体なのでしょうか」

 

 そんな気の抜けるやり取りをする私達とは対照的に、セレナちゃんから切り替わったラブリナさんは少し俯きながら悲しげに呟く。

 この前、ルミカちゃんと話していた感じだと、ラブリナさんの正体は魔法少女である可能性が高い。

 昔話で言っている歪んだ願いの正体が、黒晶石で魔王になった魔法少女を指している可能性は十分あり得るだろう。

 

「ラブリナさん、今悲観的になる必要はないよ。昔話の信憑性なんて全くあてにならないし、まずはダンジョンを進んで確かめてから考えよう」

 

 でも、それら全てはまだ可能性に過ぎない。

 まずは確かめて、向き合って、それからどうするか決めていけばいいだけの話だ。

 

「語っておいてなんだけど、ボクもそう思うよ。口伝の寓話なんて脚色混じりで信憑性は薄いよ、その教訓で日々の暮らしをよくするためのものさ」

 

 セレナちゃんのベッドの端っこ、図々しくも丸くなったにゃん吉さんが大あくびで同意する。

 我が家の黒いメタボ猫は他人の家でも遠慮ってものを知らない。

 

「……はい、二人の言う通りですね。また欠片を取り込んだことでセレナの体調が優れず、少し弱気になっていたのかもしれません」

 

 そう言って、苦笑したラブリナさんがセレナちゃんへと戻る。

 

「セレナちゃん、そんなに体調が悪いの?」

「大丈夫です。十分休養も取りましたから、もう大分よくなりました。ラブリナさんが取り込んだ欠片がこなれるまで、私の方にも負担がかっていた感じでしょうか」

 

 そう説明するセレナちゃんを私はじっと見つめる。

 セレナちゃんは私を心配させまいと体調不良を隠そうとするきらいがある。言葉を鵜呑みにせず、ちゃんと私の目で判断しないと。

 

「んもう、こりすちゃんったら疑い深いんですから。そんなに気になるなら添い寝してくれてもいいんですよ?」

「セレナちゃん、添い寝は関係ないと思うよ……」

「ありますよ。こりすちゃんが添い寝してくれたら無限に元気が注入されますよね?」 

 

 セレナちゃんは真顔で首を傾げると、後ろから抱きかかえるようにして私をベッドへと引きずり込んでいく。

 

「せ、セレナちゃん!?」

「ああ、もう、こりすちゃんったら可愛いんですから! お洋服ぬぎぬぎして朝までベッドで添い寝しましょうね~」

「添い寝にお洋服脱ぐのは関係ないよぉ!?」

「大丈夫です。ちゃんと私も脱ぎますから」

 

 言いながら、容赦なく私のお洋服を脱がせに掛かってくるセレナちゃん。

 何故か通じてない、会話がまるで!

 

「こりすちゃん、まともに取り合っちゃダメだよ。セレナちゃん全部本気だからさ」

 

 そんなやり取りを見て、ベッドの端で丸くなっているにゃん吉さんが呆れ顔で言う。

 冗談だから取り合っちゃいけないじゃなくて、本気だから取り合っちゃいけないってなにそれ、初めて聞いた。にゃん吉さん流のジョークなの?

 って、待って、待って! 力が強い!? 圧倒的なレベル差を感じる! これ本気で振りほどけない!

 

「セレナ、こりすが困っていますよ、これ以上の戯れは止めましょう。それに。ベッド脇に浮かんだスマホが先程から振動し続けています。あれだけ長時間の呼び出し、恐らく急用でしょう」

 

 上着のボタンが全て外された所でセレナちゃんの動きがピタリと止まり、切り替わったラブリナさんが困った顔で助け舟を出してくれる。

 涙目の私は這う這うの体でベッドから脱出し、半脱ぎになっていたお洋服を急いで着こんだ。

 

「んもう、ラブリナさんったら生真面目なんですから。ごめんなさい、こりすちゃん、少し席を外しますね」

「ううん、気にしないで。私、むしろラブリナさんに感謝してるから」

 

 セレナちゃんはふうと小さくため息をつくと、ピンクのロングヘアをふわりと舞わせてベッドから降りる。

 そして、浮かんでいたスマホを手に取って渋々部屋から出ていった。

 部屋が静かになって手持ち無沙汰になった私は、にゃん吉さんに今気になっていることを尋ねることにした。

 

「ねえ、にゃん吉さん。今日怪人達が自称してたんだけど、黒薔薇の鍵守って組織知ってる?」

「おやぁ、どうしてボクにそんなことを聞くんだい?」

 

 ベッドの上で耳をぴくって動かして、にゃん吉さんが私を一瞥する。

 

「だって、にゃん吉さんも鍵守なんでしょ?」

 

 私の変身アイテムは【エリュシウムの鍵】で、クライネは楽園(エリュシウム)の扉守。しかも、にゃん吉さんは扉守について知っていた。

 私だって間抜けじゃない。こんなにあからさまな要素が揃っていたら、にゃん吉さんが鍵守だって予想はつく。

 

「やれやれ、勘の鋭いこりすちゃんが気付かないわけないか」

「やっぱり」

 

 私はにゃん吉さんに非難の眼差しを向け、丸くなっていたにゃん吉さんが香箱座りする。

 

「と言うけどさ、別にボクも隠そうとか騙そうとか思っていた訳じゃないんだ。確かにボクは鍵守の一族だよ、でも知ってるのってさっきの昔話ぐらいのものなんだよね」

 

 にゃん吉さんはいつも通り飄々とそう言うと、大あくびして目を細める。

 あの感じだと嘘は言っていない。私とにゃん吉さんの付き合いは長いから、それ位すぐにわかる。

 

「確かにエリュシウムの鍵は先祖代々受け継がれてきたものだけど、キミも知っての通りキミの魔力負荷に耐えられるよう最新技術で改造されてるんだよ。形は同じでも中身は大昔とは別物になってるんだよね、あれ」

「それは確かに……あれ、もしかしてエリュシウムの鍵って改造しちゃダメな奴だったんじゃないの?」

 

 その話を聞く限り、エリュシウムの鍵を最新技術で改造したのは、先祖伝来の巻物をラミネート加工しちゃいました的な罰当たり行為ではなかろうか。

 

「あっはっはっ、何を今更だよ。それにボクは昔からの伝承を守るより、今を生きる人達を守りたいね。エリュシウムの鍵をキミ用に改造してなかったら、昔のキミはエリュシオンに変身できなかったし、キミが変身できなきゃ助けられなかった人は山ほど居る。違うかい?」

 

 なんだか心配になってしまった私を見て、何を今更ってにゃん吉さんが一笑する。

 

「それは、私もそう思うけど……」

「大体さ、大昔の一族の末裔なんてどれだけの人数が居るのかって話だよ。ボクにだって何人も兄弟が居るけどさ、その全員が鍵守の末裔じゃないの。孫の代なら人数は更に増えて、その子世代なら更に更に、もはやネズミ算式さ」

 

 そう言って笑うにゃん吉さん。

 猫の癖にネズミ算なんて、なんだかとってもシュール。

 

「でもにゃん吉さん、そう言うのって大抵誰か一人を正当後継者に決めるものじゃないの?」

「それは利便上決めただけの話だよ、こりすちゃん。ミコトちゃんみたいに異能で証明できるならともかく、誰が何人同時に名乗ろうが実際の所は何も違いがないと思うね、ボク」

 

 実ににゃん吉さんらしい考え方だった。

 でも一理あるかもしれない。エリュシウムの鍵は見た目だけ同じで、末裔は一杯居る。

 なら、鍵守の末裔って存在は誰が言っても自称以上の価値を持たないのかもしれない。

 

「だからさ、ボクは黒薔薇の鍵守って輩は知らないよ。でも、遠い昔に枝分かれした一族の末裔である可能性までは否定できないってわけさ」

「じゃあ、黒薔薇の鍵守とか言う連中は、にゃん吉さんと御先祖様が同じで、自分達の行動の正統性を主張する為に昔の名前を引っ張り出してきているかもしれないね」

「そうだね。そこはボクも推測で言う他ないけど、可能性としてはあり得ると思うよ」

 

 自分は誰々の末裔だって大義名分の下、侵略行為を奪還だのと言い変えて正当化するのはよく聞く話だ。

 例えば、クライネに対して自分は正統な鍵守だって宣言して、楽園の扉を押し通る方便にしたいとかも考えられる。

 あの怪人達は黒晶門が破壊されたら自由に出入りできないみたいだし。

 

「なら、その正統性を補強する為、エリュシウムの鍵を狙う可能性はありますか?」

 

 戻って来たセレナちゃんが、お部屋のソファに座りながらそう尋ねる。

 その表情は真剣で重々しい。さっきの急用、中身はあまりいい話ではなかったみたい。

 

「そりゃ可能性ならあるよ。少なくともボクが正当な鍵守を名乗りたくなったら、エリュシウムの鍵を見せて強弁するね。だって、他に正統性を担保するものがないんだからさ」

「そうですか……」

 

 にゃん吉さんの言葉を聞いて、セレナちゃんが重々しい顔で思案する。

 

「セレナちゃん、何があったの?」

「こりすちゃん達が今話していた黒薔薇の鍵守に関係することです。……先程、マジックアイテムの研究所が黒薔薇の鍵守を名乗る怪人に襲撃されたと連絡がありました」

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