魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「こりすー! こんばんは、なのですっ!」
私が声をかけるよりも早く、ミコトちゃんがタックルするように私に飛びついてくる。
「ミコトちゃんも来てたんだ!」
何故か逆方向からセレナちゃんに密着され、おしくらまんじゅうみたいになりながら私が言う。
「偶然居合わせたのです! ナナミ、さっきの半死人は蘇生させておいたのです。もう問題ないって言ったのに、設楽が念のため病院にも連れていくそうなのです」
「悪いわね。アンタが居なかったら死者多数の大惨事になっていたわ」
「ナナミちゃんが言っていた凄い癒し手って、ミコトちゃんのことだったんだね」
「そうなのです! 私が近くに居たのは不幸中の幸いなのです!」
私から少し離れ、むふんと立派な胸を張るミコトちゃん。
どうやらナナミちゃんの言っていた幸運な偶然は、優秀なヒーラーであるミコトちゃんが現場近くに居合わせたことらしい。
そして、そんなミコトちゃんの手には大きな風呂敷包み、どこかにお出かけ中だったのかな?
「ミコトちゃん、そんな風呂敷包み抱えてどこかに行く予定だったの?」
「こりすの家なのです! 暫くお泊りさせて貰う予定だったのです!」
「えっ、ええっ!?」
さも当然そうな顔でそう言って、私に風呂敷包みを見せつけてくるミコトちゃん。
えっ、聞いてない。私、全く聞いてない。
「はい? こりすちゃんの家にお泊りしたいなら、ちゃんと私の許可を取ってからにしてもらえませんか?」
そんなミコトちゃんを笑顔で威圧するセレナちゃん。怖い! 私の危機感知スキルが悲鳴をあげるレベルの威圧感が出てる!
って言うか、どうして私のお家に泊るのにセレナちゃんの許可が欲しいの!? 住人不在で話を転がしていくのは是非とも御遠慮願いたい。
「はぁ、学園長代理も噂通り相当な変人なのね……。このままだと話がこじれそうだし、私から説明させてもらっていいかしら」
「ナナミちゃん、ぜひお願い!」
呆れ顔をしたナナミちゃんの提案を、私はうんうんと何度も頷いて一生懸命大歓迎する。
「この子、黒薔薇の鍵守に襲われていて、現場に急行した私が保護したのよ」
「メイは黒薔薇の鍵守に協力したことがあって、鍵守達が作った厄介なあれこれを開門で次元の狭間に封印していたそうなのです。連中、メイが居なくなったせいで取り出せなくて大困りなのです!」
「なるほど。だからミコトちゃんを狙ったんだ」
メイちゃんの体を乗っ取っていた巨大芋虫ことソーニャは、開門でラブリナさんの欠片を取り出していた。
あんな感じで色々なものを隠していたんだろう。それを取り出せなくなるのはとんでもない痛手のはずだ。
「厳重監視されているメイ達よりも、私の方が誘拐しやすいと思われたようなのです! 後、私の方が凄いからもあるのです、えっへん!」
「それ自慢げにドヤ顔してる場合じゃないよぉ!? 持とう、危機感!」
でも残念ながら、それは自慢しているような状況じゃない。
地上でそんな目に遭ってるのは大問題じゃないの!? 至急対策を講じないといけない案件だよ、それ!
「だからと言って、監視中の旧那由他会に合流させる訳にもいかないじゃない。こりすも嫌でしょ、これからの冒険には必ず公安の監視が同行するようになるなんて」
「あ、あたりまえだよぉ! むしろ嫌じゃない人居るの!?」
暗黒神召喚の実績がある暗黒教団だから妥当な扱いだけど、旧那由他会はやっぱりそんな扱いなんだね……。
「それでこの子に他の行く当てを聞いたら、アンタの家だって言うのよ。だから送って行く途中だったの」
「そこで、丁度事件と鉢合わせちゃったんだ」
「なのです。ナナミに送ってもらう分、怪我人治療のお手伝いしていたのです。冒険者は助け合い、ギブアンドテイクなのです!」
もう一度胸を張るミコトちゃん、偉い! ちゃんと成長してる!
ここはダンジョンじゃないから、正規料金のお布施請求してたらどうしようって実は内心冷や冷やしてた。
絶対に保険適用外だし、蘇生のお布施なんて卒倒するような金額に違いない。不意に莫大な金銭を請求される光景を想像して、私は思わず身震いした。
「……なるほど、事情はわかりました。なら宵月さんは白鴎院家で保護しますね」
「こりすの家でいいのです」
「白鴎院家で保護します」
優雅な微笑みを浮かべ、有無を言わさず押し通そうとするセレナちゃん。
「こりすの家がいいのです」
そんなものは通じないと、ほっぺを膨らめて不服を主張するミコトちゃん。
私だったらゴリ押しに負けて即諦めてるけど、二人は互角で一歩も譲らない。
この構図は放置すると間違いなく長引く。それがわかっている私は、嫌々ながら軌道修正の役割を果たすことにする。
「な、ナナミちゃん、鍵を奪って逃げている怪人はモンスター化してたの?」
「ええ、そのはずよ。と言うか、最近街に出没する怪人は全部モンスター化しているの。だからこそ、ねね達が黒晶門の破壊に向かったのだし」
「なら、怪人は街に潜まずダンジョンに逃げ込むよね。ラブリナさん、近くに黒晶石の気配ってある?」
「いいえ、ありません。ダンジョンに逃げ込んだと言うこりすの読みは恐らく正しいでしょう」
ミコトちゃんとのバトルが強制中断され、セレナちゃんがラブリナさんに切り替わって言う。
予想通りの答えだ。黒晶石の恩恵を受ける側にとって、黒晶石の侵食がない地上はリスクの高い場所。ラブリナさん達黒晶石の魔王は本来の力を発揮できないし、黒晶花も強いモンスターに変化しない。
なら、モンスター化した怪人達も黒晶石のない場所では何らかの制限を受けているはず。私はそう考えた。
「……ラブリナさんがそう言うのなら間違いないんでしょうね。だとすると、逃げ込んだのは旧攻略最前線の先、かしら?」
「うん。黒晶門の先って攻略最前線の奥深くに繋がってる可能性が高いって聞いてる」
私はエリュシオンと別人設定だからあえて曖昧に言っているけれど、クライネが先で待つと言っていたんだから、ほぼ確定だろう。
そして、黒薔薇の鍵守を名乗る怪人は黒晶門から出現していた。帰り道になる黒晶門が壊されている以上、私達が全く知らない未知のルートがない限り、攻略最前線の先へと進んで帰る他ないはずだ。
「わかったわ、この件は私から鳳仙長官に連絡しておく。ダン特のシフトも変えないといけないし、冒険者達への注意喚起も必要になるわね」
ナナミちゃんは傍に浮いたスマホを手早く操作すると、パイプ椅子から立ち上がってテキパキと撤収準備を進めていく。
「ありがとう、ナナミちゃん」
「気にしないでいいわ、これは元々私の仕事だもの。それにアンタはあっちで手一杯でしょ」
「えっ?」
私は小首を傾げると、苦笑するナナミちゃんの視線の先を確認する。
「私はこりすのお家にお泊りするのです! そこが一番安全なのです!」
「安心してください。絶海の孤島にある別荘なら、怪人だろうと容易に侵入できませんよ」
そこには私の家にお泊りするか否かを言い争う二人の姿。
「ああ、二人とも再開しちゃったんだ……」
この二人にはその場凌ぎの小細工なんて通じないんだなぁって、私は途方に暮れてしまうのだった。