魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
翌朝、私は家のソファでリオちゃんの訪問を待っていた。
エリュシウムの鍵のスペアを奪われたことは私が思うよりも大事だったらしく、ダンジョン庁の人を連れて朝から謝罪に来るらしい。
「多大なストレスを感じる。不安で心が折れそう……!」
「やれやれ、謝罪される側のキミが緊張してるってのも変な話だね。キミの学生生活が心配になってくるよ、ボク」
「し、仕方ないよ。私に謝ってもらう理由はないんだし! 私、エリュシオンと一切関係ないんだよ!?」
自宅で挙動不審気味になっている私を見て、にゃん吉さんが呆れた顔をする。
私だって魔法少女エリュシオンとして、自分の変身アイテムであるエリュシウムの鍵を悪用されるのは見過ごせない。
でも、名目上"天狼こりす"はエリュシオンと無関係で、にゃん吉さんは単なる天狼家の飼い猫。それなのに私に対して謝罪に来られても困る、一体何を謝りにいらっしゃるというのだろうか。
この人エリュシオンの関係者なのかな、って疑われるだけの百害あって一利なしなシチュエーション。
謝られる側なのに朝からストレスが凄い、ご飯を余計におかわりしたくなる。
「こりす、大丈夫なのです! リオは事情を知っているからその辺は抜かりないはずなのです! エリュシオン様の邪魔はしないのです!」
セレナちゃんと一緒にテーブルでお茶を飲んでいたミコトちゃんが、テンパっている私を励ましてくれる。
あの後も暫く繰り広げられていたセレナちゃんとミコトちゃんのバトルは、ミコトちゃんがお泊りしている間はセレナちゃんもお泊りする。そんな意味不明な着地点にて解決してしてしまった。
住人である私の意見が全く反映されていないその決着。もう諦めるしかないね、ってにゃん吉さんは苦笑していたけれど、それでも長々住まわれてはちょっと困る。
家の周囲に白鴎院家直属のガード部隊まで展開してちゃってるし。
「そ、そう信じたいね」
「心配だったら、深入りしないよう私が入念に言い聞かせてもいいのです!」
「そ、それはいいよ! 他人の人生が狂うから!」
ミコトちゃんの交渉や説得は実質洗脳を意味している。入念に言い聞かせたら、絶対にとんでもない惨状になってしまう。
クロノス社の社長さんみたいになっちゃったら、相手の人に申し訳ないどころの話じゃない。
「緊張するこりすちゃんも可愛いですねぇ。これで想定外の事態が起こったらどうなっちゃうんでしょう」
口元に手を当てて、うふふとお上品に笑うセレナちゃん。
完全に高みの見物をなさっている! セレナちゃんがデスゲームを観戦する暗黒お金持ちみたいになっている!
「と、とりあえず、私は受け答えの脳内シミュレーションするから! 少しの間そっとしておいて!」
にゃん吉さんをソファの端っこに動かして、私がソファに座りなおそうとすると、そんな暇なんて与えないとでも言う様にインターホンが鳴った。
「来た、来てしまわれた……!」
「ほら、こりすちゃん、リオちゃんのお出ましみたいだよ。無駄なシミュレーションを繰り返す前に来てよかったじゃない」
「無駄じゃないよ!」
シシシと愉快そうに笑うにゃん吉さんに促され、私が玄関モニターを見てみれば、そこに映ってたのはやっぱりリオちゃん。
それと涙ぐんでいるダン特の人、昨日ミコトちゃんが治療したハンナさんだった。
「うぃー、こりっちゃん、おつー」
私が玄関で出迎えると、リオちゃんが緩い感じで挨拶してくる。
「お、おはよう、リオちゃん」
「悪いね、ハンナパイセンがどうしても個人的に詫び入れたいって言ってたんで連れて来た」
戦々恐々の私を見てリオちゃんが苦笑すると、ハンナさんが私の前にやって来る。
その動きに昨日致命傷を受けていた影響は一切ない。ミコトちゃんの癒しの権能、やっぱり凄いんだって再確認した。
「昨日は助けていただきありがとうございました。私は設楽先輩にこってり絞られてきます、本当に申し訳ありませんでした……」
ハンナさんはお高そうな菓子折りを私に無理矢理手渡すと、私が慰めの言葉をかけるよりも早く、うっうっうっと涙ぐみながら一人帰っていく。
あれ、これで終わり? なんか凄くあっさり終わった、肩透かしだ。でもよかった。
「大丈夫、ウチ等と一緒に買ってきたから変なものは入ってないって」
私が拍子抜けして小首を傾げていると、何を勘違いしたのかリオちゃんがそう付け足してくれる。
「べ、別に異物混入は疑ってないよぉ!?」
って、あれ? リオちゃん、今ウチ等って言った? ウチ、等? 他の人、誰?
「……リオちゃん、ダンジョン庁から謝罪に来たのって今のハンナさんだよね?」
「いやいや、あれはハンナパイセンのは個人的な奴。変身アイテム盗られた謝罪があれでいい訳ないじゃん。しかるべき立場の人が来てるって」
「やっぱり?」
違う違うと苦笑しながら手を横に振るリオちゃん。
しかるべき立場ってどんな立場だろう。ダンジョン庁の偉い人を想像して……私は最悪な展開を察してしまった。
「こんこ。ほれ小娘、ダンジョン庁長官として謝罪に来てやったぞ。さっさと家の中へ案内せよ」
案の定、リオちゃんの後ろからスーツ姿の九尾の狐カレンが顔を出す。
「う、うああああ!?」
そうだと思った! 察してた、でも認めたくなかった! もう嫌な予感しかしない!
「乳頭巾ちゃんさん、なんと今日はおねねさんも居るでございますよー」
「ね、ねねちゃんまで居るのぉ!?」
更にカレンの横から白いビキニ姿の女の子が姿を現す。
我が家に押し寄せてくる、ハチャメチャが! 今この瞬間、我が家は阿鼻叫喚の坩堝と化した! 悲劇はもはや必然!
「こんここんこ、期待通りの実に愉快な反応じゃ。安心せよ、お主の期待に応えて無茶振りも用意してやっておるぞ」
カレンはくふふと満足そうに笑うと、恐ろしいことをのたまって、勝手にスリッパを履いて家へと上がっていく。
「お邪魔するでございますよー」
更にねねちゃんがその後に続く。
マズイ、マズイ、マズイ! 私の危機感知スキルが悲鳴をあげている! 間違いなくこの二人は人の家の物を好き放題できるタイプの人種!
我が家には私も知らないにゃん吉さんの私物がそこかしこにある。見られて私がエリュシオンだって疑われたら一大事だ! リオちゃんの比じゃない無茶振りの嵐が吹き荒れてしまう!
「ままま待って! 私がリビングへ案内するから! 変な所行かないで! り、リオちゃんも上がって!」
ここは人生の正念場。私は大慌てでカレン達を呼び止め、必死にリビングへと誘導するのだった。