魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第13話 さざ波の魔王9

「早くも疲れた……」

 

 なんとか二人をリビングまで誘導することに成功した私は、勝手に動き回ろうとしていたねねちゃんの水着の紐を引っ張って着席させ、愉しげに視線で部屋を物色しているカレンに睨みを利かせる。

 ここからが始まりなのに、早くも精神的には疲労困憊だ。英気を養うため、私はハンナさんから貰ったばかりのどら焼きを大きく頬張った。

 

「さて、念のため聞いておくが形式的な謝罪は要るかの?」

 

 そんな私の苦労なんてどこ吹く風、我が物顔でソファの真ん中に腰かけたカレンが、足を組みながらそう尋ねる。

 その姿はどう見ても偉そうで、謝罪の意志は微塵も感じられない。感じられないと言うか、多分ない。

 

「要らないよ。そもそも、悪いのはダンジョン庁じゃなくって、黒薔薇の鍵守とか言う連中だし」

 

 ソファから逃げてきたにゃん吉さんを撫でつつ、どら焼きを食べ終えた私は遠慮ない態度で言う。

 ある意味、来たのがカレンでよかったかもしれない。一周回って逆に落ち着いたし、普通のダンジョン庁の人が相手なら気を遣っちゃうけど、相手がカレンがなら容赦ない対応しても良心が痛まない。

 悪さをした前科持ちの怪人には遠慮したり敬語を使ったりなんてしてやらな……待って! カレンダーに書き込んだ予定確認しないで! やめて、やめて!

 

「くふふ。お主達は話が早くて助かるの、ダンジョン庁に居る堅物共とは大違いじゃ。とは言え、怪人連中に変身アイテムを盗られたままと言うのは癪じゃ、それはお主等も同じじゃろ?」

「当然だよ、どう考えても悪用するに決まってるんだから。そうじゃなくても、私は取り返しに行くつもりだし」

 

 なんとかカレンダーの回収に成功した私は、くふふと笑うカレンを思い切り睨みつけながら言う。

 危ない、危なすぎる。少しでも油断したら一気に私生活が持っていかれる。

 

「その通りなのです! エリュシオン様の物を奪った悪漢には天誅が必要なのです!」

 

 カレンを威嚇する私の後ろ、はいっと手をあげてミコトちゃんが力強く同意する。

 

「うむうむ、そう言うと思うておったぞ。無論、妾とて遊び場を荒らす愚物共には報いを与えねばならぬ。そこで昨日ナナミとした話の続きになるのじゃがな」

「怪人の逃げた先がわかったんですね」

 

 セレナちゃんの言葉にカレンが頷く。

 この短時間で逃亡先を発見できたと言うことは、予想通り海岸丘陵の先に逃げていたんだろう。

 

「ナナミから報告を受けたダンジョン庁は、海岸丘陵周辺の警備を強化しておった。その直後、海岸丘陵の先にある未整備エリア"魔力の海"で建設中の拠点付近で件の怪人が目撃されたのじゃ」

「それでどうなったの?」

「現状はそれで終わりじゃ。ただし、建設中の拠点に魔石が運び込めなくなった。以前、怪人達が平原拠点の魔石を奪い、地上侵攻の足掛かりとした事件があったからの」

 

 いけしゃあしゃあと語るカレンに、リオちゃんが冷ややかな視線を向ける。

 カレンは平原拠点の魔石を奪った怪人組織"大怪獣連合"の元一味で、リオちゃんが必死の思いでそれを止めた経緯がある。

 それなのにカレンは全く悪びれていない、酷い話だ。

 

「でもさ、ヤバ目な怪人がうろついている状態で、作業員さんをずっと足止めさせる訳にはいかないじゃん? それで魔石をウチ等で届けて欲しいんだと」

 

 少し憂鬱そうな顔で、リオちゃんが言う。

 

「いいよ、元々怪人達を追いかける予定だったから物のついでだし。ね、セレナちゃん」

「はい、そのつもりです。こりすちゃんはそう言うとわかっていましたから」

「私も構わないのです!」

 

 快諾する私に、セレナちゃんとミコトちゃんも賛同してくれる。

 そもそも、止められようが私は勝手に追いかけるつもりだった。大手を振って未整備エリアに行ける大義名分ができたのは好都合。

 それに、奪われた変身アイテムは【エリュシウムの鍵】のスペア、つまり私の変身アイテムの予備なのだ。

 それを悪事に使われるなんて絶対許せない。天狼こりすとしても、エリュシオンとしてもだ。

 

「はー、快諾してくると思った。こりっちゃんさ、危ないってわかってんの?」

「危ないことぐらいわかってるよ。リオちゃんはどうするの?」

「ウチ? 行くに決まってんじゃん。鍵のスペアを直接借りたのはウチだし、ウチはしっかり責任取らんと」

 

 あ、リオちゃんが憂鬱そうだったの、カレンに無茶振りされたからじゃなくて、鍵を盗られて責任を感じてるからなんだ。

 リオちゃん根は真面目だよねって思いつつ、別にリオちゃんのせいじゃないんだけどな、とも思う。

 

「未整備エリアは危険度が高いでございますからね。今回はおねねさんも同行するでございますよー」

 

 そんなリオちゃんの横で、ねねちゃんが小さく手を振ってアピールする。

 どうしてねねちゃんが居るのか不思議だったけれど、助っ人になってくれるかららしい。

 

「と、そこまでが話の半分、表向きの理由じゃ」

 

 話がまとまったのを見計らい、カレンが不穏な言葉を付け足す。

 半分、表向き? どういうことなんだろう。私は小首を傾げる。

 

「変身アイテムを奪った怪人の捜索を止めるよう、今さっき魔法省の連中から圧力をかけられた。ダンジョン特別戦闘部隊が表立って大規模捜索できぬ故、魔石運びを捜索するための方便として使っておる。それがもう半分じゃ」

「昨日襲撃された魔法具研究センターは魔法省の管轄だったはずです。黒薔薇の鍵守なる結社、噂通りマジックアイテムの技術を使って影響力を高めているようですね」

「うむ、そのようじゃな。平然と怪人に入り込まれた上、この期に及んでなお毒餌を貪る浅ましさに怖気立つわ」

 

 カレンは胸元から取り出した扇子で口を隠し、不愉快そうに目を細める。

 他人事みたいに言ってるけど、平然と怪人に入り込まれているのはダンジョン庁も同じだ。鳳仙華恋って言う九尾の狐の大妖怪が長官になっちゃってるんだから。

 

「更に図々しくも、観察処分中の那由他会をこちらに任せよと言ってきおった。越権行為も甚だしい」

「保護する体でメイちゃんを回収するつもりだよね」

「露骨なのです! 断固許せないのです! 黒薔薇の鍵守をやっつけるのです!」

 

 私の言葉に同意し、ミコトちゃんが大きく両手をあげて憤る。

 昨日、ミコトちゃんを襲った鍵守達は、開門で隠した物を取り出せなくて困っているらしい。

 魔法省経由で圧力をかけてきたのが黒薔薇の鍵守である可能性は高い。ミコトちゃんの安全のためにも、早期に対処しておきたい。

 

「これほど小馬鹿にされたのは久々よ、げに不愉快な連中じゃ。御しやすい暗愚扱いされて笑えるほど、妾は寛容ではない。黒薔薇の鍵守共には必ず相応の末路を迎えて貰う」

 

 大妖怪としての本性を現し、ピリピリとくる殺気を漏らすカレン。

 魔法省を使って圧力をかけてきたことが余程気に入らないらしい。

 

 そういえば、ダンジョン資源の管理をしているダンジョン庁と、ダンジョン内の魔法関連資源を自分達で管理したい魔法省は、いつも折り合いが悪いって聞いたことがある。

 そこら辺の確執も、カレンの不機嫌さに拍車をかけているのかもしれない。

 

「長官、政争的なのは自分達だけでやってくれません? ウチ等の目的はあくまで拠点作業員の撤退支援、んで可能なら盗られた鍵のスペアを取り戻すことなんで」

 

 そんなカレンに物怖じせず、リオちゃんが箱のどら焼きを手に取りながらピシャリと言う。

 

「くふふ、そんなことは当然の話であろう。お主達は好きにやればよい、役人の手駒になる魔法少女など興醒め以外の何物でもなかろうて」

 

 纏った殺気を一瞬で霧散させ、カレンがくふふと愉快そうに笑う。

 凄く厄介ファン。薄々感じてたけど、カレンは魔法少女に対して解釈違いの行動を許さないタイプだ。

 

 ……うん、私の正体は絶対にバラせない。エリュシオンだってバレたらリオちゃん以上の玩具にされること確実。無事お帰りいただくまで一瞬たりとも気が抜けない。

 

「おお、そうじゃ。好きにせよとは言ったが、未整備エリアの探索配信はして貰うからの。フォロー用にダン特のパーティをこっそり後詰めにしておく故、お主達は怪人など知らぬ存ぜぬで冒険してくるがよい」

「しかも、おねねさんとの冒険はリオが大好きなコラボ配信扱いでございますよー。よかったでございますね、リオ」

「ちょい待ち! そこまでは聞いてない! ウチ、おねねさんとのコラボ回にいい思い出ないんだけど!?」

 

 ねねちゃんの言葉に焦るリオちゃん。

 リオちゃんってコラボ配信とか好きそうだけど、あの狼狽えっぷりは何かトラウマでもあるんだろうか。カレンが無茶振りする時の顔してるし。

 そんな様子を不思議に思いながら、私達は拠点に魔石を届け、怪人に奪われたエリュシウムの鍵のスペアを取り返すため、未整備エリアである"魔力の海"へと冒険に赴くのだった。

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