魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第2話 魔法少女の迷走4

 その日の夜、真新しい許可証を鞄に入れた私は、早速ダンジョン探索を開始していた。

 

「ええと、現在位置が沢エリアの端っこで、次の目的エリアが森だから……」

 

 エリア境界付近にある山小屋のベンチに腰掛けた私は、少し遅い夕ご飯を食べながら、スマホに表示されたダンジョンマップと睨めっこする。

 

 多くのダンジョンは蟻の巣状に広がっていて、複数の入り口と階層があり、中で交差したりもしている。当然、ダンジョンの同じ地点でも、こっちからは三つ目、あっちからは四つ目みたいなパターンがある。

 だから、ダンジョンの階層はレベルに対応した危険度で区別されている。二層ならレベル2パーティ、三層ならレベル3パーティが安全に歩ける、みたいな区分になっているらしい。

 

 沢と呼ばれているこの階層は地上と繋がっている第一層で、ダンジョン学園のある平原エリアと同じように第二層の森エリアへと繋がっている。

 森エリア、更にその奥のエリアまで足を伸ばす場合の定番ルートであり、平原の次に安全でメジャーなルートとされていた。

 

 そう、()()()()()なのだ。過去形である理由、それは沢ルートから森へと踏み入ってすぐの所に、層を一つ隔てて深層と繋がる境界ができてしまったから。

 階層数を算出することさえ難しい深層、ディープエリア。二層の森からほど近い"黒晶石の花畑"と呼ばれるその深層こそ、私の第一目標となっている場所。

 ダンジョン学園の入学案内と共に送られてきた封筒には、黒晶石の花畑から命からがら撤退してきたパーティが持ち帰った調査写真が入っていた。

 そして、その写真に写っていたのは黒く禍々しい黒晶石。その黒晶石が白い輝石へと変われば、セレナちゃんの体に入った黒晶石の欠片と釣り合うかもしれない。

 

「でも、いきなり深層は無理だから、目標はあくまで目標として……今日はどこまで行っておこうかな」

 

 アンパンとジャムパンとツナサンドと鮭おにぎりと、ついでにデザート代わりのチョコレートを食べ、食後のお茶を飲みつつ私は考える。

 ここは夜でも月灯りが明るくて歩きやすいし、私はエリュシオンとして培った戦闘センスがあるから、二層のモンスターぐらいなら多分倒せると思う。

 けれど、深層前にある階層"黒晶石の花畑入口"は、三層を飛ばして四層。つまり一気にモンスターが強くなる。その上、まだ拠点が作られていない。

 慎重に行くのなら、二層の森にある拠点で魔力登録し、日を改めて探索しなおすのが賢いんだと思う。本当なら。

 

「でもやっぱり、まずは行ける所まで行っといた方がいいよね」

 

 昼間の苦しそうなセレナちゃんを思い出し、私はそう結論付ける。

 目的の黒晶石が簡単に見つからないことぐらい、当然覚悟している。けれど幸い明日は休み、夜遅くまで粘っても私の眠気以外に問題はない。

 それに花畑入り口は四層、セレナちゃんの症状を緩和させる素材を見つけられる可能性がある階層だ。素材の在庫が沢山あれば、ちょっと具合が悪いぐらいでも気軽に使えるようになるはず。

 私は食べ終えたパンやチョコの包みを四つ折りにして袋に片付けると、気合を入れてベンチから立ち上がる。

 そして、少し先に見える森エリアとの次元の裂け目を目指し、夜のダンジョン探索を再開するのだった。

 

 そのまま境界を越えて踏み入った第二層は、呼び名の通り森の中だった。点在する木々の隙間からは眩しいほどの月明かりが漏れ、光るキノコが地面をほのかに照らしている。

 背の高い草が生い茂ってはいないから、歩きやすいのが嬉しい。しかも、所々にライトアップされた道案内の看板まである。

 

 調子に乗って速足で歩く私の前、人型になった植物と大イノシシのモンスターがこんばんはしてくる。

 

「でた、二層のモンスター……!」

 

 鞄に懐中電灯を戻す暇もなく、植物がツルを伸ばし、イノシシが私に向かって突撃。

 私は体捌きだけでツルを躱すと、突撃してきたイノシシの首に素早く鉈を二回入れて斬り飛ばす。

 その勢いを利用して、アクロバットのようにバク転しながら木に向かって跳躍、更に木を蹴り飛ばして植物モンスターの本体へと間合いを詰める。

 そのまま植物モンスターの核となっている黒晶石を一刀両断。萎れるように植物モンスターが崩れ落ちた。

 

「うん、いけそう。これならジャッカー下級戦闘員の方が強いかも」

 

 私は二匹のモンスターが消え去るのを確認すると、落ちていた牙をビニール袋に入れて鞄にしまう。

 本来倒せば跡形もなく消えるはずのモンスターは、しばしばその一部を素材としてこの世界に残していく。

 その原理は解明されていないけれど、白い輝石が残ることもあるんだから不思議じゃない。と、私は勝手に思っている。

 

「牙って換金すると幾らになるんだろう。にゃん吉さんのおやつ代ぐらいにはなるのかな?」

 

 そんな現金なことを考えていると、今度は森の奥の方でちらちらと幾つもの光が揺らめいた。

 

「あれは……ここのモンスター、じゃないよね?」

 

 私は木の陰に隠れながら近づいて、こっそり様子を窺う。

 二層では発光するモンスターは確認されていない。予想されるのは境界を越えて出てきた場違いモンスター、あるいは二層拠点方面から四層を目指す冒険者さんかだ。

 場違いなモンスターなんて当然遭遇したくないし、もし親切な人だったらそれはそれでマズイ。

 初心者の私が四層に向かってるのを見て、無理やりにでもお家へ帰そうとしてくれるかもしれない。どちらにせよ、今の私が出会いたくない相手だ。

 

「恐怖礼賛。恐怖礼賛。恐怖を贄として降臨せよ、我らが王よ」

「喝采せよ、礼賛せよ。恐怖と黒晶石を拡散せよ、我らが王よ」

 

 けれど、そこに居たのは黒装束を着てお神輿みたいなものを担いでいる怪しい一団だった。

 黒装束の一団は、私達は危険人物ですって感じの言葉を口にしながら、わっしょいわっしょいとお神輿を運んでいた。

 

「う、うああぁ……変なの見ちゃった!」

 

 甘かった。百鬼夜行にでも出会っちゃった気分だ。通りすがりの冒険者さんや、場違いモンスターの方がまだ癒された。

 一番怖いのは人間なんだねって、お決まりの台詞が脳裏に浮かぶ。魔法少女をしていた私の経験上、あんな感じの人達がまともだった試しはない。

 

「ど、どうしよう。つ、通報した方がいいのかな!?」

 

 ダンジョンホットラインに通報しようと、慌てて鞄からスマホを取り出す私。

 学生証を受け取るのと一緒に、スマホも魔力式に換装してもらってある。魔力異常エリア以外ならダンジョン内でも使えるし、昨日のリオちゃんみたいに自分の傍に浮かせることだってできる。

 けれど、お神輿の上に乗っているのが見知った顔だと気付いて、私は急遽通報を止めた。

 

「あ、あれミコトちゃん?」

 

 見間違いじゃないかと再度確認する私、儚げな表情でお神輿に乗っていたのは、赤と青のオッドアイに光沢のある白い髪の女の子。

 やっぱりミコトちゃんだ。あんな変わった髪と目の色をした子がそんなに沢山居るはずもない。

 そうなるとあれはミコトちゃんの実家である暗黒教団さん? でも、それにしては様子が変だ。ミコトちゃんはお人形さんのように動かないし、いつもの首輪みたいなチョーカーに加えて、手枷までつけられてる。

 そもそも、ミコトちゃんが信仰してるのってエリュシオンって設定だよね。それにしては物騒じゃない? それとも暗黒教団だから仕様なの?

 

「わからない。私、暗黒教団は壊滅させる側だから……!」

 

 ミコトちゃん家の行事なら口出しできないけれど、攫われてるとかなら大変だ。

 内心動揺しながらも、まずは後を追いかけようと大急ぎで木の陰から飛び出す。

 肩をぽんと叩かれたのはその時だった。

 

「あ……!」

 

 驚いて思わず声をあげそうになったのを、知らない手が塞いで遮る。

 手の感じと、なんかいい匂いがする所からして相手は女の子?

 素早く反応して怪しまれないよう、ぐっと我慢して動かないでおいたけど酷いことされないよね?

 敵意は感じられなかったし、持っているらしい危機感知スキルも反応していないから、大丈夫だと思いたい。

 

「はぁ、なんでこんな所に乳頭巾ちゃんがいるん?」

 

 案の定、それは見知った赤い髪の女の子。呆れ顔をしたリオちゃんだった。

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