魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
その日の夜、セレナちゃんの姿を見て居ても立っても居られなくなった私は、真新しい許可証を鞄に入れ、早速ダンジョンへ潜っていた。
「ええと、現在位置が沢エリアの端っこで、ひとまずの目的地が森エリアだから……」
少しだけ手入れのされた道を歩く私は、威嚇してくる沢蟹モンスターを蹴散らし、スマホのマップで自分が通るべきルートを確認する。
多くのダンジョンは蟻の巣状に広がっていて、同じ階層に行くにも複数のルートがある。
沢と呼ばれているこの階層は地上直通の第一層で、ダンジョン学園のある平原エリアと同じく第二層の森エリアへと繋がっている。
沢エリアは森、更にその奥のエリアまで足を伸ばす場合の定番ルートであり、平原の次に安全でメジャーなルートとされていた。……そう、
「平原エリアは夜でも人が多いって話なのに、こっちは人がまるでいないんだねぇ」
月明りと光るキノコが地面を照らす森エリアへと到達した私は、まだ誰とも出会っていないことに少し気を引き締める。
皆がこのルートを使わない理由は、沢エリアから森エリアに入ってすぐの立て看板に書いてあった。
『場違いモンスター注意。この付近に深層隣接エリアへと通じる境界があります』
このルートがあまり使われなくなってしまった理由は、現在地点である森エリアの端から少し行った場所に、層を一つ隔てて深層と繋がる境界ができてしまったから。
ディープエリアとも呼ばれる深層は、階層を算出することすら難しく、凄く強いモンスターが闊歩しているらしい。だから、皆そこから迷い出てくるモンスターを恐れて近づかないのだ。
私がライトアップされた注意書きの看板を眺めていると、ガサガサと茂みの揺れる音が聞こえてくる。
音した方へ懐中電灯を向けてみれば、人型に形作られた植物と、大イノシシのモンスターがこんばんはしていた。
「でた、二層のモンスター……!」
鞄に懐中電灯を戻す暇もなく、植物がツルを伸ばし、イノシシが私に向かって突撃。
私は体捌きだけでツルを躱すと、突撃してきたイノシシの首に素早く鉈を二回入れて斬り飛ばす。
その勢いを利用して、アクロバットのようにバク転しながら木に向かって跳躍、更に木を蹴り飛ばして植物モンスターの本体へと間合いを詰める。
そのまま植物モンスターの核となっている黒晶石を一刀両断。萎れるように植物モンスターが崩れ落ちた。
「うん、これならジャッカー下級戦闘員の方が強いかも。深層を目指すんだから、二層モンスターには躓いていられないよね」
私は問題なく勝利できた戦闘に少し手応えを感じつつ、この程度は当然だと気持ちを改める。
わざわざ危険なこのルートを選んだ理由。それは件の深層"黒晶石の花畑"こそが、私が今目指している場所だから。
ダンジョン学園の入学案内と共に送られてきた封筒には、黒晶石の花畑から命からがら撤退してきたパーティが持ち帰った調査写真が入っていた。
そして、その写真に写っていたのは黒く禍々しい黒晶石。あの黒晶石が白い輝石へと変われば、セレナちゃんの体に入った黒晶石の欠片と釣り合うかもしれない。
「……でも、いきなり深層探索は無理だろうから、今日は四層指定になってる深層前エリアまで行って、様子を見ておこうかな」
モンスターが消えていく様子を見届けながらそう目標設定した私は、落ちていた牙をビニール袋に入れて鞄にしまう。
本来倒せば跡形もなく消えるはずのモンスターは、しばしばその一部を素材としてこの世界に残していく。
その原理は解明されていないけれど、白い輝石が残ることもあるんだから不思議じゃない。と、私は勝手に思っている。
地面に投げ捨てていた懐中電灯を拾い直していると、今度は森の奥の方でちらちらと幾つもの光が揺らめいた。
「あれは……ここのモンスター、じゃないよね?」
私は咄嗟に明かりを消すと、木の陰に隠れながら近づいてこっそり様子を窺う。
二層では発光するモンスターは確認されていない。予想されるのは境界を越えて出てきた場違いモンスター、あるいは二層拠点方面から深層前の四層を目指す冒険者さんかだ。
場違いなモンスターなんて当然遭遇したくないし、もし親切な人だったらそれはそれでマズイ。
初心者の私が深層前に向かってるのを見て、無理やりにでもお家へ帰そうとしてくれるかもしれない。どちらにせよ、今の私が出会いたくない相手だ。
「恐怖礼賛。恐怖礼賛。恐怖を贄として降臨せよ、我らが王よ」
「喝采せよ、礼賛せよ。恐怖と黒晶石を拡散せよ、我らが王よ」
けれど、そこに居たのは黒装束を着てお神輿みたいなものを担いでいる怪しい一団だった。
黒装束の一団は、私達は危険人物ですって感じの言葉を口にしながら、わっしょいわっしょいとお神輿を運んでいた。
「う、うああぁ……変なの見ちゃった!」
甘かった。百鬼夜行にでも出会っちゃった気分だ。通りすがりの冒険者さんや、場違いモンスターの方がまだ癒された。
一番怖いのは人間なんだねって、お決まりの台詞が脳裏に浮かぶ。魔法少女をしていた私の経験上、あんな感じの人達がまともだった試しはない。
「ど、どうしよう。つ、通報した方がいいのかな!?」
ダンジョンホットラインに通報しようと、慌てて鞄からスマホを取り出す私。
学生証を受け取るのと一緒に、スマホも魔力式に換装してもらってある。魔力異常エリア以外ならダンジョン内でも使えるし、昨日のリオちゃんみたいに自分の傍に浮かせることだってできる。
けれど、お神輿の上に乗っているのが見知った顔だと気付いて、私は急遽通報を止めた。
「あ、あれミコトちゃん?」
見間違いじゃないかと再度確認する私、儚げな表情でお神輿に乗っていたのは、赤と青のオッドアイに光沢のある白い髪の女の子。
やっぱりミコトちゃんだ。あんな変わった髪と目の色をした子がそんなに沢山居るはずもない。
そうなるとあれはミコトちゃんの実家である暗黒教団さん? でも、それにしては様子が変だ。ミコトちゃんはお人形さんのように動かないし、いつもの首輪みたいなチョーカーに加えて、手枷までつけられてる。
そもそも、ミコトちゃんが信仰してるのってエリュシオンって設定だよね。それにしては物騒じゃない? それとも暗黒教団だから仕様なの?
「わからない。私、暗黒教団は壊滅させる側だから……!」
ミコトちゃん家の行事なら口出しできないけれど、攫われてるとかなら大変だ。
内心動揺しながらも、まずは後を追いかけようと大急ぎで木の陰から飛び出す。
肩をぽんと叩かれたのはその時だった。
「あ……!」
驚いて思わず声をあげそうになったのを、知らない手が塞いで遮る。
手の感じと、なんかいい匂いがする所からして相手は女の子?
素早く反応して怪しまれないよう、ぐっと我慢して動かないでおいたけど酷いことされないよね?
敵意は感じられなかったし、持っているらしい危機感知スキルも反応していないから、大丈夫だと思いたい。
「はぁ、なんでこんな所に乳頭巾ちゃんがいるん?」
その正体は見知った赤い髪の女の子。呆れ顔をしたリオちゃんだった。