魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第15話 海底の魔王1

 

  第三話 海底の魔王

 

 

「ムカつくの! ムカつくの! エリュシオンも! それをぶっ殺す邪魔をしたあの乳牛怪人も許せないの!」

 

 壊都の一角、こりすに一杯食わされる形となったアンジェラが、憤りを露にして隠れ家にしている廃墟へと戻ってくる。

 

「ワイズ! 次元の狭間に隔離した放棄実験体404号を使うの! アンジーの邪魔をする奴は皆殺しなの! ワイズ! 返事をしろなの!」

 

 アンジェラが苛立ち混じりにワイズを呼ぶが、返事はない。

 

「あはぁ、何度呼びかけても返事はこないよぉ☆」

 

 ワイズの代わりにそう答えたのは、赤茶色の髪をした少女だった。

 両頬に手を当てた少女は、ふにゃっとした締まりのない顔でうふふと笑う。

 

「レギーナの玩具……面倒くさい奴が出やがったの! ファンヌ、体を手に入れる時の約束通りレギーナの企みには協力してやったの! アンジーは忙しいの、お前みたいな即席魔王の話相手をしている暇はないの!」

「知ってるよー、壊都で怪人達が大忙しで走り回ってるもんねぇ。しかも、セブカラの魔法少女が二人も居るんだー。もうもう必見だねぇっ☆」

 

 苛立つアンジェラなどどこ吹く風、両頬に手を当てたままファンヌが口をだらしなく歪ませる。

 

「はー、魔法少女の面倒ファンガールは本当に嫌になるの! お前の頭で理解できるようもう一度言ってやるけど、アンジーは忙しいの! ワイズを呼びつけて、開門巫女で実験体を呼び戻して、あの肉塊共を蹂躙する必要があるの!」

「わぁっ、カワイイ体でゲスな台詞だねぇー。普段叡智って言ってる子の台詞とは思えないねっ☆」

「ヴァアアアアアア! 叡智、叡智イィィィィィ! ファンヌ、黙れなの! 次に叡智って言葉を口にしたら、しまりのないお前の顔面を毟り取って実験体廃棄場に捨ててやるの!」

 

 叡智と言う単語に反応し、突如激昂するアンジェラ。

 

「あれぇ、どうしたのー? なんか叡智がトラウマワードになっちゃってるー?」

 

 その豹変ぶりを見て、流石のファンヌもふやけた顔から真顔になって首を傾げた。

 

「アンジーは黙れと言ってるの! お前との話はもう終わりなの、アンジーを不愉快にした罪で、お前はワイズを探して連れてくるの。わかったの?」

「ん-、それは無理なんじゃないかなー☆」

 

 アンジェラに睨みつけられ、ファンヌが少し困った顔で言う。

 

「どうしてなの!」

「だってぇ、ワイズ君ったら魔法少女に負けてさっくりと砕かれちゃったもん。あはっ、凄いね、セブンカラーズ。無限に推せちゃう☆」

「~~~~~~~!!!」

 

 それを聞いたアンジェラは声にならない叫びをあげ、風化した床を勢いよく踏み砕いた。

 

「殺す殺す殺す殺す!」

「わっ、ほんっと口汚いねぇ☆ ちなみに、件の開門巫女は前回の計画でダン特さんに保護されてるんだよぉ☆」

「くぐぐっ!! ウィルは!」

「んー、しらなーい。外で人類迎え撃つ準備してるんじゃない? あはぁっ、他人頼りはダメだよー☆」

「はー、よーくわかったの! ならアンジーが次元の揺らぎから実験体を呼び出してやるの! 扉守の権能を使えばそれぐらいできるの!」

「そだねぇ。でもでも、アタシの記憶だとー……扉守の権能じゃ使った後に回収できないんじゃなかったの?」

「もうそんなこと関係ないの! 同志であるワイズが家畜共に砕かれたの、許せるわけがないの! アンジーを苛立たせる肉塊共は全員実験体の餌食にしてやるの!」

 

 直情に任せたアンジェラが、目には見えない次元の揺らぎをすり抜けて隠れ家を後にする。

 

「あーあ、行っちゃった。でも実験体が地上に漏れだしたら大惨事だねぇ。でも大丈夫、魔法少女ならそんな困難乗り越えちゃうもんねっ☆」

 

 その背中を見送りながら、ファンヌは魔法少女達の活躍に思いを馳せるのだった。

 

 

  ***

 

 

 壊都とは静かの海。

 繁栄を極め、その果てに無規律な願いが氾濫し、その滓を力とした黒晶石が全てを押し流した終わりの都。

 わたくし大海嘯クライネは、扉守としてその扉を海底に沈め続ける錘であり、文明の骸を見守る最後の墓守。

 二度と黒晶石が世界を押し流さぬよう、この地が永久の凪であるように、わたくしは壊都を守り続ける存在。

 ただ静かにその使命だけを果たすわたくしもまた、既に終焉を迎えている壊都の亡霊。なのかもしれない。

 

  ***

 

「つまり壊都は黒晶石の侵食によって滅んだ魔法文明で、クライネは封印した黒晶石が再び暴走しないように楽園(エリュシウム)の扉を守ってるんだ」

「楽園の扉は緩衝地帯である次元の狭間【裏界】に隔離してありますの。厳密に言えば守っているのは裏界との境界になりますけれど、概ねその認識で問題ありませんわ」

 

 壊都を目指して"魔力の海"の砂浜を歩く私達は、道すがらクライネから壊都についての話を聞いていた。

 その話は、この前にゃん吉さんがしてくれた昔話と一致点が多い。だとすると、壊都はにゃん吉さんの御先祖様達の故郷で、扉を守るクライネは昔話の魔法少女だったんだろうか。

 

「楽園の扉の先がヤバい所だとして、そこから漏れ出てる黒薔薇の鍵守とか言う連中は何者なん?」

 

 私達目掛けて襲ってくるモンスターの群れを見つけ、迎撃態勢を取りながらリオちゃんが疑問を呈する。

 

「……宿り木、貴方達が黒薔薇の鍵守と呼ぶ存在は、わたくし達と同じ壊都の住人だった者達ですわ。彼等は来るべき終末を察知し、自分だけは生き延びようと自らの体を捨てて意志と記憶を黒晶石に移しましたの。黒晶石が全てを押し流した後、自らが再び世界の支配者となるために」

「ですが、そうはならなかったんですね」

 

 ラブリナさんの言葉に頷きながら、クライネが大鎌を横に構える。

 

「わたくしと友人達が元凶の黒晶石【黒晶石の大樹】を次元の狭間へと隔離したことで、彼等の目論見は崩れ去りましたの。そして、大樹と共に隔離された宿り木は、体を失ったまま悠久の時を過ごすこととなったのですわ」

 

 クライネが語りながら大鎌を横に薙ぐ、大鎌が大きく弧を描き、次々とモンスター達が両断されていく。

 海竜を倒したのは伊達ではなく、クライネは仮初の体でもかなり強い。

 なら、本体は更に強いんだろう。そんな力、アンジェラには絶対使わせたくない。

 

「……んで、怪人の体を使ったり、人間の体を操ろうとしてみたり、宿り木達は無くした体の代わりを探して暗躍中って事ね。はっ、最低じゃん」

「ポルノゴーレムを見るに、最終的には人間の体を乗っ取る気満々さんでございますからねぇ。おねねさん的にも気分はよくないでございますよ」

「他者の体を乗っ取る黒晶石……。だからクライネさんは宿り木と呼んでいたんですね」

「ええ。更に最近は黒晶門を使い、怪人なる方々を次々と裏界へと迎え入れているようですわ。墓穴に秘密基地を作るのは心底ご遠慮願いたいものですわぁ」

 

 モンスターを倒し終え、大鎌を黒晶花に戻しながら、クライネが頬に手を当ててため息をつく、

 つまり、黒晶石に記憶を移した古代魔法文明人が【宿り木】で、【黒薔薇の鍵守】は現在怪人を引き連れて地上で暗躍中の宿り木達の組織。と、言うことらしい。

 

「私やメイを攫おうとしていたのも、多分そのためだったのです! 許すまじなのです!」

 

 ぐむーと憤慨するミコトちゃん。

 

「楽園の扉を封じて永い時が経つ、封印は綻び、裏界へと抜け出した宿り木の数は多いですわ。今地上を脅かしている彼等の数は多くないですけれど、アンジェラがわたくしの体を完全に御してしまえば、大侵攻は免れませんわね」

「わた……エリュシオンが倒してきた悪の組織と一緒だね。絶対に食い止めよう」

 

 黒薔薇の鍵守率いる怪人達は絶対に捨て置けない。私はそう再確認する。

 昨日のポルノゴーレムや前回の巨大芋虫も、人様の体を乗っ取るための実験なんだろう。なら、連中がこの世界に解き放たれてしまったらどうなるのか、人類に対する脅威になるのは確実だ。

 

「その点については、わたくしも貴方達と完全に利害が一致しておりますわ。協力することはやぶさかではないですわね」

 

 言って、先頭を歩いていたクライネの足が止まる。

 入り組んだ岩場の先、隠された次元の裂け目があった。多分、あの先に壊都があるんだろう。

 

「へー、メッチャ絶妙な所にあんじゃん。案内されてなかったら見つけるのにかなり手間取ってたね、こりゃ」

 

 ビーコン機能のあるライブカメラ杭を地面に突き刺しながら、リオちゃんは次元の裂け目を巧妙に隠す地形に感心する。

 

「むむ、気をつけるのです。何かの巣みたいな形をしているのです!」

「問題ありませんわ。巣の主となるモンスターは、昨日わたくしが切り刻んでしまいましたもの」

 

 両手をあげて警戒を促すミコトちゃんに、境界の前に立つクライネがくすりと笑う。

 どうやら、拠点を襲っていた海竜はここを根城にしていたらしい。クライネが居なかったら、またもや集団戦対応になっていたことだろう。

 

「ここより先が壊都の地、わたくしが守る静かの海ですわ。さあ、白く眩い輝きの貴方、今一度証をお見せなさい。貴方達が墓荒らしでないと証明するために」

 

 壊都と繋がる次元の裂け目の前、クライネが私の方へと向き直る。

 

「これでいい?」

 

 私は神妙な面持ちで制服のリボンを緩めると、ペンダントにしていたエリュシウムの鍵を見せる。

 これは壊都の番人であるクライネに対し、私達が正当な理由で踏み入ることを証明する儀式みたいなものなんだろう。

 

「証が胸の谷間で温められて、ぽかぽかさんでございますねぇ」

 

 それを見たねねちゃんがそんなことをのたまってしまう。完全に雰囲気がぶち壊しになった! 流石はフリーダムの権化!

 クライネ、凄く冷ややかな眼差し向けてるよぉ!?

 

「壊都へと立ち入るつもりがないのなら、直にそう言って欲しいですわぁ」

「いやいや! ごめん、クーちゃん。おねねさん恰好の通り空気読めない人種だから、大目に見てやって!」

 

 大慌てのリオちゃんが、ねねちゃんの後頭部をグイグイ押して無理矢理頭を下げさせる。

 完全にお母さんに怒られている子供だ。

 

「大変申し訳ないでございます。おねねさんも気にしないでございますから、クライネも気にしないで欲しいでございますよ」

「ねねちゃんは気にしなよぉ!?」

「はあ、本当に奇矯で賑やかな方々。こんな状況でなければ、絶対に壊都への立ち入りを許していませんわね」

 

 わちゃわちゃとしてる私達の姿を見て、クライネはこれ見よがしにため息をつくと、壊都への次元の裂け目へと先に歩いて行ってしまう。

 それを見た私も慌ててクライネの後を追いかける。そんな時、ふと目に入った黒い二又尻尾の先、僅かに黒い煙が出ていることに気が付いた。

 

「ねえ、ラブリナさん、クライネの尻尾の先……」

「はい、こりすの察している通りです。あの体は黒晶花で作られた仮初のもの、事前に込めてあった力を使い果たせばそれで終わりです。そして、その時はアンジェラが体と力を完全に奪い取ることになるでしょう」

 

 私の隣を歩くラブリナさんが、少し悲しげな顔でクライネの後ろ姿を見つめる。

 

「……それでも、クライネはダン特の人達を助けるために海竜を倒したんだよね」

 

 多分、それは扉守であるクライネの使命であり、矜持なんだろう。

 それでも、限りある力と時間を使って人を守ったことには変わりがない。私はその行動を評価する。

 だから、私もできる限りクライネの力になろうと思う。誰かに手を差し伸べた人の最期が、独りきりじゃ寂しすぎるから。

 

「はい。同じ状況に置かれた時、果たして私にそれができるのだろうか……少し考えてしまいますね」

 

 そう自問するラブリナさんの言葉が聞こえたのか、クライネが一度足を止めて振り返り、横目で私達の顔を見つめた。

 

「どうしたの、クライネ」

 

 クライネは答えず、ぷいと視線を戻して壊都へと境界を越えていく。

 でも、尻尾がピンと上を向いている。あれが猫と一緒なら上機嫌とか、嬉しいとか、そんな感じだ。

 そんなクライネに続いて、私達は壊都へと足を踏み入れた。

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