魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第15話 海底の魔王2

 壊都に足を踏み入れて最初に見えたのは、"魔力の海"と同じ海底のような色を持つ空だった。そしてその下には、ビルの残骸のようなものが無数に立ち並んでいた。

 倒壊し、草木に覆われて原型をとどめないものもあるけれど、まだ形を保っているものも多い。まるで捨てられた水中都市みたい。

 

「ここが壊都。滅んだわたくし達の故郷であり、あの宿り木達の故郷でもあった場所。奪われたわたくしの本体は壊都【深海域】、即ち裏界との境界前にありますわ」

「おおおー、凄いのです! まさに冒険、してる感じなのです!」

「これは……。かなり高度な文明だったんですね」

 

 今までのダンジョンとは違い、明らかに文明の名残を感じる風景。私達はクライネの解説を聞きながら、足を止めて周囲を見回し、その好奇心を満たしていく。

 きっと、進んでダンジョンの最前線を攻略する冒険者さん達は、こんな驚きに満ちた光景を見たくて冒険者をしているんだろう。そう納得できるだけの景色だった。

 

「クライネ、この建物はどれだけ前のものなの?」

「さあ? 時間の概念が希薄になってから、細かい時間を覚えておりませんの。多分、千年以上は経っていると思いますわ」

「おねねさん達の住んでいる建物、千年も持たないと思うでございますよ。きっと研究者さんが……もごっ」

 

 私は余計なことを口走りそうだったねねちゃんの口を慌てて塞ぐ。

 ここに研究者が入るなんて話をしてしまえば、クライネが完全にへそを曲げかねない。

 ミコトちゃん以外に強制お口チャックする日が来るなんて思わなかった。もう勘弁してほしい。

 

「これらの建物には全て魔法処理が施されていますし、メンテナンスや治安維持用のゴーレムプラントは未だ活動中ですのよ。モンスターではない魔法人形を見ても、手出ししないことをお勧めいたしますわ」

「マジかー。そんなギミックがあるなら気をつけないといかんね」

「ええ、あまりイタズラの度が過ぎると、ビルが巨大ゴーレムに変形して襲ってきますわよ。踏み潰されないよう、お気をつけあそばせ」

 

 言って、口元を隠したクライネがすくりと笑う。

 

「えっ、ええっ!? それは流石に冗談、だよね……?」

「勿論冗談ですわ」

「えっ? えっ…………あ、うん」

 

 なんだろう、冗談って言って欲しかったけど、実際言われてしまうと釈然としないこの感じ。

 昨日のコンテナといい、クライネが意外とお茶目な性格をしているのは理解できた。

 

「……冗談ですわ、にゃーん」

 

 私達が真に受けちゃったのを見て、クライネも少し失敗したと思ったらしく、わざとらしい猫の鳴きまねをしはじめた。

 もしかして、別のインパクトで最初の失敗を押し流そうとしてる?

 

「クライネ、猫の鳴き真似で空気をリセットしようとするのは無茶だよ……」

「ええ、そのようですわ。こんな所で立ち話をしている暇はありませんし、急ぎましょう」

 

 押してダメなら引いてみろ。クライネは今度はおすまし顔を取り繕ってさっさと先に進んでしまう。

 でも、クライネの足はすぐに止まった。理由は単純明快だ。

 

「ギョゲギョゲェ! 墓穴を掘る場所は決まったかなァ!?」

 

 緑に覆われたメインストリートのど真ん中、もはや見慣れてしまったライオン頭の半魚人怪人が立ち塞がっていたからだ。

 

「はー、テンション下げてくれんじゃん。せっかくの未踏域に見慣れた怪人様のお出ましかよ」

 

 呆れた顔で槍を構えるリオちゃん。

 

「でも丁度良かったでございますよ。これで怪人達の出所が壊都近辺にあるのはほぼ確定でございましょ」

 

 その横をねねちゃんがすり抜けて、迷いなく怪人に斬りかかる。

 

「ギョゲェェェッ!」

 

 さっくり真っ二つにされて断末魔の叫びをあげる怪人。

 うん、これだけ短いスパンで戦い続ければ慣れるよね。向こうは経験値リセットされた状態で襲ってくるし。

 

「あらあら、飛び出す間もありませんでしたわね」

 

 飛び出すタイミングを逸したクライネは、大鎌を手にしたまま怪人が消えていく様を見届ける。

 

「クライネ、戦闘はある程度私達に任せておいてよ。……力を使って戦うほどタイムリミットに近づくんでしょ」

「貴方、本当にお節介ですわね」

「そうだね。お節介な自覚はあるけど、そうじゃなきゃこんな所までこないよ」

 

 眠たげな目をこちらに向け、余計な手助けは要らないと目で訴えてくるクライネに、私は堂々と言い切ってやる。

 その自覚と覚悟がなければ、魔法少女なんて地獄のボランティアはやってられないのだ。

 

「ふぅ……ラブリナ、貴方を変えたのはこのお節介ですのね」

「はい、そうですよ。私が他の欠片(ラブリナ)と違う答えを持てたのは、セレナやこりすの影響が大きいかと思います」

 

 ラブリナさんは自らの胸に手を当て、クライネに向けて微笑む。

 

「そうですの、よくわかりましたわ。……でも、貴方達だけに任せておくのは少し難しいかもしれませんわね」

 

 そんなラブリナさんの様子を見て、クライネは嬉しそうに少しだけ目を細めた後、大鎌を再び構えなおす。

 進路の先にある倒れたビルの上、出来の悪い変身ヒーローみたいな黒ずくめの怪人が立っていた。

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