魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「止まれ。俺は黒薔薇の鍵守、ウィル! こんな所までくるなんて、躾がなってない家畜共だぜ」
倒れたビルの上でポーズを決めるエセヒーローみたいな怪人が、私達の姿を見てやれやれと首を振る。
「こりすー! 気をつけるのです! あいつは私達の隠れ家を襲った怪人なのです!」
「なんだ、こんな所に逃げ出した姫巫女が居るじゃないか。丁度良かったぜ、地上侵攻経路が欲しかったんだ。おい、お前達そいつを俺の所に連れて来い。そうすれば命だけは助けてやる」
ウィルはミコトちゃんを指差した後、クイと自分を指差す。
上から目線でなに言ってるの、こいつ。黒薔薇の鍵守は無駄に自己評価が高い奴しかいないの?
「嫌に決まってるけど。私達は命乞いに来たんじゃなくて、貴方達をやっつけにきたんだよ」
大体、お友達を売る訳がない。
私は毅然とノーを突き付けてやった。
「ハハッ、信じられないぐらい馬鹿な奴だ、家畜種族はこの程度の知能しかないのか? 壊都に無断で立ち入っただけで万死に値する、それを見逃してやるって言うんだぜ?」
「この方々はわたくしの許可を得てこの場に居ますの。無断で壊都を闊歩しているのは貴方の方ですわよ」
話を聞いていたクライネが、ウィルと言うらしい怪人に冷ややかな視線を向ける。
「おいおい、ご挨拶だな扉守さんよ。ここは元々俺達の居た世界、むしろ諸手を挙げて帰還を喜ぶべきじゃないのか」
「コイツ滅茶苦茶都合いいこと言ってんじゃん。話通りだとこの世界捨てて一度逃げてんだよね? ウチだったらバツが悪くて顔すら出せんし」
「……オーケーわかった、つまり死にたいんだな。じゃあ望み通り皆殺しにして、姫巫女を回収してやる!」
リオちゃんの正論がクリティカルヒットしてしまったらしく、ウィルが構えを取って臨戦態勢をとる。
『おやおや、ウィル氏。殺すだなんて勿体ない』
『その通り。躾のなっていない家畜を躾けるのも、腕の見せ所ですぞ』
けれど、周囲の廃墟から次々と姿を現した怪人達が、まあ落ち着けとウィルに制止をかけた。
「あれま。怪人さんが大量発生中でございますねぇ」
「あの怪人達は全員後付けの黒晶石が刺さっています。中身は昨日の怪人と同じように全て宿り木達でしょう」
警戒する私達の前に、鞭を手にしたガマガエル怪人がのしのしと歩いて来る。
なんて圧倒的無警戒。上から目線もここまで来ると清々しい。頭の中がお花畑でフローラルだ。
『ほれ、見てみろ。所詮は家畜、実際にワシの姿を見てしまえば怯えて声一つだせない』
「…………」
『いいか、ワシがこの乳牛怪人で手本を見せてやろう。家畜を従順にするにはコツと言うものがあってな』
ガマガエル怪人は私を指差し、手にした鞭をこれ見よがしにピシリと鳴らす。
そして、私に鞭打ちしようと腕を大きく振り上げた。
『鳴け、乳牛! ワシの鞭打ちは痛いぞッ!』
その態度に内心結構ムッとしていた私は、いつもより鋭利な一撃でガマガエル怪人の首を撥ね飛ばした。
『パァアアア!!』
ガマガエルヘッドが奇声と共に宙を舞い、スプリンクラーみたいに勢いよく黒い煙を吹きだしていく。
『おお、なんて惨たらしい……!』
『酷い! どうしてこんな残忍なことができるのだ!?』
『殺処分! 殺処分!』
首のなくなった胴体から黒い煙を吹き出して消えていくガマガエル怪人。その姿を見た周囲の怪人達が、慄きながら非難の声をあげる。
私は本体であろう後付け黒晶石を踏み砕きつつ、本当にろくでもない連中だなって、心底げんなりしてしまう。
『ウィル氏! 今回は貴殿の意見が正しかった! 我々のような平和主義者にこの仕打ち! 平和的かつ文化的な我等の家畜には相応しくない!』
『そうだそうだ!』
怪人達から殺せ殺せとコールが巻き起こり、私達を蹂躙すべく周囲を取り囲んで狙いを定める。
本当になんなの、この連中。平和的で文化的な人間は殺せコールとか、しないし。
「はっ、こいつ等好き勝手言ってくんじゃん。ウチ最高に気分悪いんだけど」
「同感ですね。こりすちゃん、どうします? 数の差を考えれば退くのも手ではありますけれど」
「当然、この場は進むしかないよ」
私は即答すると、早速襲ってきたピンクゴリラ怪人の首を撥ね飛ばす。
怪人の数は多い、心情的には退きたくなる。でも、それでも一番勝算が高いのは今だ。退いて体勢を立て直す暇はない。
それにクライネに残された時間は短い。クライネが倒れたらアンジェラは完全に体を乗っ取り終えてしまう。
多分、扉守の権能を好き放題に使われたら、追いかけることさえままならない。
「ああ、もう、こりっちゃんはいつもそう言う! それが最善手だってわかるんだけどさ、もうチョイ分相応に行きたいね、ウチは!」
そうぼやきつつ、リオちゃんが怪人を迎え撃つ。
流石にねねちゃんみたいに瞬殺とはいかず、怪人と攻防を繰り返すリオちゃん。
私はそのアシストに入って蝶怪人の翅を斬り飛ばし、ついでに返す刃で首も斬り飛ばす。
「どうしましょ。おねねさん、変身した方がいいでございましょうかね?」
「ねねちゃんの変身は温存してて! 大通りを行くのは目立ち過ぎるから、建物に入ろう!」
くるくる回って敵を切り刻んでいくねねちゃんにそう言って、私は道路脇の壊れた建物を指差す。
外から見た感じ、建物は別の建物といくつもの空中回廊で繋がっている。袋小路のリスクはあるけれど、押し寄せてくる怪人をまとめて捌くよりはよほどいい。
「この地を守る墓守としては不服ですけれど、わたくしもそれをお勧めいたしますわ。あの方々、派手にやり過ぎですもの」
そう言うクライネの視線の先、無数のゴーレムが押し寄せ、怪人達と交戦し始めていた。
「今のうちなのです! 怪人、ゴーレムに足止めされているのです!」
「あー、警備用ゴーレムは健在だって言ってたもんね。下手に刺激してウチ等まで排除対象になったらヤバいか」
ゴーレムを迎え撃ったせいで更にゴーレムを呼び寄せる羽目になった怪人達を目撃し、納得したリオちゃんが建物の方へと踵を返す。
私達はそれに続いて建物へと侵入、半開きで蔦に絡めとられた扉を蹴破り、草の絨毯みたいになっている空中回廊を渡って隣の廃ビルへと急ぐ。
そんな最中、急に周囲が暗くなる。空を見上げてみれば、そこにはモンスター化した巨大な海竜が飛んでいた。
『ハハッ、そう簡単に逃げられると思うなよ!』
海竜からどこかで聞いたような声が聞こえ、黒晶花が降ってくる。
当然、降ってきた黒晶花はモンスター化した怪人へと変化する。あの海竜、怪人達を運ぶ空中戦艦みたいな役割だ!
「むむーっ、気をつけるのです! あの海竜、恐らくさっきのエセヒーロー怪人なのです!」
「ウチもそう思う、喋り方も一緒だし!」
空中回廊に舞い降りた黒晶花が怪人へと姿を変え、動き出す直前を見計らって私がその首を鉈で撥ね飛ばす。
その間にも黒晶花は次々と舞い降り、
「おねねさんも乳頭巾ちゃんさんに負けていられないでございますよ!」
私に対抗意識を燃やしたねねちゃんが、負けじと着地した怪人の首を次々に斬り飛ばしていく。
出現、先制、撃退の出オチループが繰り返され、周囲は瞬く間に怪人から吹き出す黒い煙で埋め尽くされていく。
辺り一面凄惨なデスわんこそば状態だ。酷い。
『クソッ! 使えない怪人共め! アンジェラが苛立つのも無理はないぜ!』
その様子を見た海竜ウィルが空中で旋回し、空中回廊ごと私達を叩き潰そうと突進してくる。
でも判断が遅い。あの危機感の無さ、上から目線の癖に軽々粉砕されている周りの怪人達と大差ない。
「ラブリナさん、今だよ!」
「はい、任せてください!」
それを待ち構えていたラブリナさんが、杖剣に纏わせていた黒晶石をミサイルのようにして発射。
黒晶石ミサイルを海竜の右目に直撃させた。
『ぐあああああっ!?』
海竜が人間のような絶叫を上げながら墜落し、大通りに頭部を打ち付ける。
その巻き添えで、下に居た怪人やゴーレム達がぷちぷちと潰されていく。
「こりすー! 下は大混乱になっているのです、今のうちに急ぐのです!」
手をパタパタとさせて急かすミコトちゃんに頷き、私達は怪人達の追跡を振り切ることに成功したのだった。