魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

131 / 190
第15話 海底の魔王4

 こりす達が壊都で怪人と遭遇していた頃、ルミカは黒薔薇の鍵守の隠れ家とされる場所を訪れていた。

 

 ダンジョン発生の原因である次元融解現象は世界各地で日々起こっており、今も世界のどこかで新しいダンジョンが誕生している。

 世界各地に山ほどあるダンジョン、その規模や内容は千差万別。当然、攻略の優先度も違う。

 皆が血眼になって命懸けで探索するダンジョンもあれば、全く見向きもされないものもある。

 黒薔薇の鍵守達が根城を作っていたダンジョンは後者。大した危険性はなく、注目すべき資源もない、そんなダンジョンだった。

 

「いくら大した資源も危険性もないからってさ、こんな入り口付近に堂々と秘密基地作られてるってどういうことなんだよ。全く」

 

 荒れ地に立った怪しげな洋館、ぼやくルミカが鋼鉄製の扉を蹴り壊し、素早く隠れるようにして中の反応を窺う。

 だが、異常を察知して怪人が現れることもなく、洋館は不気味な静けさを保ったままだった。

 

「単純なリソースの問題であろう。ダンジョンの数は多すぎる。冒険者連中は損得勘定にシビアだし、ダン特だけでは手が回らぬ。ダンジョン庁の一般職員である余が、こんな現場に駆り出されているのが何よりの証拠だ」

 

 ルミカの横、偉そうに腕組みをして言うのは、金髪の怪人幼女クロノシア。

 クロノス社で黒晶石研究をしていたクロノシアは、紫紺の髪をしたネコミミ怪人ミレイを引き連れ、今回の作戦に駆り出されていた。

 

「お前の場合は単純に適任だろ。マジックアイテムや黒晶石の知識がある上、結構強い怪人だって聞いてるぞ」

「確かに余が適任であることは否定せぬ。こりす達との同盟も健在故にな」

「とは言え、私達はダンジョン勤務の一般職員。気軽にダン特まがいの仕事渡されちゃ困るってもんにゃ」

「悪い、そこは後で鳳仙長官にも言っとく。僕様はマジックアイテムは使う専門だ、ダン特が無茶しなくても済むよう、今回はお前達の知識をあてにさせて貰う。頼んだぞ」

 

 ルミカは小さく手をあげ、外で待機しているダン特隊員達に合図を出す。

 

「ハンナ、今からルミカ達が内部に入る。私達はひとまず外で待機だ、この前みたいに飛び出して行くなよ」

「しませんよ! 先輩にあれだけ絞られたら反省しますって。先輩こそ、無茶して妹さんに滅茶苦茶怒られたそうじゃないですか」

「だから私は最近無茶してないだろ?」

「そうですかぁ? 先輩、一般目線だとかなり無茶してると思いますけど」

 

 後方でそんなやり取りをしている設楽とハンナ。ルミカはそんな二人を見て苦笑すると、クロノシア達を伴って怪人達の隠れ家へと突入する。

 洋館内部に入った一同を出迎えたのは、部屋一面の本棚だった。

 

「ふむ、壮観だな。連中、余程気合を入れて研究していたとみえる」

「色んな本があるみたいだけど、どんな内容なんだ? 僕様、背表紙に書いてある文字を読めないんだよ」

「どれどれ……これはマジックアイテム開発で使われる魔法言語だにゃ。"次元融解現象レポート"、"黒晶石への生物情報転写"、"有機生物への黒晶石侵食"、"生命体を利用した魔力機関"、"洗脳した家畜の飼い方"、"発現スキルを利用した魔法少女同士の交配計画"……」

 

 本のタイトルを声に出す度、ミレイの顔が徐々にげんなりとしていく。

 

「もういい、わかった。つまり、ここに居た連中はどうしようもない悪党だって自己紹介だろ」

「うむ、それでよかろう。余も呆れて物が言えぬ。この場で中身を精査している時間もない以上、今は連中がそのような輩であると認識しておけばいい」

 

 ドン引きした顔のルミカがもう十分だと首を横に振り、クロノシアがその意見に同意して奥の部屋へと繋がる扉を開ける。

 そこには器具の置かれた机と、血痕のこびりついた拘束台があった。

 

「また悪趣味なものが出てきたにゃ。黒薔薇の鍵守とか言う連中、マジでろくでもない連中にゃ」

「だが、魔法に関する知識は確かなようだ。連中が魔道具知識で影響力を得ていたのは間違いなさそうだ」

 

 またかと辟易するミレイの横、周囲に置かれた実験器具をチェックしながらクロノシアがふむとうなる。

 

「けど、肝心の転移装置は見当たらないな。この建物は大きくないし、転移装置なんて場所を取るもの、隠して設置なんてできないと思うんだが」

 

 恐る恐る周囲の扉を開けていたルミカが、この部屋から繋がる部屋全てを確認して首をかしげる。

 この隠れ家を捜索している一番の目的は、怪人達の地上侵攻経路を確かめること。だが肝心のそれが見つからない。

 

「こちらには元々転移装置を設置しておらず、一方通行で送り込んでくるための場所かもしれぬぞ。ここに転移装置の類があるのなら、わざわざ"魔力の海"経由で逃亡する必要もあるまい」

「ああ、確かにそうだな。ここに転移装置があるんなら、転移装置を壊すための量産怪人一匹残して全員転移で逃げればいい」

「けどその場合、研究設備や資料がわんさかあるのが謎にゃ。転送先にするためだけの施設には到底見えんにゃ」

「ふぅむ。他にあり得る可能性としては、ミコトの得意な開門か……」

「それだ! 鍵守連中は那由他会を隠れ蓑にして、開門巫女を黒晶石で洗脳してた。ナナミからの報告だと、危険な実験体とかも開門で隔離保管していたらしい」

「……どうやらビンゴみたいだにゃ。ヤベー奴のお出ましだにゃ!」

 

 急に周囲の空気が張り詰め、三人が背中合わせになって身構える。

 

「お前達、そこで何をしているの? ここはアンジー達の隠れ家なの、お前達肉塊如きが立ち入っていい場所じゃないの」

 

 ひり付く空気の中、部屋の中心で黒い人影が揺らめき、猫耳に黒髪二又尻尾の少女が姿を現す。

 

「大海嘯クライネ……! いや違う、こいつが話に聞いていたアンジェラとか言う魔王だな!」

「魔王……黒晶石のかにゃ!?」

 

 目を丸くするミレイの言葉に、ルミカが重々しく頷く。

 

「そうなの。恐れ慄くお前達は正しい反応をしているの。はー、やっぱりあの乳牛怪人共の反応がおかしいだけだったの」

「その反応、リオ達と交戦したのと同じ個体で間違いなさそうだな。やっぱりここには壊都と繋がる僅かな揺らぎがあるのか」

 

 先日、黒晶門へと赴いたルミカが本物のクライネと遭遇した時、彼女は僅かな空間の歪みをすり抜ける異能を持つと言っていた。

 つまり、ここには黒晶門と同じ空間の揺らぎか、開門の痕跡がある。怪人達はやはり開門能力を利用していたに違いない。

 

「それを知った所で、お前達がそれを誰かに伝えることはできないの。何故なら……アンジーがこの場でお前達肉塊を細切れ肉に加工してやるからなの!」

「くるぞ……!」

 

 ルミカが胸元のペンダントを握りしめ、変身するタイミングを窺い。

 ミレイがクロノシアを肉盾にすべく、その首根っこを掴む。

 身構える三人の前、アンジェラが見下した笑みを浮かべ、その手に大鎌を顕現させる。

 

 ……が、アンジェラが手にした大鎌は枯れた黒晶花の花弁となって、はらりと地面に舞い落ちてしまった。

 

「なんなの!? 侵食が妨げられてる!? どうなってるの!? 意味がわからないの!」

 

 勝手に怒り散らすアンジェラを見て、三人が揃って小首を傾げる。

 

「なんだよ、コイツ。どうなってるんだ? 今のうちに変身して対処するべきか……」

「待て、ルミカ。お前は白い輝石を持っているのであろう? ラブリナ殿曰く、白い輝石は黒晶石の侵食を押し返す。恐らく理由はそれだ!」

「そう言うことか! 僕様の持っている白い輝石は魔王が転じた強い奴だからな。あいつはクライネの体を奪ったばかりで体が馴染みきってないから、特に効果覿面なのか!」

「お前が元凶なの!? なら、死ねッ!」

 

 その言葉を聞いたアンジェラが即座にルミカへと殴りかかり、ミレイがクロノシアを間に投げ入れてインターセプトする。

 その隙にルミカが飛び退いて間合いを取り直した。

 

「うぬっ! なるほどな、確かにこ奴は魔王未満だ、余でも辛うじて耐えられる。ミレイ、ルミカ、勝機はあるぞ!」

 

 拳を腹に受けたクロノシアは盛大に床を跳ね転がるも、即座に余裕の笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「クサレぇぇ! アンジーが次元渡りで疲れてるからって生意気なの! でも、アンジーの目的は達しているの、お前達の相手は後でじっくりとしてやるの! 覚えておくがいいの!」

 

 アンジェラはその姿に歯噛みしながらも、隙を突いて机の引き出しを開け、入っていた鍵状の黒晶石を回収していく。

 そして、再びその姿を揺らめかせて何処かへと消え去った。

 

「してやられたな。アイツ、元から黒晶石の回収が目的だったのか」

「いいや、痛み分けであろう。奴からしてみれば、最低限の目標しか達成できておらぬ。あの様子なら他に隠し玉はあるまい、アジトは好きに調べられると言うことだ」

 

 周囲に敵の気配がないのを再確認し、ルミカが改めて外のダン特に連絡を入れる。

 

「けど、これではっきりしたな。ここには壊都と繋がっていた痕跡があって、敵拠点の大本は恐らく向こう側だ」

「あいつ、次元の揺らぎを通れるみたいだからにゃ。放置は危険にゃ。こりす達に連絡入れて、大急ぎで拠点を潰してもらわなきゃならんにゃ」

「わかってるさ。あの魔王もどきが逃げたのはリオ達の方なんだ、注意の一つぐらい入れてやらないとな」

 

 ルミカはミレイの言葉に頷きながら、大急ぎでリオ達に連絡を入れるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。