魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第15話 海底の魔王6

「と、突然なにごとなの!?」

 

 まるでワイルドな解体業者さんが暴れ始めたような爆音。驚いた私が外の様子を窺うと、さっきまで怪人達がひしめいていた地上は、まるで洪水の後みたいに液状の黒晶石が氾濫していた。

 黒晶石の川は私達を探す怪人達を飲み込み、いつの間にか咲いていた黒晶花を飲み込んで、壊都を侵し壊すように広がり続けている。

 あれ、明らかに触りたくない奴!

 

「ラブリナさん、なにあれ!?」

「私にもわかりかねます。あの付近では黒晶石の侵食が急速に進んでいることと、あれがモンスターの類であることはわかりますが……」

 

 紫色に妖しく輝く目を細めて訝しむラブリナさん。

 どうやらラブリナさんでさえ正体を掴みかねているらしい。

 

『あははははっ! ウィルもやり方が手ぬるいの! あの肉塊どもなんて、こうすれば簡単に炙り出せるの!』

 

 そこに聞こえてくる耳障りな声、その正体は勿論アンジェラ。

 ビルと同じぐらいの高さに盛り上がった黒い半透明体の頂点、くっついたアンジェラが狂気に満ちた表情で哄笑していた。

 

 そんな黒い物体の裾野は、餌でも探すように壊都の地上部分を蠢きながら広がり続けている。どうやら、あの液状黒晶石はアンジェラがくっついた何かの末端部らしい。

 しかも、広がった黒晶石の川はポコポコと妖しく泡立ち、そこから怪人達や黒晶花が次々と発生している。

 

「……もしかして、あれってスライム状のモンスター!?」

「そのようですわね。まだ扉守の権能を使いこなせないアンジェラが、裏界の扉を越えて大量の宿り木達を送り込むために考えた苦肉の策、ですかしら」

 

 ふあと小さくあくびをしながら、クライネが私の推察を肯定する。

 

「あの体で黒晶花や怪人を大量輸送してるってことだよね!? ちょっとシャレにならない状況だよぉ!?」

「こりすー! 外が大変なことになっているのです!」

 

 他の皆も外の異常に気づいたらしく、ミコトちゃんが手をバタバタさせながら私達を迎えにやって来る。

 

「わかってる! ラブリナさん、クライネ、皆の所に戻ろう!」

 

 私は急かすミコトちゃんに頷いて、リオちゃん達の居るフロアへと大慌てで戻っていく。

 

「こりっちゃん達、外ヤバいことになってる!」

「知ってる! あれ全身黒晶石のスライム系モンスター!」

「はあぁ!? あれスライムの類なん!? どんだけデカいんだっての! もはや地獄じゃん!」

 

 目を丸くしながら驚きの声をあげるリオちゃん。

 アンジェラの下半身と同化しているスライムは、自分で発生させた怪人や黒晶花を無差別に飲み込み、それよりも多くの怪人や黒晶花を吐き出しながらなおも壊都を侵食中。

 触れただけで警備用ゴーレムがジャンクになっているし、私達が触れて大丈夫な保証は全くない。むしろ触れるとマズそう。

 

「あれま、デンジャラスな感じでございますねえ。あのスライム、どれだけ伸びて広がるんでございましょ」

「確かめたくはないね! 絶対に地上へ逃がしちゃいけない存在なのは確か!」

「なら、急ぎ対処なさい。わたくしの体を乗っ取ったアンジェラと融合している以上、扉守の権能で僅かな次元の揺らぎを越えることが可能ですわよ」

「わかってる!」

 

 例えアンジェラがクライネ本体から長時間離れられないとしても、あんなものがちょっとでも地上に出たら大惨事確定だ。

 ううん、他のエリアにだって到達させるわけにはいかない。"魔力の海"に漏れ出す前に、なんとしても壊都で食い止めないと!

 

「流石にこれはウチ等だけじゃ手に負えんね。一度鳳仙長官に連絡して……」

 

 冷や汗を流すリオちゃんが手にしたスマホを操作するよりも早く、リオちゃんのスマホが大きく震えて宙に浮き上がった。

 

『リオ、お前達のパーティは無事だよな!? 早急に対処して欲しい!』

 

 連絡してきたのはルミカちゃん。

 クロノシア達と一緒に居るルミカちゃんは、なにやら大慌てのご様子だ。

 

「いや、ルミカ。今こっち地獄みたいな感じになってんだけど!?」

『なら余計にだ! 僕様達、アンジェラとか言う偽クライネと遭遇した! でも往来用の転移装置は見当たらない! そこ、多分開門の痕跡で地上直通の階層と繋がってるぞ!』

「はあああああ!? 今、そのアンジェラとか言うのがこっちで大暴れしてんだけど!」

 

 それは絶望的な情報だった。

 クライネの体を乗っ取ったことで次元の揺らぎを渡れるようになったアンジェラ。

 そして、アンジェラはあのスライムと同化している。つまり、あのスライムは開門の痕跡を通って簡単に地上へと到達できる。

 私達がアンジェラの怒りを引き付けておかないと、アンジェラは即座に地上へと向かうだろう。地上直下の階層に山盛りの怪人と黒晶花が送り込まれてしまう。そうなったら大惨事確定だ。

 

「困りましたね。難敵ですが退く訳にはいかないようです」

「当然、ここでやっつけるのです! あれこそメイが次元の狭間に隔離した危険物に違いないのです! 那由多会の姫巫女として、私が後始末をするのです!」

 

 眉を吊り上げ、胸の前で両手を握ってむっふと意気込むミコトちゃん。

 

「乱暴だけどミコトちゃんの言う通りだよ。あれは捨て置けない。ルミカちゃん、そっちにはまだスライムが漏れ出してないよね?」

『ああ、大丈夫だ。アンジェラにとって、僕様の持ってる魔王ルミカの輝石は厄介な代物らしい。攻めてくるのはそっちで準備を整えてからだと思う』

「なるほど、それは朗報だね!」

 

 白い輝石は黒晶石の侵食を妨げ押し返す。そのことは私もよく知っている。

 そして、アンジェラはまだクライネの体を乗っ取りきれていない。白い輝石が近くにあると自分の侵食が弱まり、体を思うように扱えなくなるんだろう。

 

「だとすれば……。ルミカさんの白い輝石があれば、あのスライムに対抗しやすくなりそうですね」

「うん。ルミカちゃんが地上侵攻を阻止してる間に、クライネ本体からあのスライムを切り離して敵の流入を止めよう!」

 

 アンジェラスライムは裏界の扉から怪人達を取り込んで力を増しているはず、ならここで相手取っても際限がない。まずは敵の流入を止めないと。

 そのためには、ルミカちゃんにスライムの足止めをして貰って、その間に無茶を承知で私達が突っ込む。これがベストだ。

 

「地上近くの階層に繋がる狭間があるのなら、そこはほぼ間違いなく魔力集結点。私が開門してルミカ達を呼び寄せるのです!」

 

 事件解決の段取りを考える私の横、ミコトちゃんがはいっと手をあげて提案する。

 敵拠点に攻め込むことを全く躊躇わないミコトちゃん。暗黒教団で培われたメンタルは時々凄くアグレッシブ。

 

「なるほど……って、いやいや! ここと繋げたら余計に危険じゃん! 開門の痕跡があるとクライネは通れるんでしょ!?」

「ううん、その手がベターだよ。相手だけ通れるより、両方通れる方が遥かにマシだから」

「流石のおねねさんも、あのスライムとじゃれ合いながら深層相当区域に行くのは遠慮したいでございますからねぇ。ルミカに来て欲しい所でございましょ」

「はっ、それもそうか。最善手がこの酷さとか、笑えんね」

 

 私とねねちゃんの言葉に、顔を引きつらせながらも納得するリオちゃん。

 これで全員の覚悟は決まった。

 

「ルミカさん、至急転移装置ユニットの準備を要請し、ダンジョン学園へ移動してください。クロノシアさん達が居れば組み立て出来るはずです」

『わかった。クロノシア達もいいな』

『仕方あるまい。余とこりす達の同盟は健在だからな』

 

 画面の向こうで腕組みをして頷くクロノシア。

 

「ありがとうクロノシア」

『礼は終わってからで構わぬ。話を聞くに、次元の裂け目があるのは敵陣の真っ只中ぞ』

 

 クロノシアの言葉に全員の表情が少し強張る。

 それはほぼ間違いないだろう。私達は怪人達が待ち受ける拠点へと攻め入らなければならないのだ。

 

「……大丈夫。さっき交戦した限り、あのスライム以外はなんとかなると思う。こっちでできる限りのことはするから、クロノシア達は備えていて」

『うむ、任せよ。お前達の力量は余も認めている。こちらは駆けつける準備に専念しておこう』

 

 その言葉を最後に、ルミカちゃん達との連絡が切れる。

 向こうは向こうで動き出したのだ。

 

「クライネ、怪人拠点に心当たりはある?」

「あら、誰に言っておりますの? わたくしはこの地の墓守、知らぬ場所などありませんわ」

 

 クライネは口元に手を当てて上品に笑う。

 爆発寸前の導火線みたいだった二又尻尾は、今は伸びてゆらんゆらんと揺れている。エリュシウムの鍵を取り込んだおかげか、さっきよりも元気そう。よかった。

 

「だとすれば、最大の懸念はアンジェラと付随する怪人達の妨害ですね。こりすの見立て通り、怪人達の対処は可能だと思いますが、そこにアンジェラが加わるとなると厄介です」

「そちらはわたくしが引き付けますわ。わたくしが裏界の扉に向かう素振りを見せておけば、アンジェラは無視できないはずですもの」

 

 クライネは手にした黒晶花を大鎌に変化させると、スカートを優雅に舞わせて廃ビルの窓から飛び降りようとする。

 

「おっとと、ちょっと待つのでございますよ。クーちゃんさんには、おねねさんも同行するでございます」

 

 と、その腕を掴んでねねちゃんが制止した。

 

「いや、おねねさんには敵拠点に居るだろう怪人どもを切り刻んで貰いたいんだけど。得意じゃん、皆殺し」

 

 クライネを引き止めたねねちゃんに、今度はリオちゃんが待ったをかける。

 

「戦力的にはそれがベターでございましょうけれど、おねねさんは一応魔法少女でございますからねぇ。覚悟した顔の方を一人ではいかせられないのでございます。クーちゃんさん、死ぬ覚悟してるでございましょ?」

 

 クライネの腕を掴んだまま、いつも通りマイペースにねねちゃんが言う。

 凄い。ねねちゃんはクライネの状態を知らないはずなのに、意外とちゃんと見てるんだ。

 

「え、そうなん?」

「ええ。どんな結末を迎えるにしろ、黒晶石の魔王クライネが消えるのは不可避ですわ」

「なら、せめて一番いい結末を選べるようにしたいでございましょ? 適当ぶんぶん丸なおねねさんの刃は、そう言う時にこそ使うべきなんでございます」

 

 にっこりと笑って言うねねちゃん。

 自分は楽しく刃を振るうだけだからこそ、その刃は困っている他人の為に使う。そう言う考え方もあるんだなって、同じ魔法少女として勉強になった。

 

「……はい、私もそう思います。ねね、クライネの援護をお願いできますか。貴方の不足分は私が埋められるよう努力します。クライネもいいですね?」

「ふぅ、ラブリナにそこまで言われてはダメとは言えませんわ。本当に心に波を起こすのが得意な方々……だからこそ、わくたしからも手助けをお願いしますわ」

 

 真剣な顔でねねちゃんに頼むラブリナさんを見て、クライネもねねちゃんの同行を了承してくれる。

 

「はいはーい、了解でございますよ。ささ、クーちゃんさん参りましょ」

 

 ねねちゃんとクライネは一緒に低いビルの屋上へと飛び移り、そのままビルの上を跳ね飛んでいく。

 

「申し訳ありません。私の勝手な判断でパーティの負担を増やす選択肢を選んでしまいました」

「いやいや、仕方ないでしょ。あのおねねさんに格好いいこと言われちゃ、ウチもダメだなんて言えんし」

「それに純粋な負担増ではないのです。ねねが派手に暴れれば、それだけ怪人をあちらに引き付けることができるのです!」

「お、ミコっちゃん、いいこと言うじゃん」

「うん、だからラブリナさんは気にしないで。私達がその分頑張ればいいだけの話だから」

「ま、いつも無理するこりっちゃんは頑張り過ぎんようにね」

 

 そう意気込む私の胸を、悪戯っぽい顔をするリオちゃんが指でぐりぐりして、釘を刺してくる。

 そして、それになぜか続くセレナちゃんとミコトちゃん。

 

「わひゃ!? や、やめ! あんぎゃああああ!?」

 

 そのまま緊張をほぐすには過剰なぐらい、私は徹底的にもみくちゃにされた。

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