魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第16話 大海嘯3

 振り返ってその姿を確認すれば、私を睨みつけるアンジェラの顔は憎しみに満ちていて、夜叉みたいな形相になっていた。

 思わず私は目の前に居るクライネの顔と見比べてしまう。

 眠たげな顔をしているクライネと、鬼の形相をしているアンジェラ。顔立ちは同じなのに受ける印象は全然違う。

 

 セレナちゃんとラブリナさんもそうだけれど、中身って顔に出る。今回の件で強く感じたけれど、やっぱり体も力も使う人次第でその在り方が変わるものなのだ。私も知らずのうちに力を歪んだ形で使ってしまわないよう、気をつけていかないと。

 

『エリュシオン、何を余裕ぶっているの? お前はつくづくアンジーを軽んじる女なの! お前は今人生が終わる窮地に居るの、足りない頭でちゃんと理解しろなの!』

 

 そんな私の態度が気に食わなかったのか、アンジェラが憤然としながら地団駄を踏む。

 その度に、ビチャビチャと重たげな水音が響く。よく見れば、アンジェラの足は半透明のスライム状になっていた。

 体が半分スライム化しているのに、足元に広がるスライムと再接合していないのは、足元のスライムに怪人達がみっちり飽和状態で詰まっているからなのか。

 それとも、このアンジェラもまた、本体から切り離された存在だからなんだろうか。

 

「彼女、実験体スライムに侵食されているみたいだね」

「そのようですわね。奪った体を御する前に別の黒晶石と融合したのですもの、制御しきれず混ざり合っても不思議はありませんわ。ああ、迷惑、迷惑至極ですわぁ」

 

 半スライム体になってなお殺気をぶつけてくるアンジェラを見て、嫌悪感を露わにするクライネ。

 当然だろう。子機みたいなものだったとはいえ、あれは元々クライネの体だったもの。気分がいいわけない。

 

『アンジーだって好きでこんな体をしてるわけじゃないの! だから、さっさと完全体になるためにその体をよこすの!』

 

 憤慨するアンジェラがスライムみたいに腕をにゅるんと伸ばし、クライネへと掴みかかろうとする。

 私は足元のスライムを破壊しながら、動くのが辛そうなクライネの首根っこを掴んで引っ張り、襲いかかる触手を躱しながら裏界の扉との間合いを詰める。

 

『避けるな! 誰が! いつ! 避けていいって言ったの!?』

 

 私が攻撃を回避していくことでアンジェラは更に苛立ち、伸縮する腕を鞭のようにしならせて、矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくる。

 でも、怒り任せの攻撃ほど読みやすいものはない。私はそれらを一瞥すらせず、軽やかに回避していく。

 

「あらま、至れり尽くせりですわぁ……」

「クライネ、あのアンジェラは倒してもいいの?」

 

 スライムの残骸から飛び出してくるモンスターをついでに倒しながら、私はお姫様抱っこしているクライネに尋ねる。

 アンジェラを倒す事自体は簡単だ。でも、事態解決にはクライネの体を()()()()必要がある。あれも一緒に取り返した方がいいのか、そこが問題になってくる。

 

「…………」

「クライネ?」

 

 でも、クライネからの返答はなかった。

 視線を向ければ、腕の中のクライネは既に体が胴体まで黒く崩れ始め、中にあるエリュシウムの鍵が露出していた。

 今まで倒して来た黒晶石の感じからすれば、全身が灰となって消えるまで時間的猶予はない。多分、壊都の陽動で無理をしていたんだろう。

 つまり、この難しい判断は私が自分でしないといけない。うん、いつものことだ。

 

『だーかーらーっ、お前えぇっ! アンジーを無視するんじゃないの! こっちを向け! よそ見するななの!』

 

 倒すべきか、倒さざるべきか。叫ぶアンジェラの攻撃を躱しながら、さてどうしたものかと考える。

 あのアンジェラは切り離された子機のようなもので、切り離されていてもスライムは健在。倒してもクライネ本体は無事なはず。

 むしろ、さっきの話だと切り離されていれば裏界側の怪人流入を防げる。倒した方が体は取り戻しやすいだろう。

 

 ……ただし、体を追い出されたアンジェラが裏界側に逃げられなくなり、上で戦っているセレナちゃん達の方へと行ってしまう可能性は高い。

 

「……大丈夫、ラブリナ達はアンジェラ如きに負けないから」

 

 ラブリナさんもねねちゃんも、最良の結果になるために困難な道を選び、頑張っている。

 だから、更に負担を押し付ける形になったとしても、私は皆を信じて最良の結果に近づく答えを選ぶ。

 アンジェラを倒した方が体を取り戻しやすいのなら、選ぶべき選択はそっちだ。

 

『お前は一人で何を言っているの!? お前が抱えている"それ"は時間切れ寸前、もう死体みたいなものなの!』

「わかってるよ。だから、君を倒す覚悟を決めていた」

 

 私は回避に専念していた足を止め、鬼の形相で次々と攻撃を仕掛けてくるアンジェラへと振り返る。

 

『はーっ、ようやくこっちを……』

「お待たせ。じゃあ、終わらせようか」

『ひっ……!?』

 

 私の眼力に気圧され、怒り叫んでいたアンジェラが言葉に詰まる。

 

「ルミナスクラフト・コンバージョン」

 

 私はクライネを肩に担ぐと、纏っていた燐光を巨大なハンマーへと作り替え、慄くアンジェラへと容赦なく振り下ろす。

 

『お、おまっ……プギッ!?』

 

 スライムで塗りつぶされた地面がハンマーの光に包まれ、アンジェラに乗っ取られていたスライム付きのクライネが跡形もなく消滅する。

 それと同時、裏界の扉を覆う黒晶石が膨張し、スペアキーの刺さった場所を起点として、破裂した風船のように周囲に怪人やモンスターをまき散らしていく。

 更にアンジェラを押しつぶした地点のスライムが消し飛んだことで、そちらからも怪人やモンスターが吹き出してくる。前も後ろも怪人とモンスターまみれだ。

 

「そこは予想通り」

 

 まあそうなるだろうと予想していた私は、すかさず光の巨大ハンマーを横に薙ぎ、地面側から出現してくる怪人とモンスターを一気に間引いていく。

 そのまま燐光をハンマーから無数の光剣へと作り替え、波のように押し寄せる怪人達を押しのけ、モンスターを斬り裂いて裏界の扉前へと急ぐ。

 

「スペアキーは返してもらうよ」

 

 前を向いたまま後方の怪人達を斬り裂き、扉を覆う黒晶石に刺さっていたスペアキーを引き抜く。

 コア代わりについていたであろうアンジェラの黒晶石は既になくなっている。クライネの言う通り、上層のスライムへと吸収されていったんだろう。

 けれど、今はそれを気にしている暇はない。

 

 既にクライネの形を保てていない黒い塊から急いでエリュシウムの鍵を取り出し、さっきまでスペアキーが刺さっていた場所に、クライネ入りの鍵を勢いよく突き刺す。

 制御を失ったアンジェラスライムが暴れまわる中、エリュシウムの鍵を中心として黒い嵐が吹き荒れていく。

 黒い嵐がクライネの体だった黒い塊を巻き上げ、砕かれた周囲の黒晶石を取り込み、私の銀髪を揺らす。

 

「さっきもそうだったけれど、これも魔法少女の変身魔法の応用……。本当にクライネ達は魔法少女だったんだね」

 

 私がそんなことを考えながら事の成り行きを見守っていると、暴れまわっていたスライムが大人しくなり、代わりに怪人やら、モンスターやらが次々と飛び出してくる。

 扉の前から、周囲のスライムから、瞬く間にモンスター達の大行進。百鬼夜行のモンスターパレードだ。

 

「これ、中に巣くっていた連中が追い出されてきた……!?」

 

 私は襲い来る怪人達をサクサク撃破しながら、黒晶石の様子を窺う。

 余程沢山入っていたんだろう、厄介者連中が黒晶石から飛び出してくる勢いは全く弱まらない。クライネは自分の体を取り戻す大掃除の真っ只中って感じだ。

 中身を全滅させるだけなら、扉の黒晶石を破壊すればいいんだろうけど、確実に奪還中のクライネ本体まで巻き添えになってしまう。

 しかも今回は、前回のルミカちゃんと同じように生身のクライネも詰まってる。あれはどう考えても壊しちゃマズイ。

 

「こればっかりは仕方ない。じっくりと腰を据えて待つしかなさそうだね」

 

 上で戦っている皆が心配で、やきもきするけれど仕方がない。私は皆を信じる。

 皆は私が守りたい人達ではあるけれど、一緒に戦う仲間でもある。壊都でクライネが語っていたラブリナさんのように、自分一人の力で最高の結果を得ようとするのは高慢だ。

 

 皆のことを想うのなら、私は助けに戻るのではなく、皆の頑張りが報われ、一番いい結末を迎えられるよう尽力すべきなのだ。

 私は自らをそう戒めると、せめて吹き出す怪人やモンスターが地上に出ていかないよう、襲い来る怪人とモンスターの群れを迎え撃つのだった。

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