魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第16話 大海嘯4

 時を遡ること少し前、こりすがクライネと共に壊都深界域に突入した直後、司令塔であるアンジェラと切り離されたスライムは、ビル群にまとわりついたまま動きを止めていた。

 

「スライムの停止と同時に怪人の出現も止みましたね。当然、これで終わりとは到底思えませんけれど……」

 

 怪人が拠点としていた廃ビルの間にある社の前、深界域からのし上がったまま不気味な沈黙を続けるスライム。セレナはその姿を訝しみながら注視する。

 

「おねねさんも同感でございますね。ちょっと追撃を仕掛ける勇気がないでございます」

 

 そんなセレナの呟きを、社の防衛に加わったねねが肯定する。

 

「賢明な判断ですね。不用意な追撃は危機を招きます、現状は状況観察に徹するのが無難でしょう」

 

 アンジェラとは切り離されているように見えるスライムだが、その体は灰に変じていない。つまり、あのスライムはまだモンスターとして生きている。

 壊都深界域へと伸びている体の一部を通じて、依然クライネ本体と接続されているはずだ。

 問題は指揮官であるアンジェラを失ったスライムがどう動いて来るのか、そして……ラブリナの力が急速に強まっている理由だ。

 

「学園長代理、おねねさん! ミコっちゃんの開門もうすぐだからウチもこっちに加わる! そっちの様子はどう!?」

「エリュシオンがクーちゃんさんを助けつつ壊都深界域に向かったでございます。途中で偽クーちゃんさんとスライムを切り離していったでございますよ」

「ほーん。流石エリュシオン、朗報じゃん。エリュシオンが来たんなら、裏界の扉からの流入はもうじき止まるかもしんないね。……ま、残ったスライムの方もヤバそうだけどさ」

 

 リオは槍を手にして臨戦態勢をとったまま、動きを止めたスライムを見上げる。

 

「はい。現在進行形でラブリナさんの力が急速に高まっています。付近の侵食が急速に進んでいる証拠です」

「黒晶花が広がってもないのに侵食が進んでんの? ってことは、スライムの中で黒晶石の力が増してるってこと?」

「いい着眼点でございますね、リオ。つまり、あのスライムは居合いをしているようなもの。動く時は一気でございますよ」

 

 ねねは抜き身の刀を構え直し、スライムに鋭い眼差しを向ける。

 警戒の視線を向ける一同の前、スライムが予想通り一気に動き出す。波打つように身を震わせたスライムは、ビルの間にかかった粘液のアーチに次々と黒い薔薇を咲かせていく。

 

「なんじゃありゃ!? 見たことない形だけど、あれ黒晶花!? ラブさん、黒晶石って人の負の感情で育つんだよね。栄養なしでもあそこまで一気に育つもんなの!?」

 

 ビル群を黒い薔薇で埋め尽くしていくスライム。

 瞬く間に黒い花束のようになった廃ビルを見上げ、冷や汗を流しながらリオが尋ねる。

 

「推測の域をでませんが……取り込んだ怪人達を養分にして開花させたのでしょう」

「はっ、味方殺して栄養にしてるってわけね。連中らしく悪趣味なことしてくれんじゃん!」

 

 リオが嫌悪の眼差しを向ける中、ビルに咲いた黒薔薇がはらりはらりと舞い落ちて変化し、スライムの分体を生み出していく。

 

「二人とも注意を、そろそろ本格的に来ます」

 

 スライムがこちらへ迫ってくることを察知したラブリナが、杖剣を黒晶石で侵食させて大剣へと作り替えながら注意を促す。

 

『リオ! そちらの状況はどうなっている!?』

 

 と、そこでリオの脇に浮かんでいたスマホが振動し、焦った様子のクロノシアが映った。

 

「こっちは依然ヤバい感じだけど一応順調。クロちゃん、そんなに焦ってどしたん?」

『連中の施設を調べていたダン特から連絡が来たが、その実験体はかなりの難物だぞ! 地上をテラフォーミングするために用意した特別製らしい! 黒晶花の開花だけは絶対にさせるな!』

「なるほど。有益な情報です、クロノシア。ただ、少々情報が遅かったようです」

 

 必死に警告を促すクロノシアの声に、大剣を振り下ろしてスライムを迎撃していたラブリナが苦笑する。

 

『なに、既に手遅れか……?』

「ま、思いっきり」

 

 リオがスライムのこびりついたビルを画面に映し、それを見たクロノシアが顔を引きつらせた。

 

『むぅ……!』

「クロちゃん、花が咲くとどうなるかは聞いてる?」

『うむ。連中の資料によると、同一のスライムをモンスターとして次々生み出し、テラフォーミングを進めていくとのことだ。テラフォーミングとはつまり……黒晶石の大規模侵食に他ならぬ』

 

 クロノシアの言葉に冷や汗を流す一同の前、黒薔薇から生み出された新しいスライムが次々と這い寄ってくる。

 その後ろではビルにこびりついた大本のスライムが、徐々にその体を膨張させ、自らの侵食域を広げていた。

 

『あのスライム、放棄実験体404号は放置していると膨張しながら無限に増えて、最終的に爆弾みたいに膨張炸裂して周囲一帯黒晶花まみれにするヤベー奴にゃ! 絶対、地上や他のエリアに出しちゃならんにゃ!』

 

 渋い顔をしているクロノシアを押しのけ、ミレイが大声でそう付け足す。

 

「おねねさんも外に出すつもりはないんでございますよ。でもでも、ちょーっと増殖スピード早いさんでございますね、これ」

 

 周囲を素早く駆け回るねねが、ラブリナが打ち漏らしたスライムを次々と斬り裂き、ついでに本体の端を切り取り破壊する。

 だが一部を切り取られてもなお、膨張したスライムは先程よりもはるかに大きい。ねねが言っている通り、増殖膨張する速度が攻撃で破壊できる速度を上回っているのだ。

 しかも、巨大スライムは自らの配下が壊滅したことを認識しているのか、ビルにこびりついたまま大きく身震いし、その体から無数の怪人やモンスターを生み出している。

 

「おおっと、怪人さん達の増援も御到着でございますね」

「ってか、出てきた怪人の一部がそのままスライムに捕食されてんだけど!? マジで怪人を栄養源にしてんじゃん!」

「なるほど、廃棄された理由が理解できました。黒薔薇の鍵守達もこのスライムを制御しきれなかったから、ですね」

 

 スライムを侵食した黒晶石で内側から食い破りつつ、動きを観察していたラブリナが顎に手を当てながらそう推測する。

 

『うむ、実験中に仲間を食い殺されたことで連中も手を持て余し、次元の狭間に隔離処置を行ったらしい。開門能力者であるミコトの奴を襲ったのも、奴を自由に出し入れする手段が欲しかったからであろう』

 

 怪人を槍で相手取っているリオの横、浮かんだスマホの画面に映ったクロノシアが頷く。

 

「なのに、クライネの体を乗っ取ったアンジェラが勝手に持ち出したってワケね。あいつ、呆れるほどに後先考える頭ないね、マジで」

『余達も開門し次第駆けつける。それまで堪えるのだぞ!』

「うぃ、よろしく! さーて、ウチも少し死ぬ気になりますか!」

 

 クロノシアがそう言い残してスマホの通信が切れ、リオが気合を入れ直して槍を構える。

 

「リオさん、少しだけ待ってください。たった今、エリアマスター権限で緊急レイドを発令しました。戦闘の配信をお願いします」

 

 それをラブリナから切り替わったセレナが制止し、浮かべた自らのスマホをリオへとパスした。

 

「学園長代理!? いやいや、なんで配信すんの、これ!? ちょっと大事になるでしょ! 余計な混乱の元にならん!?」

「大事にするんです。魔法省経由でダンジョン庁に圧力をかけてきた方々に対し、黒薔薇の鍵守と結託するということが、どう言う意味を持つ行為であるか知らしめます」

 

 心配するリオに対し、ラブリナの大剣を振り回すセレナが毅然とした態度で言う。

 

「はっ、確かにこれのアシストした連中は気に食わんね。わかった、ウチに任せなー!」

 

 納得したリオが浮いているセレナのスマホを操作し、緊急レイド配信の準備を整える。

 その間にセレナはラブリナと入れ替わり、正体を隠すための黒晶石の仮面とドレスを身に着ける。

 

「学園長代理、ラブさん、おねねさん! 配信いくよー!」

 

 リオが槍を持って戦線に復帰するの同時、緊急レイド配信が開始される。

 

 "いきなり未踏エリアで緊急レイド始まってるかと思えば、なにこれ……"

 "本当に怪人殲滅レイド始まってんじゃん。ってか、あの超巨大スライムなによ"

 "リオちゃん達、配信で怪人と交戦してから流れで突入したのか"

 

「皆の衆、この怪人とクソデカスライム、現在地上目指して進行中だからさ。万が一のためにもちゃんと見ときな!」

 

 "ひぇっ!? いきなり物騒なこと言わないでくださーい!"

 "こんなのの相手は無理過ぎる。リオちゃん、絶対に食い止めてくれー!"

 "リオちゃんがんばえー"

 

 緊急レイド配信を見る視聴者が次々と困惑の声をあげるのを横目に、社に迫る小スライムを槍で突くリオ。

 だが、その槍はスライムの体に軽々と弾かれてしまった。

 

「って、スライムの癖にバリカタじゃん!? 見た目柔らかそうなのに全身黒晶石かよ!」

 

 弾かれて体勢を崩すリオを捕食しようと、スライムがガバッと広がりながらリオへと襲い掛かる。

 そこに割って入ったラブリナが黒晶石の大剣を突き刺し、スライムを萎ませて消滅させた。

 

 "うわあぁ、配信早々リオちゃんが死にかけてるぅ"

 "あ、攻略最前線レイドに居た仮面さんが居る。あの人滅茶苦茶強いんだよねぇ"

 "ねねちゃんも居るじゃん。これ、このパーティでダメだったらエリュシオンちゃん以外じゃ止められない奴なのでは?"

 

「ごめん、ラブさん。助かった!」

「いえ、お気になさらず。ただ、思った以上にスライムが手強いです。ねね、増殖膨張速度を上回る攻勢は可能ですか?」

「何をおっしゃるウサギさんでございましょ。おねねさんの周りに居る怪人フレンズの数を見て察して欲しいございますよ」

 

 ねねは軽口を叩きながらも、小スライム、怪人、準深層級モンスターと、次々と敵を斬り裂いていく。

 だが、それでも敵の数は膨大。その攻撃をスライム本体へと集中させることは難しい。

 

『グアアッ! 足を斬られた! 動けん、これではスライムに食われる!』

『退け! 退けよ家畜! こんな所に居てはスライムの捕食に巻き込まれるだろうが!』

 

 しかも、スライムに追い立てられて逃げ惑う宿り木達で混乱は激化。

 そちらに対応している間にも、社とは別方向に這っている小スライムが成長し、更なる小スライムを生み出し始めていた。

 

 "スライム、怪人産み出しながら増殖してる……"

 "これ、緊急レイドどころかエリュシオン案件の奴では?"

 

「おねねさん、こんなバトルも新鮮で楽しいでございますけれど、戦況的には結構ヤバめさんでございますねぇ」

「見りゃわかるし! ラブさん、スライムの増殖を食い止められないん? 侵食進んだから強くなってんだよね!?」

「こう広範囲に広がられては一人で食い止めるのは難しいです。何しろ、体は一つしかありませんから。ねねの見立て通り、このままでは時間の問題ですね」

 

 そう言いながらも攻撃の手を緩めず、スライムの体を的確に削り取っていくラブリナ。

 しかし、既に増殖が破壊を上回る完全な悪循環。手の施しようがなくなるのは時間の問題だった。

 

「違うでございますよ、ラブさんさん。時間が味方をしてくれるのは、こちらもでございましょ?」

 

 渋い顔をしているラブリナを見て、怪人とスライムを切り刻んでいるねねが得物の刀で社を差す。

 

「お待たせしたのです! 今こそ皆の力を合わせる時なのです!」

 

 それを合図にしたかのように社からミコトが登場し、腰に手を当ててむふんと自信満々に胸を張った。

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