魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
"うわああああ! 巨大スライムが喋ったあああっ!?"
"あれ、モンスターじゃなくて怪人なの!? やめてよ!"
逃げる怪人達を捕食するアンジェラスライム。
アンジェラは怒りに任せて触手を振り回し、廃ビルやビルに生えている木々をなぎ倒し、壊都を好き放題に暴れまわる。
途中、警備用ゴーレムが制圧しようと駆けつけてきたが、圧倒的パワーの前に一切の意味をなさない。それどころか、触手に絡めとられて残らず捕食されてしまった。
『戦う気がないのなら力は全部置いていくの! アンジーはこのクズ共を吸収して、エリュシオンが無視できないよう目に物を見せてやるの! アンジーは軽んじていい存在ではないと証明するの!』
「あれま、あの発狂芸は紛うことなく偽クーちゃんさんでございますねぇ。さっきエリュシオンが切り離したはずでございますが、いかなる仕組みでございましょ?」
その無差別な捕食が味方に及ばぬよう、襲い来る触手を切り落としながら、ねねが首をかしげる。
"あの怪人、エリュシオンに滅茶苦茶キレてんじゃん"
"あー。ヤバい案件なのに珍しくエリュシオンが居ないと思えば、一人で先行してる感じなのか"
"紛うことなきエリュシオン案件だったのね。納得だわ"
「クライネの話では、アンジェラに奪われた本体は裏界の扉にあるそうです。私達がアンジェラと認識していた存在は指令用の子機で、あれこそがクライネ本体から押し出されたアンジェラ本体なのでしょう」
「なーるほどでございましょ。あの口ぶりに敵愾心。クーちゃんさんの体から追い出された上に、エリュシオンに軽くあしらわれてご立腹なんでございますねぇ」
「つまり、エリュシオン様がクライネを本体に戻したのです!」
目をキラキラと輝かせ、まるで自分のことのように胸を張るミコト。
「クーちゃんが本体に戻ったんなら、怪人の増援もこれで打ち止めってこと? はっ! 流石はエリュシオン、このヤバい状況でも希望見せてくれんじゃん!」
激化する攻撃に苦戦しながらも、あと一息だとリオが気合を入れ直す。
「おおっと。リオもミコミコちゃんもやる気満々さんでございますねぇ。これはおねねさんも負けていられないでございますよ」
それに負けじと、ねねはミコト達に襲いかかる触手を次々と刀で斬り払いながら、朽ちたビルの外壁を所狭しと駆け回っていく。
『がああああ! アンジーの前で目障りな動きをするんじゃないの!』
その動きに一層苛立ち、怒りに任せて襲ってくるアンジェラの触手。
当然、ラブリナやねね達にもそんなものは通用しない。だが、
『嫌だぁ! 餌になんてなりたくない! 俺達は次の支配種族になるために黒晶石になったんだぞ!?』
『世界を黒晶花で埋め尽くして、肉の体どもを家畜にして左団扇の予定だったのに! こんなの酷い、酷すぎる! 血も涙もねぇ!』
『畜生、畜生ッ! 肉の体! 肉の体さえ奪えれば……!』
逃げ惑う怪人達が次々と触手に絡めとられて吸収されていく。
その度、スライムの体が拍動するように震え、破裂寸前の風船のように膨らんでいく。
"今怪人の断末魔聞こえたんですけど、これ……"
"クズぅ"
「あの連中、マジで性根腐ってんね。最後までクズムーブたっぷりでドン引きなんだけど」
自らの方へと逃げてくる怪人達を槍で貫きながら、その醜悪な断末魔にげんなりとするリオ。
「リオ、だからと言って見殺しにしてはダメなのです! 怪人達は放置すればスライムの養分になるのです! ちゃんと自らの手で始末するのです!」
「いやいや、ミコっちゃんの台詞も大概に悪党のソレだし。マジで気をつけなー」
両手を上げて邪悪な台詞で窘めるミコトに、リオはより一層げんなりとした顔になる。
「けどな、言ってることは正論だぞ。あのスライムは最後に炸裂する仕様だ。それを防ぐには餌になる怪人を与えず削り取るしかない!」
ルミカは怪人の上半身をランスで消し飛ばし、勢いそのままにビルを駆け上り、身を翻しながらランスから魔力の閃光を放って、アンジェラスライムの体表を削り取る。
「わかってる! 今のウチ等、完全に怪獣映画の戦闘機役じゃん!」
リオもそれに続き、廃墟の狭間を縫って襲い掛かって来るスライムの触手を切り落とす。
「おおっと、二人とも抜け駆けはズルいでございますよ。大暴れはおねねさんの得意技でございますからね。ほいさっさ!」
吹き荒れる触手の嵐を潜り抜け、ねねが逃げ惑う怪人達を次々と切り刻んでいく。
『うがあああああ! ムカつくの! ムカつくのぉ!!』
連携する魔法少女三人に翻弄され、アンジェラスライムの勢いが弱まっていく。
"この戦闘、エリュシオンちゃんが地上で戦ってた頃を思い出すわ……"
"毎日がこんな感じだったよな。もう二度とああならないで欲しい、切に思う"
『い、今のうちに……』
「クソ怪人ども消し飛べにゃ!」
その隙を衝いて逃げようとする怪人を、ミレイが雷撃魔法で連続撃破していく。
「スライム、小さくなってきているのです!」
「うむ、順調だな。後は時間の問題であろう」
「残念ながらそう上手くはいかないようです。……今、"私"の気配が入りました」
ラブリナはミコトを守っていたクロノシアに注意を促すと、リオ達の援護に入るべく倒木の上を跳ね飛んで最前線へと戻っていく。
『ガアアアアァッ! 力が! 力が足りないの! 力を、力をよこすのラブリナァ!』
戦場となっているビル群の中央、三人の魔法少女に動きを封じられ、アンジェラが断末魔のような叫びをあげる。
瞬間、削られ続け萎んでいく一方だったアンジェラの体が一気に膨張した。
『アガバババババッババ!! ギモヂイイイイイ!! ノォォォォ!』
「……ルミカ、おねねさん止まって! アンジェラスライムの様子がおかしいよ!」
「一目瞭然だろ! もう一人の僕様も言ってる、ヤバいことになるぞってな!」
潮目が変わったことを察知したルミカ達が後方へと飛び退き、急膨張したアンジェラがゴーレムのような人型へと変形していく。
"げぇっ! あのスライム、第二形態まで完備してんのかよ!?"
"リオちゃん、配信開始時に万が一に備えて見とけって言ってたけど、これどう考えても一般冒険者には無理ゲーでーす!"
『ボアぱパぁガァ!! えりゅしおおおおああああ!』
もはや声にさえなっていない狂気の叫びとともに、超巨大ゴーレムとなったアンジェラが手を振り回し、近くのビルを勢いよく薙ぎ倒していく。
「あらま、クーちゃんさんが冗談で言っていた超巨大ゴーレムさんのお出ましでございますよ」
ゴーレムが砕いた草木混じりの瓦礫を避けつつ、ねねが反撃の一閃を放って腕を抉る。
だが、ラブリナの力を得たアンジェラゴーレムは、ねねの剣閃によって生じた傷を瞬く間に癒してしまう。
「ヤベーにゃ。怪人を燃料にしてた時と違う、完全なボス仕様になりやがったにゃ!」
「大丈夫なのです! 考えようによっては一気に片をつけるチャンスなのです! それはつまり、欠片なしではあの体を維持できないと言う意味なのです!」
激戦からの更なる強敵の出現、皆が弱気になりかけたことを察してミコトがそう鼓舞する。
「なるほど、ミコっちゃん賢いじゃん! 前回も、前々回も、ラブさんの欠片抜き取ったら体維持できなくなってたはず!」
「なるほど。見方によれば、怪人が途切れるのを待つしかなかった先程までとは違い、一気に決着をつけるための弱点が付与されたとも見れますね」
「なのです!」
頷くミコト。
彼女が持つ天性のカリスマも相まって、下がりかけた士気が一気に高まる。
「よし! ラブリナ、欠片がある位置は把握できるか!? できるんなら僕様があの巨体をぶち抜いてやる!」
アンジェラに狙いを絞らせないよう、倒れたビルを素早く飛び移るルミカが言い、
「はい。他ならぬ私の気配ですから」
アンジェラゴーレムと正対して大剣を構えるラブリナがそう答える。
「ならば余があ奴の一撃を受け止めて隙を作る。ミコト、即死でなければ治せるのだよな?」
「即死でも治せるのです! 次々とミンチになってくるのです!」
「う、うむ? 心強いな」
"こわぁ……"
"治す前提で部位欠損を戦術に組み込むのはちょっと……"
"優秀なヒーラーって恐ろしい存在っスね……"
クロノシアは目を輝かせて即答するミコトに困惑しつつも、一同を踏み潰そうと足をあげるアンジェラゴーレムの足元へと突っ込んでいく。
「ミレイ、今ぞ!」
クロノシアを踏みつけたアンジェラが僅かに体勢を崩し、
「吹き飛べにゃ!」
すかさずミレイが突風の魔法を放って崩れた体勢を更にぐらつかせた。
『ゴボォアアア!』
「クロちゃん回収っと! ミコっちゃん、クロちゃんの治療頼んだ! ウチ等も行くよ、おねねさん!」
アンジェラの足が浮き上がった隙を衝いて、リオがクロノシアを回収し、ミコトの方へと投げ渡す。
「ほいきたでございましょ!」
手をついて受け身を取ろうとしているアンジェラへとねねが疾走し、リオと二人掛かりで素早く腕を斬り刻んで受け身を妨害。
二人に妨害されたアンジェラは受け身が取れず、轟音とともに瓦礫の中へと沈み込んだ。
「ルミカ、あそこです! 左側の胸元を狙ってください!」
「任せろ、僕様がぶち抜く! ラブリナ、仕上げは任せたぞ!」
瓦礫を貫きながらルミカが爆進し、アンジェラの胸元を貫いてラブリナの欠片を露出させる。
間髪入れず、巻き上がった瓦礫を躱しながらラブリナがゴーレムへと駆け、穿たれたアンジェラゴーレムの胸部穴へと侵入。
「これで決着ですね」
ラブリナの欠片へ杖剣を突き刺し、そのまま背中側へと脱出する。
『グガパァ! アァ! アッ! ウガアアアアア!!』
ラブリナの欠片を失ったことで、自らの巨体を維持できなくなったアンジェラが、絶叫をあげながらその身を急速に灰へと変えていく。
途中、幾度かゴーレムの体がボコボコと泡立ち、取り込まれていた怪人達が逃げ出そうとするが、彼等も諸共に灰に染まっていく。
アンジェラゴーレムが完全に灰となると同時、波が引いたように深海域に繋がっていたスライムも灰になって消え去った。
「うむ、終わったか。ミコトの読み通り、過剰な力を維持できなくなったようだな」
「はい。この付近の侵食も急激に弱まりました。先程の様子だと、深界域も深層相当の危険域ではなくなるかもしれません」
言いながら、ラブリナは深界域の方へと視線を向ける。
その姿からはクライネに対する心配がありありと見て取れた。
「ラブさん、行っていいよ。後の始末はウチ等でやっとくからさ。いくらエリュシオンが行ってても、当然気になるでしょ。クーちゃんのこと」
「リオ……。すみません、ありがとうございます」
「いいって。ウチ等、クーちゃんも仲間だと思ってるし。見届けてきなよ」
リオは槍を肩に担ぎながら手を振ってラブリナを送り出そうとする。
「リオ、それはダメなのです! 私達もクライネの仲間なのです、皆で一緒に行くのです!」
が、そんなリオにミコトが待ったをかけた。
「いや、でもさ……」
「行けよ。ここには僕様達だって居るんだからな。なあ、ねね」
「珍しく気が利くでございますねぇ。おねねさんも変身時間少し残っているでございますからね。ミコミコちゃんの護衛もできるでございますよ」
「そだね。ルミカ、レイド配信の続きは頼んだ。トークタイムでもしてなー」
ミコトの言葉に頷き、リオは傍らに浮かんだスマホをルミカに向けて滑らせる。
「ったく、仕方ないな。視聴者どもー、ライブカメラで残党が居ないかチェックしてくれ」
それを渋々受け取ったルミカは、視聴者に声かけをして怪人の残党が居ないかの後始末に向かう。
「心遣い感謝します」
「なに、お互いさまと言うものだ。それに仲間を大切にするお前達の在り方、余も気に入っているのだぞ」
「はい。かつての私にも、その言葉聞かせたいものです……さあ、急ぎましょう!」
ラブリナはクロノシア達に感謝を告げると、リオ達と共に深界域へと駆け降りていくのだった。