魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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5層 裏界 -楽園のエリュシオン-
第17話 【魔法少女の帰還】1


『ディープエリアは未知のモンスターと遭遇する恐れがあり、その近隣エリアも非常に危険です。冒険者や配信者は直ちに退去してください』

 

 スピーカーから物騒な警告が流れ続けるそこは、深層ダンジョンと繋がったことで放棄区域となってしまった場所。

 宵闇に溶けるように立ち並ぶ窓の割れたビル、久しく手入れのされていない街路樹、砕けて波打つ道路。そして、その最奥に見える深層"怪人達の巡礼道"へと繋がる次元の裂け目。

 ゴーストタウンと化して久しい放棄区域には今現在怪人が集結しており、深層から境界を越えてなおも続々とその数を増し続けている。

 ひび割れた路上を埋め尽くすモンスター化怪人の群れ。だが、その行く手を遮る者達が居た。

 

「おお、盛大なお出ましじゃ。偽那由他会の黒ローブに大怪獣連合の残党、巷を騒がせおった連中の詰め合わせよ。されど、同じ怪人が複数居るのは手抜きじゃの」

 

 街と放棄区域を隔てる防衛線代わりの有刺鉄線を背に、二人の魔法少女を引き連れたカレンが、鋭い眼差しで怪人達を値踏みする。

 

「奴さん方、中身は別人だと思うのでございますよ。【宿り木】さんなる旧魔法文明人の方々、人様の体奪う系ピープルでございますからね」

 

 薄紫色の髪をした魔法少女ねねが両手に刀を構えながら言い、

 

「だろうな。連中の体、後付け黒晶石が刺さってる奴がほとんどだ」

 

 クリーム色の髪をした魔法少女ルミカがランスを構えて同意する。

 

「はぁ。くだらん、ほんに女々しい負け犬共よ。古巣を捨て、体を捨て、終いは一山いくらの雑兵か。興趣の欠片もない」

 

 二人の言葉を聞いたカレンは、退屈そうな顔して自らの金髪を弄んだ。

 

「くすくすくす、これは手厳しい。鳳仙長官は噂通りのお方のようです」

 

 そんな一同の前、ダンジョンの境界から黒晶石製の神輿が姿を現し、黒いローブの女が現れる。

 その体は他の怪人達と違って人間の物だが、胸元には黒晶石のはめ込まれた装飾を着けている。黒晶石によって操られているのは明白だった。

 

「巡礼怪人共の親玉が満を持してご登場か」

「くすくすくす。私はレギーナ、貴方達が宿り木と呼ぶ者の一人です。以後お見知りおきを」

「レギーナ、見知る必要はない。こいつ等はここで死ぬ運命にあるのだからな!」

 

 神輿の上で自己紹介するレギーナの下、神輿を支える犬怪人が語気荒くそう付け足す。

 

「こんこ、こんこ。負け犬風情が吠えておるわ。文字通りの負け犬の遠吠え、実に見事じゃ。お主達の愚行の中では唯一愉快じゃったぞ、褒めてやろう」

「貴様ぁ! 我等を愚弄するか!」

 

 口元に手を当てて嘲笑うカレンを見て、前のめりになって憤慨する犬怪人。

 だがレギーナ達が居る場所は、カレン達とは最も遠い境界付近の最後尾。彼の叫びは文字通り遠吠えだった。

 

「ああ、いけません、いけません、負け犬だなどと侮ってはいけません。彼等が負けたからこそ持つ"恨み"、それは黒晶石を育み輝かせる極上の負の感情なのですから」

 

 いがみ合う二人に割って入ったレギーナが、邪悪な笑みを浮かべて言う。

 

「つまり、黒晶門が想定よりも早く再生したのは、こいつ等が持つ負の感情を喰らったから、なのか」

「お利口ですね、魔王様。ですが、それだけでは……おっと口が滑ってしまったようです」

 

 わざとらしくそう言って、含みのある笑みを浮かべるレギーナ。

 この地上侵攻が計画の全てでないことは明白だった。

 

「長官、そろそろおっぱじめてもいいでございますか? 怪人さん方、既にやる気満々さんでございますし。おねねさん的にはちゃっちゃか暴れたいさんでございますよ」

「おおよいぞ、盛大に殺れ。迷子の観光客ならいざ知らず、妾の縄張りを荒らす愚物共には相応の報いを与えねばならぬ」

 

 言いながら、カレンはレギーナに冷酷な眼差しを向ける。

 眼差しを向けられたレギーナはニヤリと僅かに口の端を吊り上げた。

 

「ねね、ルミカ、可能な限り速やかに全滅させよ。あの連中の思惑通りに事を進めるのは心底不快じゃ」

「言われなくても! こんな連中、一匹たりとも街に行かせられないからな!」

「斬り放題でございましょ!」

 

 各々の得物を構えて怪人の群れに飛びこんでいく二人の魔法少女。

 瞬く間に怪人達は蹴散らされていくが、レギーナは余裕の表情を崩さない。

 何故ならば、カレンの読み通り彼女は陽動役に過ぎず、本命は他の場所で行われる大規模侵攻だったからだ。

 

 

  第一話 魔法少女の帰還

 

 

 私達が壊都へと冒険に赴き、クライネが天狼家の居候になってから暫く経った。今の所、黒薔薇の鍵守や、その大本である宿り木達に動きはない。

 街に出現するモンスター化怪人の数は減り、ミコトちゃんもダンジョン庁の護衛付きで家に帰っている。

 ラブリナさんが新しい欠片を取り込んだことで、セレナちゃんの体調がまた芳しくないのは気がかりだけど、私の生活は一応の落ち着きを取り戻している。

 

「……クライネ。宿り木達に動きがないのって、嵐の前の静けさだよね?」

 

 私はテーブルの上で変身用ペンダントの調整をしているにゃん吉さんを撫でつつ、ソファで優雅にスマホを操作しているクライネに話しかける。

 クライネはにゃん吉さんに教えられ、スマホでライブカメラ映像を見る方法を覚えた。結果、壊都の墓守であるクライネは、己の使命である壊都監視業務を自宅で行えるようになっていた。

 前門のメタボ猫、後門の黒髪猫耳娘。怠惰な黒猫ダブル体制だ。

 

「あら、勤勉ですのね。勿論そうですわよ。彼等はいつだって地上の支配者になる日を心待ちにしておりますわ」

 

 ゴシックドレス姿のクライネが、ふわと小さくあくびをしながら首肯する。

 クライネは平時でもあんな感じのオシャレ服を着こなしている。

 服自体はセレナちゃんの家でクリーニングしてくれるけど、汚さないかご飯時に毎回心配になっちゃう。

 

「でもさ、ボクとしてはあまり拙速な対応はしない方がいいと思うんだよね。こりすちゃん達が裏界とか言う場所に足を踏み入れるには、この小康状態を壊す必要があるらしいじゃない」

「同感ですわね。裏界は黒晶石蔓延る次元の狭間。せっかく魔王クライネが白い輝石となって作った時間、準備のために有効活用するべきですわ」

「うん、わかってる。この後セレナちゃんが来るから、ラブリナさん達を交えて今後の計画を立てよう」

 

 私はクライネの言葉に首肯し、にゃん吉さん達が思うより時間的猶予はないだろうけどね、って心の中で付け足す。

 黒薔薇の鍵守は前回あれだけのことをしでかした。その上、ダンジョン庁にアジトの家宅捜索までされている。私達が壊都に作った拠点は裏界入り口にほど近く、相手にしてみればチェックメイトをかけられているようなもの。

 なのに今現在の宿り木達に動きはない。それはつまり、こっちが攻め込むよりも早く次の計画を起す算段があるからに他ならない。

 

「ラブリナは生真面目ですものね。一人で勝手に背負い込まないよう、早めに計画を立てて行動を縛っておいた方がいいですわね」

「そこはセレナちゃんと同居してるから大分矯正されたと思うよ……私もそうだったし」

 

 そんな話をしているうちに、我が家のインターホンが鳴り、

 

「こりすー! 一大事、一大事なのです!」

 

 慌てた様子で玄関先に現れたのは、白い髪に赤と青のオッドアイの女の子。

 つまり、セレナちゃんでなくミコトちゃんがだった。

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