魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「あれ、ミコトちゃん。どうしたの、忘れ物? ダン特の人に付き添われて家に帰ったはずだよね?」
「帰った後、荒らされた家の確認をしていたのです! そうしたら大事な宝珠が盗まれていたのです。黒薔薇の鍵守のしわざに違いないのです!」
私の目の前で大きな胸を見せつけるように両手をあげて、一大事だと一生懸命主張するミコトちゃん。
「と、連絡を受けたので連れてきました。本当に黒薔薇の鍵守が関与しているのなら、ダンジョン庁に報告するよりも、まずはにゃん吉さんやクライネさんと相談すべきでしょうから」
遅れてリビングにやってきたセレナちゃんがそう補足説明すると、セレナちゃんから切り替わったラブリナさんが、にゃん吉さんの居るテーブルに白い輝石を置いた。
「にゃん吉、ラフィールとテラーニアの白い輝石を持ってきました。変身アイテムへの加工をお願いします。私の手元に置いたままにしておくより、その方が彼女達の想いに応えられるはずですから」
「うん、わかったよ。誰でも使える変身アイテムにはならないだろうけど、いずれ使い手が現れた時の為に準備しておくさ」
「はい、ありがとうございます。宵月さん、私とラブリナさんの用事は済みました。先程の話、詳しく聞かせてください」
にゃん吉さんが白い輝石を受け取ったのを確認し、ラブリナさんから戻ったセレナちゃんが盗られた宝珠へと話を戻す。
本当に黒薔薇の鍵守が宝珠を盗っていったのなら、次にしてくる企みの手掛かりになるはずだ。
「ミコトちゃん、盗られた宝珠ってどんな用途で使うものなの?」
「召喚の補助用なのです! 乱れた次元の狭間をすり抜けやすくできる代物なのです!」
「えっ、まだ残ってたんだ」
「むふん、数少ない旧那由他会の遺産なのです!」
エリュシオンとして那由他会を壊滅させた時、もう悪さしないように危険物は粗方破壊しておいたつもりだった。
まだ残っていたなんて想定外。私物まで壊しちゃうのは流石に可哀想かなって仏心を出さず、もう少し徹底的に破壊しておくべきだった。
「そうなんだ。じゃあ危ない物は後で壊しに行くから、他に残っているものを教えてね」
「こりすー! 大事な資産なのです、それは止めて欲しいのです! 決して悪いことには使わないのです!」
ミコトちゃんは腕を大きくバツの字に交差させ、やめてやめてと必死に首を横に振って懇願する。
「こりすちゃん、ボクも流石にそれは可哀想だと思うよ。せめて安全管理を徹底させる所から始めてみたらどうだい?」
「わ、わかってるよ。本気で壊すつもりなら、ミコトちゃんの前で宣言なんてせず勝手に壊すし!」
「んもう、ブラックジョークはやめましょうね。こりすちゃんの場合、本当にしかねない凄みがあるんですから」
にゃん吉さんだけじゃなく、セレナちゃんにまで呆れ顔をされてしまった。
私ってそんなイメージ持たれてるんだ……。ちょっとショック。
「ミコトちゃん、盗られた宝珠の手掛かりはあるの?」
「手掛かりどころか、今ある場所までちゃんとわかっているのです! 一緒に取り返しに行って欲しいのです!」
ミコトちゃんは巾着袋から自分のスマホを取り出て浮かべると、盗られた宝珠があるらしい場所の画像を見せてくれる。
それは最近できたばかりのシンボルタワー【天空樹】。
リオちゃんがオープニングセレモニーを見に行くって言っていたし、結構話題になっていたから私でも知っている。
「おや、最近話題になってる天空樹だね。そんな目立つ場所に持ち込まれているのかい?」
「そうなのです。リオが行くと言っていたから調べていて気付いたのです!」
ミコトちゃんは天空樹の公式ホームページを開くと、フロアガイドに載っている写真を見せてくれる。
展望回廊の中央エレベータ前に設置されているオブジェの中心、キラキラと一際輝く小さな宝珠がはめ込まれていた。
私には珍妙な謎物体にしか見えないけど、一応有名アーティストの作らしい。
「えっ。もしかして、オブジェの中心にあるあれなの?」
「そうなのです!」
「うえぇ、盗品なのに堂々と設置されちゃってるんだぁ……」
そんなことあるんだって思わず苦笑いしたけど、これは笑い事じゃないぞってすぐに思いなおす。
「って、セレナちゃん。天空樹って国の研究施設を兼ねているんだよね?」
「はい、世界初の次元融解現象観測施設と言う触れ込みです。管轄はダンジョン庁ではなく魔法省ですね」
表情を引き締めて尋ねる私に、セレナちゃんが頷く。
この天空樹、最上階には展望回廊があったり、下の階には沢山の商業施設が入っているけれど、基本的には次元融解現象を研究する国の施設なのだ。
そして、宿り木こと黒薔薇の鍵守達は、魔法省に対して大きな影響力を持っていた。天空樹に何らかの仕掛けを施している可能性は非常に高い。
「あらあら、次元融解現象の観測に巨大施設を作るだなんて豪儀ですこと。この世界の方々はどのようにして次元を渡っているのか気になりますわぁ」
セレナちゃんの説明を聞いて天空樹に興味を示したクライネが、ミコトちゃんのスマホを後ろから覗き込む。
途端、ゆらゆら揺れていたクライネの尻尾の動きがピタリと止まった。
「クライネさん、どうしたんですか?」
「この施設、わたくしには観測目的ではないように見えますの」
その真剣な表情を見て、クライネが何に見えているかを察してしまう。
以前、クライネは言っていた。次元融解現象を引き起こす魔道具は、大型の物ならいざ知らず小型の物は容易に作れない、と。
「クライネ、この施設って何に見えるの。まさか次元融解現象の観測じゃなくて……」
「ええ。次元融解現象の観測ではなく、誘発を目的とした巨大建造物。要するに巨大マジックアイテムの類に見えますわ」
私が言い終えるよりも早く、クライネは想像通りの回答をしてくれた。
「やっぱり!」
「こりすちゃん、黒薔薇の鍵守が研究所を襲撃した時に言っていましたよね。地下組織が表立って動くのは、自らの企みが瓦解寸前の時、あるいは最終段階に入った時だって」
「うん、言った。私達じゃわからないのをいいことに、鍵守達が作らせたに違いないよ」
旧魔法文明人【宿り木】が乗っ取った地下組織である黒薔薇の鍵守は、人類より優れた魔法技術を提供することで、魔法省を含めた各方面に対して影響力を得ていた組織だ。
連中の魔法知識は今の人類よりも優れていて、私達ではその全貌を理解できない。秘密裏に違う機能を仕込んでおくことぐらい造作もないはずだ。
「ふぅん、前回ミコトちゃんを襲ったのは、開門巫女の確保と宝珠の回収を兼ねた一石二鳥の作戦だった訳だ。中々抜け目ないね、彼等」
「にゃん吉さん、悪いことしてる奴等に感心なんてしないでよ! セレナちゃん、急いで天空樹に向かおう! 天空樹のオープニングセレモニー、今日のはずだよ!」
私はマイペースなにゃん吉さんにクレームを入れると、ハンガーに掛かっていた冒険用バッグを手に取る。
今日の天空樹はオープニングセレモニーの真っ最中、大勢の人が居る。そんな所にダンジョンとの境界ができたら大惨事確定だ。
性格の悪いあいつらのことだ、それを狙ってくるに違いない。
「はい。念のためダンジョン庁にも連絡を入れておきます!」
「当然、私も行くのです! エリュシオン様の巫女として、那由他会の宝物を悪用することは許さないのです!」
スマホで連絡を入れるセレナちゃんの横、ミコトちゃんがはいっと手をあげて意気込む。
どうしよう。ミコトちゃんは鍵守達に狙われているし、心情的には危ないから留守番していて欲しい。
「うーん……わかった、一緒に行こう。でも無茶はしないでね」
けど、私の経験上悪さしてくるならこのタイミングと言うだけで、今日鍵守達が行動を起こすと決まったわけじゃない。
宝珠の真贋を見極められるのはミコトちゃんだけだし、危ないかもでお留守番してもらうのも違うだろう。
「むふー、遠慮せずに任せてもいいのです!」
「あらあら、やる気十分ですわね。こりす、わたくしも同行しましょうか?」
「クライネは……変身用ペンダントの調整が終わるまでここに残って」
当然、クライネは魔法少女だ。けれど、魔王クライネの白い輝石を使ったペンダントはまだ調整中。
クライネは変身なしでも戦力になるけれど、万が一のことを考えると変身と言う切り札は持っていてもらいたい。
「わかりましたわ。ペンダントの調整が終わり次第、天空樹とやらに駆けつけますわね」
クライネは佇まいを直し、浮いたスマホを手で弄びながら了承してくれる。
「うん、お願い。にゃん吉さん、変身用ペンダントの調整を急いでね」
「わかってるよ、こりすちゃん。でもさ、行く前に髪ぐらいはちゃんと梳かしておきなよ。元の素材の良さに慢心せず、最低限の身だしなみは必要だと思うね、ボク」
「さ、流石に最低限は突破してるよ! セレナちゃんが来る予定だったし!」
私は自分の黒い髪を触ってそう言い返しつつも、なんだか不安になって洗面所で身だしなみを整え直すのだった。