魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第17話 【魔法少女の帰還】3

 世界初の次元融解現象観測塔でもあるシンボルタワー"天空樹"前、スーツ姿の男が熱弁を振るっていた。

 

「この天空樹が国民の安全と資産を守り、ダンジョン時代における我が国のリーダーシップの象徴となることを、私は確信しております!」

 

 そう言い終えた所でまばらな拍手が湧き起こり、男が満足げな顔で降壇する。

 入れ替わるように、また別の男が登壇してきた。

 

「んげ、まだ終わらないんかい。お偉いさん方はどんだけ語りたいんよ」

 

 その光景を人だかりの中ほどで眺めるリオは、一向に終わらないオープニングセレモニーに眉をひそめる。

 周囲は黒山の人だかりで、あまりの盛況さに事前予約が必要だったほどだ。

 だが、そのほぼ全員が下層フロアにある商業施設や、最上階の展望回廊目当ての来場者。次元融解現象観測施設としての天空樹を見に来た者は少なく、壇上で意気揚々と語っている政府高官達との温度差は激しい。

 

「はぁ。鳳仙長官はしっかり居ないし、あの人マジで立ち回り上手過ぎでしょ。ウチも初日は止めときゃよかった」

 

 リオは商業施設エリア目当てに来たことを若干後悔しつつも、今更帰る訳にはいかないと、登壇した魔法省の高官を眺める。

 魔法省高官であるスーツ姿の男は、得意満面の表情でマイクの前に立つと、辟易している来場者を見回して意気揚々と口を開いた。

 

「市民の皆さん、長々とした話に辟易しているのではありませんかな。ですが今日は栄えある日、もう少しだけお付き合いいただきたい。そう……我等鍵守がこの世界の支配者になる日なのですからな!」

 

 興奮した男が唾が飛ぶような大声でそう叫び、自らのスーツを引きちぎる。

 運動不足を感じさせる体には無数の皮ベルトが巻き付けられていて、首元と胸に二つの黒晶石が装着されていた。

 それが意味するところはつまり、

 

「マジか! あのおっさん洗脳されてんじゃん!?」

 

 周囲の人間達が状況について行けず呆然としている中、その意味をよく知るリオだけが跳ねるように動き出す。

 

「くっそ! 警備の冒険者は何やってんの!? ボディチェックもなしとかガバ過ぎでしょ!?」

 

 リオは人混みを横に掻き分けながら、ダンジョン庁に連絡を入れるため、スマホの入った鞄をまさぐる。

 だがその間にも、刻一刻と状況は悪化していく。

 

「お、おい。日比野君、一体何を言っている……」

「この瞬間を間近で見ることができる諸君は実に光栄だぁ! 刮目せよ、隷属種族共よ刮目し首を垂れよッ! 我らが守護神たる魔法少女の帰還だァ!! 神、神、神、神ィィ! 起動せよ、鍵の塔!」

 

 男は嗜めようと近づいた魔法大臣の頭をヘッドロックして黙らせると、自らの狂気を隠しもせずに嬉々として叫ぶ。

 そして、自らの胸に取り付けられていた黒晶石を、足元の紅い絨毯へ力一杯叩きつけた。

 それを合図として、荘厳なファンファーレが鳴り響き、天空樹の周囲に黒い花吹雪が巻き起こる。

 巻き上がった黒晶花が無数の下級戦闘員やモンスターへと変化し、起動した天空樹が妖しく黒く輝き出す。

 

「ふふふ、ははは、はーっはっはっはっ! 今これより世界は黒晶石によって満たされる! 我等が地上の支配者となるのだァ!!」

 

 ファンファーレが鳴りやみ、代わりに人々の悲鳴が一面にこだまする中、洗脳された男は壇上で高笑いし続けるのだった。

 

  ***

 

 セレナちゃん家の車で天空樹へと向かう私達は、天空樹に居るであろうリオちゃんと連絡を取ろうとしていた。

 

「こりす、リオと連絡はついたのですか!?」

「まだ! リオちゃんが出ないってことは、やっぱり天空樹の辺りに居るってことだと思う!」

 

 私は黒く発光した天空樹を見上げて言う。

 何度呼び出してもリオちゃんからの反応はなく、逆に連絡がくる様子もない。リオちゃんは渦中の真っ只中に居ると考えていいだろう。

 あるいはスマホの電源が切れてるとかだけど、リオちゃんに限ってそれはないと思う。

 

「だとすると、これ以上の連絡は止めておくべきでしょう。リオさんにとって不都合になる可能性があります」

「怪人から隠れていたら、見つかってしまう可能性があるのです!」

「うん、そうだね。セレナちゃん、ダンジョン庁の人達は?」

「既に連絡済みです。ただ、連絡した段階ではまだ()()()()()でした。ダン特や所属の魔法少女が動くまでには、タイムラグがあると思います」

「そっか、出発した時は天空樹に異常なかったもんね……」

 

 天空樹にはダンジョン庁や魔法省の偉い人が来ているらしい。それなりに警備は厳重で、強い人も居るだろう。

 でも、黒薔薇の鍵守が関与しているのなら、ほぼ間違いなく特殊な怪人かモンスターとの戦闘になる。どこまで対応できるかは未知数だ。

 

「こりすちゃん……先行しますか?」

 

 私の考えを察し、真剣な声音で聞いてくるセレナちゃん。その提案は正しい、ここは私がエリュシオンに変身して駆けつけるべきタイミングだ。

 でも、凄く嫌な予感がする。この漠然とした私の勘は、残念ながら百発百中レベルでよくあたる。可能な限り余力は残しておきたい。

 

「もう少しだけ様子を見たい、けど……」

 

 それでも、ダン特が到着するまで時間がかかるのなら、私はエリュシオンに変身して動くしかない。

 そう結論付けた私は、車を止めて貰おうとセレナちゃんに声を掛ける

 よりも早く、私達の乗っている車が停止した。

 

「じいや、どうしました?」

「どうやら、ダンジョン特別戦闘部隊の方が通行を制限しているようですな」

「ダン特ですか? 非常線を張るには早過ぎますけれど……」

 

 車を運転していたじいやさんの言葉に、対応が早過ぎるとセレナちゃんが訝しむ。

 私も窓から道路の様子を見てみれば、確かにダン特の人達が天空樹へと繋がる道路を封鎖していた。

 

「こりす、気をつけるのです! 偽物かもしれないのです!」

 

 外の様子を確認しながら注意喚起するミコトちゃん。その可能性は大いにある。

 身構える私達の前、やって来たのは紫紺の髪をしたダン特隊員。私も見覚えのある人物だった。

 

「そこの車、引き返してください。この先で事件が発生して……あれ?」

「あ、ハンナさん」

「あはは、先日は玄関先で見苦しい所をお見せしました……」

 

 言って、元魔法少女のダン特隊員ハンナさんがバツの悪そうな顔をする。

 前回の事件の時、瀕死の重傷をミコトちゃんに治して貰ったハンナさんは、エリュシウムの鍵のスペアを盗られたことに責任を感じて、どら焼き片手に我が家へ謝罪に来た。

 私の家に来たことを覚えているのなら、このハンナさんが偽物である可能性は低い。

 でもその場合、どうしてこんなに早く対応出来ているのかがわからない。

 

「ハンナ、対応が早いのです。セレナがダン特に連絡を入れてから間もないはずなのです」

「えっと、それは……。いやいや、エリアマスターへの報告なら先輩も許してくれるはずだし……」

 

 ハンナさんは一瞬逡巡した後、車のドアを開けて車内に顔を突っ込んだ。他言無用にしたい話らしい。

 

「実は密告があったんです。天空樹の式典にて陰謀企む地下組織有り、注意されたしって。前回壊都レイドが配信されたじゃないですか、あれで敵の協力者がしり込みしたんですかね」

 

 私は離脱していて知らなかったけれど、セレナちゃん達は壊都レイドの緊急配信をしていたらしい。

 鍵守の協力者達に対する警告を兼ねたその配信、目論見は見事的中したってことなのかな?

 

「なるほど。ダンジョン庁は事前に対応準備を整えていたんですね」

「そうなんです。そこにエリアマスターから連絡が入って、一気にゴーサインが出たって感じですね。早期対応できて本当に良かったですよ。今の天空樹周辺は怪人が大暴れしてますし、もうじきこっちにも逃げ出した人達が殺到してきますよ」

 

 言って、ハンナさんが車に突っ込んでいた顔を引っ込める。

 

「セレナちゃん、私達も降りよう。人が殺到してきたら車も身動き取れなくなっちゃうし」

「そうですね。その方がよさそうです」

 

 私達がじいやさんにお礼を言って車から降りると、じいやさんは身動きが取れなくなる前にUターンして帰っていく。

 

「ハンナ、セブンカラーズの魔法少女は来ているのですか?」

「それがまだ到着してないんですよ。ねねも、先輩の妹さんも、深層付近に出没した怪人の相手に行っちゃってて、他の子達も非番だったりダンジョンに居たりで……」

「ねねちゃん達の方は間違いなく陽動だね。戻ってくるまでの間、私達でなんとか食い止めないと」

 

 陽動だからと言って怪人が現れれば無視できない。ねねちゃん達が急行する他はなかっただろう。

 そこはもうしょうがない、その分は私達が頑張ればいいだけの話だ。

 

「そうですね。可能な限り尽力しましょう」

「あ、エリアマスター達も手伝ってくれるんですか」

「はい。この一件、単なる怪人騒ぎでは済まないはずですから」

「ああ、やっぱりかぁ、薄々察してました……。ちなみにエリアマスターの想定だとどうなっちゃう予想ですか、天空樹」

 

 心なしかさっきよりも黒く輝いている天空樹を見上げ、浮かない顔のハンナさんが小声で聞いてくる。

 

「まだ確定ではありませんが、制御された次元融解現象によって深層と繋がる可能性があります」

「ふああっ!? 大惨事、大惨事じゃないですか! 連絡、はやく設楽先輩に連絡しないと!」

 

 あわあわと慌てふためいて、浮いたスマホをお手玉するハンナさん。

 なんだろう、申し訳ないけど凄く親近感を覚えちゃう。

 

「あ、すみません。取り乱しました! ちょっと先輩達に連絡して警告しておきます!」

 

 お手玉していたスマホをようやくキャッチして、ハンナさんが設楽さんに連絡を入れようとする。

 でも、その前に設楽さんから連絡が入った。

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