魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第17話 【魔法少女の帰還】4

 再び浮き上がったスマホに設楽さんの姿が映る。

 その周囲には奮戦するダン特隊員に、多数の怪人やモンスター。予想通り、今の天空樹周辺は大荒れだった。

 

「あっ、先輩丁度いい所に! 丁度今連絡しようと……」

『ハンナ、そっちに避難する人達が山ほど行く! 大混乱を引き起こさないように上手く誘導してくれ!』

「ええっ!? ま、ま、ま、待ってくださいよ! せんぱぁい、いきなり無茶振りもいい所じゃないですかぁ!?」

『すまん、無理を承知で対処を頼む! こっちもウジャウジャ湧いてる怪人やモンスターの相手で手一杯なんだ!』

 

 そこで設楽さんとの通信が途切れ、涙目のハンナさんが私達へと振り返る。

 その後ろ、遠くから聞こえていた叫び声が徐々に大きく近づいていた。設楽さんからの連絡通り、もうすぐ地獄の団体様が御到着らしい。

 

「あの……ハンナさん、話丸聞こえだったんで状況把握できました」

「うん、大声でごめんね。でも、今回は説明の手間が省けてよかったです。皆さんは迂回して天空樹に向かってください。私達は群衆に押しつぶされるだろうけど大丈夫、レベル持ってるから死なないと思います、多分、きっと、そうでありたい……」

 

 なんだか居た堪れないことを言うハンナさん。その顔には覚悟と哀愁を感じられた。

 ……ダン特って大変なお仕事なんだね。

 

「ハンナは誘導は苦手なのです?」

 

 一方、私の横で話を聞いていたミコトちゃんは、不思議そうな顔で首を傾げていた。

 

「苦手って言うか、この状況はどう考えても無理でしょうよ!?」

 

 あわあわと口を波打たせ、必死に道路の先を指差すハンナさん。

 既に私達が今居る地点からも、阿鼻叫喚の人間津波が押し寄せているのが見えていた。これは酷い。

 あの人数、どうやら天空樹のセレモニーは大盛況だったらしい。あんなものをこの人数で止めろなんて、設楽さんも無理をおっしゃられる。

 

「とにかくエリアマスター達は逃げて、早く逃げて! 逃げてくださぁい!」

「ハンナ、落ち着くのです。見るに堪えないのです。仕方ないからここは私が代わりにやってあげるのです」

 

 狼狽するハンナさんとは対照的に、ミコトちゃんが余裕綽々の態度で前へ進み出る。

 

「み、ミコトちゃん、あの惨状をなんとかできちゃうの?」

「むふん、異教徒を説得するよりも簡単なのです」

 

 ミコトちゃんはドヤ顔をして胸を叩くと、よいしょよいしょと手近な車の上によじ登っていく。

 

「皆、静粛に、静粛になのです」

 

 張り上げた訳でもないのに妙に響くミコトちゃんの声。

 叫び逃げ惑っていた人達が水を打ったように静かになって、例外なくミコトちゃんへと視線を向ける。

 

「恐怖に身を委ねてはいけないのです。後方の怪人はダン特が食い止めていて、焦る必要はないのです。まずは落ち着いて、冷静に秩序だった行動をするべきなのです」

 

 何か特別なことを言っている訳でもないのに、ミコトちゃんの話を聞いた人達は落ち着きを取り戻し、私達の前を静かに歩いて通り過ぎていく。

 ミコトちゃん凄い。凄いけど……怖い! この抜群過ぎる効き方、絶対に洗脳入ってるよね!?

 

「いい判断なのです。さあ皆、踵を返して戦……もごっ!?」

「ミコトちゃん、そこまでは要らない! 要らないから!」

 

 私は不穏なことを口走ろうとしていたミコトちゃんの口を塞いで、強制的に黙らせる。

 危なかった、危機一髪だ。

 

「こりすー、酷いのですー! 口を塞ぐときはせめて一言欲しいのです!」

「ミコトちゃん! 今、踵を返して戦うのです。って言おうとしてたよね!?」

「怪人が沢山居ると聞いたから、戦力が欲しいと思ったのです」

 

 ひえっ、普通に肯定した! 逃げてきた人達が即席狂信者の群れになって逆走していく所だった!

 わかってはいたけれど、ミコトちゃんのカリスマはそこら辺の人達を即席テロリストにできちゃう奴だ! 本人に悪気がないのが余計に悪い!

 改めてミコトちゃんは世間様に野放しにしちゃいけない人種だって再確認してしまう。むしろ、こんな天性のテロリストメイカーが今現在野放しな理由がわからない。

 

「だ、だからって、一般の人達を戦わせようとしちゃダメだよ!」

「平和は誰か一人に委ねるものにあらず、皆で戦って勝ち取るものなのです。エリュシオン様もそう言っていたのです」

「そ、その通りではあるんだけど……! でも、全員最前線に突撃しろって意味ではないんじゃないかな!? 守る対象が増えて、逆に設楽さん達の迷惑になっちゃうよ! 適材適所とか、あるから!」

「むむー、それは確かに……。冒険でも役割分担は大事なのです」

 

 私が必死に説明すると、ミコトちゃんがなるほどと納得してくれる。

 ミコトちゃんの行動は基本的に100%善意だから、ちゃんと説明すればわかってくれるのだ。……この悪気の無さが一番の大問題じゃないかなって割と思う。

 

「役割分担の話ですが、宵月さんには後方に残って貰いたいと思っています」

 

 ミコトちゃんの説得がひと段落したのを見計らって、ハンナさんと話していたセレナちゃんがそう提案する。

 その視線の先には、深手を負って撤退してくるダン特隊員さん達の姿があった。さっき映った天空樹前の様子だと、怪我人はこの後もひっきりなしにやってくるだろう。

 

「そうだね。ミコトちゃんは怪人達に狙われてるし、怪我人の治療とハンナさん達の手助けをして欲しいな」

「その場合、宝珠はこりすが代わりに回収してくれるのです?」

「う、それは……できる限りは頑張るけど、今の状況だと確約はできない。でも絶対に悪用はできないような形にする」

 

 じっと見つめて尋ねてくるミコトちゃんに、私は正直にそう答える。

 するよって安請け合いするのは簡単だけど、流石にそれは誠実じゃない。無理を承知で頼む以上、ちゃんと納得して引き受けてもらいたい。

 

「……わかったのです、それでいいのです。宝珠は大切だけど、それ以上に大事なものがあるのです」

 

 ミコトちゃんは少し迷ったみたいだったけれど、私の気持ちを汲んで頷いてくれた。

 

「ありがとう、ミコトちゃん。無理言ってごめんね」

「急ぎましょう、こりす。ミコトに意思を曲げて貰った以上、私達は事態の解決に尽力する義務があります」

 

 ダン特の人を治しに行くミコトちゃんを視線で見送りながら、セレナちゃんから切り替わったラブリナさんが言う。

 

「うん、勿論だよ」

 

 ハンナさん達にミコトちゃんの護衛を念入りに頼むと、私達は散発的にやってくる人波をかき分けながら天空樹へと急いだ。

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