魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第17話 【魔法少女の帰還】5

「天空樹、さっきよりも黒く輝いてるよね?」

 

 逃げ出す人達の波を抜け、私は間近に迫った天空樹を見上げて言う。

 ビルの合間から見える天空樹の黒い輝きは、さっき車から見た時よりも更に黒く眩く、さながら青空とビル群を貫く黒い大樹のようだった。

 

「はい、間違いなく。黒晶石は人の負の感情を糧にします。こちらへ逃げて来ただけでもあの人数、天空樹周辺ではかなりの負の感情が渦巻いていたことでしょう」

「なるほどね。わざわざ人の集まるタイミングを選んだのはそのためなんだ」

 

 ラブリナさんの言葉に、なぜ相手がこのタイミングを選んだかを理解する。

 次元融解現象を誘発させるのにどれだけ力が必要なのかはわからない。けれど、あれだけ巨大な施設を使う計画だ。多くの力を必要とするのは間違いないだろう。

 それだけの力を集めるのなら、世間の注目集まるこのタイミングが最良に決まってる。黒晶石にとって絶好の餌場なのだ。

 

『こりす、そろそろ天空樹周辺に辿り着けた頃ですかしら?』

 

 クライネの意見が欲しいなって思っていたら、示し合わせたように私のスマホが浮き上がって、クライネから連絡が入った。

 

「クライネ、丁度意見を聞きたいって思っていた所だよ」

 

 私達は天空樹へと急ぐ足を止めず、走りながら返答する。

 

『ええ、ええ、そうでしょうとも。わたくし、生中継されている天空樹を見て、予断許さぬ状況だと判断して連絡したのですわ』

 

 眠たげな瞳をいつもより少しだけ開いて、クライネが真剣な声音で言う。

 

「クライネ、今からでも次元融解現象を阻止できるかな?」

『あの塔を跡形もなく完全に破壊して、可能性としては二割程度ですわね。起動した時点で後手だったと言わざるを得ませんわ』

 

 画面の向こう、クライネが小さく首を横に振る。

 エリュシオンなら天空樹を跡形もなく消滅させることはできる。でも、それで二割じゃ到底釣り合わない。

 それに、天空樹の中にはまだ大勢の人が残っているはず。流石のエリュシオンでも、緊急変身だと中の人達を避けて建物だけを完全消滅させるのは難しい。

 

「なら、起動は覚悟で被害を最低限に抑えることを考えるしかないね」

「クライネ、そのパターンでの対処は可能ですか?」

『不完全な接続と言う意味なら可能ですわ。ここは黒晶石の侵食なき地。こちら側を起点としている以上、幾ら負の感情を集めても途中で黒晶石の力は尽きるはずですもの』

「……つまり彼等は最初の次元融解現象で、呼び水となる強力な黒晶石を呼び込むつもりなのですね」

 

 ラブリナさんの言葉に、スマホの画面に映るクライネが頷く。

 セレナちゃんの中に居るラブリナさんも、かつては白い竜となったテラーニアと一緒にこの世界を荒らしまわっていた。

 今思えば、あれは完全侵略のための下準備だったんだろう。

 

「あの塔だけで作れるのは、僅かな次元の揺らぎである黒晶門まで。完全な次元の裂け目を完成させるには、更にそこから呼び出した何かの力が必要ってことだね」

『その通りですわ、こりす。理解が早くて助かりますわ』

 

 滲み出た黒晶石を通り抜けることしかできない黒晶門なら、リスクはまだ許容範囲だ。

 前回、ねねちゃん達と深層"怪人達の巡礼道"へ行った時みたいに、滲み出た黒晶石を破壊すれば暫く怪人やモンスターは出てこなくなる。現状、そのプランがベターだろう。

 

「わかった、そっちでいく! 盗られたミコトちゃんの宝珠を取り返して、黒晶門から出てくるであろう大物を倒せばいいんだよね?」

 

 行く手に立ち塞がってきた怪人達の首を矢継ぎ早に跳ね飛ばしながら、私はクライネに確認する。

 

『今見えている情報の限りは。ただし、それも茨の道ですわよ。この状況で宿り木達が繋げるのなら、場所は裏界一択。彼等は間違いなくラブリナの一部をこの地に降ろすつもりですわ』

「私の一部、ですか……。クライネ、同じ私でもやはり届きませんか?」

 

 ラブリナさんは走る足を止め、大通りの真ん中でモンスターと怪人達の群れを迎え撃つ。

 これ以上天空樹へ近づくと、既に戦闘中であろうダン特の人達と鉢合わせる。私が正体を隠しながら変身できるチャンスがなくなってしまうのだ。

 

『残念ながら。貴方はラブリナが零した欠片の欠片、しかもまだ完全には浄化されていませんわ。己が未練を見出しきれない半端な魔王など、黒の極致に塗りつぶされるだけでしょう』

「そうですか……。だからと言って見過ごせるはずもありません。セレナの身の安全を守りつつ、限界まで抗ってみます」

 

 ラブリナさんは杖剣に黒晶石を纏わせて大剣へと変化させ、襲ってきた下級戦闘員の胴を真っ二つにしていく。

 その後ろ、黒く輝いていた天空樹が漆黒に染まって横に大きく裂けた。

 

「クライネ、天空樹が裂けたんだけど!?」

『ええ、こちらでも確認しましたわ。空間が歪曲した結果、そう見えているのでしょう。これでおぼろげながら裏界との道は繋がった。次の段階としてラブリナの一部が通ろうとしてくるはずですわ』

 

 クライネの言葉を裏付けるように、裂け目から滲み出た黒晶石から何本もの細長い触手のような黒晶石が伸び、次元の裂け目を押し広げるように蠢いて空を侵食していく。

 それはまるで、巨大な怪物がその指で扉をこじ開け、地上へ這い出ようとしているかのようだった。

 

「あれで私の"一部"、なのですね」

 

 世界をまるごと侵食しそうなほど巨大で強大な存在を見上げ、ラブリナさんが息をのむ。

 

『ええ。あれこそが魔法少女であったラブリナが敗北し、自らが取り込まれることで御そうとした大黒晶石【黒晶石の大樹】、その一端ですわ。ラブリナ、あれを見ても覚悟は変わりませんの?』

「はい。強大だからと言って放置できる状況ではないですから」

 

 その言葉を聞いて、画面のクライネが大きく息を吐く。

 

『ふぅ、欠片になっても相変わらず強情な人。ペンダントの調整はまだ不十分ですけれど、こうなった以上はわたくしもそちらへ向かいますわ。ラブリナ、エリュシオンかわたくしを待ちなさい。かつてのように一人勇み足はしないように。こりす、ラブリナの手綱を頼みましたわよ』

「わかった」

 

 私達にそう忠告すると、クライネはスマホをにゃん吉さんに返却してこちらへと急ぐ。

 

「どうやら、かつての私はこんな場面で一人独断先行していたようですね」

 

 通話が終わり、空の触手に追い立てられるように次々出現するモンスターを倒しながら、ラブリナさんが苦笑する。

 

「でも今はしないよね?」

「はい。こりすやセレナに怒られてしまいますから。ですから……こりす、変身をお願いできますか」

「任せて。もう出し惜しみできるタイミングじゃないからね」

 

 目の前に立ち塞がってきたトラ怪人の首を斬り飛ばし、私はエリュシオンへと変身すべくビルの合間に滑り込む。

 

「現状、地上の侵食が足りていません。私ではあの巨大な触手群に勝てないでしょう。こりすは巨大触手の相手をお願いします、天空樹内部への突入は私がします」

「わかった!」

 

 それに合わせて、ラブリナさんが黒晶石を侵食させ、周囲にある監視カメラの目を塞ぐ。

 私は素早く周囲を確認して、他に正体露呈の可能性がないことを確認すると、自分の体に魔力を循環させる。

 

「シリウスチェンバー、イグニッション!」

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