魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第17話 【魔法少女の帰還】6

 こりす達が天空樹へと急いでいるその頃、リオは天空樹内部の商業施設エリアでモンスターと戦っていた。

 

「ああ、もう! ここら辺完全にダンジョンじゃん! どうなってんのこれ!?」

 

 山積みされていた土産物の箱が舞い飛ぶ中、下級怪人とホブゴブリンをまとめて槍で串刺しにして、リオが独り悪態をつく。

 天空樹前が大混乱に陥った時、最初はリオも人々を守りながら逃げようと思っていた。だがその直前、天空樹内部にスタッフや施設の職員が大勢残されていることに気付いてしまった。

 結果、リオは警備員から借りた槍を手に、逃げ遅れた人々を保護するため天空樹へ一人突入していた。

 

「ほら、モンスターは倒したから起きな。ぼさっとしてる暇はないよ」

「あ、ありがとう!」

 

 リオは通路の端で怯えていたスタッフの手を掴み、無理矢理助け起こす。

 

「ここらで他に誰か見かけた?」

「見てない。ここは天空樹の中心に近いから、皆もう逃げたんだと思う」

「だといいんだけどさ……。あ、逃げるなら左側の通路にしときな! ウチが来た道で、警備の冒険者がまだ戦ってるはずだから!」

「わかった、本当にありがとう! 君も気をつけて!」

 

 リオは襲い掛かってくるコボルドを返り討ちにしながら、救助者を比較的安全であろうルートへと送り出す。

 脱出まで見届けてやれる余裕はないが、やらないよりはずっとマシなはずだ。

 

「ああ、もう、なにやってんだか。ウチだって単なる一般人なのにさ」

 

 天空樹を最上階まで突っ切る展望回廊直通エレベーター前、リオはベンチに腰かけてはっと自虐する。

 とは言え、リオも無謀な正義感だけでここまで来た訳ではない。応答こそできなかったものの、早い段階でこりす達から連絡があったことには気が付いていた。恐らくこりす達も天空樹に向かっている。

 ならば、ラブリナが到着すれば状況は多少なりとも好転するはずで、致命傷者の数が手に負える範囲ならばミコトが全て治してくれるだろう。そんな算段のもとでの行動だ。

 

「モンスターは低層、怪人は下級戦闘員メイン。まだウチでも何とかなるレベルだけど、最大の懸念はここが魔力異常地帯になってること、だろね」

 

 リオは圏外になったままの魔石スマホを一瞥し、取り残されている人間の捜索を再開する。

 黒晶石の魔王が本気になった時、周囲に魔力異常が起こることは知っている。そうでなくとも、ダンジョン探索における魔力異常地帯と言うのは危険エリアの代名詞。ここがダンジョンのような様相を呈している以上、油断はできない。

 リオは通路で我が物顔をしているゴブリンの群れを蹴散らすと、一瞬ちらりと人影が見えた気がしたショップの中へと踏み入る。

 

「人、居る!? ウチ、怪人じゃなくて助けに来た冒険者だけど!」

 

 徘徊するモンスターを刺激しないよう、大きすぎない声でそう言って、リオは荒れた店内を注意深く見回す。

 返ってきたのは沈黙。やはりこの近辺に人は居ないのだろう、リオがそう結論付けようとしたその時、

 

「あれ~、あれあれぇ? もしかしてその声……」

 

 セブンカラーズ公認グッズ売り場の棚の裏から、気の抜けた声が聞こえ、

 

「わあっ! やっぱり、リオちゃんだぁ☆ 本物、本物だよねぇ?」

 

 赤茶色の髪をした少女がにへっとした顔で姿を現した。

 この状況でなおグッズ漁りをしていたのか、少女は両手にセブンカラーズの缶バッジを持っていた。

 

「いや、ウチに偽物居るとか聞いたことないけど。ってか、この状況でショッピングしてたん? 大物かよ。外、モンスターやら怪人やら山ほどうろついてんだけど……」

「わわっ☆ ってことはぁ、リオちゃんって助けに来てくれたのかなっ?」

 

 呆れるリオの目の前で、きゃいきゃいと興奮して飛び跳ねる少女。

 その全く危機感がない姿に、リオは思わず呆れ顔になる。

 

「まあ、そうだけど……」

「わあっ、すっごおぃ! 流石は正義の味方さんだねぇ! アタシ、ファンヌって言うんだぁ。推し魔法少女はエリュシオンと先代のセブカラルビーちゃん、つまりリオちゃん! 実は昔、リオちゃんに助けられたことがあるんだよぉ☆」

 

 ファンヌはそう言って、リオの両手を掴んでぶんぶんと振って感動を表現してみせる。

 

「そうなん? そりゃウチとしても嬉しい再会だけどさ、今は逃げることに専念しときな。今のここら辺、本気でヤバい状況だから」

 

 マイペースなファンヌに呆れながらも、リオはファンヌの手を引いて安全な場所へと連れ出そうとする。

 が、リオが手を引っ張っても、ファンヌはびくともしなかった。

 

「あれ……もしかして、レベル持ち? ってか、滅茶苦茶高レベル……だよね?」

 

 リオの頬に一筋の冷や汗が伝う。

 今現在リオはレベル25、冒険者で言えば中堅上位レベルの近接職だ。そんなリオが引っ張ってびくともしないのなら、ファンヌと言う少女は必然的に高レベルの近接職、あるいは怪人の類となる。

 警備の冒険者でもないそんな存在が、果たして偶然こんな嵐の中心付近に居合わせるだろうか。

 

「うふふ、実はそうなんだよぉ☆ それにねぇ……」

 

 ファンヌは警戒するリオを見て楽しそう笑うと、軽やかな足取りでショップの外に歩いて行く、

 

「アタシは悪者。この天空樹を襲った黒薔薇の鍵守って一味の、わるーいわるーい怪人さんなんだよぉ☆」

 

 そして案の定と言うべきか、展望回廊直通エレベーター前でそう言って、くるりと向き直った。

 

「ああ、やっぱそうくる! ウチは深入りし過ぎて引き際を間違ったってわけね!」

 

 その言葉を聞くや否や、リオは跳ねるように飛び退いて槍を構える。

 実力差は既に歴然。一目散に逃亡しても、逃げ切れる可能性は限りなく低い。だが、諦めたら即終了だ。

 

「うわぁ☆ リオちゃんの真剣な眼、ゾクゾクしちゃう。魔法少女と戦う怪人って、こんな気分なんだねえ!」

 

 対するファンヌは、両頬に手を当ててにへっとしまりのない笑みを浮かべていた。

 

「……あのさ、ウチ割と真剣で必死なんだけど。舐めプして逃がしてくれるんなら、さっさと逃げるよ」

「うん、いいよぉ☆」

「はあぁ?」

 

 ファンヌの思わぬ返答に、リオが思わず素っ頓狂な声をあげる。

 

「ああ、あれ。そうやってウチが背中向けた所をズドンしたい系」

「ひっどーい! 違うよぉ! あのね、悪い怪人は正義の魔法少女に成敗されるんだ。でも変身もしてないリオちゃんじゃ、今の私に手も足も出ないよねぇ? だから、それは次回の……お・た・の・し・み☆」

 

 リオは正気かとファンヌの顔を二度見する。

 彼女はうっとりとしまりのない表情をしていた。恐らく彼女は本気で言っている。

 

「はっ、なんだそりゃ。そんなこと言われると捨て置けないんだけど。つまりそれ、次回も悪さするって宣言じゃん」

 

 そんなことを聞かされては時間稼ぎをせざるを得ないと、リオは手にした槍を強く握って臨戦態勢をとる。

 

「あー、そう来ちゃうんだー。うんうん、そうだよねぇ、リオちゃんは正義の味方だもんねぇ。どうしよっかなー、困っちゃうなー、じゃあ……一度心を折っちゃお☆」

 

 ファンヌはうんうんと頷いて一人で納得すると、懐から黒晶石のはめ込まれたペンダントを取り出す。

 

「っ! まさかそれ……!?」

「マナチェンバー、イグニッション☆」

 

 ファンヌの掛け声と同時、天空樹が軋み、黒い嵐が吹き荒れる。

 黒い嵐が吹き止み、リオが瞑っていた目を開けると、エレベーターホール前は黒晶石によって侵食されていた。

 そして、その中心には黒い魔法少女の衣装を身に着けたファンヌの姿。

 

「うふふ。アタシこそは黒晶石が魔王が一人、無銘の魔王にして楽園の器、ファンヌだよぉ☆」

 

 先程と同じように、にへっとしまりのない笑みを浮かべてファンヌが言う。

 

「マジかよ……! 強いだろうとは思ってたけど、いきなり魔王様のご登場とか容赦なしじゃん……!」

 

 リオは震える自らの足を叩いて自らに活を入れ、恐怖に呑まれぬようファンヌを見据える。

 ラブリナ曰く、黒晶石の侵食が進んでいない場所では魔王は本来の力を発揮できない。だが、それでも変身していないリオなど一捻りであることに変わりはない。

 

「ごめんねぇ、変身してない魔法少女を倒すなんて卑劣で興醒めだよねぇ? だから、ちゃんと次回リベンジしてね。リオちゃんっ☆」

 

 言うと同時、目にも止まらぬ速さでファンヌが跳ねる。

 

「くっ!?」

 

 身構えるリオに、ファンヌが容赦なくその腕を伸ばす。

 

「そこまでです」

 

 だが、二人の間に黒晶石の仮面を着けたラブリナが割って入り、大剣で弾かれたファンヌが頭から勢いよく天井へと突き刺さった。

 

「ラブさん!」

「間一髪でしたね、リオ」

 

 ラブリナは騒ぎを聞きつけて集まってきたモンスターを一薙ぎで殲滅し、リオの前に立ってファンヌを迎え撃つ。

 

「わぁっ☆ いったーい!」

 

 一方、頭から天井に突き刺さっていたファンヌは、両腕で天井を壊して軽やかに着地する。

 その姿にはダメージなど微塵も感じられない。

 

「リオ、彼女は?」

「黒晶石の魔王、だってさ」

「なるほど。私の取り戻した記憶の中には居ない魔王ですが……」

 

 黒晶石の大剣を構えたまま、ラブリナがファンヌの動向を窺う。

 

「うふふ。そうだねぇ、ラブ様が知らないのも無理はないよぉ。アタシは鍵守達に作られた新参の魔王だからぁ☆ でも……貴方の相手はアタシじゃないんだぁ」

 

 ファンヌはにへらっと邪な笑みを浮かべると、展望回廊直通エレベーターの扉に触れる。

 瞬間、うめくような音を立ててエレベーターの扉が開く。そこに有ったのは黒、一面黒晶石の黒。

 

「リオ、急いで私の後ろへ!」

 

 いち早く危機に気付いたラブリナが叫ぶと同時、開いた扉から黒晶石がなだれ込み、商業施設エリアを黒く侵食していく。

 ラブリナは迫る黒晶石を手にした大剣で黒晶石を斬り裂き、辛うじて自らとリオの居場所を確保する。

 

「あはあっ、流石だねぇ☆ でも、これで終わりじゃないよぉ?」

 

 先程と変わらぬ位置に立ち続けるファンヌがそう言うと、黒晶石を吐き出したエレベーターのシャフトから、何かが這い寄る音がする。

 エレベーターシャフトの中から現れたのは、細枝のような無数の黒い触手。天空樹の外でエリュシオンが相手取っているであろう黒晶石の枝を小型にしたものだった。

 

「アタシはね、ラブリナ様を降ろすために魔王になったんだぁ」

 

 ファンヌは黒い触手で満たされたエレベーターシャフトへと手を突っ込み、その中から小さな宝珠を取り込んだ黒晶石の塊を取り出す。

 

「あれは黒薔薇の鍵守が使っている後付けの!」

 

 ファンヌは自らの体で前回のクライネと同じことをしようとしている。そう看破したラブリナがファンヌへと斬りかかる。

 

「さあ、黒晶石の女神の降臨だよ☆」

 

 だが、ファンヌが裏拳でそれをいなし、ラブリナが体勢を崩した隙に黒晶石の塊を自らの胸に突き立てた。

 瞬間、エレベーターシャフトの中で蠢く無数の触手が、ファンヌの体を包み込んでいく。

 包み込んだ触手を身にまとい、魔法少女の衣装が黒いドレスへと変化していく、それに合わせファンヌのまとう気配が変わる。

 

「ラブさん、あの気配は……!」

「はい。間違いなく……私でしょう」

 

 ファンヌが冷酷な眼差しをラブリナに向け、静かに口を開く。

 

『零れ落ちた欠片風情が私、とは高慢甚だしい。加えて、黒晶石の大樹と一体となった今、私はラブリナの名を捨てています。今の私は黒晶石を統べる者、楽園の女神エリュシオン』

 

 魔王ラブリナ本体の意志を宿したファンヌは自らの名を告げると、玉座に座るかのように、エレベータシャフトから侵食する黒晶石へと腰を下ろす。

 

「黒晶石の大樹と一体化してまで力を求め、自ら神を自称し、貴方は何を望むのですか、ラブリナ?」

『決まっています。最強の魔法少女であり、黒晶石を統べる者として行うは一つ……人々の救済です』

「なるほど、救済……ですか。私の欠片と対峙する度、幾度となく聞いた言葉です。ならば高慢のそしり、そっくりそのまま貴方へとお返ししましょう。ラブリナ、貴方にエリュシオンの名は重過ぎます。その名を使うに相応しい魔法少女は一人だけです」

 

 言いながら、ラブリナはリオを一瞥する。

 それを逃げろの合図だと察したリオは、ラブリナに小さく頷いて踵を返して走り出す。

 

『欠片の癖に口だけはよく回る……。いいでしょう。欠片に過ぎない貴方に本当の黒晶石の力を、私の力を教えてあげましょう』

 

 大剣を構えるラブリナに向け、魔王ラブリナが手をかざす。

 瞬間、フロア中を侵食する黒晶石が無数の武器へと変じ、ラブリナへと襲い掛かった。




間違えて18-6話を投稿してしまったため、改めて17-6話を投稿しました。
投稿話を間違えてしまい、申し訳ありませんでした。
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