魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
現在修正済みですが、前話がリオのパートでなかった場合、修正前の18-6話だった可能性があります。ご注意ください。
投稿ミスでお手数をおかけして申し訳ありません。
「おいおい、冗談じゃないぞ。なんだあれは……」
時を遡ること少し前。天空樹の前で暴れまわる怪人達を食い止めていた設楽は、裂けた天空樹から生え出た黒い枝のような触手を見て冷や汗を流していた。
"うああ、ヤバいことになってるじゃん"
"地上がここまで荒らされるのは久々だな。エリュシオンちゃんが倒した白竜以来じゃないか"
その光景はダンジョン特別戦闘部隊の公式チャンネルでも配信され、地上の惨状を心配する視聴者達が困惑の声を漏らしていた。
『クックックッ。我等の目的は成った! これより、この地上は黒晶石満ちる希望の大地となるッ!』
慄くダン特隊員の姿を見て、壇上で下級怪人を率いていた狸怪人が歓喜の叫びをあげる。
『怯えているか人類よ! 見ているかエリュシオン! ここより……』
「うおおおおお! シールドチャージッ!」
『グギャアアアァ!!』
"ひwwwどwwwいwww"
"シールドチャージ先輩、空気読んで! 怪人何か言おうとしてたよ!"
"どうせ勝ちを確信してドヤ顔で決め台詞言いたかっただけでしょ"
「シールドチャージッ! シールドチャージッ! シールドチャージッ!」
が、そんなものの相手をしている暇はないとばかりに、ダン特隊員がシールドチャージでしたり顔をする狸怪人の顔面を叩き潰し、
「設楽、どうする!? モンスターや雑魚怪人はなんとかなるが、流石にアレは俺達の手に余るぞ!」
空の巨大触手を見上げるパーティメンバーが、隊長である設楽に打つべき一手を求める。
「わざわざ言わなくても一目瞭然だろう、そんなこと! 佐々木、配信はしているか!?」
「ああ! 俺達の戦闘情報は既に拡散されているはずだ!」
短剣二刀流のダン特隊員が、手にした短剣の腹で脇に浮かべたスマホを叩く。
ダンジョン特別戦闘部隊はモンスターや怪人の排除を目的としている。
だがそれが無理そうな場合には、後続が対応策を練れるよう可能な限りの情報収集及び拡散行為を行う。それはここがダンジョン外であっても変わらない。
「なら、間違いなく引き際だな。ルミカにも無茶をするなと言われている以上、ここは撤退一択、なんだが……」
設楽は襲い掛かってきた下級戦闘員を大剣で袈裟斬りにしつつ、渋い表情で天空樹の入り口へと視線を向ける。
天空樹内部からはまだ定期的に脱出者が居る。ここで設楽達が退くことは、彼等の安全を放棄することに他ならない。
"あれ、ダン特の人達撤退するか迷ってる?"
"まだ天空樹内部に人が居るかもしれないから……"
"ああ……。流石にもう退いても文句言われないでしょ。ダン特隊員だって無事に帰らないといけないんだから"
苦渋の決断に迷う設楽達の前、天空樹を食い破って伸びた黒晶石の枝の一本が、地面を叩きつけるようにして振り下ろされる。
「っ……! 全員散開!」
いち早くそれに気づいた設楽が指示を出し、辛うじて回避することに成功したダン特パーティ。
だが窮地はそれで終わらない。天空樹前の広場にクレーターを作り上げた枝が、そのまま地面に突き刺さり、そこからモンスターが現れる。
それは無数の悪魔を組み合わせたような赤黒い巨大合成獣だった。
「いきなり深層モンスターのおでましか……! 一足飛びだな!?」
「違うぞ設楽、あれは深層モンスターじゃない。レイドクラスだ!」
"そうだ、あれタイラントキマイラだ!"
"放棄区域になった街を奪還するために、精鋭パーティを複数ローテーションさせてなんとか倒した奴!"
"無理じゃん!? そんなの絶対無理ゲーじゃん!?"
『クハハハハ! さっきはよくも私の顔に盾をぶつけてくれたな! 人の話は聞くものだぞ、下等生物!』
高笑うモンスターが無造作に腕を薙ぎ、ダン特メンバーが薄紙のように吹き飛ばされる。
「くっ! さっきの怪人!? ……話に聞くモンスター寄生型か!」
『寄生とは表現が悪い! 宿り木とは神が降りたつ地、我々が降り立つことを選んだ光栄なる神域なのだッ!』
六対の手で地面を握り壊しながら立ち上がるモンスターは、設楽達を逃がすまいと二対の目で動きを追いかける。
「流石に逃がしてくれそうもないな……。すまない、撤退の判断が遅れた!」
「いいって事さ。むしろラッキーだぜ、さっき逃げてたら後ろから襲われてた」
短剣の隊員が暗い雰囲気を打ち払う様に努めて明るく言う。
その言は正しい。あのモンスターに背を向け隙を晒していたのなら、パーティは即座に全滅していたことだろう。
そして、それは今も同じ。そのことを重々理解している設楽達は、勝ち目が薄いと知りつつも徹底抗戦の構えを取った。
『先程貴様らに邪魔をされた我が言葉、今度は正しく言わせて貰おう! 怯えているか人類よ! 見ているかエリュシオン! ここより先は蹂躙の時間だ!』
それを嘲笑うかのようにモンスターの口が深く裂け、地面を抉り取りながらダン特パーティへと一気に迫る
「見ているもなにも、ここに居るけど」
が、舞い降りた銀の閃光がモンスターとダン特の間に割って入り、モンスターの上半身が真横に両断されてひっくり返った。
その正体は白いレオタードのような
「人の助けを呼ぶ声あらば、燐光纏いて私は来よう。悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン」
"キターッ! エリュシオンちゃんのお出ましだーっ!"
"うはー! 本当にいいタイミングで来るな!"
"あーあ、怪人さん達は派手にやり過ぎちゃったみたいだな"
『ククク、よく来たなエリュシオン……。あれ、急に空がひっくり返って……あ、下半身……』
真っ二つにされてひっくり返ったモンスターは一瞬何かを言いかけたが、自らが既に死んでいることに気付いて、情けない声をあげながら灰となって消えていった。
「来てくれたのか、エリュシオン……。助かった、命拾いしたよ」
「設楽、無理をするとルミカが怒るよ」
エリュシオンは視線だけを設楽に滑らせ、告げるように静かに言う。
「ん、あ、ああ、すまない。まだ行けると思ったんだ」
「ふぅ、君も困った人だね」
エリュシオンを先頭にして体勢を立て直すダン特パーティ。
『ククク……貴様、等何を勝ったつもりでいる?』
その様子を見て、ラッコ怪人が不敵な笑みを浮かべた。
"あれ、連中今日は妙に強気だぞ"
"これ何か隠し玉があるな"
『エリュシオン、貴様がここに来ることは想定内! 貴様との因縁は今日ここで終わりだ、"獣"を出せ!』
ラッコ怪人が黒晶門を指差し、黒い拘束具で捕縛された白く輝く獣が送り込まれてくる。
「あれは……」
『ククク、これこそは覇界獣、次元を渡り世界を喰らう十二の獣が一つ! 数多の世界を喰らった暴威の獣、一度解き放てばこの世界全てを喰らうまで止まりはしない! エリュシオン、強大な力の前に容易く心折れてくれるなよッ!?』
"おいおいおい、次元を渡って世界を喰らうって!"
"滅茶苦茶ヤバそうなのが出てきたぞ!"
「残りの十一匹、倒したの私だけど」
意気揚々と語るラッコ怪人に、エリュシオンは淡々とそう告げた。
『……は? 貴様一体何を言っている?』
「残りの覇界獣、まとめて倒したの私だけど」
発言の理解を拒んでいる怪人に、エリュシオンは再度淡々とそう告げた。
"嘘でしょ……"
"えぇ……。こんな絶望的な展開ある?"
"まとめてって所が本気で絶望感漂うな……"
『で、デタラメだっ! 人間風情が覇界獣を倒せるものか! 妄言は聞き飽きた! 今縛めより解き放たれ世界を喰らえ、覇界獣!』
エリュシオンの言葉を振り払うように叫びながら、覇界獣の拘束を解除するラッコ怪人。
だが、既に光り輝く獣は拘束具諸共に屠られていた。
「ありがとう。倒し残しが居ないか心配だったけど、それが最後の一匹ならもう安心だね」
信じられないといった顔をして、覇界獣
『馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な! 覇界獣なんだぞ!?』
「うん、そう言う名前らしいね」
『強いんだぞ!?』
「別に強くはなかったけど」
『…………』
「…………」
"あっ、心の折れた音がするね"
『ああああああああーーー! これは夢だ、夢なんだ! 目が覚めれば覇界獣がエリュシオンを倒していて、世界は喰らいつくされて阿鼻叫喚で、俺はその功績で……』
「ごめん、悪いけどこれ以上相手していられない。急いでるから」
両膝をついて現実逃避しているラッコ怪人を容赦なく真っ二つにして、エリュシオンは次元の裂け目を押し広げようと蠢く黒晶石の枝を見据える。
"無慈悲"
"エリュシオンちゃん、マジでえげつないな……"
"同情の余地なしの邪悪な怪人なのに憐れに見えてきた"
それを迎え撃つように黒晶石の枝が動きを変え、次元を広げようとしていた触手の枝全てがエリュシオンへと先端を向け直す。
"って! 黒晶石の触手がエリュシオンちゃん見て動きを変えた!? まさかあれ、意志があるの!?"
"うげぇ、やっぱあれ超巨大モンスターの類なのかよ!?"
思わぬ事実にざわつくコメント欄。
それと対照的にエリュシオンは静かに黒晶石の枝を見据えると、
「ルミナスクラフト・コンバージョン」
纏った燐光を組み替えて幾本もの光剣を作り上げ、黒に支配された空へと舞い踊らせる。
巨大な黒い枝が切り裂かれて黒い結晶となり、黒い粒子へと砕かれる。その粒子を光剣から零れた燐光がかき消していく。
黒で塗りつぶされた空が瞬く間に白い光で上書きされ、白い燐光がかき消えて元通りの青空が戻った。
"エリュシオンちゃん来てから野望潰えるまで早かったな"
"怪人が地上で悪さしなくなったのって、エリュシオンちゃんに即刻処分されるからだもんな……"
"自分だけは勝てると思いこんだ怪人達が
「相変わらずだな、エリュシオン。流石だよ」
「設楽、まだ油断しないで。どうやら、この場だと根治できないみたいだから」
窮地が去って安堵するダン特隊員に、油断するなとエリュシオンが釘を刺す。
彼女が言う通り、一見元通りに見える天空樹の外観には、未だ薄っすらと縦に亀裂が入っていた。そして、その亀裂からは滲み出るように黒晶石が再び空中を侵食し始めていた。
「厄介だな。こうなると中に突入してみる他なさそうだ。エリュシオン……すまないが頼めるだろうか?」
「任せて、最初からそのつもりだから。設楽達は無理せずに退いて。あれがいつまで無害化されているかは私にもわからないから」
「いや、それなら退けない。ダンジョン由来の脅威から人々を守る。それがダン特の仕事だからな」
エリュシオンの言葉に、設楽が困った顔で首を横に振る。
その言葉を聞いたエリュシオンは小さくため息をついた。
「そう言われると、私には止める言葉がないね。ただ、彼女を頼って絶対に無理はしないで……頼めるよね?」
「あらあら。到着早々、なんだか面倒そうなお仕事を押し付けられてしまいましたわぁ」
エリュシオンが近くのビルへと視線を向けると、網タイツがセクシーな黒い猫耳ゴスロリ魔法少女、クライネが降りてくる。
"お、なんか知らん魔法少女が来た。誰か知ってる人居るー?"
"わからん。ご当地魔法少女網羅してる俺が知らない魔法少女が居るなんて、敗北感が凄いんだけど"
「わたくし、まだ本調子ではないのですけれど、この状況では仕方ありませんわね。渋々引き受けてさしあげますわ」
クライネはその手に得物の大鎌を顕現させると、黒い亀裂から零れ落ちてきた大型モンスターを一瞥もせずに斬り裂いてため息をついた。
"あっ、準深層モンスターがノールックで即死したよ"
"つっよ"
"流石エリュ友、新フォームルミカちゃんクラスかよ"
「なるほど……。すまないが地上を守るために力を貸してくれ」
「ええ、言われずともやりますわ。これも扉守の使命ではありますし。エリュシオン、ラブリナを頼みましたわよ」
「わかった」
ダン特とクライネに天空樹前を任せ、エリュシオンは天空樹内部へと突入していくのだった。