魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第17話 【魔法少女の帰還】9

『防戦一方とは情けない。所詮は欠片、私の一部と言えどもこの程度ですか』

 

 無数の武器に苦戦するラブリナさんは、押し寄せる黒晶石の武器の狭間をすり抜けながらも、黒晶石の玉座に腰かける赤茶色の髪をした女の子から目を逸らさない。

 多分、あの子が魔王ファンヌで、その中身が別のラブリナさんの欠片なんだろう。

 

「万一にでもセレナを傷つけさせるわけにはいきませんから。それに私は貴方ではない本物のエリュシオンを信頼しています、貴方を倒すのが私である必要はありません」

『……いちいち癪に障る物言いをするものです!』

 

 ラブリナさんの言葉に魔王ラブリナが苛立ち、玉座に座ったままの床を踏み鳴らす。

 刹那、床、天井、壁面、全ての黒晶石が波打ち砕け、無数の武器へと姿を変えてラブリナさんへ襲いかかろうとしていた。

 

「ラブリナ! 無事!?」

 

 私は荒れ狂う黒晶石の武器をエレベーターホールの黒晶石ごと破壊して、ラブリナさんと魔王ラブリナの間に割って入る。

 

「はい、おかげさまで」

「リオから話は聞いてる。あの子が魔王で、ラブリナさんの一部が入ってるんだね」

「その通りです。セレナを守りながらでは攻め手を欠いていました。後は貴方に任せます、エリュシオン」

「うん、ラブリナは私に任せて下がっていて」

 

 私の返答に頷いて、ラブリナさんは飛び退き魔王ラブリナとの間合いを取る。

 

『エリュシオン……。なるほど、貴方がそうなのですか。エリュシオンの名を騙り、人々に残酷な希望を抱かせる罪深い魔法少女』

 

 戦闘を引き継いだ私に、魔王ラブリナが敵意に満ちた視線を向ける。のっけから敵意が凄い!

 クライネの話だと、ラブリナさんも魔法少女時代はエリュシオンって呼ばれていたらしい。これ多分、自分を差し置いて私がエリュシオンって呼ばれてるのが気に入らない奴だ!

 

「魔法少女エリュシオンの名前に拘りがあるみたいだけど、その名前と力を使って君は何を望んでいるの?」

『当然、私がすることは人々の救済です』

「救済……。大仰な言葉の割に、皆を脅かしているだけにしか見えないけれど」

『その痛みは一時のこと。かつて最強の魔法少女と称された私は、黒晶石の大樹に力及びませんでした。力がなければ何も守れない。己の無力さを二度と噛みしめたくはありません、私が人々を救うためには誰よりも強い力が必要なのです』

 

 平然と迷いなく言う魔王ラブリナ。

 クライネはラブリナさんに零したものが多過ぎると言っていた。その意味、私もよく理解できた。

 

「なるほど、よくわかった。君は私が山ほど叩き潰して来た悪の組織となんら変わらない」

『不遜な。私をその程度の輩と同格扱いするなど』

「するよ、君の渇望は浅い。偉そうな言葉で飾ったって、己の無力さを二度と噛みしめたくないのが本音で、君は強い力で神気取りをしたいだけでしょ? 君が言う"人々"の顔、君は自分で想像できている?」

 

 お前は私と同じだ。かつて黒晶石に取り込まれたルミカちゃんに、ラブリナさんの欠片はそう語りかけてきたらしい。

 けど、私から見れば今の魔王ラブリナは魔王ルミカとは全然違う。魔王ルミカは大切な人を守りたい気持ちが暴走したものと呼べた、けど魔王ラブリナはそれよりも更に歪んでいる。

 魔王ラブリナにとって大事なのは、最強の自分が人々を守るという"形式"であって、"人々"と言う部分が指している中身が街の皆だろうと、宿り木だろうと、違いはないのだ。

 

『私に敗れた者達のように言葉だけは立派ですね。ですが、大言壮語は相手を選んで吐きなさい。貴方が敗れたら、吐き出した言葉全ては無意味になるのですから』

「誰よりも強い力を抱えなきゃこの台詞を言えないのなら、それは魔法少女としての覚悟が足りていない。君は既に自分自身の弱さに負けているよ、ラブリナ」

 

 その言葉が余程癪に障ったんだろう、魔王ラブリナの表情が怒りに歪む。

 そして、周囲の黒晶石を無数の武器に変化させながら、とびきりの殺気を私にぶつけてくる。

 

『愚かな。ならば……その大言壮語、黒晶石の海に沈めましょう』

「力しか寄る辺のない君にはできない、だから私は君如きにエリュシオンの名を渡さない。皆がエリュシオンの名に希望を抱くのなら、魔法少女エリュシオンはそれに相応しくあるべきだから」

 

 でも私はその殺気を軽くいなし、自らが纏う燐光を無数の光剣に変えて迎え撃つ。

 そっちに最強を自負するプライドがあるのなら、私にだって魔法少女として戦ってきたプライドってものがあるのだ。

 エリュシオンを信頼し、目標にして、憧れてくれている人が居る。なら、エリュシオンはそんな人達に相応しい魔法少女でなければならない。だから、悪党ごときにエリュシオンの名は渡さない。

 

『口ばかり達者な魔法少女が!』

 

 号令をかけるように魔王ラブリナが私へ指を向け、720度全方位から黒晶石の武器が襲い掛かる。

 私は周囲に浮かぶ光剣で黒晶石の武器群を撃退しながら、悠然と魔王ラブリナの所へ歩いて行く。

 

『馬鹿な……!?』

「ご自慢の力が通じなかったら驚くだけでもうおしまい? 守りたい誰かのために歯を食いしばることもできないんだ」

 

 ラブリナが慌てて黒晶石の玉座から立ち上がり、私に向かって刃を振り下ろす。

 

「私は自分が最強かなんてどうでもいい。悪党がのさばらず、善良な皆が自分で頑張る勇気をもって、笑顔でいられればそれでいいよ」

 

 私はそれを軽くいなすと、動揺する魔王ラブリナの目の前でそう言って、そのみぞおちに拳を突き立てる。

 呻きをあげることすらできずに弾き飛んだ魔王ラブリナが、エレベーターシャフトの中まで吹き飛び、その体を灰として消滅する。

 それが伝播していくように、天空樹内部に侵食していた黒晶石も灰となって消えていく。恐らく、外で暴れている黒晶石も同じだろう。

 

「どうやら、天空樹を侵食していた黒晶石は(ラブリナ)の一部だったようですね」

 

 エレベーターシャフトの中に転がる宝珠を拾い上げる私に、ラブリナさんがそう話しかけてくる。

 

「みたいだね。欠片じゃなくて本体が出てくる前に止められてよかった」

「はい。被害は可能な限り最低限に抑えられたと思います。それとエリュシオン、先程の言葉ですが……」

 

 そこまで言って、じっと私を見つめてくるラブリナさん。

 あ、ちょっと言い過ぎた! 普通に容赦ない物言いをしちゃったけど、よくよく考えればあれはラブリナさんと同じ存在!

 大本が同じなんだから、全部ラブリナさんにも直撃しちゃう奴! 少し配慮して言葉を選ぶべきだった!

 

「え、ええと、別にラブリナの悪口を言ったつもりじゃなくて……」

 

 しどろもどろになった私を見て、ラブリナさんがくすりと笑う。

 

「いいえ、ラブリナの歪みを看破する姿は痛快でした。エリュシオン、やはり貴方はああでなければいけません。私にとっての"魔法少女エリュシオン"は貴方なんですから」

 

 あれ……これ、セレナちゃんじゃなくて、ラブリナさんの言葉、だよね?

 なんだろう、セレナちゃんと共生していることによる圧倒的悪影響を感じる。凄くダメな方向に引っ張られちゃってない? 凄く心配。

 

「そ、そうなんだ」

「はい。改めて再確認できました。最初はあれと同じ存在であった私が"今の私"になれた理由、それはセレナと言う友人と、貴方と言う理想が居たからに他ならないと」

「あ、ありがとう。そうやって言われると、改めて気が引き締まるよ」

 

 私の背中を見習おうとしてくれる人達が居るからこそ、私は魔法少女エリュシオンとして相応しい自分であり続けなければならない。

 魔王ラブリナに言い放った言葉は、いつだって私自身にも跳ね返ってくるのだ。

 ……でも、セレナちゃんの顔と体使っているラブリナさんに、そんな厄介ファンみたいなことを言われるとちょっと慄く。

 

「はい、他者を見て自らを省みる。それもまた、あのラブリナに欠けていたものなのでしょう。他者を排して孤高気取りをしていては、自らの姿を鏡に映すことすらできないのですから」

 

 言いながら、黒晶石の仮面を外すラブリナさん。

 魔王ラブリナの姿にかつての自分を重ね合わせているのか、その表情はどこか寂しげだった。

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