魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第二話 魔法少女の迷走
天空樹での事件翌日、私はセレナちゃんに連れられて、天空樹で出会った白鳥さんのお屋敷へとやってきていた。
昨日貰った名刺をセレナちゃんに見せた所、なんと白鳥さんは白鴎院家の分家だったらしい。
そして、カレンの所に今の状況を聞きに行く前に、まずはこっちを訪問しておきたいと提案してきたのだ。
「こりすちゃん、ここが白鴎院の分家である白鳥家のお屋敷ですよ」
「うへぇ、まるで宮殿だね」
セレナちゃんの家の車に乗っている私は、目の前にある宮殿みたいなお屋敷を眺めて感嘆の声を漏らす。
小市民な私は、広すぎる家って逆に住み難くないかなって思っちゃう。セレナちゃんのお家とか、長年親友をしている私でもまるで全貌が知れないし。
「驚きました。あの最中、エリュシオンが白鳥の人間と出会っていただなんて」
「誰かを探しているみたいだったし、式典に招待されていたのかな?」
私が疑問を投げかけると、セレナちゃんが少し難しい顔になる。
「そうですね……こりすちゃん、ハンナさんの話を覚えていますか」
「密告者だったっけ?」
「はい。私はあの密告者が白鳥の人間ではないかと睨んでいます」
真剣な顔でそう言うセレナちゃん。
それはつまり、白鴎院の分家と黒薔薇の鍵守達が結託していたと言うことに他ならない。セレナちゃんにとって、あまり歓迎したくない話だろう。
「攻略最前線のレイドメンバーにメイさんがねじ込まれた時から怪しいと思っていたんです。あのレイドは白鴎院家がスポンサーになっていました。そこで強引な手段を使える人間は多くありませんから」
「……セレナちゃん、カレンよりも前に自分でけりをつけるつもり?」
「まずは事実を確認した上で、必要とあらば」
事実を確認した上でって言っているけれど、セレナちゃんが自分で乗り込んでいる以上、白鳥さんが犯人で間違いないと確信しているはずだ。
そう思いながら、私は天空樹で会った白鳥さんを思い出す。
私は悪に対する嗅覚は鋭いって自負している。けれど私が見た限り、白鳥さんは凄い悪人には見えなかった。エリュシオンの力になれる云々は露骨に怪しかったけど。
「セレナちゃん、とりあえず話を聞いてから考えよう。先入観を持って行くのは危ないよ」
「はい、わかっています。こりすちゃんも頼りにしていますからね」
「任せて」
私はセレナちゃんに力強く頷く。
天空樹で会った時は悪人に見えなかったけれど、あくまでそれはあの短時間での話。私の見立てだって常に百発百中である保証はない、常に視野はフラットであることを心がけておきたい。
決意を新たにしているうちに白鳥邸の玄関前に車が乗りつけられ、私とセレナちゃんが降りると同時に家の扉が開いた。
出迎えてくれたのは怪人、ではなくて普通の執事さん。この人は怪人じゃない、よね?
「場所だけ教えてくだされば案内は不要です。自分達で行きますので」
白鳥さんが待つ部屋まで案内しようとした執事さんにそう言って、セレナちゃんは無理矢理それを了承させる。
セレナちゃんらしくない無作法な振る舞いに少し驚いたけれど、これは万が一の時に執事さんを巻き込まないためだろう。
「セレナちゃん。さっきの執事さんへの対応、白鳥さんが黒薔薇の鍵守達と結託してるって確信してるんだね」
50メートル走ができそうな廊下を歩きながら、私はセレナちゃんに確かめてみる。
「……そうですね。十中八九はそうであろうと思っています」
「やっぱり。白鳥さんってどんな人なの? 分家なら会ったことぐらいあるんだよね?」
「そうですね、私が最後に会ったのは大分昔ですけれど……。剛腕で辣腕、目的の為なら手段を選ばない。まあ、白鴎院家やその分家周辺にはよくいるタイプですね」
「そうなんだぁ……」
剛腕で辣腕の後に、"目的の為なら手段を選ばない"がくっついてるんだけど、よくいるんだね……。
「家族も持たず、仕事一筋の方だと聞いています。白鴎院本家へに対するコンプレックスを、社会的な地位を得ることで満たしたいと言う動機ですね。これもよくいる分家の人間です」
「ふぅん……でも、あんまりそうは見えないよね」
説明を聞いた私が廊下を見回しながら率直な感想を漏らすと、
「うぅん。自分で見て聞いた限りは確かにそうだったはずなんですけれど……」
セレナちゃんは胸の前で両手の指を合わせ、歯切れ悪く言葉を付け足した。
それもそのはず、お城みたいな廊下には魔法少女のポスターが貼ってあって、お高そうな調度品に紛れて魔法少女フィギュアやグッズがわんさか飾られているのだ。
特にセブンカラーズは歴代全員分コンプリートされていて、設置数的に最推しはリオちゃんぽい。これを白鳥さん本人が集めたんなら、仕事人間どころかカレンみたいな趣味人間違いなしだろう。
「白鳥さんのお仕事、魔法少女関連じゃないよね?」
「勿論です」
「だよね。あ、エリュシオンのフィギュアもある……」
黄金の瞳に銀色のツインテールをしたあれは、どこからどう見てもエリュシオンだ。
私の肖像権、どうなってるんだろう。まさかフリー素材扱い?
「非公式のフィギュアですね。非公式品なんて褒められたものではないですけれど、キャストオフもできて完成度は高いですよ。私も十二体ほど持っています」
「キャストオフ?」
「わかり易く言うと、お洋服が脱げます」
「えっ、どこまで?」
「胸がまろびでて乳首が見えます。でも安心してください、本物の方が色形共に綺麗ですから」
「えっ、えっ、ええっ……!? 安心、どこにも居ないけど……!?」
所詮は想像ですねって微笑んでいるセレナちゃん。なんだか知らないうちに凌辱されている!? 私の裸体と尊厳が!
待って、セレナちゃんって私の裸見たことあったっけ? ど、どのタイミングで見せちゃってたんだろう!? もうやだ、今夜布団の中でのたうち回りそう。
「ねねね、ねえ、セレナちゃん……」
「着きましたよ、この部屋です」
狼狽する私が己の恥を確かめる前に、白鳥さんの待つ部屋まで辿り着いてしまった。我ながらタイミングが悪い。
頭の中は困惑しっぱなしだけれど、ここから先は何が起こるかわからない。ちゃんと気持ちを切り替えないと。
「失礼します」
切り替えきれない私の気持ちを置き去りにして、ノックをしたセレナちゃんが部屋に入り、私もそれに続いて速足で部屋へと入る。
白鳥さんの居る部屋はダンジョン学園の学園長室みたいで、いかにも偉い人の仕事部屋って感じの部屋だった。
「これはこれはセレナ様、まさか貴方が直々においでになるとは。噂通り行動的な方だ」
「はい。重大な懸念は自分の目で確かめないと気が済まない性質ですので」
机で仕事をしていた白髪の紳士に、セレナちゃんが優雅に微笑む。
あのおじさんは私も見覚えがある。天空樹で出会った白鳥さんで間違いない。
あれ、でも白鳥さんは娘を探しに来たって言ってたような……? セレナちゃんの話だと家族は居ないはずだよね? なんだろう、さっきから凄く説明と齟齬がある。
「そちらのお嬢さんは……エリュシオンの正体ですかな?」
「いいえ、私の親友です」
「ふむ……」
セレナちゃんの回答に、白鳥さんは顎に手を当てて私をまじまじと観察する。
じっと見られると無性に隠れたくなっちゃう、むずがゆい。
「さて。この老いぼれ、本家のご令嬢相手にどのような挨拶をすべきか、ほとほと困り果てておりましてな」
言いながら、白鳥さんはちらりと天井の一部に視線を向ける。露骨なサインだ。
「お気遣いなく、私も白鴎院ですから。今日来たのは単なる確認作業なので、回りくどいことは一切不要ですよ」
そう言って、セレナちゃんと白鳥さんは、お互いに品のある業務用スマイルで笑いあう。
なにこれ、緊張感が凄い。お腹痛くなりそう。これ笑顔で牽制しあう腹黒仕草!
「それは心強いですな。流石はセレナ様、本家が絶対に手を出すなと忠告し、畏れ慄かれるだけのことはある。では……遠慮なく本題に移るとしましょう」
白鳥さんが机の上にあった呼び鈴を鳴らす。
途端、天井が開いて何人もの怪人が降ってきた。